4-1
第四章 溢水石と泉の精霊。
結局、ノアの強力無比な一撃によって援軍に来た残りの残党は恐怖のあまり撤退。
村人も少ない被害とは言えないながらも皆何とか生還する事ができ、戦いで受けた傷の手当てが終わる間、ノアとクロームの二人はようやく合流を果たし村の外で今までの出来事を話す事にした。
「いや~驚いた。なんでノアがいるかは知らなかったけどよ。おかげで助かったぜ!」
「ん、君がそれを言うかな……」
ノアはむすっとした表情でいかにも言いたそうな目でクロームを見た。
今まで適当に探していたが、まさか戦場にいるとはさすがのノアも想像すらしていなかったのだ。その為不機嫌そうにこう言い返した。
「私は先生とフィアに頼まれてここにいる。そう言えばわからない?」
「ああなるほど。でもなんでフィアが知っているんだ? 学園を出てまだ二日だぜ?」
「はぁ異空間での時間の流れはこちらの世界とは違う。ましてや閉鎖された空間なら当たり前、授業で習った筈。だから君が行方不明になって一週間以上経ってるけど?」
「ははは、なるほどな。そいつは、悪ぃ……。でもよ。こっちだって大変だったんだぜ?」
クロームはそう言いながらも言い訳をするように今までの経過をノアに伝えた。
それを黙って聞くノア。その後興味なさそうな表情を見せクロームにこう聞いた。
「……そ。それで、私は君を探す以外この村に用事は無い。けど君はどうする?」
「あぁ? 決まっているだろ。両者の争いの原因を糺すんだよ。ようは無くなった水の行方を探せば良いだけだからな。それになんつーか潰れかかった城だしな」
(それを言うなら『乗りかかった船』まあ、君の性格ならそう言うとは思っていたけど)
どこか呆れた表情をしながらもその考えを否定しないノア。
それを見てクロームは子供のように笑みを浮かべながら一つの提案をした。
「でさ。モノは相談だが、この辺りの水脈を召喚技で掘り起して水を確保出来ないか?」
「ん、水道工事でもする気なの? でも……それは無理」
「なんでだ?」とクローム。
これだけの村や街の地下水をくみ上げる風車や古の装置までが作動しているにも関わらず、水は年々減ってきている。しかも原因が自然環境の水不足ではないのは広範囲で木々が枯れ果て作物は一向に育たないこの周りの環境を見ればひと目で分かる、とノア。
「つまり、全く別の原因がこの地には存在するって訳か」
「ん、それでも、君は調べてみる気?」
「もちろんだろ! 偉大なる祖父の孫たるこの俺が困った人を見過ごせるか! それに俺も関係している以上、放っておいたまま王都になんか向えるかよ!」
(……単純バカ。だけど正論、か)
ノアは言葉にせず目を閉じ考えながらため息交じりの表情をするがあまり表情が変わらない為にクロームには全くそれは伝わらない。
「さぁ~て、それじゃあ早速行動するか。王都に向かうのはちょこっとは遅れるけどフィアなら許してくれるさ。さて、まずはどうすれば良いと思う?」
そう言いながら目をらんらんと輝かせて聴くクローム。
ノアは考えてないのは相変わらず。と言った表情で薄目を開けながらこう言った。
「ふぅ、物事を単純明快に見るなら水の利権を争うだけの話。だけど先ほどの街と村の争いで大量の『造魔』の姿を見かけたり大陸中に影響があるとなるとどうもこの話には裏がありそう。ん、それにこんな辺鄙な地に王都眷属の『魔導士』が何の理由で存在しているのか。それも見極める必要がある」
「確かに……。まさかこんな石ころの為に足を運んでるとも思えないしな……ほれ」
クロームは話を聞きながら街で貰った溢水石を手に取り空の月に照らして見た後ノアに渡した。するとノアは少しだけ訝しげにしながら溢水石を観察する。
「これって……この大陸特有の水の出る石? ん、ならあながちそうも言えないかも」
「はい? って事はそれで何か分かったのかよノア」と身を乗り出してくるクローム。
ノアはどこか得意げにその石をクロームに返すと静かに頷きこう言った。
「じゃあ、君にもヒントを少しあげるから考えたら? まず誰もが普遍としか思わないこの【石から水が溢れる理由】を念頭に置いて考えて。次に石が絶対固有固体ではなく、複数に点在し【水の大陸全土に存在する訳】そして可能性として【原理は学園の転送と同じ手法に近い】という事を視野に入れてれば。ん……大体分かる」
