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5-1



  最終話・至らぬ輪の流れ


 全身がどこかに飛ばされる感覚を感じながらノアは光と共にその光景を眺めていた。

流れる川のように光の塵が無数に飛び交う中を進む最中。突如、アクア・ラッシュの光景が目に飛び込んできた。街は散々とした様子で商品は道に散乱し至る所に造魔の姿がうろついていた。すでに人々の居ない街は半ば廃墟の雰囲気を纏い、空から差し込む月の光だけがかつての賑やかな光景を賞賛するように夜の闇を切り裂いていた。

しかし、移送方陣はその場所に留まる事無く中心の屋敷の中を突き進み、地面を潜り抜けトンネルのような空間を通って行き。そして二人の五感がはっきりと稼動を始めた時、

その目に映った辿り着いた所は摩訶不思議な場所であった。

「ここは……。都市アクア・ラッシュの地下?」

「ああ、そう言えばノルンが言ってたな。昔の遺跡の上にあの町は作られたんだってさ」

クロームはノアの疑問に答えるようにそう言いながら周りを見渡した。

足元には水が微かに溜まり、少し歩くだけでパシャパシャと音を立てる。さながらここは水に包まれた坑道といった感じに近かった。周りの壁に付けられた松明が無ければ足元も見えず危険であろう。それでもノアは少しも迷う事無く前に進みだす。

「ん、とりあえず先に行く。どのみち後戻りは出来ない。なら二人を探して――」

「踏ん反り返る黒幕のボスをぶっ潰して脱出するのが先決だよな。ノア」

ノアはクロームの言葉に強く頷き、その果ての見えない坑道を歩き出す事にした。


それからどれ位歩いただろうか。水の弾く音が回りに反響し、それが耳障りに聞こえる頃、急に目の前の空間が開け二人の前には異様な雰囲気の祭壇が姿を表した。

天井からは地下だと言うのに夜の月に匹敵する光が放たれ、歩く石畳の地面には均等に並ぶように大きな石が置かれていた。

どうやら足元の水はこの溢水石の結晶体から流れ出ているらしい。ノアとクロームは周りにある髑髏や見た事の無い化け物で不気味に彩色され並んだ客席を通り過ぎ、最深奥部にある祭壇の横に掲げられる二つの十字架を見て声を上げた。

「……ッあれは、まさかルル??」

「ってことはもう片方に縛られているのはノルンかよ! ふざけやがって!!」

クロームは二人の深く傷ついた姿に怒りを露にして走り出す。

だがその刹那。目の前には巨大な雷鳴が鳴り、ノアは瞬時に走り出しクロームを掴むと即座に宙に飛び上がり稲妻が地面に落ちると同時に客席に舞い降りた。そして放たれた方角にいる年老いた人物を見て冷たい眼差しできつく睨みつけた。

『ほう、この攻撃を一瞬にして見切り地面にも降りた立たんとは。なかなか見所のある人間らしいな。そうか、お前達がノルンの言っていた召喚技士か……』

老人は苦笑しながらその行動を嘲うかのように稲妻が走る地面を平然と歩いてくる。

唖然とするクロームとは裏腹にノアはそんな様子を見て静かに声を上げた。

「今のは承霊。なるほど、つまりあなたがイオニスの内側から見ていた黒幕の『技士』と言った所ね。もっとも彼の意思を完全に奪わない所を見るに、ずいぶんと戯れが好きそうだけど」

『ふっはははは。わしが『技士』か……。くくく、それは良い』

するとその途端、老人は狂ったように笑い出した。まるで考え事態を否定するかのような行動にノアは少しだけ怪訝そうな表情を浮かべ、今度はクロームが声を上げる。

「うるせぇよ! 何を笑っているかは知らないけれど。ここにあるんだろ? 息子を見捨ててまで隠したかった『全ての溢水石を操る方法』がよおッ!!」 

『ふむ、若造ながらそこまで知らべたか。ははは。だが、残念ながらそんな物ははなっから存在などせんわい。過去の事実を知らぬ者が勝手に作り上げた妄想。そう言えば分からぬか?』

老人は小馬鹿にするかのように答えると興味を無くしたのか再び背を向け祭壇に向かって行く。

「なっ? なんだって!! ふざけんなよ、だったらお前がリング・エルドを襲う理由がどこにある。それに大陸中の水をここにある遺跡で集めて何を企んでやがるんだ!」

『ふぅ、思い上り何を勘違いしているかは知らんが。人が死ぬのは摂理だ。それが遅いか早いかにすぎんだろう。ならばその時間が早まっただけだ。何をそんなに目くじらを立てて怒りを表す必要がある? 実に下らんな!!』

