108話 フェイマの街 17
「あ、おはよう、正也!」
「!?」
教室に入ってきた正也は僕のすこぶる上機嫌な笑顔に顔をひきつらせた。
「輝、今度は何をやらかしたんだ!? お前が上機嫌だと、俺は非常に不安になるんだが!」
え、何、その僕を一切信用してません宣言。と、いうか、僕の機嫌がいい=何かをしでかしたの構図が既に正也の中でできてるの? ・・・できてそうだけど。
「それで、何があったんだ? 昨日は「ファンタジーライフ」にログインしてなかったんじゃないのか?」
「? ログインしてたよ。それで、もふもふを堪能したんだ〜」
僕は昨日あった出来事の一部始終を正也に話した。
あの黄金色の尻尾は本当に手触りが良かった。毛の量といい、艶といい、ずっと触っていたいぐらいだったんだよね。時々、ファミリアさんがくすぐったそうに身をよじらせたり、ちょっと他とは違う固くなってるところを触ると艶かしい声を出して、頬を上気させたりしていたんだけど。さすがにそのポイントは何度も触らなかったけど、尻尾全部に固いところがあったのには驚いたよ。
もちろん、気づいてからはそれを避けて触った。
あんまりやり過ぎて本人が起きると面倒だし。
ちなみに、みんなには起きたファミリアさんに話を合わせるよう、頼んどいた。
レーラの僕をみる目付きが最初はかなり厳しいみたいだったけど、レーラも触る?と聞いたら恐る恐る触りに来た。そして、その感触に夢中になった。間近で僕の触り方を見て、いやらしい気持ちでやってるわけではないと、わかったみたいでその後は普通に接してくれた。
その点は良かったと思う。
まぁ、さすがにグースの前でファミリアさんをどうこうする勇気はないよ。
「何だそれは! お前、うらやましすぎるぞ! 綺麗な女性の尻尾を触って許されるなんて!」
「本人との取り決めだし」
「ぐっ。本当にお前はおいしいとこ持っていくな。それで、その尻尾のもふもふを堪能した結果は?」
「最高だった!」
サムズアップ付きで、僕が迷いなく言い切ると、正也が本当にうらやましそうな顔をした。
「そんな風になるなら、正也もイベント起こせばいいんだよ。獣人イベントの情報とかないの?」
「一応あるみたいなんだが、俺のレベルやステだと起きないみたいだな。レベル上げしねぇと。せっかくギルドにも入ったんだし」
へぇ、正也ギルドに入ったんだ。それなら、今後レベル上げはギルドの人たちとやれるだろう。僕と一緒だと、適正レベル大幅に越えちゃうからね。同じレベルの人との方がやりやすいだろう。
「まぁ、ギルドからはお前が何かしでかしたらすぐに報告しろって言われてんだが・・・これから毎日メール送る日々か」
「毎日じゃないよ。さすがにテスト一週間前にはゲームできないから」
「一週間だろ? どうせ平穏無事に過ごせそうにないと覚悟はするべきだな」
そんなこんなを話しながら、学校での一日は過ぎていくのだった。
そして、学校が終わって帰宅し、「ファンタジーライフ」にログインした僕は驚いた。ナーガが僕に深々と頭を下げてきたからだ。
「ナーガ、どうかしたの?」
「悪い、テルア。昨日言うべきだったんだが・・・何も言わずにこれを着けてくれ」
「? これって仮面?」
それはミルカスレーグイたちが着けてる仮面とよく似ていた。
「あぁ、それを着けてると精霊たちが寄ってこなくなるから。これ以上精霊が増えても大変なだけだろ?」
「そりゃまぁ、そうだね。すっごく怪しい不審人物に成り下がりそうだけど」
ナーガはここぞとばかりに力説した。
「けどそれ、結構優秀なんだぞ。素顔もステータスも隠せるし。いいから、着けとけって。変なやつらに絡まれにくくなるから」
半信半疑のまま装着すると。
仮面には呪いが掛かっていた!テルアは仮面を外せなくなった!
「はあ!? 何これ、呪いの品じゃん!」
僕がナーガを問い詰めようとする前に、ナーガは既に、こちらが驚くべき速さで距離を取っていた。
「とにかく! それ着けて指定の場所に行ってくれな! じゃ!」
「あ、ちょ、ナーガ!」
僕の制止をふりきったナーガはそのまま逃走する。ナーガが児の状態ってことは、相当に嫌な予感がする。
僕は不安になりながらも、自分で指定したのだから今さらキャンセルはできないと肚を決めて、待ち合わせ場所まで行くのだった。