「はっ………? はぁああああーーー????」
さも当たり前と言った表情で説明するノアとは対照的に思いっきり顔を歪まし声を荒げるクローム。それでも少しは考えては見たのだが、三つのヒントを貰ってもさっぱり分からない為にしまいには耳から白い煙が噴出していた。
ノアはそんなクロームの情けない変化を見てため息混じりに首を横に振った。
「はぁ。それでも分からないの? 君……。終わってるね」
「ほっとけッ! 今答えてやるから少し待ってろよ!」
「ご自由に……」
そう言って余裕げなノアの反応にものすごく悔しそうにくぅ~と喉を鳴らすがヒントの意味すら全く分からない。とは言えいきなり答えを聞くのも嫌なクロームは地面にあぐらをかき必死に無い頭を回していた。
しばしノアは暇を持て余したように木の上にいた英霊を呼び無言で頭を撫でていたが、
そんな二人に近づいてくる二つの気配を感じ、クロームにこう言った。
「……残念だけど時間切れ。それで、久しぶりの長話は終わったのルル?」
クロームはノアの言葉を聴き振り返るとそこにはノルンとルルの姿があった。
二人は顔を見合わせ何故分かったのかと不思議になりつつも、ルルはこう言い返す。
「もう、ノアさん。それじゃあ私が今までずっと話したかったみたいじゃないですかぁ!」
「違かった。ん、なら勘違い?」とノア。
ルルは恥ずかしそうしながらも否定をせず首を横に振り顔を赤らめた。
するとそんな二人を見たクロームはピンと来て手を叩きながらこう言った。
「あっ、な~るほど。つー事はノルンが会いたかった幼馴染ってのは彼女の事なのか。良かったなノルン。無事合流できてさ!」
「なっ、なぁ! クロームそういう事はだな、普通口外せず胸に秘める事だぞ!!」
ノルンはクロームに痛い所を付かれ、同じく顔を赤らめながら声を荒げる。
だが、決してその表情は嫌そうにはしていなかった。
暫し笑いあい今までの苦労を労うかのように語りあう三人。ノアはそんな三人の姿を見ながらひと時の時間を慈しむかのように話を聞き入っていた。
そしてしばらくするとノルンは話を切り出すように真面目な顔つきになりこう告げた。
「さて二人とも。まだ話し足りないけどこれからの事に付いて幾つか相談したい事があるんだ。会議場では村人達が首を長くして待っている筈だ。是非共に出席してくれないか」
「ま、そうだろうな。それじゃあさっさと終わらすか」とクローム。
(ふぅ……。そしてこの心地よい関係も終わり、か)
ノアは複雑な表情で頷くと三人の後を追うように歩き出し会場に向かう事にした。
◇
会場の中は以外にも軽い空気に包まれており、四人が訪れるまでの間にも長々と話しいをしていたのか壁にかけられた掲示板には色々な文字が飛び交っていた。
ノアはそんな村人達の顔色を眺めながら会合の席に腰を下ろし、他の三人も同じように場に着くとリング・エルドの長老は軽く口を開いた。
「これでどうやら皆揃ったようですな。それではまず私から礼を申し上げたい。召喚技士たるお二人、ノア様とクローム様にこの村の危機を救っていただき真に感謝に耐えません。このガスパール。リングエルドを代表として深くお礼を申し上げます。ありがとう」
「はっ? 様ぁぁあああ???」
(ん……。やっぱりか、めんどい)
クロームはそんな呼び名に声を裏返すがノアは逆に不快を表し周りから集まる期待に満ちた芽を摘むようにさも当たり前といった表情でこう言い返した。
「ん、礼など不必要。元はといえばこのバカがこの戦の原因の一因となっているのは話に聞いていました。私はあるべき対処をしたまでに過ぎない」
「はい? バカって俺の事か?」とクローム。
「ん……他に誰がいる?」とノア。
村人は二人の言葉に返答出来ず静まり返るが、ノアは気にせず淡々と言葉を続けた。
「とは言え、人成らぬ獣と称される『造魔』そして話によれば街には魔に順ずる『魔導士』たる存在が確認されている以上、私達は魂を冒涜する彼らの存在を全力で否定せねばならない。ですがそれ以外の事に関しては一切関与しない。それが本来の流れであり、私達は本来この地に存在してはならないのが現状です。ましてやあなた方一般人とは違い世界にまで隔離されている。それこそが召喚技士と呼ばれし人々です」