老人はそう言い切ると今度は二人の目の前で三人に分裂し、一瞬にしてノルンとルルの元に降り立ちその手を詠唱無しで鋭い棘に変え二人の喉に突きつけこう言った。

『さて……わしもこれ以上時間の無駄は好まん。意味無く戯れるのは何よりつまらないからな。さあ少年よ。その内に隠したこの地を維持する精霊ウェル・アクアが最後に残した力を秘めし水晶を渡せ。もとよりそれを得る為に起した戦乱だ。拒否すればこの二人の命は即座に息吹の中に還る事となるとしれ!』

「……くっ!なんだよそれ ふざけんなよ……」

クロームは悪態を付きながらも次の言葉を失った。そして水晶を取り出し迷うようにノアを見るがノアは何を考えているのか澄んだ声で「構わないわ」と短く告げるとクロームから水晶を奪い取り、即座に老人に向かって見投げつけた。

『ふむ、確かに……。素直であるのは喜ばしい事だ。では約束を守ろうか』

すると老人は飛んできた水晶を受け取り本物であるのを確認するや、二人に付かせていた分身を取り払い十字架から開放して、一瞬のうちにノアの元に送り届けた。

ノアは傷つきながらも息をする二人を見て客席に下ろし少しだけ安堵のため息を漏らす。だがクロームはそんなノアを見て憤りを隠せない様子でこう怒鳴った。

「なっ、ノア! お前何を考えてやがる!!」

「ん、どうした? 少なくとも二人の身を助けるのが君にも最善策のはず。違う?」

「いやまあ確かにそうだがけど、モノには交渉とか順序ってもんがあるだろう!」

クロームはそう愚痴るようにノアに食って掛かるが、とうのノアは特に気にする様子も無く、再び強い眼差しで水晶を眺める老人を見ながらこうクロームに告げた。

「なら、君は後ろで二人を見てて……私はまだ確認しなきゃならない事があるから」

「……ッ!! なるほどな、了解だぜ」

そしてクロームが強く輝く瞳を見て頷くのを見た後、ノアは一人客席を飛んで進みこの場から去ろうとする老人に向かって鋭い声を上げる。

「さてと、確かに二人は返して貰った。じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか?」

『……ふっ、今更何を言うか小娘。わしはこれからやらねば成らない事があるのだよ』

「ん、そう。なら憶測で『溢水石の誕生秘話』を勝手に話を進めさせて貰う。この数日で集めた多くの情報を一つに纏めた結果紡いだ寓話。あなたは聴いてみる気はない?」

老人はその言葉に訝しげな表情を投げながら振り返り、ノアはそれを見て少しだけ口の端を上げると軽く息を吸い、どこか嬉々とした表情で流暢な口調と共に語り始めた。

            

「まずこの大陸には元々『自然水脈が存在しない』これは村や街の水車や遺跡の水汲み装置が作動しているにも関わらず効果が無い事からそう考える事が出来る。ただ私達が使用できる水や風、火や土は元々世界に漂い根源するマナが精霊のリアの力によって変化して作られた元素に他ならない。つまりこの方式に基づけるならば水の精霊だけがこの大陸に存在しないのは明らかに異常。だけど水脈が存在しないのもそれが理由とされけど、今まで人々は誰一人この事実に気が付かず生活して来られた。これはこの大陸のみに存在する『溢水石』の存在があったからに他ならない。そして、それらを作り出したのがリング・エルドの神話に残る『エルフィリウムの使者』と呼ばれる者とその弟子である『エデンの民』であるのは知っての通り」

「彼らは『ある理由』により水の精霊の消滅したこの大陸の水不足を補う為に、取ったと思われる大胆かつ在り得ない方法。それが『召喚技』を用いて別空間を移送方陣によって?ぎ水を送り出す『溢水石を大陸全土にばら撒くと言うこと』だった。これによりこの大陸全土の水の共有安定化を図り、なおかつ『水の大陸を独自に作り上げた』と推測する事は可能ではあるわ」

「ただし、これは本当に憶測であり、これだと水の制御も可能だけどあなたが否定した通り幾つかの疑問が残る。確かに神に匹敵する『使者』の力を持ってすれば可能なのかも知れない。けど普通に考えたら彼らが去った後もその現状を精霊の居ない地で何百年も維持出来るかと言うとはっきり言って不可能に近い。なおかつ水が永遠に枯渇しない場所がこの世界に存在するかも疑問が残る。そこで私は現存するこの大陸最後の水の精霊ウェル・アクアにそれを尋ねた。すると面白い事実を聞かせて貰えた。精霊の話によると過去、神々が起したとされる世界大災害の際にこの大陸の精霊は皆、一匹の混沌によって食い尽くされたと言ったからだ」

