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2-5



その為様々な来客が押し寄せるのだろう。とクロームは考えつつ人ごみに流されないように進んだ。そしてようやく目的地であるノルンの屋敷に到着するとそこには思わぬ客人が入り口に軒を連ねていたるのが見て取れた。

始めは来客者かと思ったが、格好や様子を見る限りどうやら違うようだ。

「おい! いつまで待たせるんだ。俺達はここの責任者を出せって言っているだけだぞ。何も争いに来たわけじゃないんだ!」

「はぁ……。そうは言われましてでも、ご主人は病で寝たきりですし、ノルン様は外出されていまして。もう少しすれば戻って来るとは思うのですが」

「かぁ~。んなゆうちょな事を言っている場合じゃないんだよ! 村が、リング・エルドが死ぬが生きるかの瀬戸際なんだぞ! 前も言っただろうが!」

全身生傷のある凶暴そうな厳つい男は後ろに数人の男達を率いて今にも掴み掛かりそうな剣幕で玄関先で応対していた執事を威嚇していた。

「水が無いんだ! 近年稀に見る異常気象で田畑は枯れる一方なんじゃあ! 良いからそこをどけ! 俺が直接責任者に会ってくるわい!!」

「あ、ああ~。困りますよ~」

執事も何とかそれを止めようとするが、まるで紙切れのように簡単に押し避けられ、男は取っ手に手をかけた。しかし押しても引いてもその扉はびくともしない。

「むがぁ! どうなっているんじゃあ!」

「いえ、だから今は留守だと言っているではないですか。言葉分かります?」

執事はよろよろと立ち上がりながらそう伝えるが途端に激怒した男によってまた押し避けられた。それを何度か繰り返すが、男は頭が悪いのか回りに人が集まってきてもその行動を抑えようとはしない。

「な、なあ……ダルス。人が集まってきたし、今回も伝言だけ頼んで帰らないか?」

仲間の一人と思われる男性もそのエスカレートするダルスと呼んだ凶暴そうな男に諭すように言うが、それでも獣のような男は暴れだし今度は扉に体当たりを始めた。

「そう何度も馬鹿にされてたまるか! いつ来ても留守で諦めるなら、借金取りはこの世に存在せんわい。良いから扉を開けろ! 中に人が居るのはわかってるんだ!」

ダルスが何を根拠に言葉を発するかはわからないが、クロームはそんなどうしょうもない行動を見て先ほど自分が暴れている姿と重なり、すこし反省しながらその人に近寄る事にした。

「はぁ……なあおっさん。いい年して暴れんなよ。これだけ騒いでも出てこないんだ。中に人が居る筈がないだろう?」

「ああん? またガキか……。いい加減にしろや。いつから俺の周りは蒼髪の小生意気なガキや人に意見する煩いガキが大量生息するようになったんだ。ああ!!」

ダルスの怒る意味が全く読み取れないクロームは大きなため息を付くと仕方なそうその攻撃をよけ。に瞬間で後ろに回り男の腕を握りこう言った。

「あのなぁおっさん。言いたい事があるなら聴いてやる。だから……その恥さらしな行動は止めろよ。じゃないと、俺も本気で怒るぞ!」

そしてゆっくりと力を腕に込めて強く握り締めていくがその行為は油断していたダルスにとってまさしく万力で締め付けられるような痛みであった。

「ん……あ、あだ、あだだだだだ! って、テメェここの用心棒かよ!!」

「ああ、だったらそれでも良いや。ともかく伝えて欲しい事があるなら俺が直接言ってやる。どうせ俺もその人物に会わなきゃならないんだ。それなら文句無いだろう。なあ隣にいる話の分かりそうなおっちゃん」

ダルスの暴れ回る姿にすこしだけ呆れていたその痩せ細い男性は、嫌そうな表情をしながらもクロームの言葉に頷くと懐から大切そうに何かの封筒を取り出しこう言った。

「ふぅ……確かに。今はそうするのが得策だろうな……ならば、これを見て欲しい」

それには嘆願書と書かれており、宛名はこの街の長宛となっていた。

「君を信用するわけではない。これが通らなければ我々も最終手段に打って出なければならないんだ。ダルスは言わば村人の憤りを表しただけに過ぎない。確かに行動こそは決して正当化出来るものではない。が、それでも我々にはもはや一刻の猶予もないと言う事も知って欲しいんだ」

淡々と語る男性の表情は真剣そのものであり、クロームは鬼気として迫る表情にすぐさま掴んでいた手を離し、階段から転げ落ちるダルスを無視して強く頷いた。

男はクロームに嘆願書を手渡し後、すこしだけ表情を緩め笑うと階段下に倒れたダルスに近づき抱きかかえ、立たせながらこう言った。

「ふっ、君のような理解者に巡り会えたのを女神に感謝するよ。願わくは、君のような子とは……戦いたくないものだ。なあダルス?」

男性の何気ない発言にクロームは表情を強張らした。

それだけここに並ぶ大勢の人間が同じ志を持って集まり嘆願に来ているとするならば近い将来、それは間違いなく現実のモノとなる可能性を秘めているからだ。

そして言わばその『最後の砦』と言わんばかりのモノが今、手に収められている事にクロームは気づかされた。そしてその後。階段から落ちたショックで頭が冷えたのか、暴れまくっていたダルスは真面目な表情でクロームに近づきこう言った。

