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 だが……それからどれくらい時間が経ったのだろう。

気が付けばいつの間にか大勢の話し声が外から聞こえてきたではないか。

「ん……こんな時間に一体、何事かな?」

呟きながら窓に顔を近づけて外を見るノア。

するとそれは半日ほど前に村を出て言ったあの態度の悪い男達の姿だった。

どうやらこの宿に向かってくるようなのでノアは急いで身支度を整えてリビングに向かう事にした

だがそこには予想に反し驚く事に昼間暴力を振るっていたダルスと呼ばれる男性がルルの目の前に座り注文した酒を旨そうに飲んでいた。

「か~。やってらんねぇよ。ヤツラ全く話を聴く素振りすらみせやしねぇ。それどころかこっちが悪いの一点張りだぜ? 挙句に今日は変に強いガキまで出る始末だしよ。まあ、お陰で言いたい事は伝えて来られたが、正直街の連中とは話し合いにすらなりゃしねぇのよ。頭にきて当然だろう。とは言えあの時は……その、本当に悪かったなルル」

「いいえー。ダルスさんは村の事で怒り出すといつも周りが見えませんから。それに考え事をしながら歩いていた私も悪かったのもありますし」

「なっははは! まああの旅人の小娘のおかげで今回はまだ冷静になれていた訳だし。無駄に生傷増やす事もなかった訳だからな。後で感謝でも伝えて置いてくれよ」

ダルスは仲間の『……よく言うよな』と言った感じのため息にも気にも留めず、扉の後ろに立つノアの事をわかっているのかのように目線をちらりと向けるとまた旨そうに酒を飲みほした。

するとそんなダルスの様子にルルはくすくすと笑いながら、わかりました。と微笑を浮かべて言葉を返した。

「………ですが、そうなると、今回も彼の姿は見られなかった訳ですね」

しかし次の言葉でその表情は陰りを見せ、ダルスもその意味を知っているのか頭をがしがしと掻いた後、少し言い辛そうにこう言った。

「ん……ああ。どうやらそいつは他の町に買出しに行っているらしく留守なんだとさ。でもよルル。本当にそいつに言えば今回の騒動を何とか出来ると本気で思ってるのか?」

「ええ、彼は争いを好む人ではないから。ちゃんと会ってこの村の現状を伝えられれば一緒に解決策を思案してくれると思うし、この不毛な争いは回避できると思っているの」

ダルスの言葉にルルの表情はどこか寂しそうに曇るものの、迷いなく頷いた。

「そうかい。まあ俺もこんな事で同じ人間と争うのは忍びないからな。とは言え明日。街にいたガキに伝えた通り、交渉に応じられない……その時は、わかっているよな?」

「ええ。その時は――私も村の決定に従います」

 そして燐とした表情で言葉を交わすルル。

「わかった。ま、お互いそうならないのを女神様にでも祈ろうや。んじゃご馳走さん」

ダルスはルルの表情に満足したのかそう言い残すとテーブルに賃金を置いて他の仲間と共に宿から出て行った。

そして彼らが去ったのを見計らいノアは中に足を踏み入れ、まだ残っていたルルにこう語りかけた。

「ねぇルル……。アイツと知り合いだったの?」

「あらノアさんまだ起きていたんですか? ええ、この村は小さいですからね。私が両親を失くしてからは何かと世話を焼いてくれていた方なんですよ」

「……そう、なら要らぬ事をしたかな」と言いながら表情を曇らせ椅子に座るノア。

するとルルは軽く首を横に振った後、ノアを見てこう言葉を返した。

「いいえ、あれで助かったんですよ。ダルスさんは曲がった事が嫌いなヒトですから、ちょっとした事で頭に血が上り易い上に喧嘩っぱやい所もありまして、

正直話し合いに行くと言う事で何人かは付いては行きましたが、村の人々もそれを心配していたんです」

そして苦笑をしてからルルはノアに暖かなミルクを差し出した。

ノアは少しだけ表情を緩めつつダルスの性格が何処かの誰かに似ている気がして、そう。と短く呟くと少しだけ口の端をあげた。


その後会話は途切れしばしの静寂の中ノアがミルクを啜り、目の前でルルが食器の後片付けをしていると途端に思い出したかのようにルルは視線を上げこう切り出してきた。

「あっ、そう言えば先ほどノアさんも誰かを探していると言っていましたよね。差し支えなければどんなヒトか教えて貰えませんか?」

「それって随分と唐突。ん…………。別に構わないけど。そう、一言で言えば」

ノアは一瞬だけ眉を潜めながらもルルの問いかけにしばし考える素振りを見せて、すぐに「バカ」とまじめな顔をしてはっきりとそう言いきった。

「バ、バカ……ですか?」

「そうバカ。バカの癖に幼馴染を助けに飛び出して、回りに迷惑をかけまくってこの大陸に来たとしても、

天性の方向音痴でたどり着けず未だにどこをさまよってかもわからない生粋のトラブルメーカーで救いようのない本物のバカバカ大バカ!!」

「あ、らら……それはすごく豪快なヒト、なんですね……」

流れるように言い放つノアの言葉に圧倒されながら苦笑いしか出来ないルル。

するとそう言いながらもノアは大きくため息を付きこう続けて。

「……だけど、間違った事は言わない。だからすこし、腹が立つ」

そんな自らの言葉を認めたくないように残ったミルクを飲み干し、ダンと音を立ててコップを置くと席から立ち上がり、そのままルルを見てこう続ける。

「ねぇルル。今日……ルルは、さっき言っていた幼馴染の居る街に行くの?」

「え? ええ、聴いていたんですね。一応、ダルスさんには内緒で会いに行ってみようと思っています。でも門前払いが関の山でしょうけどね」

自分で言いながら自虐的な笑みを浮かべるルル。するとノアは少し考えてから。

「……そう、なら私も一緒に行く」とルルに告げた。

「えっ、でもノアさんは旅人さんですし、何よりも村の騒動に巻き込むわけには……」

突然の申し出に驚くルル。だがノアは気にしないで。と言った後に。

「ん、だって街に探している大バカが居るかもしれない。なら、そのついで」

少しだけニヤっとしながらルルに背筋がぞくっとするような黒い笑みを送り、小さなあくびをすると用意をする為にリビングを後にするのであった。

                

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