131話 神を鎮めるために 17
なんとか腐肉竜を倒したけど、休憩したかった。
水魔法でどろどろを洗い流すと、僕は目標を定める。
「ハイド〜。ちょっと背中貸してねー」
僕はハイドの上にひょいと乗るとそのまま、こてんと横になった。意外と、ハイドの上って寝るのには丁度いい堅さなんだよね。うさぎさんと猫さんが消えたので少し悲しそうなハイド。もう一度、ハイドの背にうさぎと猫さんの幻影を作り出すと、嬉しそうに再び戯れ始める魔物たち。今度はネギボウさんやヤマトも一緒だ。
僕は、その間休憩したかったんだけども。
すぐに魔物たちに引きずり下ろされた。
「なに、どうしたの、みん・・・な」
ちょろちょろと、案内された場所(大きなくぼみができてる)からは水が出てきており、ついでに僕の危機察知も反応する。
「総員退避!」
僕はすぐさま大音声で指示を出し、駆け出す。よくわからないながらも、魔物たちも僕の後を追ってくる。
僕にもわかんないんだけど、何故かここはヤバイんだって!
僕の危機察知は、やはり、きちんと仕事をしてくれたらしい。
だって、僕らが見たときはちょろちょろといった水量は見る間に増えていき、どんどんどんどんと水を噴き出していく。
ようやく危機察知の反応がなくなったところで僕は足を止めた。後ろを振り返ると、泉が復活するところだった。
「・・・すごい」
澄んだ水は、月光を受けて水面を煌めかせていた。リーンリーンと涼しげに鳴く虫の声。
眼前に現れた泉の美しさは、ため息が出てくるほどだ。
その泉から、天女のような服装をした、綺麗な女性が現れる。髪色は蒼。瞳は月の色をしている。長い髪は波打ちながらも、絡まることはない。
「ありがとう。この泉の封印を解いてくれて」
「誰?」
「あれは、水の大精霊なんだな! ナガバの森の奥の泉には、いるって聞いたことがあるんだな。でも、滅多に人前に姿を現さないはずなんだな」
天女のような服装をした、水の大精霊(?)様はにっこりと艶然に微笑んだ。
「初めまして。小さな人の子。お察しの通り、わたくしは水の大精霊のアクアディーネよ。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」
僕が挨拶を返すと、アクアディーネ様はおもしろげに僕を眺めた。
「あら。あなた、もう風の大精霊とも会っているのね。しかも、祝福もしてもらってるじゃない! やるわね」
「えーっと、確かにシル様から、祝福をもらってます」
「シル? まさか、聖域の守護者の? あの子が、人間に祝福を与えたの?」
アクアディーネ様が、驚いたとばかりに、瞠目する。
「あの子は、人間嫌いなはずだけれど。いえ、それは今問うべきことではないわね。ねぇ、人の子。まだ、あなたの名前を教えてもらってないわ」
「僕の名前はテルア・カイシ・クレストです」
「まぁ! ひょっとして、武神様の眷属なの? すごいわね!」
「い、いえ。眷属というわけではないです。たまに修行というか特訓をつけてもらうぐらいで・・・」
「ふふふ。知らないの? 武神様は、気に入った者しか、構わないのよ。きっとあなた、武神様のお気に入りよ」
とても楽しげに笑うアクアディーネ様。
「それなら、わたくしも少し奮発しちゃおうかしら」
アクアディーネ様が僕を手招きするので、近づくと。
ちゅっ。
アクアディーネ様に、頬にキスされた。
頭の中が真っ白になる。
清涼な水の気配が、僕から離れる。
僕の呆然とした様子とは裏腹に、アクアディーネ様は悪戯が成功したことを喜んでいるようだった。
くすりと鮮やかに微笑まれると、僕は頬に熱が溜まるのがわかった。心臓もドキドキしている。
だ、だって僕! 恋愛とか無関係できたから、女の人慣れなんてしてないって!
テルアは称号・水の大精霊の祝福を手に入れた!
水魔法のLvが上がった!
「ふふ。油断大敵よ?」
「・・・・・・・・・からかわないでください」
僕はそう言うだけで精一杯だった。
次→21時




