104話 フェイマの街 13
僕がログアウトして、夕飯を食べてからまたログインすると、何故かナーガがいなかった。
どうやら一時席を外しているらしい。そして、にこにこ笑顔のマスターとレーラに出迎えられる。手紙は無事に送ってくれたらしい。会談時間は明日にしているので、今日は少し余裕がある。その間に、じいちゃんたちと合流して、何か簡単なクエストでも引き受けられればなーと僕が軽く考えていると。
あちこちから視線が飛んできた。
不思議に思い、僕がそちらに目を向けるも、相手はすぐに視線を外してしまう。
ひそひそと噂話でもしてるみたいだけど、何だろう? ちょっと気になる。
「あ、気にしなくて大丈夫! きっと精霊が珍しいから、みんな噂話してるだけよ」
「そうそう! あんまり気にするなって。あ、そうだ。符術についてあんまり知らないだろ!? よし、今から俺が教えてやるよ」
なんだか、強引に話題をそらされたような?
僕は首を傾げながらも、あまり二人の言葉を疑うことなく、ついていった。
うーん、じいちゃんたちとの合流がどんどん遅くなってるような・・・。
さすがにずっと離れたままなのはやだね。今度、探知とか探索とかできるオリジナル魔法の開発でもしよう。じいちゃんかクク神なら喜んで乗ってきそうだし。
まぁ、今はチャットでも送っとくか。
幸い、さっきの賭博場とかでは送れなかったのが、表に出てくると、送れるようになってるみたいだし。
テルア:じいちゃん、今どこー?(・∀・)ノ
ジャスティス:テルアか!? すまん、儂、ショックで今はテルアに会えそうにないんじゃ。(´・ω・`)
テルア:そうなの? 何かあった
(゜ロ゜)?
ジャスティス:なんでもない。ちょっと準備中なだけじゃ。ただ、まだ準備が終わっとらんから、テルアには会えんのじゃ。儂も魔物組も本当は会いたいんじゃが。
(。>д<)
テルア:えーっと。なんかよくわからないけど、わかった。(*^^*) じゃあ、僕、一人でも受けられそうなクエスト受けて、やっとくよ。あと、今日の課題は? 出してなかったよね?
ジャスティス:スキル大全集のP405~731までを読み込んでくること。それと問題プリント5枚をやってくること。プリントはいつも通りメールで送っとくわい。
テルア:相変わらず、課題に関しては容赦ないね、じいちゃん
( ̄▽ ̄;)。わかった、明日までにやっとくよ。
ジャスティス:うむ、こっちも明日までには準備を終わらせとくからの! 期待して待っておくんじゃぞ、テルア!(ゝω・´★)
テルア:なんの期待かよくわかんないんだけど(^_^;)。ま、いいや。期待せずに待っとく。それじゃあ、また明日。
ジャスティス:うむ、また明日じゃ。
(  ̄▽ ̄)/
こんな感じで、やり取りは終了した。
じいちゃんが自分から何か行動するときって、大抵ろくなことにならない気がするけど・・・今から止めようにも、本人らの居場所がよくわかんないし。
ま、明日になればわかるんだし、いっか! 気持ちを切り替えて、僕は冒険者ギルドに向かった。
どんなクエストあるかな~。
冒険者ギルドは、何故か凄まじくぼろぼろだった。あれ? 三時間ほど前来たときとはまるで違う。崩壊寸前の建物って感じだ。
中に入ってみると、どうも揉めてるみたいだ。
「だーかーら、お金なら払うと言ってるでしょう! 今は手持ちがないですけど、すぐに持ってきます! なので、い・ま・す・ぐ、依頼を出して・・・いえ、出しなさい。さもなくば・・・この辺り一帯、吹っ飛ばしますよ?」
え、誰。あの物騒な魔法使いキャラ。
茶色のフード付きの外套を羽織ってるけど、相当細身だということはわかる。
さらりと、フードから落ちる髪は金色。顔はわからない。杖を手にしてる。
ふさふさの尻尾は狐っぽい。
いいなぁ、あの尻尾。触らせてほしいなぁ。
尻尾は九本もあるので、全部もふもふしたいなぁ。
僕がじっと熱い視線を尻尾に送っていると、後ろからマスターがげっと呻いたのが聞こえた。
知り合い? と聞こうとした僕に、何故か巨大な火球が迫ってきた。
慌てずに水魔法で同じく巨大な水球をつくって対処する。
火球と水球は相殺されて消えた。
「いきなり何するの!? 危ないんだけど!」
僕が抗議すると、相手は堂々と胸を張ってのたまった。
「さっきから人のことをじろじろと見てくる視線がうっとうしかったから、先手必勝で攻撃しただけです」
なに、その物騒かつぶっ飛んだ思考!? あの尻尾を見たら、誰だって自然と視線送ると思うんだけど!?
「まぁ、ひとまずグースの近くにいてもいいくらいの実力があることは認めましょう」
「姉貴! いきなり来て何の用だよ!? それに、視線とか関係ねぇだろ! テルアに謝れ!」
マスターがフードの人物に憤然と言い放った。って、姉貴!? まさかのマスターの家族登場!?
「何の用、ですか? 用がないと来てはいけないのですか?」
「当たり前だ! あんたが街中に来ること、周りの連中はちゃんと許可したのか!?」
「それは・・・許可はもらっていませんが」
マスターは天を仰いだ。ふらり、とよろめくマスターの体を支えると、フードの人物から凄まじいプレッシャーが僕に放たれる。
厄介事の予感しかしない。
「そちらの子どもは? 側近ですか? ですが、側近とはいえ、主の体に触れるなど、少々無礼ではありませんか?」
「側近とかじゃない。俺の恩人だ。いくら姉貴でも、手を出すのは、許さない」
マスターがフードの人物を睨む。
フードの人物は、少し悲しそうに俯いたが、すぐに顔を上げると毅然とした態度で、マスターに宣言する。
「あなたの選択を疑いたくはありません。ですが、あなたに与えられる時間は、あとわずかです。私はあなたの監視役。あなたが私を毛嫌いしようがこれからは離れる気はありません」
「・・・最悪だ」
マスターは、本気でまいった表情で呟いた。
次→ 6/5 8時