「おっ、おいノア。そこまで言う必要は……」
「君は黙っていて! どのみち私達はどの大地においてもそう言う『存在』なのッ!」
ノアは強い口調でクロームの言葉を潰すとキッと村人を睨みつけた。
「長老。あなたの言いたい事は言わずとも分かる。多くの人間がそういう目を私達に向けて来たからだ。だけど、強き力に頼り得たひと時の幸福に、何の価値がある?」
「私達は……そんな事は……」
ノアの発言に長老は目をそらし言葉を詰まらせた。先ほどまでも話を繰り返してきたが彼らの力を軸に考えて来たに過ぎなかった。あれだけの力があれば簡単に街を陥落させる事も最悪この地の水を牛耳る事すら可能と言っていた村人の発言が長老の耳を傷める。
「語れぬ沈黙は了承と見ていいのね。なら少しは頭を使い考えるといい……。もし、まだ先祖の眠るこの大地で胸を張って共に生きていきたいのなら……ね」
ノアは言い終わるとすっと立ち上がり村人に興味を無くした様に冷たい眼差しで周りを見渡し戸惑いながらノアを見るルルを見て、少し表情を曇らせ会場を出て行った。
「おい、待てよノア。あ~、たく相変わらず素直じゃねぇなアイツは!」
クロームは慌てたように立ち上がり、ノルンを見てこう言った。
「ノルンそれにダルス。俺達は所詮よそ者だ。この土地の人の争いに関わっちゃならない、それは事実だ。だからよ。水の枯渇原因は俺達が必ず何とかしてやる。それでももし争う理由があるならそれが何なのかを考えろ、そして原因を変えるんだ。分かったな!」
そしてノアを追うように同じように会場を出て行った。
その後会場は酷く重い雰囲気に包まれ、二人の残した言葉に誰しもが言葉を失った。
長老を含め、一人。また一人と意味を失うようにその場から立ち去り、残ったのはダルスとノルンの二人だけであった。だがダルスはその雰囲気を断ち切るかのように一人残っていたノルンに向かってこう言った。
「はは、あのガキども。痛い事を簡単に言いやがるよ。なぁ……ノルン。もし今回の争いが水の争いじゃなく、別の事だったらお前はどうする?」
「その問いかけは……。別の意味にも聞こえるな」
ノルンの言葉に暗い表情をしながらダルスは頷いた。
「ああ俺達は街と水の覇権を巡って戦っていると思っていた。だけど今日ノルンの話を聞いてそれが無い事がはっきりとわかった。だとするなら何の為に俺達村人はノルンのいる街の人々と争っているんだ?」
「それは争う理由が見当たらない、そう言いたいんだな……」
「そうだ。つまり……。俺達が知りたいのは街の長が何を考えているか、その一点に絞られる。もし本当に争うとするなら村と街両者の調停を結ぶ上ではソイツが一番の問題となるのは明白だ。最悪言いたくはないが、その人物が居なくなれば問題は無くなる」
「………」
ノルンは何も言えず静かに俯く。その意味は分かっているからだ。
両者とも争いが起こるくらいならばその根を絶やせばいい。もともと多くの人間がこの争いに賛同していないのは雇われ兵を見ても分かり、ノルンの無事が分かれば小さな争いの火種すら意味を失う。つまり長い目で見ればイザコザは起きるものの、血を流すような大きな争いには発展しないと言う事になる。しかしそれでもノルンはすぐに頷く事は出来なかった。それは微かな期待があったせいでもある。
ノルンにとってどうしてもこの事件の黒幕が自分の親であるガブグレスとは思えなかった。確証は無い。だが同胞を何よりも大切にしこの村にも一緒に何度も訪れていたのを知るノルンにはどうしてもそんな事を模索するとは到底思えなかったのだ。
「……確認が取りたい。もし本当にそうであるならば僕は間違った父を止めなければならない。だけど病に伏せた父を操るのが魔導士であるのならば、彼のみを排除すればいいだけの話だ。だからダルス殿、前も行った通り時間を貰いたい……」
拳を握り締めながら苦虫を潰したようにそう呟き会場を出て行くノルン。
するとダルスはけだるそうにその去り行く背に向かってこう言い返して。
「ああかまわねぇよ。こっちも……もう意味の無い戦いなんてもう御免だからな」
うな垂れながら椅子に寄りかかり腕の痛みを抑えながら一人天井を眺めているしかなかった。




