表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

3-7


      ◇      

「そういう訳でこいつらは生身の一般人じゃ歯がたたねぇからよ。幾ら俺でもこんな大人数を相手をするのは骨が折れるし、つー事で即効で逃げるぞ!!」

クロームはそう宣言すると、再びダルスを掴み猛然と走り出した。

その行動を予想してなかったダルスは驚きのあまり声を上げる。

「はぁ? なんだそれ? ここは格好良く敵を殲滅するのが普通じゃねぇのか??」

「ンな事あんたが居て出来るかよ! 大体こんな事に命賭けるほど俺の命は安くないっての。俺はフィアに会うまで死ぬわけにゃあいかねぇえんだよぉ。うおおおお!!」

その情けない行動にはさすがの異形なる者も唖然とし、一瞬だけ動作に遅れが生じてしまった。だがすぐに体制を立て直すとすぐさまクローム達を追いかけだした。

「んっぎゃああああああ、来た来たキタァアアアアッーー!!!」

「小僧! 一体お前何しに来やがったんだぁ? 真面目に戦えぇえええーー!!!」

ダルスの罵声が飛び交う中、右へ左へと避けては走り、走っては避けるを繰り返すクローム。何故か敵も躍起になって攻撃を企てるが、頭の黒い鼠はすばしっこいせいか見事に当たらず。クロームもまた無駄に敵の攻撃を避け続けていたせいもあって退路は見失い、いつの間に大地を縦横無尽に駈けずり回っている事にすら気が付かないのであった。


―――そんな、いかにも情けない言葉が戦場に飛び交う頃。

風の大地にまた、違う者達が巨大な赤色の兎と共に大地を踏みしめていた。

(………はぁ。いないと思ったらこんな所に居たよ、あのバカ。なんで戦場にいるのよ)

青い髪を靡かせたノアは最悪の結果を防ぐ為に英霊に乗せたルルと共に急いでこの地に舞い戻ってきたのだが何処をどうなってこうなったのかは全く理解できないが、今まさに戦乱の最中。見た事も無い異形なる者に追われているというのに全くと言うほど緊張感ゼロな蒼いコートを着た戦場の雰囲気すらも破壊する顔見知りの少年の行動に、力なくがくっと肩を落とすしかなかった。

「ノアさん……この状況、一体どうなってるんでしょうか?」

「私に聞かれても困る。でも、とりあえず伝書鳩は無事に届き、今の所村人は無事みたい」

「えっ、本当ですか? 良かったぁ……」

ルルはノアのふて腐れた言葉に気にも留めずほっと胸を撫で下ろした。

とは言え、状況的には異様で危険極まりない事はノアには見て取れ、その為すぐに周りの地形を把握した後、英霊を留まらせて地面に降り立ちこう言った。

「でもまだ安心はできない。ルルの言う事を聞くように波長の合うこの子に言っておく。だから自分の目で村の状況を見てきてくれない?」

「私がですか? はい、分かりました。でもノアさん。あなたは何をする気ですか?」

「ん? 害虫駆除かな」

ノアは短く呟くとルルの驚く表情を無視して英霊ダット・ハーロットを走らせ、今度は書を開かず指輪に軽く口付けをしてから身に着けた手を前に翳しこう呟いた。

【古き忘却の時代よりその身を遂げし幾千の魂よ。汝、紅き盟約とその主の呼び声に従い畏怖の世界より意で参れ――】

【――今こそ、顕れ意でよッ! 銀刃の英霊星獣ジャックイン・フェザー!!】

途端に指輪は紅い光と陣を放ちそれと同時に陣の中からけたたましい音を響かせ、白銀の首の短い鳳がノアの前に姿を表した。

「ん……それじゃあお願い」

そしてノアがそう言うと英霊は大きな翼を広げふわりと宙を浮き、ノアが背に乗ったのを確かめるや否や地面を滑るように飛ぶと一瞬にして巻き起こる風の如く、追われている二人の下に飛んで行った。

