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5-4

「ねぇ……ルル。あなたの村には遥かな昔からあの神話は伝えられているのよね?」

「はい、確かにノアさん仰る通り。村では水神ウェルクルトの存在を語り継いで来ました。ですが、至らぬ水の流れを?いでいたのは溢水石の事であり、また水神だと思っていたのは邪龍であったと言う事が、今回の騒動ではっきりとしてしまいました」

「……ん、そこまでは分かっているのね。じゃあ一つ質問。もともとこの地には邪龍の存在は無かった。そしてそれは古の神々が引き起こした大災害により現れたと想像できる。なら、始めにこの地の水を作り出していたのは一体誰?」

ノアの問いかけにルルは首を捻る。

しかし、大切に持っていた水晶を見て何かがはじけたように声を上げた。

「精霊……ウェル・アクア!!」

「そう、邪龍が現れる遥かな昔、この世界には確かに彼ら精霊は存在し、同時に精霊を生み出した気高き竜もあなた達に語り継がれていた。つまり、水竜ウェルクルトはこの世界に昔、確実に実在した事になるの。そしてそれが事実なら、まだ手はある!」

ノアは腰に身に付けていた古びた本を開き、目の前に置いてから皆をその周りに呼ぶとこう言い放った。

「……いい? 今から私と君で本と媒体を使って異界とこの世界を?ぐ。ノルンとルルは消えた水神ウェルクルトを呼び戻す事だけを真剣に考えて!」

「なっ? そんな事が素人も混ぜた見習い技士の俺達に出来るのかよノア?」

「出来るか出来ないかじゃない! やらなきゃどうにもならないの。それともこのまま水の中でばしゃばしゃと水遊びでもしたいの? 偉大なる宮廷召喚技士のお孫さん!」

「へ……冗談じゃねぇ。そっちこそへますんじゃねぇぞ。その弟子のノアさんよ!」

ノアとクロームはそう言い合うと嫌々ながらも互いの手をがしっと握り締め、もう片方の手をノルンとルルに伸ばす。すると二人は見つめ合いながらこう言った。

「僕に……そんな資格があるかは分からない。だけど、君や皆を水で苦しむこの大陸を救いたい。それが僕の中にある本当の答えだ。ルル……力を貸してくれるかい?」

「ええ、勿論です。言ったじゃないですか。私は、あなたを一人にはしません。だからノルンも、私を……信じてください」

ルルが微笑みを浮かべ本の上に持っていた水晶を置くとノルンも同じように頷きその手を強く握り締め、二人の差し伸べられた手を強く握った。


 ノアは、それを見るや強い覚悟と共に詠唱を始める。

【――古き忘却の時代よりこの地を去りし気高き魂よ。汝、紅と蒼の盟約とそのエマを継ぎし者の呼び声に従い、畏怖と異界の隔たりを超え、この世界へと再び意で参れ――】

すると四人の中央にあった本と水晶が空間に浮き出し足元の景色がまるで底の見えない空間に移り変わっていく。ノルンとルルは吸い込まれる闇に声を上げたい衝動に駆られるもそれを阻むかのように強く握り締める二人の手がその恐怖を押し留めた。

【――世界を統べるは息吹たるマナ、意思を司るは聡明なるエマ、調和を司りしは自愛なるリア、混沌を司りしは破滅たるイム。そしてそれらの叡智を知りし大いなる龍よ。大地母神エルフィリウムの呼び声を聞き。願わくば、その意思を我等に伝えよ――】

刹那、身を引き裂くような波動が二人を遅うがノアから放たれる柔らかな波動がそれを無効化し、するとようやく二つの世界が繋がったのか暖かな光が足元より輝きだしたかに見えた。その光景に安堵しようとする二人。だが今度はクロームから放たれる鋭い波動がそれを静止させる。その途端まるで弱き意思を飲み込むかのように大きな口を開けた獣が足元から口惜しいそうに去っていた。

ノルンとルルはそれに驚愕しながらも再び水神ウェルクルトの事だけを考えた。

【――私は思う。これが始まりであると。私は願う。再び汝と逢いまみえる事を。私は望む。汝と心を通わす事を。そして私は祈る。再び手を取り合い、共にこの女神の織り成す大地で同じ時を生きる事を――】

