122話 神を鎮めるために 8 (※多数視点)
気づけば、シヴァは深い闇の中に一人だった。どうなってるのかと、テルアに話しかけてみるが、応答はない。ブラッド、ハイド、チャップ、ネギボウ、ヤマトと声を掛ける対象を変えてみても結果は同じだった。闇の中に一人取り残され、普通はパニックになるところだ。
だがしかし、シヴァは魔神の訓練を受けている生徒の一人。この程度のことでは動じない胆力は既に養われている。
シヴァは自分の持ってるアイテム袋から、フクロウ薬を取り出した。
これを飲めば、フクロウのように夜目が効くようになる薬である。
魔神ジャスティスの、闇魔法対策として、持ち歩いていたものだ。遠慮なく、使用すると、周囲はぼうっと明るくなった。いや、周囲の様子がわかるようになった。
ここは、どうやら霧の中のようだ。自分がどちらから来たのかもまるでわからない。いや、強制的にバラけさせられたのだとしたら、どちらから来たかわからないのは当然だろう。
少し思案し、シヴァは盗賊の固定スキル、方向関知で方向を確認し、北東へと向かうことにした。
風の結界のあったところの奥へ行く方向は、北東だったためだ。
薬の効果が切れる前に誰かと合流したいと思いながら、ゆっくりと進んでいくのだった。
ブラッドは、ばさりと翼を広げてらかっこいいポーズをした。
スケルトンたちの動きが、鈍る。攻撃を加えても、決定打が与えられないブラッドは、迎撃から逃げる方向へと即座にシフトした。スケルトンたちの動きは遅いので、ブラッドぐらい敏捷値が高ければ、わけもなかった。夜の闇は、ブラッドには何のハンデにもならない。周囲の様子もしっかりと把握している。
問題なのは、仲間との合流だけだ。
方向的には、おそらく北。
何故なら、ブラッドがそちらへ行こうとした途端、スケルトンが湧いて出たのだ。つまりは、スケルトンが守ろうとしてる領域があるということ。その領域へと入り込むため、ブラッドは羽音をあまり立てずに、北へと飛び立つのだった。
ハイドは困っていた。ハイドは森の中はそれなりに得意なのだが、それでも気分が滅入る。何故なら、まだハイドは小型化が解けてなかった。重ねがけした結果なのか、普通の蜘蛛と同じ大きさなのだ。これでは、魔物に遭遇した瞬間、詰みとなってしまう可能性が・・・関係なかった。
小さな体でも、鋼糸を使えばすぐさま移動できる。ハイドは小さな体でありながら、元の大きさの半分程度の速度で進む。進む方向は、危険を感じる場所。行ったらまずいという方向だ。
ハイドは知らなかったが、それは、方向としては北西であった。スケルトンの群れにも遭遇したが、まさか、自分たちの足元にいる蜘蛛が敵とは思わなかったのだろう。あっさりとその群れを抜けたところで、ハイドは元の大きさに戻った。
ここからは、敵に注意していかなければならないと、隠密を発動する。ハイドはマイペースで進んでいく。
ネギボウは本気で困っていた。何故なら、さっきから同行者の二人(?)が喧嘩をすぐに始めてしまうからだ。ヤマトと小鬼の像は、余程相手が気に入らないのか、喧嘩ばかりする。もちろん、大したダメージがあるわけではないし、ネギボウはもはや放置しとこうと考えるのだが、とにかくうるさいのだ。
「カァ、カァ、カァ、カカァ!」
「ギッギギ! ギィ!」
さっきからネギボウにはわからないのだが、雰囲気で悪口の応酬をしているだろうことは容易く予想がつく。
ただし、一度スケルトンと戦うことになった時は、双方が協力しあって、敵を蹴散らしていた。ちょっとトラウマになりそうな光景だった。
倒したスケルトンは、放っておくと蘇ってきしまうので、ネギボウが魔物避けのために念のため多めに持ってきていた聖水を掛けた。
スケルトンは消え去り、最後は感謝までされてしまった。
先に進めるのは嬉しいのだが。彼らが向かう方向は南。
小鬼とヤマトの喧嘩は放置して、ネギボウは黙々と足を動かした。
聖域の奥の奥。手厚く守られたその場所で、その存在は森の様子を伺っていた。何百年ぶりかの侵入者たちだ。
「! この者たち、強敵だな。ばらけさせたにも関わらず、正確にこちらに向かってきている。門番でやられるとは思うが・・・なっ!」
その門番は、悪魔兵兵隊長と黒鋼蟻に屠られてしまった。愕然としてしまう。
門番は全部で二門を守っている。
あと一門を守っている門番を倒されてしまうと、ここまで到達されてしまう。
「何とかしなければ・・・」
ここは、人の来るべきところではない。薄汚い欲望にまみれた者たちをここまで通すわけにはいかない。
最悪、自分が彼らを鎮圧しなければならないかもしれない。
「大丈夫。絶対に、ここは汚させない!」
樹齢何千年か想像すらつかない、大きな杉の木の根元。その存在は、奮起するのだった。
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