110話 フェイマの街 19
じいちゃん以外、全員黙らせた後、僕は一人一人に話を聞くことにした。まず、最初のいけにe・・・ではなく、最初に話を聞いたのは、グースだった。 悪ふざけの延長で、僕が恋人みたいな書き出しでメールを送ったとのこと。
僕の判定としては有罪確定なので、正座させたまま、別の場所に待機。膝にシヴァを乗せといた。服をヌメヌメにするがいい!
さらに、レーラ。レーラの方は自分の父親の件もあるので、ある意味仕方なしじゃない?と思ったので有罪は有罪だけれども、軽めの有罪で済ませることにしとく。具体的には、うさちゃんぬいぐるみをもふもふさせてもらい、さらにはぱこっと頭を軽めに叩いただけで済ませた。あんまりひどいと、僕が悪者になりかねないしね。
次。ノリよく正座中のファミリアさん。若干怯えた目をしてるけどこの人はあまり関係ない。ただ、これからは監督責任が発生するんでも気をつけてもらいたいと、注意勧告。ちなみに、尻尾に伸びそうな手はなんとか自重した。自重した僕、偉い。
次。じいちゃん。じいちゃんは悪のりしすぎ、と、かなりきつめに説教した。そもそも、じいちゃんが暴走するとろくなことにならずに、面倒な結果にしかならない。後、被害が拡大する傾向にあるため、本当に自重の大切さを説くことになった。え、僕? 自重はしててももふもふが関わると、遠慮しなくなるだけだ。問題ない、問題ない。
次、ピッケさん。メールで受け取った手紙見せてもらったけどかなりひどかった。こんなの信じるとか、どんだけ素直なんだか。ピッケさんには、変な手紙は全面的に信用しないでほしいことを伝えた。罠に使われる可能性もあるしね。ついでに、レーラの父親の件も聞いてみると、この近場の賭場場の地下にまで運んではいるらしい。後で、レーラと再会させることを約束してもらい、お話終了。
次。と、まぁ、こんな風に結構とんとん拍子にお説教(?)は進んだ。
どうも、ピッケさん側では僕には絶対逆らわないことを全体方針として掲げてくれるようだ。ありがたいことではある。
魔物組だけど、彼らはお説教を免れた。と、いうのもピッケさんがレーラの父親を解放するために要求した一千万ギルをみんなが支払うからだ。いいの? と聞くとみんな、稼ぎすぎたらしく、荷物が重いので、丁度いいとのこと。
ピッケさん側はかなりありがたがってた。面子があるもんね。それにしても、全員合わせてとはいえ、一千万ギルをぽんと出せるなんて、みんなの稼ぎいくらなんだろ。考えると怖いことになるので聞かなかったけどね。
「まぁ、テルアが結婚せんということなら、別に多少お説教されてもいいかのぅ。せっかく用意してもらったウェディングドレスとタキシードは無駄になりそうじゃ、ハイド」
「ウェディングドレスとかも準備済みとか。じいちゃん、準備良すぎ」
「どうしたもんかのぅ、このドレス一式」
ハイドはものすごくいい仕事をしていた。見た瞬間、レーラとファミリアさんはドレスに釘付けになっていたし。白のタキシードも、丁寧に仕事したんだろうなっていうのが伝わってくる、一級品だった。
「すごいね。これ。宝石まで縫い込まれてる?」
「縫い込まれてるのはガラスじゃ。たまたま、チャップが火魔法の練習で小さくしたガラスが余ってたんじゃよ」
「ストールまであるし」
「必需品じゃろ?」
しばらくウェディングドレス一式に見惚れていた僕は、広場に連れてこられた人物に気づくのが遅れた。レーラと同じ白銀の髪の優男といった風貌だ。
「おとう、さん?」
「レーラ?」
レーラがドレスから目を離して、連れてこられた人物にゆっくりと近づいた。
「おとう、さん。おとうさん。・・・・・・勝手に私のぬいぐるみを賭けて勝手に負けないでよ!」
捻りまで加えた右のストレートが、優男の頬に吸い込まれた。
「そもそも、このぬいぐるみはお母さんの形見よ!? それを賭けるなんて信じられない! しかも負けてるし!」
すごい勢いでまくしたてるレーラ。気持ちはわからなくもない、かな。
「あ、いや、その、すまない。なんでだか気づいたら大負けしたあげく、賭けちゃってて」
殴られた頬をさすりながら、優男が申し訳なさそうにするが、それをレーラは冷たい瞳で睨み下ろした。
「しばらく賭け事禁止」
「そ、そんなぁああああ!? あれは僕の唯一の趣味・・・」
「言い訳無用!」
どすん、と腹に膝蹴りの一撃を食らって、レーラの父親はお腹を抱えたまま痛みに悶絶する。
あれは痛そうだ。
「いい? これから二人で真面目に働いて、ちょっとずつ借金返済してくからね! 借金は家計を圧迫する敵なんだから!」
ここに来て、レーラが実は本性隠してた疑惑が僕の心の中で渦巻いてるんだけど。
「あの、本当にすいませんでした。私の父親が皆さんにご迷惑をお掛けして。きつーくお灸を据えますし、お金も返しますから。こう見えて、父さんは凄腕の商人なので、賭け事さえ手を出さなければ、ちゃんと稼ぐ人ですから」
「さしあたって、気になるのはそこにあるウェディングドレスだね。綺麗だなぁ」
優男さんが復活し、うっとりとハイド作のドレスに魅入る。
「このドレス、売ってもいいなら、僕に任せてみないかい? 助けてもらったし、元手の十倍の値段で売ってみせるよ」
「元手掛かってるの、じいちゃん?」
「少しは掛かっとるじゃろうが、ほとんどハイドが作ったものじゃしのう」
「それは。これにはほとんど元手が掛かっていないと、そういうことかな?」
レーラのお父さんがにっこり笑うが、目は獲物を狙う肉食獣のそれだ。案外油断ならない人かも。
「あぁ、すみません。改めて自己紹介を。そちらにいるレーラの父親であるマッシャーです。こう見えて商人ですので、何か入手したいもの、売却したいものがあれば是非お声かけを」
すっと優雅に腰を折るマッシャーさん。
僕とじいちゃん、それに魔物組は顔を見合わせるのだった。
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