時間にすればおよそ一分弱。しかし彼らのさ迷っている世界とこちらの世界ではまるで時間の流れが違う為、実際はかなりの時間を要している。四人に焦りの色が見え始める。だがそれでも互いの手を離すことはない。そしてノルンとルルが足元からせせり上がって来る強大な気配に声を上げた瞬間、ノアとクロームは同時に意識を足元に集中させ、声を張り上げた。

【――さあ今こそ我等が尊い呼びかけに応え、その大いなる太古の姿をこの世界に現し示せッ! 太古の水竜ウェルクルト!!!!】

そしてノアが叫んだ瞬間。突如足元の景色を割るかのように地から天に向かって大いなる流れが氾濫と生まれ、それらは本と共にあった水晶に吸い込まれていきそれが全て飲み込まれると四人は弾かれたように手を放ち四方に飛ばされた。

「っ……。みんな、無事?」

ノアは即座に立ち上がり三人を見ると、誰一人欠ける事なく居る事に安堵の表情を浮かべた。そしてそんな四人の前にはまるで光を放つように水晶が輝きを満ち。

刹那、周りにあった水を飲み込むかのように呼び始めた。

それは見る見るうちに大きな龍の姿へと変貌を遂げ、透き通るような水で巨体を作り上げると自愛に満ちた暖かな眼差しで四人を見つめこう言った。

【良くぞ、至らぬ輪を打ち砕き私達の存在と罪を糺してくれましたね。小さき者達よ】

その聞きなれた声を聴き驚愕するノアとクローム。

「え……じゃ、じゃあ、あなたが……水神ウェルクルトの化身だったの?」

【ええ、私達は初めからあなた達を小さき者と呼んでいたのはその為です。気付きませんでしたか……召喚技士ノア?】

「あのなぁ、気づくわけねぇだろ。ったく、精霊って言うのは回りくどくていけねぇよ。最初から素直に手伝ってくれって言えばそれで澄んだのによ!」

納得できないのか少し憤慨するクローム。

すると水神ウェルクルトはどこか困ったような表情を浮かべながらこう言い返し。

【ええ、私もそう思い。同じように事態の異変に気が付いた一人の宮廷召喚技士に頼んだ事もあります。しかし精霊や竜は恋人になれないから嫌だと断られたのです】

「は、はぁあああ??? そのセンスの無いアホな口説き文句、いい加減な言い回し……ま、まさか、あんたの知る宮廷召喚技士って!」

さわやかな笑顔で饒舌にこの言葉を言い放った。

【ええ、一字一句。あなたの思い浮かべた祖父に相違は御座いませんね】

「ぐああああああ! あのクソジジィイイイイッッ!!!」

するとクロームは叫びながら何かが壊れたように地面にぶっ倒れ気絶し。

(ん……あのろくでなし師匠。今度会ったらこの新たな召喚技で引導渡してやる!)

ノアはそれを見ながら後でぶっ飛ばそうと心に決めて拳を強く握り締めた。

【ふふ。では戯れは終わりにしましょう。召喚技士ノアとクローム。そしてこの地を共に生きるノルンとルルよ。私達の背に乗りなさい。ここを脱出するとしましょう】

水竜ウェルクルトはそう告げふわりと背を向けるとノアは本を拾いクロームを引きずったまま飛び乗り、ノルンとルルはまるで事態が飲み込めないのか恐る恐るその背に乗った。途端に四人の姿は泡で包まれ水の中だと言うのに苦しさは微塵も感じる事は無い。

【さあ、すぐにこの地を飛び立ちます! しっかりとその目に焼き付けておきなさい】

皆が乗ったのを確認するや大きな尾びれを広げまるで大海を泳ぐかのように宙を飛び邪龍が破壊し作り上げた大きな滝を見るや巨体を震わせ一気に突進していった。

そして水竜ウェルクルトが纏う水はまるで何かの呪縛から開放されたかのように祝福の色を彼等四人に見せ、同時に多くの水の流れがまるで蛇の如く地面の中をひた走り、本来あるべき水脈を作り上げていった。同時刻。日の出が上り始めた頃。

役に立たないと知りながらも急いで都市に駆けつけていた人々の目に飛び込んできたのは至る所から水が溢れ噴出し都市が地盤沈下によって水没していく光景だった。

「……あいつ等。ついに、やりやがったのか?」

ダルスがそう呟いた刹那。辺りの山々からは水の香りが立ち込めだし、今まで枯れ果てていた木々はまるで息を吹き返したように青々と葉を生い茂らせ、大地は風を纏う草原のように街を中心に瞬く間に本来在るべき色を取り戻していく。

