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4-2


      ◇      

 同時刻。風の大地で全てを見届けたイオニスは憤りを隠しきれない様子で再びアクア・ラッシュに舞い戻っていた。

それだけこの戦いがいかに異様であるかを彼自身も感じていたのだ。

(造魔。人を獣に変化させ使役する違法則。だがその多くはすでにこの世界に存在しない未知の法則の筈。まさか、まだ完全な形で残っていようとはな!)

異様な気配が漂う中街を走りぬけ屋敷の扉を開け放ち、中央階段を登り長の間に急ぐイオニス。そして重苦しい扉を押し開けると待っていたかのように男は語りだした。

「ほう、どうやらその顔振りだと上手くいかなかったようだな……。やれやれ、堕ちた王族が雇った『魔導技士』とやらも所詮その程度という事か」

男は呆れたように呟き苦笑する。するとイオニスは強い眼差しを向けてこう反論した。

「言いたい事はそれだけか? 確かに察しの通り私はこの大陸を司る今は無き旧王族に頼まれこの街に内偵に来ていた。その目的はただ一つ。王都ウィンデリアへの水の供給を行えるこの都市の内部情報を調べる為でしかない。それは紛れもない事実だ」

「ふむ、それで……」

男ガブグレスは淡々と語られるイオニスの言葉に表情一つ変えず言葉を返した。

するとイオニスはガブグレスに向けて手を広げこう言った。

「だが私は気付いた。この都市そのものが大陸の水をかき集めつつあるのだと。無論その方法はすでに滅んだ魔族が作ったプラントを使っているとしか皆目検討が付かないが、それならば都市を破壊すればそれで済む事。それにこれ以上造魔を作り出し、命を弄ぶ貴様の暴挙に付き合うほど私も愚者ではないのでね。故にここで元凶となる元を断たせて貰おう。貴様の命を持ってしてな!」

そして言葉が終わると同時に距離を置き、掌に球状の黒い宝石が埋め込まれた指空き手袋と反対の手には手甲を身に付けているのを確認し即座にイオニスは詠唱を始めた。

【――世界に潜めし億戦の原祖のマナよ。我エマを喰らい、あまたの光をも飲み込み、粛清の雷鳴へと姿を変え。冥界より轟きて我が前に立つ愚者を撃ち抜け!】

すると手甲には宙に漂う無数の光が集まりだし目の前の空間は歪み混沌とした気配を放ち始めた。そして禍々しい光を放ち、今まさに閉じられた空間の檻から飛び出す。

【破壊とイムよわが腕に宿りて。今こそ解き放たれよ! 承霊・ダークルフェインッ!!】

刹那。無数の黒い雷が手のひらから解き放たれガブグレスを貫いた。

「ぐあああああああッ!!! いっ異界の雷だと……」

「破滅を彩る承霊はお気に召されたかな……否、もはや語る事も出来まい。威力を抑えたとは言え、体に流れたのは十を?ぐ雷の旋律。生きているのも不思議なくらいだろう」

黒い雷によって肉体を焼かれ、地面に倒れるガブグレス。

そしてイオニスはそんなガブグレスの最後を見届け、部屋から出ようとした時。

「なに……! そんな、ばかな!!」

後ろでゆらりと立ち上がるその人物を見て声を上げた。

「ふ――ははは、なかなかやるものだが、ソレではわしは倒れんよ」

「くっ、自らを造魔化させていたか。ならば最大出力でその身ごと焼き払ってくれる!」

イオニスはそう言うと即座に手を広げ、ガブグレスに向けた。

【戯言は終わりだ。絶望と共に滅びの淵に沈むがいい! 承霊・ダークルフェイン!】

そして先ほどと同じ呪文を唱え、更なる多くの承霊を用いて現世に雷を呼び起こした。それは言うなれば、宙を引き裂く巨大な雷爪だった。刹那、凄まじい爆音と共に再び黒い雷鳴が轟きガブグレスに向かって迸り体を貫き強大な渦となって落ち続ける。

「はぁ、はぁ……どうだ。もはや影と塵しか残るまい……」

強大な一撃は後ろの壁はおろか部屋の殆どを衝撃と共に打ち抜き焼き付くしたと言うのに貫いた筈のガブグレスはにたりと笑いながら、イオニスを見ていた。

『どうした? 天才魔導士とは病に伏せたか弱い老人すら消せないのか……』

「ばっ……バカな!! 承霊そのモノを、体内に取り込み無効化しただと!」

その異様な光景にイオニスは言葉を詰まらせた。だがイオニスは再び距離を置き他の呪文を詠唱してガブグレスに解き放つが、どれもが意味をなさずガブグレスは平然と立っていた。愕然とするイオニス。そしてその時になってようやく自らの間違いに気付いた。

