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(くっ、あらかた倒したのに、まだ来るの……?)
ノアはそう思いながら足元に転がり塵に還る造魔の成れの果てを見て息を吐いた。
先ほどまでに何十体と造魔を地に眠らしたと言うのに、街の方角からはまだまだ無数の造魔の群れが地を鳴らし押し寄せてくる。しかも夜になった為にその動きは先ほど戦っていた時よりも数段早く多少ながらもエレメント化したノアですら手こずっていたのだ。
(この先に、二人がいるのに……!)
ノアがそう考えている暇もなく押し寄せる造魔は爪を振りかざし襲ってくる。
「邪魔――しないでぇぇぇええええ!!!」
ノアはその攻撃を避けると赤い紐を靡かせた拳で力一杯造魔を殴り飛ばした。
造魔は声を上げながら木にぶつかり何本も倒し砂埃を上げながら地面にへばり付くが、それでも損傷の軽度が低い為にむくりと立ち上がり再びノアの元に舞い戻ってくる。
ノアはそれを見て舌打ちをすると即座に空を飛び滑空したまま銀色に光る翼をマナによって刃物のように尖らせ一瞬にして多くの造魔の体を切り刻み再び上空に舞い上がると翼から銀羽の礫を撃ち放ち、爆音と共に造魔の群れにトドメを刺した。
だがその消費も激しくノアは地面に降り立つや膝を曲げ肩で息をしながら前を見た。
「はぁ、はぁ……。ここでようやく、中ボスの魔導士の訪れ……ってこと」
造魔数体に囲まれるように黒いローブを靡かせた男が姿を見せノアを見下すように佇み、そのはき捨てるようなノアの言葉に応えるように苦笑した。
「ふっ、たとえ魔導士と言えど召喚技士を相手にするのは荷が重過ぎるのでね。多少なりとも英霊に内蔵するマナを消費させてからの方が得策と考えたのだよ」
「ん、下らない……理由。それで、黒幕は『その体』の先から高みの見物ってわけ」
ノアは息を整えそう言いながら翼を折りたたみ目の前のイオニスを睨んだ。
イオニスはほう。と呟くと途端に笑い出し感心するように言葉を発した。
『くっくく……よもやひと目でそこまで見抜くとはさすがですね若き英霊召喚技士。だが貴様とてこのまま何も知らず朽ち果てるのは辛いだろう。そこでもしお前が勝てたのなら私の主遭う事を許可し望む答えを与えてやるとしよう。しかし負ければ魂ごと未来永劫闇へと幽閉してやる。拒否権は無いと思って構わない。もっとも造魔、従者、承霊を操るこの者に人間如きが勝てるとは思えないがな!!』
イオニスはそう言うと、胸元から紙を取り出し宙にばら撒いた。
紙は闇を帯び人の形を作るとノアの目の前に無数の従者となって現れ、それらの後ろに天を貫くような光と共に大きな移送方陣が地面に現れた。
形状と状況から察するに一方通行の『現流移送方陣』であるのは間違いないだろう。
「ふぅ、そんなのどうでもいい。二人の身は無事なんでしょう。なら私はこの状況を打破するだけ。それに誰かに与えられるだけの下らない理論や思想、常識や知識に私は興味は無いの。私が知りたいのはいつでも一つ。可能性だけ。その意味あなたにわかる?」
だがノアは目の前に作られた光景を見るやそう告げると再び翼を大きく広げ臨戦態勢を取るとその放たれた波動は周りを巻き込み一迅の風となってイオニスを威圧した。
『なるほどな。面白い、ならばやってみるがいい!! もっともお前一人でどこまで出来るかなど知れた事ではあるがなぁッ!』
イオニスは不気味な笑いを返すと指をパチリと鳴らし従者と造魔に攻撃態勢をとらせた。地から這い出てきた剣を手に取り瞬時にノアに向かって押し寄せてくる。
ノアは振り下ろされた無数の攻撃を覆った翼で受け止めるも、再び膝を地面に付き苦しそうに息を吐く。しかしその目から光が消える事は無い。
『そもそも下せんのだ! 世界で孤立無援の召喚技士が見知らぬ男女や村ならず街までも守るなど愚か極まりない。何故お前は見捨てようとしない。何故コイツのように自らの意思のみに孤立せんのだぁあああ!』
イオニスの表情が険しくなる程ノアに押し寄せる力はさらなる増大を始める。
もはや攻撃を受けている翼の波動が打ち破られるのも時間の問題だろう。
だがノアはその投げつけられる言葉にどこか寂しげな目をした後、強い意志をこめてこう言い返した。