「これは……。まるで水のマナが辺りに際限なく満ち溢れていくようだ」

ジグはそう言いながら辺りを見渡す。すると今度は遠くの方から地震と共に滝のような流れが押し寄せ、彼等の下を走るように大きな水の流れが生み出され噴出された水の飛沫が太陽の光に当てられ至る所で虹の橋がかけられた。

人々はその美しい光景に敵も味方も忘れ歓喜に満ち溢れていると、今度は沈んだ都市から閃光の如く点に上る光を見てカロンが声を上げた。

「みんな、見てごらん……。あの、背に乗っているのはあの子達じゃないかい!!」

崩れ行く都市より放たれた一迅の矢の如く空に飛びだったその姿は透き通るような体に朝日を帯びながら金色の光のように闇を切り裂く天へと上っていった。


そんな美しい自然の光景を同じように水竜ウェルクルトの背から見ていたノアは気絶するクロームの顔をひっぱだき叩き起した後、二人に向かってこう告げた。

「ん、さてとそれじゃあ二人とも。後はよろしく」

「えっ、ノアさん。まさか……。もう、行ってしまうんですか?」

「まだ……。僕たちは二人に助けられたお礼も返してないのに」

咳を切ったように言う二人にノアは苦笑の表情を浮かべる。

「ん? だって私の役目はこのバカを連れて王都に向かう事。ここに居たのはほんの気まぐれに過ぎない。それに私達は見習いでも召喚技士。いれば災いしか呼ばないから」

ノアはそうしれっと言い放ち、英霊を呼び出すと旅立つ準備をする。

一方叩き起こされたクロームは少し首を捻った後、笑みを浮かべてこう言った。

「痛てて、ったく。ノアはあんな風に言ってるけどよ、本当は照れ臭いだけなんだぜ。まあ、なんだかんだ言ってもまだお子様だからな。お涙ちょうだいには弱いわけよ!」

「むッ、うっさいバカ! 早くしないと置いていくから」

ノアはクロームの言葉にほんの少しだけ顔を赤らめ微笑を浮かべると、英霊の背に乗り翼を大きく広げふわりと背から飛び立った。

「おわ! 待てよノア。マジで置いてくなっての!!」

クロームは驚きながらもすぐさま走り出して勢いよくジャンプすると英霊の足にしがみつき、それを確認してからノアはふら付きながら水竜ウェルクルトの側を降下していく。すると水竜ウェルクルトは大きな瞳で二人を見つめてこう言った。

【やはり……旅立つのですね若きし二人の召喚技士達よ。至らぬ輪を断ち切り、真の絆を私達精霊と人々に取り戻してくれたあなた達の活躍には感謝しても足りません。きっと宮廷召喚技士の彼もこの事を予期して私の頼みを断ったのだと、今ではそう思うのです。もちろんあなた達はそう考えるのも嫌でしょうけれどね】

ノアは感慨深く語る水竜ウェルクルトに何か言いたそうな表情のまま静かに首を横に振り、クロームは逆にどこか照れたような表情を浮かべてその場を去っていく。

ただ共通していたのは二人の表情がどこか満足した感じであり、徐々に姿が遠ざかって行くのを見ていた水竜ウェルクルトはそんな二人の様子に笑みを送り、街や村人がいる丘へと向きを変えると呟くようにノルンとルルにこう言った。

【ふふ。純粋な子供達ですね。強いエマのある者は何よりもこの世界の宝であり、私達精霊にとっても愛おしい存在です。ルルそしてノルン。彼等にはいずれまた会える時もあるでしょう。それまでにこの地をよりより大地へと生まれ変わらせなければなりません。そしてそれはこの地に住まうあなた達にしか出来ない偉業。この大役。あなた達にお任せしても宜しいですね?】

「ああ……勿論だ。約束するよ。彼らや亡き父に負けないように僕や街の手で必ず成し遂げてみせるさ。水竜ウェルクルト!」

「私も村と共に彼のお手伝いします。だから心配しないで見守って下さい水竜様」

そんな二人の答えに満足したのか水竜ウェルクルトは驚き慄く人々の下に二人を背から下ろすとノルンとルルに押し寄せる人々に自愛に満ちた眼差しを向け。

様々な眼差しを向けられる中、水の巨体を大きく震わせ再び優しい波動を纏い蘇る大地と空へ羽ばたき去っていった。

           

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