125話 神を鎮めるために 11
「そんな、そんな! こんなことになるなんて!」
その存在は、混乱していた。こんなことになるとは、最初思わなかったのだ。
侵入者によって、門番は二門とも倒されてしまい、さらには鍵さえも入手しているなんて!
侵入者の実力を認めざるを得ない。故に、ここまで来てもらっては困るのだ。人間に最後まで残った『古代樹』を汚されるわけにはいかない。あの門をくぐられては、おしまいなのだ。
覚悟を決めるしかない。『古代樹』を守ることが、彼女の役目なのだから。
どさり。
背後で何かが落ちた音がした。振り返ると、巨木の杉が、一枝、落としていた。
彼女は近づいてみる。まだ、若々しい葉がついた、立派な一枝。
「持っていけということ?」
風はないが、ざわりとさざ波のように木擦れが起きた。
「ありがとう、翁」
これを持って、侵入者と対峙する。この枝は翁の一部だ。本当は人間などに渡したくはないが、あきらめてくれないようならば、これを渡す。そして、尚、聖域に入ろうとするのであれば排除しよう。
「行ってきます」
彼女は、力で枝を運びながら侵入者のもとへと赴くのだった。
「え、もう全員連れてきちゃったの?」
「かぁ!(すごいだろう?)」
ヤマトの仕事の早さに、さすがに僕はビックリした。まさか、ものの十五分ほどで全員を集めてくるとは思わなかったよ。シヴァもどうやら相当頑張ってくれたようだ。足元の粘液の量が少ない。
「うん、これは素直にすごいよ。ありがとう、ヤマト」
「まさか、師匠とこんなに近い場所にいるとは思いませんでした。あ、師匠。これ、よければどうぞ」
チャップが何か渡してきたので何気なく受けとると。
かちゃり、とそれが音を立ててブロックを組み替え始めた。
かちゃん。
ミルカスレーグイと似た雰囲気の仮面がそこから現れる。これが、僕の顔サイズだったら、これ、着けるの!? となるところだが、僕の顔サイズには満たない、小さなものだ。
「チャップってこういうの得意だよね。もらっとくよ、ありがとう」
「それは、災難が降りかかった時、身代わりになってくれるお守りです。そちらのアリさんも着けてるんですよ」
黒鋼蟻の首のところに、僕と似たような仮面がぷらん、とぶら下がっていた。
「おお! アリさん、いい感じだね!」
「救世主様にほめられるとむずがゆいですね」
アリさんは、苦笑したようだった。
「ハイドとシヴァはいきいきしてるねー、夜だからかな? ま、雑談はこれくらいにしとこうか。お出ましだ」
僕は、短剣を握った。
開いていた門から、強風が吹いてくる。それと同時に、門の内側からこちらに向かってくる存在を気配察知が捉えていた。
やがて、その存在は視認できるところまでやって来ると、大音声で名乗りを上げた。
「私は聖域の守護を担う、風の大精霊シル! 人間よ、何故この地に足を踏み入れたのか、理由をお聞かせ願おうか!」
白い布を幾重にも重ねた衣を纏い、緑色の長い髪は左右で一度髪留めで留め、、後ろで一纏めにしている。魔力の煽りを受けて髪は不規則に動いていた。
その体は成人女性くらいの身長だろうか?体は空に浮いている。
風の大精霊シルは、髪と同色の瞳に険を募らせながら、僕らを見下ろすのだった。
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