【あれか……。英霊よ、全てを弾き飛ばして!!】

ノアが上空で小さく呟いた瞬間。英霊の目は更なる光を放ち、全身を纏ってまるで一つの弾丸のように飛んで行き、走り回る異形なる者達を地面に吹き飛ばした。

「……なっ、マジかよ。あれは、英霊星獣? それじゃあ……まさかッ!!!」

その光景を見たクロームは走るのを止め、再び舞い戻ってきた英霊を見て息を呑む。

銀の羽が夜の空を舞い降りる中。その者は何事も無かったかのようにクロームの前に赤紫のトレンチコートと蒼い髪を靡かせ静かに英霊から地へと降り立った。

微かに流れる風によって裂けた雲の切れ目から月光の光が大地を照らす最中、魂すらも吸い込まれるような蒼く澄み渡る色をした瞳を静かに向け、そして何を思ったのかすっと近づいてクロームを見つめるや、書を片手に飛び上がると思いっきり殴りつけた。

「んぎゃッ! 痛てぇえぇ、テメェいきなり何しやがんだッ!」

「別に、少し間抜けな君の顔を見て腹が立っただけ。だから今はこれで許してあげる」

そう悪びれる事無くしれっと答える少女。その傍若無人な行動にクロームはそれが誰かを理解すると頭を抑え少し悔しそうにしながらも嬉しそうにこう言った。

「ったく。誰が……助けて欲しいと言ったよ。ぇえノアッ!」

「ん? その理由は簡単よ。あまりにも無様だったから」

それは本来この大陸にはいない筈のノアであった。だがクロームは空を舞う英霊と小さな姿。そして言葉数の少なさに自分が知るノア・エルフィリウムだと間違いなく認識するとここに居る理由も聞かず笑みを浮かべ憎まれ口を返した

「うっせぇなぁ! これからかっこよく反撃するつもりだったんだよ!」

「あっそ、なら足手まといな君はそこでしばらく見物でもしていたら? 行こうジャックイン・フェザー。全部送り返すよ」

クロームの戯言を無視するように冷たい言葉を背で発した後、舞い戻ってきた英霊に飛び乗るノア。するとクロームもダルスをその場に置き、剣を構えてその後を追いかける。

「だれが見物なんかするかよ! ノア、どっちが敵を多く倒せるか勝負だ!!」

「はぁ……。相変わらずの勝負バカ。いいよ、でも負けても恨まないでね」

ノアは呆れながらも優雅に大地から飛び立つと即座に指輪に語りかける。

【英霊よ。汝の翼にマナを乗せ舞い放て――フェザーアロー!!】

刹那、英霊はその翼を広げ勢いよく前に押し出すと、放たれた銀の羽はまるで意思が宿るかの如く宙を飛び、異形なる者へと突き刺ささり銀の瞬きと共に爆発を起こした。

『ぐるぎゃああああーーー!!!』

闇夜に響く得体の知れない叫び声。それを聞きクロームは歓喜のため息を零す。

「ひゅ~。英霊が一騎当千とはよう言ったもんだぜ。さてと俺も負けてらんねぇな!」

それと同時に逆に走り出し、静かに自らの腕輪に言葉を継げた。

【属霊よ。その魂を俺のエマと共に姿を変え、敵を討つ力と成せ。武装変移――】

その瞬間、持っていた剣は弾け飛び途端に光が別の形へと変化してその手に収まっていく。それは一本の鋭利な長槍だった。

【――おっっしゃあ、貫けぇぇええエーテルライサー!!!】

掛け声と共に手に地面に突き裂し高く跳躍するとクロームは持っていた槍を構え異形なる者達に投げつけた。槍は淡い光を帯び防ごうとしたバケモノの手ごと突き破り複数の悲鳴と共に消え去り、再びクロームの手には渦となり舞い戻った光がまた槍の姿に変わると今度は化け物を目も止まらぬ速さで無数に貫き断末魔と共に塵へと変えた。

「悪いな。勝負に手を抜けねぇタチなんだよ。手前ら纏めて俺が糺してやるぜ!!」

今まではダルスが傍らにいたので本来の力を出し切れなかったクローム。

しかし今はお荷物が居ない為に大声で叫び、縦横無尽に笑顔で戦場を駆け抜けていた。


(…………はは、なんだよ、あいつら)

そんな不思議な光景の狭間で現状を見せられていたダルスは唖然としていた。

何せ今まで大の大人が手も足もでなかった見た事も無いバケモノ相手に年端もいかない赤と蒼のコートを着た少年少女。そして一羽の鳳がまるで戦場を駆けて遊ぶ子供のように異形なる者を次々と塵芥へと変えていくのだ。ダルスはその美しくも寒々しいノアの姿を見て、初めて会った時の不思議な感覚を思い出し、ようやくその意味が分かり再び恐怖に身震いをしながらポツリと呟いた。