『では少しだけ遊んでやろう。人間は脆いからな、本気を出すとすぐに壊れてしまう』

「なんだと! 貴様、まさかッ!!」

だがイオニスがそう叫んだ瞬間、ガブグレスはふわりと宙に浮かぶと一瞬にしてイオニスの前に移動しその手を振り下ろした。刹那、並々ならぬ恐怖を感じたイオニスが即座に身を引くと、目の前の空間はまるで何者かに食い破られたかのように色彩おろか存在を失っていた。

「ぐっ! この力は旧時代エデンの民のモノ? それとも力に身を窶した獣人や魔族の生き残り……否。それよりも禍々しい存在にしか見えん。まさか……コイツは!!」

脳裏に浮かぶのはあまりにもかけ離れた真実。しかしイオニスにはそれ以外答えを見出す事は出来なかった。

「幾億の時を経ても、まだこの世に執着するのか、太古のバケモノめがぁああッ!」

イオニスは叫びながら後ずさりし、何度となく攻撃を仕掛けるもガブグレスはそんな焦る思考までも読み取り、あざ笑いながら脳内に言葉を返した。

『そう……。貴様の予想通りだよ。イオニスよ。今までよく働いてくれたな。そしてそれに見合う褒美をやろう……。さあ、ゆっくりと、永劫の闇の中で眠るがいい!!』

「ッ、しまっ……ぐ、ああああああああああーーーーーッ!!!!」  

その一瞬の油断で生まれた恐怖により動きがとれず声を荒げるイオニスをガブグレスが纏う闇によって飲み込んだ。瞬間、何かが欠けるような断末魔が木霊し、そして再び闇が晴れた時、イオニスだった者は意思を失いただ立っているだけの人形と化していた。

『ふはは、貴様にはわしが自ら新たな人生を繰れてやろう。イムを、混沌を司る承霊魔導技士らしくな。さあ行くがいい。そして『アレ』を見つけ出せ。手段は問わん』

「――――は」

そう呟き屋敷を後にするイオニスを見て身の毛が震え上がる笑みを浮かべつつガブグレスは壊れた部屋で狂ったように笑い続けていた。


 一夜明けて村を出たノアとそれを追うクローム。

昨日の会合が終わってからと言うもののノアは食事中も一言も喋らず、ルルとも気まずい感じをしながら目もあわせようとはしなかった。もとよりノアは誰とも合わせようとはしない身勝手な性格であるのは知っていたが、今回はそれ以上に何かを拒絶するように行動しているのがどうしてもクロームには気になっていた。

「なぁ、いい加減機嫌直せよノア。なんか変だぞお前?」

「……ん」

ノアはそう短く答えると何かを確かめるように再び枯れた森の中を歩き出していく。

もうかれこれ一時間くらいさ迷っているが、それでもノアは足を止めない。

「確かにこの森には探している『神秘の泉』があるかもしれない。だけどよ、そんなに強い気配を放っていたら近づけるものの近づけねぇんじゃ無いのか?」

「っ!」

ノアはその言葉に気が触ったのか振り向きクロームを見た。

(そんなの、君に言われなくても分かっている! だけど他にどうしようもない。今の私にはフィアみたいに精霊の声を聞けるわけでもないし、ましてや今更。村人に、ルルに頼むなんて虫が良すぎるもの。だから――)

だが何かを言いたそうな表情を浮かべながらも、ふいっと顔をそらすと「ん……どうでもいい」と一人呟き、また黙々と森の中を進み始めた。

(はぁ、だめだこりゃ……)

クロームはそんなノアを見てお手上げのポーズを取ると結局何も言わず付いていくしかなかった。

 結局、村を出て半日も経ってようやく泉に到着する事が出来た二人。

村から見た限り小一時間もあれば辿り着ける場所にあるのが分かっていただけにクロームはやれやれと言った表情で地面に座り込む。するとノアは逆に疲れの表情一つ見せず地面に何かの陣を描き、その上に手のひら位の水色の水晶を置くとこう呟いた。