「っ……確かにあなたの言う通り。召喚技士は巨大な力故に孤立無援。だけどそれでも私は私を認め信じてくれる人がいる限りどんな力にも在るべき意思も変えることは無い。そう、それはどんな状況に陥ろうと諦めない、今も闇に捕らわれるあなたと同じ。さあいつまで取り込まれているの、自分の意思をこの場に記しなさい――」
『――――ぐっ、小娘が、世迷い事を!!』
ノアの言葉をかき消すようにイオニスが表情を歪め大声で叫び散らす。
するとノアは一瞬だけ力が弱まるのを感じ凛とした目を向けてその攻撃と歪んだ意思をさらなる波動を持って押し返した。
「お前になんて聞いていない。魔導士、私はお前に言っている。もしまだ自分の意思が、プライドが在るのならば、自らのその闇に打ち勝ちなさい!!」
『煩い止めろ!! その澄んだ目で、私を蔑むなァアアアアアアーーーー!!!』
イオニスは取り乱しながら叫び、何かに抗うように造魔に指示しノアに向かって従者に攻撃を仕掛けた。だがその刹那。まるで流星の如く落ちてきた光の槍によって貫かれた造魔が即座に光の塵へと化す。
『ぐっ、これは―――この波動はまさか!!!』
イオニスはそう叫び上空を見た。すると二人を別つように何者かが地面に降り立ち、その黒髪の人物は槍を即座に剣に変えるとノアを見て笑みを浮かべた。
「よう。全く酷ぇじゃねぇかノア。俺だけを泉に置いて一人で村に帰っちまうなんてよ」
「………別に、君の存在を忘れていただけ。悪気は無いもの」とノア。
「嘘付け。ったく学園に帰ったらぜってぇに反省会だ。もちろんこの戦いを終わらせてからだけどな!」
クロームはそう言うと珍しく傷つき疲れきったノアの姿を見るや、蒼いトレンチコートを翻しイオニスを憤怒を纏った鋭い眼で睨みつけ威圧するように敵意の剣を構えた。
するとイオニスは驚きの表情を即座に憤怒の顔に変え、吼える様に言葉を発した。
『はっ、はははは!! お前は……あの時の旅人。下民の姿で分からなかったがあの詠唱。やはり武装属霊技士のだったか。どこまで私の邪魔をすれば気が済むのだッ!!』
「んなの知るかよ! どのみち俺もお前が気に入らなかったんだ。さああの時の決着。今すぐここで付けてやるよ!!」
クロームは即座に言い返すとイオニスに向かって瞬時に走り出す。
『実に同感だ。貴様如きに出来るならばやってみよ。地へと這い蹲らしてくれるわ!』
同時にイオニスの言葉に応じるように従者が前に出てクロームの行動を遮ろうとした。
だがその途端。後ろから飛んできた鉄の矢や、短く響く銃声によって闇を纏った数名の従者の姿は断末魔と共に元の紙に戻り地面へ落ちていく。
イオニスはそれが二人から放たれた攻撃でないのを認識すると即座に飛んできた方角を見た。するとそこには信じられないほどの無数の人影が並んでいた。
「――おっと、俺達が居るのを忘れては困るぜ。聡明な魔導士さんよお!!」
『あれは……馬鹿な! 何故あの時、逃げ惑っていた街や村人がここに居る?』
イオニスの驚愕の言葉と共にノアも視線を向け、そしてその光景に声を失った。
総勢三十名もの街や村の人々が皆武器を手に取りこちらに向かってくるではないか。
そこにはあれだけ戦いを嫌がっていたダルスやジグ。
そして村に向かった筈のカロンの姿まであり、ノアが唖然とする中。村人は一斉に従者に向かって走り出し武器を構えて応戦を始めたのだ。
「射撃部隊はここから援護を、他のものは武器を携えダルスに続けえええッ!」
これにはノアも言葉にならず、ただ唖然とするばかりだった。
(なんで――。だってみんな戦わないって決めていたのに――??)
するとそんな疑問に答えるように老婆カロンと村人ジグが訪れノアにこう言った。
「遅くなってすみません召喚技士ノア。私達も及ばずながら力を貸します」
「皆この馬鹿げた戦いを終わらせる為に一丸となったのさ。さあ立てるかい?」
カロンに伸ばされる手をしっかりと掴みその意味をかみ締め強く頷くノア。
「ん……大丈夫。少し驚いただけ」
そう言って再び大きく翼を広げると、皆に向かってこう叫ぶ。
「皆は援護を重点に従者を数人で相手して、私達は魔導士と造魔を――絶つ!」
そしてそのまま造魔に囲まれたクロームの元に向けて飛び立った。