「やっぱ、ただのガキじゃあなかったのか……」と。


 無論そんな呟きなど知った事ではないノアは、宙を舞いながら屍骸が異形なる者に変化していく様を空から興味深そうに観察していた。

(ん、なるほど。これだけの雇われた兵全てが生態魔獣化『造魔』とされた訳じゃないみたい。彼らは何か触媒として変化したと見るべきか……。弱いのに少し厄介)

しかもクロームのように直接『力』を注ぎ込まない限り消滅させるまで動き続けるのが分かったノアは今の英霊の攻撃では時間が掛かりすぎると即座に判断する。

(それに何かを探している感じもする……けど、確認している時間はない、か)

そしてすぐさま身を翻し、再びクロームの元に戻って英霊から降り立ちこう告げた。

「そっちは終わった?」

「あったりまえだろうが! こっちのはケリが付いたぜ。それでノアの方はどうなんだ?」

「そ、なら……こっちも。ん、すぐ終わらす」

「はぁ? ノア、お前何を言って――?」

ノアはそう呟くと身に付けていたコートを腰に巻き、クロームの不思議そうな表情を無視して自らの目の前に英霊を呼び、その体に触れて静かに言葉を紡ぎ始めた。

【……世界を統べし理の旋律よ。その声を解き、存在を求め、かの者の姿を我身に宿らせ

仮初の獣としてその身と内なる力を現世へと解き放て!】

途端に英霊の姿が淡い光に包まれ、触れた手の平を通して吸い込まれるように体を巡っていく。そしてその湧き上がる感覚に透き通るような声を上げるノア。

「ッ、ん。ああああああああ――――!!!!!」

「――んげっ! この背筋が寒くなる嫌な感覚は『エレメント化』? やばっ……! みんなすぐにこの場所から非難しろッーーー!!」

それを見るや否や一目散にダルスの元に走り出し、その場から逃げ出すクローム。

 すると、途端に蒼い髪を靡かせ身を包むほどの白銀の羽が背から伸びだし、見る見るうちに姿を変化したノアが軽く跳躍し闇を切り裂く月が満ちる大空に舞い上がった。

地上に居た造魔達はその得体の知れない気配に敵視するように武器や纏った闇を刃に変え一斉に投げつけるも、微動だにせずノアは身に纏う波動のみで攻撃をかき消した。

「なっ、なんだ……。この身を震わす強大なマナの波動は! バカな……!! 何故このような辺鄙な土地に『武装属霊』ならず『英霊星獣』の『技士』までが?」

時同じくして移り行く光景を遠くで見ていた魔導士イオニスは声を震わしながらも魅入ったようにその場から動けず、別の場所では戦場から非難していた村人達がその高々く気高しくも流水の如く凪がれ動くノアの姿に息を呑んでいた。

ノアは全てを見透かすように目を開くと白銀の翼を夜空に広げ満ちる声で呟いた。

【――英霊よ。汝が翔る翼に光のマナを携え、神々が奮う力とし、魔に堕ちし弱者に暫しの眠りを与えよ――】

途端に大気を揺るがすほどの迸る波動が空を揺さぶり雲を消し飛ばし、空の闇と月の光はノアの纏う光によって意味を失った。

【我内なるエマと共に汝が全てを此処に時放ち、爆ぜる息吹に抱かれ女神の織り成す大地へと帰せ――】

そしてノアが呟き両手で敵を示した瞬間、自らに宿る英霊の翼から放たれた無数に宙に舞う羽が指先に集まり眩い光の陣を佩びて巨大なエネルギー体へと姿を変える。

【英霊召喚技。白銀の閃光――シルヴァント・ノヴァッーー!】

刹那ノアの言葉と共に向けた指を微動させると巨大なエネルギー体は空を切り裂き造魔に向かって一直線に貫き大地を割る衝撃と共に足元に居る全てを消し飛ばした。

『グッ………オオオオァァァァアアーーーーーーァァ!!』

峻光。強大な轟音を生み出すその無慈悲な一撃によって造魔の姿は断末魔と共に空に伸びる一筋の閃光に姿を変え、大地より消え去った後には、辺りに静寂が押し寄せた。

そしてノアは光の塵が舞う金色の平原に降り立ち英霊を自らの体から解き放つと誰もが予想すらしなかった光景に唖然とする中、一人ため息を付いて。

「ふぅ、ちょっとやりすぎたかな……」と、呟いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