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111話 フェイマの街 20 (※ナーガ視点、残酷描写注意)

 ナーガはぶらぶらとフェイマの街中を歩いていた。少し、早まった気がしなくもない。


(そろそろバレてるだろな、テルアに)


 テルアとはついさっき別れてしまったが、きっとナーガが事前に逃亡したことを今頃わかっているはずだ。テルアの怒りをかうことは避けたかったがそうもいかないだろう。次に会った時が恐ろしいナーガだった。

 そんな風に周囲のことを疎かにしてしまったせいだろうか。ナーガは我知らず、裏路地に出てしまった。

 この辺りはまずいと感じたナーガは、すぐに表通りに出ようとした。だが。


(!? 体が動かない!?)


 ナーガの体は急に動かなくなってしまった。先程までは、普通に動けたはずなのに、だ。そこでナーガは囲まれていることに遅まきながら気づく。


 囲んできている者たちは、ざっと十数人いるだろう。全てが灰色のフード付きの外套で、顔を隠している。ここまでの接近を許してしまった自分に舌打ちしてしまう。

 動かない体に、人数差。かなりの危機(ピンチ)だ。しかし。本当の危機にはほど遠いことを、ナーガは思い知らされる。


「ようやく見つけたぞ、役立たずの裏切り者」


 聞き覚えのある声だった。ナーガが声を発した人物を凝視する。

 まさか。まさか、まさか、まさか。

 ナーガを取り囲んでいた人物たちは次々にフードを脱いだ。

 そこから出てきたのは、浅黒い肌、尖った耳。身長や外見年齢はまちまちだが、ナーガと同じ、ダークエルフの顔だった。だが、その表情に仲間に再会して嬉しい、などという甘い気持ちがあるはずがない。


 怨み、憎しみ、憤懣、義憤。


 それらを隠しもせずに、ナーガに叩きつけてくる。

「裏切り者。お前は簡単には殺さん。村に連れ帰り、みんなの前でじっくりと痛めつけてやる。お前のせいで、儀式は失敗し、村長は死んだ。他にも、瘴気に侵された村人たちが今も生きながら、肉を腐らせていくという、苦痛を味わっている。我らは我らの神の忠実な僕だったというのに、お前が全てを台無しにした」


「・・・・・・俺は生け贄になることなんて了承してない! お前らが勝手にやったことだ! 俺が抵抗して、何が悪い!? 自分の命を守るために、戦っただけだ! おとなしく生け贄になど、誰がなるか!」


 勝手な言い分。勝手な理屈。ナーガはずっと村八分にされていたようなものだった。

 それを耐えていたら、最後は神への供物として自らの命を差し出せと、村長は上から物を言ってきた。

 逃げ出そうにも、今みたく囲まれてしまい、縄をぐるぐるに巻かれ、身動きがとれなくなった状態で、目隠しや猿轡までされていた。

 そんな状態で、儀式の日まで閉じこめられた。

 そんな行為を、命を差し出せと強要する行為を、同族だからという理由だけで許せるか?

 否、だ。ナーガは許せなかった。

 なにより、生きたかった。

 強烈な生存本能が儀式の日、解き放たれた。

 一瞬の隙をついて、祭主であった村長から弓矢を奪い、それを放った。

 村長の胸に、矢が刺さったところまでははっきりと覚えている。だが、その後の記憶は曖昧になっていた。

 恐らくだが、瘴気の影響をナーガは受けたのだろうと思う。

 気づけば、鉄格子の中だった。


 わけがわからないなりに、ナーガは生きてることを楽しんだ。そして、ティティベル神との勝負に勝ったあの日からナーガの命はナーガのものとなった。

 だから、あえて考えないようにしていたのかもしれない。

 同族がナーガを恨んでいることを。

 そして、もしも生きてるとばれれば、確実に殺しに来るであろうことも。

 不確定なことをテルアたちに話して心配させたくなかったということもある。

 だが、ひょっとしたらナーガ自身、忘れたかったのかもしれない。

 自分が同族殺しだということを。

 認めたくなかっただけ。

 どくどくと、心臓が嫌な鼓動を放つ。


「裏切り者。お前にはまだ役目がある。いや、裏切ったからこそ、しなければならないことの責任が既にお前にはある」

「押しつけた責任だろうが!」

 激昂していたナーガは、自分が今どれだけまずい状況にいるのかを、把握していなかった。

 動けないナーガの腹から、矢が生えていた。

「・・・・・・・・・あ?」

 次から次へと放たれる弓矢は、ナーガの足を。手を。肩を。背中を。お腹を。

 次から次へと貫いていく。

 ナーガはその場に崩れ落ちた。

 毒でも塗ってあったのか、痛みが倍になってナーガへと襲いかかる。

 あまりの痛みに、ナーガは発狂寸前だ。だが、悲鳴は音にはならない。

 全身が麻痺していた。さらには、声が出せないよう沈黙の効果も矢には付加されていたらしい。もはや、ナーガに抵抗する術はなかった。

 倒れたナーガの頭を、掴むと、無理矢理引き起こす。


「まだ殺しはしない。儀式の準備が整うまでは、寝ていてもらおうか」

 ナーガの意識はそこで途切れた。

 そんなナーガを、ダークエルフたちは憎悪の対象としてしか見ていない。

 だが、男の指示でナーガの体を持ち上げ、運ぶ準備をする。

「すぐに村に戻り、儀式を執り行う。今度こそは、絶対に儀式を成功させるぞ!」


 ダークエルフたちは、知らなかった。ナーガを捕らえることのみを重視したダークエルフたちは、ナーガに仲間ができたことを知らなかった。彼らはこの時点で、絶対に敵に回してはいけない一人の魔物使いを敵に回したのだった。

 


 次→6/9 ま、またもや寝おち。すみません。書き終わり次第、投稿します。

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