「はっ、ジグめ。勝手に纏めてくれちまってよ。俺の出番が無いだろうが! まあともかくそれは俺達村人の叫びの詰まった手紙だ。絶対街の長に届けろよ黒髪の坊主ッ!」

そしてどこか強い眼差しでクロームを見た後、親指立てたまま拳を突き出すダルス。

それは男同士に伝わる『親指の誓い』と呼ばれる約束の方法であった。

クロームそれを見て頷くと同じように親指を立て拳と合わせその約束の重みに誓う。

「ああ、分かっているって。男と男の約束だな。なら俺は死んでも伝えるさ。それがこれを行い預かった者の責任って奴だものな!」

「へっ言いやがる。街の住人は気に入らないけどよ。お前のようなガキは意外と嫌いじゃないぜ。今度会う時までにその生意気な態度を直しておけよ」

ダルスは『今度』と言う言葉に強く意思を込めると大きく手を振り、役目を終えたかのようにジグや他の村人と共にアクア・ラッシュを後にしていった。

その背はどこか嬉々としており、同時に事態に鬼気迫るものを感じたクロームはすぐに渡された嘆願書を胸に仕舞い込むと身を翻しノルンの姿を探す事にした。

(にしてもさっきの石といい奴らも『水』って一体この地で何が起こってやがるんだ?)

クロームは湧き上がる疑問に首をかしげながら人の群れを縫うように街を走り回り、ノルンの足取りを聞いて回るが、それでも一向にその姿を見つける事は出来ない。

「あっ……と、ごめんよ」

そして探している途中で余所見の為に人にぶつかり謝るクローム。

しかし赤い髪と金縁のメガネをした人の良さそうな青年は「落としましたよ」と落ちた封筒を拾い手渡すと、クロームが礼をいう間もなく人ごみに紛れて消えていった。

(あれ? さっきの人、どっかで見た気もするんだけど……気のせいだよな)

だがその姿にどこか後ろ髪を引かれる思いに苛まれながら再び歩き出し、それから小一時間後、クロームは街の入り口から馬に乗ったノルンと見慣れない男達を見つけ肩を落とした。道理で幾ら街の中を探しても見つからない筈である。

しかし、そんな自分の考えを振りほどくように急いで駆け寄り話しかけた。

「遅くなってすまなかったな。それでどうしたクローム。何か問題でもあったのか?」

「ああ、色々と聴きたい事が出来たな。まあとりあえず落ち着く所に移動しようぜ。ここでは何かと人が多いからな……」

「ん、ああわかった。では僕の屋敷で話をするとしよう。皆はその場で待機、後はイオニスより指示があるまで自由にしていてくれ」

ノルンはクロームのどこか焦ったような表情に深く頷くと、急いで手綱を叩き屋敷に向けてかけていく。そして馬から降り立ち屋敷に入り、誰も近寄らないように執事に言った後、部屋に鍵を閉めて部屋に通したクロームを見た。

するとクロームは何も言わず懐からあの村人に渡された嘆願書をノルンに渡した。

しばし流れる静寂の時間。だが時が進むに連れノルンの表情はこわばっていき三枚に渡る長い手紙を読み終えた後、深くため息を付き、呟きながら椅子に腰掛けた。

「なるほど。これは……。言わば宣戦布告といった所……か」

クロームはすぐに駆け寄りテーブルに置かれた手紙とノルンの呟きを聴いて叫んだ。

「どういう事なんだ? 一体これから何が起ころうとしてるんだよノルン! 村からの宣戦布告なんて今の時代、聞いた事がないぜ!」

「ああ、僕もだ……。しかしここまで被害が深刻化していたとは、道理で床に伏せた父が心配をしてゴロツキどもや傭兵を金で雇うわけだ……」

ノルンは蒼白しつつ頭を抑えながら俯き言葉を搾り出すように言った。

「クロームも見ただろうあの時の森の姿を。これと同じように大陸ではあの現象が数年前から起き始めているんだ。水不足……いや『水の完全な枯渇』と言うべきだろうか」

「水の枯渇って、それは幾らなんでも在りえないんじゃないか? 遥かな昔から水の豊富な土地として知られているんだぜ。この大陸ウェルクルトはさ」

「ああ、だがそれは王都や都市部の表向きに過ぎない。本当は地図にも載らない村々では近年にかけて原因不明の酷い水不足に見舞われているんだ。無論、この嘆願書を渡しに来たリング・エルドも例外ではない」

ノルンは懐から同じように数枚の手紙を取り出しクロームに見せた。するとそこには同じように他の村々でも水に苦しむ様がありありと描かれていた。どうやらノルンが用事と言って街を出たのはこの手紙の事だったのだろうと、クロームは一人理解する。

