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3-3


      ◇      

 一方、そんな事が街で起きているとは露と知らないクロームとノルンはと言うと、ノアが村を旅立ってから数時間後のリング・エルド付近まで到着していた。

「はぁ……腹減った~」

「君はそれしか言えないのか。全くだから食料は多めに持って来いと言っておいたのに」

「いやようまさかこんなに遠いなんてな。あのおっちゃん達凄い所から来てたんだな」

クロームはそう言いながら最後の食料となる乾パンを口に含んだ。

夜の内にアクア・ラッシュを出てかれこれ数時間が経つが、彼らは朝日が昇るまでしばし休んでいた為にノアやルルとは出会う事は無かったのだ。

二人が村を出た時間から考えるならばそれはかなりの不運としか言いようが無い。

「この辺りは昔から水竜ウェルクルト以外に風迅バームフェイムが立ち寄る土地として昔から信仰強いんだ。だからこそこの土地に住まう人々は発展を望まず自然と共に共存してきた。特に今向かっているリング・エルドはその自然調和の信仰が強くてね。正直、ちゃんとした話し合いになるか不安でもあるんだ」

「ふ~ん。そんなもんか? 同じ人なら話して分からない奴なんて居ないと思うけどな」

「ふっ、たまにクロームのその楽観姿勢が羨ましくなるよ。さてそろそろ見えてくるな」

ノルンはそう言いながら山道から見える遠方に指差した。

「へぇ~。あれがリング・エルドかよ。随分と山奥の奥地にあるんだな」

するとそこには山々の盆地の中に木々に隠れるようにこぢんまりとした小さな村があった。唯一遠くから見ても分かるのは中心にある巨大な風車小屋であり、小さな集落として家が気の塀の奥に転々といるのが微かに見え、時間の流れを気にせず細々と暮らしているのがクロームにも見て取れた。

「ああ、昔から『風と水の都』と呼ばれる場所だからな。精霊的磁場が著しく強いらしくて北には風の大地と呼ばれる吹き抜ける突風のせいで木の生えないクレータ上の地形があり、逆に南にはいつでも水が湧き出ている神秘の泉が存在したらしい」とノルン。

「らしい、って事は過去形かよ。まあこれを見れば深刻さは嫌でもわかるけど、な!」

クロームはノルンの言葉を聴きながら、道を防いでいた枯れた大木を蹴り飛ばした。

水分を含んでいない大木は瞬く間に木の破片と化し道端に散乱した。そして周りを見ても根の弱い木々も少し衝撃を与えるだけで簡単に倒れるほど衰弱していた。

「だが聞いていた以上に深刻とは……村人が水の覇権に躍起になるのも無理もない」

「まあ、ここでこうしていても仕方ないって。とりえず村に向かおうぜ」とクローム。

先ほどまでの空腹をしばし忘れたかのように山道を走り出して行き、ノルンも頷き荷物を片手にその背を追うように走っていく事にした。


――それから日が少し西に傾く頃。村に到着しとりあえず村長の家を教えて貰おうとクロームが第一村人に話しかけた時。

「……あれっ? あんたは!」

「んげっ、お前はあん時の生意気なガキッ!!」

似た性格が災いしたのか、数奇な運命で二人の馬鹿は程なく再開を果す事となった。


「なっははは! よ~く来やがったな坊主。まあ何も無い村だけどよ。ゆっくりしてけ」

豪快に笑いながら自らの家に二人を招き居れ、コーヒーを入れるダルス。

ノルンはその誘いに戸惑うもののクロームは知ったる家と言わんばかりに堂々と敷居をまたぎ、家の中に入りこう言った。

「ああ、俺としてもそうしたいところなんだけどよ。実は今回は観光目的で来たんじゃないんだ。あんた達が望んだ客人を連れてきたのさ。男と男の約束。だろ?」

クロームは笑みを浮かべながら親指を突き立ててダルスに伝えた。するとダルスは予想もしていなかった言葉に用意した木製のコップを落とすほど驚き。

「おお! マジか、すげーぞ坊主。待ってろ。今すぐ仲間や親父を呼んでくるからよ」

一目散で家を飛び出し、大声で村人に何かを伝えに走っていた。

ノルンはそんな二人の会話を聞き、首を傾げながら横にいるクロームに問いかける。

「なぁ……クローム。君は、この村の人と知り合いなのか?」

「あ? まあノルンが居ないうちに街でも色々あってな。そん時、知り合ったんだよ」

「なるほど、君らしいね」とノルン。

それからしばらく待っていると、小さい村だったのもあり話はあっという間に広がり、何かを期待するかのように多くの村人がダルスの家の前に訪れ、その人々を縫うように杖を付いたご老体がダルスに手を引かれ姿を現した。

「悪ぃ、待たせたな。それじゃあ紹介するとするな」

「……お初にお目に掛かる。私がこのリング・エルド長老。名をガスパールと申します。お二人方遠路遥々訪れてくれました。私達はあなた方の出会いが良い方に向かう事を節に願っております……では、こちらへどうぞ」

ガスパールは淡々と語りクロームとノルンを手招くと、すぐ家の隣にあった村の会議場に案内した。室内は村人が用意したのか暖炉の火で暖められており、長い長方形の机の先に長老が座るとその周りを村人が取り囲むように立っていた。