「混沌が神々に作られたか、呼び出されたかは定かではない。けどその存在は水そのもの。つまり精霊と同意義でありながら自ら強い自我を持つ故に他の大陸までその侵食を広げようと企てたと考えるのが妥当。しかし、そこに現れた世界を復興させた『使者』か『エデンの民』によって混沌の体は幾千幾億に砕かれ『この大陸全土に降り注げられた』そして、その体の一部は皆水の精霊と同じ『調和』の力を微かに持っていた。つまり……今大陸に存在する『溢水石』とはマナを水に循環する力を持った『混沌の肉体の一部』に過ぎず、また水の大陸もそれを用いて偶然作られた産物に過ぎないのではと、私は考えた。これかなら他の大陸に同じ石が存在しない理由も挙げられるし、また石が絶対固有体でないのも証明されるというわけ」

ノアは語り終わると少し疲れたのかふぅ、とため息を付き、自信に満ちた表情で老人に視線を向けた。

「以上これが私が導き出した決して語られぬ溢水石の誕生秘話よ、どうかな?」

すると老人は驚愕の表情を浮かべながらも軽く跳躍してノアの目の前に姿を移動させると顔を近づけどこか歓喜に満ちた表情でこう言った。

「――くくっ、ふっ、ふはははははは!! なるほど実によく出来た話だ。では問おう。その混沌の意思は今どこに存在する。そしてそれを待ち望んでいる者の名は何だ!!」

「それを私に聞くつもりなら……? ん、なら答えてあげて」

ノアはそういって後ろを振り返った。

するとそこには目覚めたノルンとルルの姿があった。

「……父さん! いや、違う。僕の父さんは長い間、病で伏せていたんだ。なのになんで歩ける? お前は……。一体、誰なんだッ!!」

ノルンは悲痛の表情をしながら声を荒げた。だが老人はその言葉に無感情のまま凄むような口調で言い返す。

『ほう、お前如きに我の存在が見抜けたか。ならばその強き意思に免じて教えてやろう。お前の父ならばすでに病で死んでいる。私は契約に基づきこの空っぽの体を受け渡され利用していただけに過ぎんわ!!』

「なっ、なんだって??」

ノルンは老人から放たれる言葉に声を失う。

だがすぐに何かを思いついたように声を上げた。

「まっ、まさか! あの時僕の病気を治す為に、父はその身をお前に明け渡したのか!」

『ふむ、少しは賢かったか。ああその通り。この人物は自分の寿命と体を受け渡す代わりに息子であるお前を助けて欲しいとそう願った。我はその言葉に基づき男の寿命を壊れかけた人形のような息子に与え、残された寿命をまっとうした後、体を契約に従い受け渡されたのだ。つまり、お前が存在するからこそ男はこの世に存在しない。そう言えば分からないか?』

あまりの衝撃の真実に膝をガくっと崩しその場に崩れこむノルン。そして取り乱したように頭を抑え、導き出される答えに逆らうように声を荒げた。

「そ、そんな……僕が父を苦しめていただなんて! 嘘だ……嘘だぁああああッーーー!!!」

断末魔に近い声をあげるノルンを見て横に立つルルはその知らされた事実に声も無く泣くしかなく、クロームはそんな老人を睨みつけながら声を荒げた。

「――なるほどな、だが、どちらにせよテメェが完全に悪だってのははっきりしたぜ。ノルンの親父さんの体を使ってこの無意味な戦争を引き起こし、ウェル・アクアの力を奪う為に引き起こしやがったんだからな!」

『ふっ、なんと言われようと構わん。我は何百年とこの地に封じられ意思のみの存在として未来永劫に近い時間を過ごしてきた。それを紐解いてくれたこの体の持ち主には感謝している。それゆえに本来大いなる息吹に還る運命であった人形に過ぎない息子を助けてやったのだ。何が不満だ!』

老人はクロームが睨むのを理解出来ないと言った表情で返すがノアはそれを見て水晶の床にふわりと降り立つと冷めるような蒼い瞳を向けて静かにこう言った。

「そう、それがこの戦いのもう一つの真実。でも同時にその人が誰よりも誇れる偉業を成し遂げた。それもまた終始の事実! ならその事実を破壊しようとするあなたの存在は邪魔。この世界に生きる場所すら存在してはならない。ん、だから――消えて!!」

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