「ん、準備完了。それじゃあ、そろそろ昨日の君の答えを聞かせて」

「はぁ? 何を今更言うかと思えば、そんなの決まっているじゃねぇか。忘れたぜ!」

満面の笑みで親指を立てて語尾に力を入れるクローム。

ノアはあまりに情けない言葉に今までにないため息をつく。

「はぁ……。もういい。時間の無駄だし。それじゃあ話すから聞いていて」

ノアは瞬く水晶から笑い声が毀れるのを聞きつつ、足場の小石をおもむろに拾い説明を始めた。

「まず溢水石から【水が出る理由】だけど……。ん、簡単に言えば石の内部空間が別の場所に繋がっている事から起こる現象と推測出来る」

「空間? って事はこの水は別の場所から運ばれているって事なのか?」

ノアは静かに頷く。

「これは【学園の扉と同じ手法】召喚技・移送方陣を用いた『現流移送方陣』と考えて」

「現流か。ようは時間のように一方的に流れる理の事だよな」

クロームの何気ない言葉にノアは少しだけ驚いた表情をしながら呟く。

「意外。女の子の名前以外覚えていないと思ったのに」

「あのなぁ。それってどういう意味だよ。ったく後で学園に帰ったら反省会な!」

「ん……。めんどいからパス。それで続きだけど」

「頼むから、人の話を聞けぇぇええ!!!」

クロームは懇願するように声を荒げるがノアは無視して話を続けた。

「学園の『空間移送方陣』とは違い『現流移送方陣』は移動空間のみを固定、対象物を別箇所から一方的に流す作用があり、例を挙げるとAからBに瞬時に移動させる事が可能」

ノアは説明をしながら両手に石を持ちクロームに見えるように近づける。

ご丁寧に表面に傷を付けて判別し易いようにされているのが、クロームの理解力の低さを現しているとも言えるだろう。

「例えば右手がA。左手がBとした場合。AからBに移動するには直線を通るのが移動概念に置いて最も理想的。だけどそれが出来ない場合はトンネルなど回り道をしなければならない。それらの外的要因と移動概念を除外したのが『現流移送方陣』利点は出入り口を自在に変化出来る反面、欠点は片道切符で移動させた対象物を戻せないと言う事。なおこれは補足になるけど『空間移送方陣』はA→B、C、Dと箇所から様々な場所に移動可能。この際に座標を固定する楔が必要とされ、それらを目標して双方から移動転移プロセスが行われるんだけど……」

それからも長々とノアの流暢な説明が続くが、クロームにはまるで念仏を聞くかのように全くというほど頭には入らずいつの間にかこっくりこっくと頭を揺らしていた。

ノアはそれでもしばらく説明を続けていたが、どうみても聴いている風には見えないクロームの虚ろな目を見てため息混じりに言葉を止め。

「……はぁ。つまりは召喚技で道路も水道工事も無しで水の移動可能というわけッ!」

「あぁっ、な~るほど!!」

ビシッと人差し指を立てて物事を短絡的に説明せざるを得ない事とクロームの理解力の無さに脱力するように肩をがくっと落とした。とは言え、説明がまだ終わっていない為に今度はクロームを挟みながら次なる説明を開始する事にした。

「じゃあ、最終問題。今この大陸では何故か水が大量に消失している。今までの移送方陣の話を念頭に置いて考えた場合、その理由となる原因は何?」

「は? いきなり言われても。そうだな……元の源流が減っているからじゃないか?」

「ん。半分あたり、半分ハズレ」

ノアはそう言うと手にした石を地面に置いてこう言った。

「確かにそれはA→Bへと一本の大きな流れである場合なら可能性として十分に高い。だけど、一部の地区には水が不足していない。ん、つまり優劣性は在れど源流が枯れかけていると言う可能性は無くなる。そして石は絶対固有体ではない。ならこれにより起こりえる現象は何?」

「いや、そんな難しい事を言われても……」

クロームはノアに難解な質問ぶつけられ頭を捻らすが全く答えが出ない。それどころか心ここにあらずと言った表情でしまいには頭から煙を上げていた。

すると、そんなクロームの呆れた様子が見えたのか、水晶から綺麗な声が響いてきた。

『――じゃあ【この石が大陸全土に存在する訳】を考えてね。でもそれには一つ一つ蛇口が付いているの。そしてもしそれを別の場所から自在に操る事が出来るとしたら?』

「あっ! そうか、必要以外の場所には『水を送り出せなくなる』そういう訳か!!」

クロームは自らの導き出した答えに、ポンと手を鳴らす。そしてそれを見ながらノアは何も言わずに居ると、また同じように水晶から声が響いてきた。

『くすくす、正解です。とは言え相変わらずだよねクロくんは、ノアちゃんの推理と講義は本当にすごいのに、それをちゃんと聞かないなんて勿体無いと思うけどなぁ』

「いやようそうは言うけど。これなら俺は村で寝ていれば良かったと本気で思うぜ?」

クロームはやれやれと言ったポーズを取りつつその声に愚痴る。

『う~ん、それは一概に賛成出来ないかな。とは言え見た所無事合流出来たみたいだし私としてもほっとしているよ。あんまり心配かけないで欲しいな……」

「よく言うぜ。手に負えず学園に助けを求めてきたのはどこの誰なんですかねぇ?」

『う~。それに付いてあんまり攻めちゃヤダよ。ノアちゃんもなんか言ってあげて!』

(………はぁ)

そんな風に一人で会話を進めるクロームの様子に呆れて言葉を失うノア。

何せ今彼が話しているのは遥か遠くの水の王都に居るはずのセフィリア・クロニクルなのである。

(さすが稀代のバカ……。居ない人間と会話を成立させて違和感無しとはね)

その為、クロームが水晶と話しているのに気付くには暫し掛かったのは言うまでも無い。

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