133話 過保護な保護者は暗躍する (※ジャスティス視点)
イベントのせいで、テルアたちについていけないジャスティスは、鬱々としていた。テルアたちを見送ったまではいいものの、やはり心配でストーk・・・いや、後を追いたい心境になる。
魔神ジャスティスは、今更ながらだが、テルアに対しては過保護過ぎる保護者だった。
そのため、テルアのために今の自分に何ができるかを考える。
考えて出た結論は、頼み事をしにいくことだった。
まぁ、主神メーサデガーには、けして頼りたくはないが、彼ならば問題ない。
そう判断したジャスティスはフェルマの街を後にするのだった。
辿り着いた先では、白く巨大な骨竜が、大空を飛んでいた。その背には、黒髪で筋骨隆々の逞しい偉丈夫が一人、乗っている。「いやっほぉおおおおお!」と快采を上げながら、凄まじい勢いで上下前後左右に様々な回転をしていく骨竜に危なげなく乗っている。
さすがに、武神なだけあって、身体能力と運動神経はぴか一だ。あの状態のホネッコに乗るなんて、普通の人間ならば酔ってしまって楽しむどころではない。
「やるじゃねぇか、ホネッコ! 今のは乗り慣れてるはずの俺も、少し怖かったぜ!」
「そういってもらえたなら、頑張っていた甲斐があるでござるな!」
一人の武神と、一体の骨竜は互いの健闘(?)を讃え合う。
そこには、確かに友情が存在していた。
「こんな時間に何やっとるんじゃ」
思わずあきれてしまうジャスティス。そう、現在の時刻は夕飯時を少し回ったといったところだ。夜にあのホネッココースターに乗りたがる酔狂な者など、武神クレスト以外にはいないだろう。
まぁ、今はクレストとホネッコの関係は置いておくとしよう。ジャスティスは、クレストに頼み事をしに来た身なのだから。
「おう、待たせたな、魔神。俺に何の用だ? ま、またテルア絡みなんだろ、どうせ」
「そうじゃ」
クレストはおもしろげに目を細めている。ジャスティスはクレスト相手には迂遠な言い方はしない。直裁的な言い方をクレストが好むからだ。ジャスティスも、相手によっては持って回った言い方をする時があるが、クレスト相手にそれはしない。なので、ズバリと本題を切り出した。
「テルアを明後日の二十二時までに正式にお主の眷属にして欲しいんじゃ」
途端、ぶわりと広がる覇気と威圧。魔神ジャスティスであっても、気を抜けば気圧されてしまうほどのそれ。獰猛な笑みがこれほど似合う存在もいない。
「いいんだな? 何度も死んじまう可能性があるが?」
眷属にするための条件。武神クレストの場合は、一日以上の時間を、武神クレストと戦うことで、眷属になる。
以前から、ちょこちょことテルアを鍛えてきたため、残り時間はほぼ九時間。二日あるならば、やってやれない条件ではなかった。ただし、その内の五時間は他の者の手助けなしで、その試練を乗り越えなければならない。すなわち、武神とのサシの勝負をしなければならないのだ。
「大丈夫じゃろう。テルアはミルカスレーグイの召喚符を手に入れとる。やる前にミルカスレーグイを召喚させとけば、死に戻りはおそらくできんわい」
「つまり、闘いたい放題ってわけか! くくくっ。ははははは!」
クレストは呵呵大笑した。これほど楽しく嬉しいことはない。
クレストの全力を受けてもなんとかなるのは今のところ主神メーサデガーのみだ。テルア相手ではおそらく全力を出すことはできない。出せても十分の一が関の山だろう。
それでも。
全身の血潮が滾っていた。
興奮で、目は血走っているかもしれない。別に構わない。そんな些事など気にしない。
闘えるのだ、テルアと。保護者のお墨付きももらった。
武神クレストはあまりに楽しく嬉しい気分になったために、主神メーサデガーに頼まれていた仕事のことも頭から吹き飛んだ。
たとえ、強制的だろうが、横暴だろうが。非難されても構わない。
「じいさん、あんたの頼みは引き受けた。必ず、明後日の二十二時までに、テルアを俺の眷属にするから、安心しろ」
「テルアは今、イベントの最中じゃ。待ち伏せするなら、ナガバの森の入り口付近がいいじゃろう」
「助かる」
言葉と共に、クレストは姿を消す。ナガバの森の入り口で待つつもりだろう。
もしもこれから、ナガバの森に入ろうとしてる冒険者がいるなら、不幸としか言いようがない。
おそらく、興奮を抑えきれないクレストに戦闘を仕掛けられて全滅するだろう。唯一の救いは、強制的でも十五分以上粘れば、スキルが入手できるといった点か。
後衛職が前衛職のスキルを身に付ける可能性もあるが。
まあ、それはジャスティスには直接関係ないことである。
何故、ジャスティスがこんなことを言い出したのかというと、武神クレストの眷属になっていれば、神や神の眷属に対しての攻撃手段が圧倒的に増えるからだ。ティティベル神と万が一にも戦闘となった際に、その力は必ず役に立つ。なので、ジャスティスとしては早々にテルアに武神の眷属となっておいて欲しかった。
そして、武神の眷属ならば月神ルテナも下手なことはできないし、主神メーサデガーでさえも、テルアには手出ししにくくなる。たとえ、全てを束ねる主神であっても、クレストを激怒させた場合、制することは容易ではない。簡単に言えば、天上界に甚大な被害がもたらされるかもしれないのだ。
主神として、それは避けたいに違いない。
そんな思惑もジャスティスにはあった。
(たとえ、誰じゃろうが、儂からテルアは奪わせんわい)
すべてはこの一言に尽きるのだった。