二人は横に来た村人に自らの身に着けていた道具の腕輪と武器を渡し長老と向き合うように席に着くと、入り口の扉が閉められ角木で封をされるのを見た。

今の状態は言うなれば密室と言うのが正しいかもしれない。

「随分と厳重だな。んでいつまで待たせるんだ? さっさと話し合いを始めようぜ」

クロームはその嫌な雰囲気を壊すようにダルスに呼びかけると、言われるまでもないといった表情で笑みを浮かべつつもどこか緊張した面持ちでダルスはこう宣言した。

「ああそうだな。我々には時間が無い。この際幾ら探しても見つからない奴は致し方ないだろう。ではこれより我村リング・エルドと産業都市アクア・ラッシュの水の覇権を巡る生存と共存の道を探す為の会合を始めるとする。なお、これより発言は大地母神エルフィリウムの名に賭けて偽らない事を誓って貰う。双方宜しいかな?」

「ああ、構わない……。誓おう」

ノルンは席を立ちはっきりと宣言すると、クロームもまた強く頷いた。

「お二人共。ご理解頂き感謝する。では皆が祈り終えた後に始めるとしよう」

そして長老ガスパールの言葉によりダルスと村人の数人が席に付き、初の村と街の会合が厳かに開催される事となった。


 長い沈黙の後、最初に発言をしたのはノルンだった。

「まずは始めまして。僕は現アクア・ラッシュの長の息子となるノルンと言います。今回僕達は嘆願書を受け取りこの地に来ました。その理由は村と街との争いを止める事、そして双方の理解を得てこの大陸で起こっている水の枯渇の原因を調べる為であります」

言葉と共に持ってきた多くの封筒と手紙を長机の上に置き発言を続けるノルン。

「今この大陸は知っての通り異常な『水の枯渇』により苦しんでおります。それも例年無く異常なほど大規模であり、水の王都ウィンディリアのみならず他の小さな村々は皆同じような被害を訴えております。まずはこの異常現象がこの村と地域に固定されてない事を知って貰いたい」

だがその言葉と行動は村人の動揺と怒りを誘う発言でもあった。

もとよりこの村の人々は自然調和を主に遥かな昔より存在する村である。

そしてその異常現象が最初に目撃されたのはこの村が始めてである事は誰もが知っており、その為多くの村人は罵声や怒声と共にノルンの発言を罵った。

「何を言っている! お前達がアクア・ラッシュを立てたせいで【水竜の加護】が無くなったからだろ? 原因ははっきりしているだろうが!」

「そうとも、それなのに双方に原因があるとばかりの言葉はいかがなものか?」

「今からでも遅くない。あんな都市は滅ぼしてしまうべきだ!」

今まで抑えていた感情が溢れるかのようにノルンに怒りの言葉をぶつける村人達。

だが、ノルンはそんな村人をひと睨みするとこう発言を返した。

「……ならば問わせて貰おう。あなた達の言う【水竜の加護】とは一体何なのか? そんな存在と不確かな迷信染みた事で本当に大陸全土で水の枯渇が起こると言うのか。僕はそれが知りたくてこの地にやってきたのだ。水の枯渇ははっきりと言えばアクア・ラッシュでも起きている! 去年より井戸の水位は異常に下がり建造時にあった遺跡の力で水の搬送を増幅せねばもはや人の手が届かない遥か地面の下より残り少ない水を吸い上げる事も、ましてや溢水石を堀り出す事も出来なくなっている。そしてその状況に置いてあと半月もすれば全ての地下水も枯渇すると予想する研究者も存在している。それを知った上で僕はあなた達に問いたい。本当に……【水竜の加護】とは何なのかとッ!!」

「……そっ、それは」

ノルンの迷いなき強い言葉に今まで声を荒げていた村人は言葉を失った。

遥かな昔よりこの地で伝わっている水竜の伝承。それを受け継いでいるのがこのリング・エルドだった。だがその伝承も長き時の中で薄れ、今ではその意味を知る者は理由あって一部の人以外存在しない。

ノルンはその事を事前に調べておりその為この発言をぶつけたのだ。

するとその言葉を聴いたガスパールは重い口を開くようにノルンにこう言った。

「……なるほど、ではノルン殿に問いましょう。この水の枯渇原因はあの太古の遺跡を利用して作ったアクア・ラッシュでは無いと、そう言いたいのですね?」

「ああ、こちらとしても原因となりえる【溢水石の流失】も当たってみたが、どうやらそれはこの大規模な大陸異変とは関係性が薄いと思われる。その手紙の中に街からの岩石出荷数が書かれた書類を入れておいた。見てくれれば分かる筈だ」

ノルンが置いた手紙を手に取るとダルスは長老に手渡した。

そしてその文字をしばらく読んだ後、何かを納得するかのように強く頷いた。

「ふむ……。なるほど、確かにこれを見る限り溢水石の流失が原因ではないようですね。量的には山一つが枯れる事はあれど、大陸全土に枯渇が起こるとは考えにくい」

ノルンは長老の言葉に嬉しそうに頷くと再び話を続ける。

「分かって貰えて光栄ですガスパール長老。ではそろそろ本題に入りたいと思います。お聞かせ貰いたい。この地に伝わる【水竜の加護の始まり】を。そしてそれこそが今回の水の枯渇原因を知る上での鍵になると僕は考えています」

ノルンの発言に会場に居た村人にどよめきが走った。

それほどこの村にとって『水竜の加護』となる話は重要視されていなかったからだ。

「……若いのに、随分と博識ですなノルン殿。よろしい……ではお聞かせましょう」

長老はそう言うと深々と宙を仰ぐとゆっくりと二人に伝え始めた。

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