「実は僕も水不足で一度流行の病にかかり死に掛けた事があってね。父に何とか助けて貰ったが、そういう人を減らしたいとこのアクア・ラッシュは遺跡の一部を使い建設されたんだ。だがそんな思いとは裏腹に、くしくも他の村々からは多くの非難を浴びる結果となってしまったんだ……それが何故だか分かるかい?」

クロームはしばし考えた後、首を横に振る。

するとノルンはどこか自虐的な笑みを浮かべて静かにこう言った。

「この都市が出来た事により肝心な『水竜の加護』が無くなり、大地から水が流れなくなったというんだ。なんとも迷信染みた言葉だろ? だから僕は過労で病に倒れた父やみんなの努力を無駄にしたくない為に必死にその原因を探して大陸中を回って調べた。だけどわかったのは『溢水石の流失』が全ての原因ではないという事だけだった」

その重い言葉にクロームは何も言わずポケットに忍ばせておいた石を手に取る。

確かに貰った時よりも少しだけ袋に水気がある気はするが、これが原因だとは到底言えないのはある意味明白であった。ノルンはそれでも微かな望みを捨てず原因を調べていたのだろう。クロームは涙ぐましい努力に何も言えず、静かに石を握り締める。

「確かにここに蓄えている水を放流すれば少しの間は時間を稼げるだろう。だが……」

ノルンはそれ以上を言葉にする事を濁した。

もし、それでも原因が見つからなければ結果は変わらない事を知っているからだ。

そして今まさにその追求する時間すらも枯渇しようとしている現実に言葉を失おうとしているのが苦悶の表情からクロームにも読み取れた。

「父は何故かそれに拒んでいる。その原因は魔導士イオニスの影響があると僕は考えているがこのまま法で水の流れを縛り付ければさらに被害は拡大し、病に飢え、最悪死者も出るかもしれない。そしてそれすらも出来ない場合は村同士の争いに発展するだろう。水の覇権を巡った戦いが行われこの地から安息は消える……これが今の現状だよクローム」

「…………」

クロームは沈黙を保ったまま目を瞑る。その複雑な表情はなんと言ったら分からないと言った感じであり、それを見てノルンは諦めたように深いため息を付く。

「ふ、正直。女神様がこの地に眠っているなら助けを請いたいモノだよ……。神にすがりたいと言うのはこういう気持ちなのかもしれないな……」

そして何かを決意したかのようにすっと立ち上がるとクロームを見てこう言った。

「クローム。もうすぐこの地は戦場となるだろう。僕はどんな事をしてでも父や街にいる住人を守らねばならない。だから無関係な君を巻き込みたくはないんだ。朝になる前にこの街を去るといい。とりあえず王都ウィンデリアまでの道は部下に馬車を用意させよう。さあ、君は急いで旅立つ準備をしてくれ」

「……………は? なんだよ。それ」

クロームは突然ぶつけられた言葉に愕然とする。

確かにノルンの言っている事は正論であろう。誰が聞いても街の長の息子として役目をまっとうしつつあるのは確かだ。多くの命を預かるものとして当然の行動である。

しかしそれが本当に必要な事なのかはクロームには理解できなかった。だからそのまま失意の念を浮かべ部屋を出ようとしたノルンに向かって肩を掴み叫んだ。

「なぁノルン……お前はそれで本当に良いのか? 多くの人を守る為に父親の言い分で多くの人を傷つける。それが本当にお前が望んだ結末なのかよ!」

「――――ッ!」

「俺はほんの数時間だけどさ、この街の良さを知ったさ。そりゃあ結果的には『水神の加護』は無くなったのかもしれない。だけどそれでも得たモノってのはあるはずだろ!」

クロームの投げかける言葉にノルンは何も言わず肩を震わせる。

それは言われなくても分かっていることだった。だが今のノルンには決して言葉にする事が出来ない言葉でもあった。

「なのに、それを全部投げ捨てて守るモノってなんだよ? お前は一体何を守りたいんだノルン! 言ってみろよ……。言えよノルンッ!」

「――黙れッ!!」

だから、振り向き怒鳴った。怒鳴るしか道はなかった。

「お前に言われなくても僕には分かっている! これが間違いだってことはなッ! だけどならどうすればいい? このまま降伏して街を手放すか。それこそ他の村々に火種を巻く事にしかならない。父の反対を押し切り水を放流しても時間は数日しか残されてないだろう。もはや八方塞がりなんだよ! だったらせめてこの手にある守れるモノを守るのが当たり前だろう? 違うかクロームッ!」

感情に支配されるように今までの痛みを大声で怒鳴りつけるノルン。

クロームはその言葉を全て聞いた後、激しく息を切らすノルンに向かって表情一つ変えずに首を振りこう言い返した。

「――ああ、違うね。もともと個人の力で『守れるモノ』なんてたかが知れているんだよ。大切なのは自分の意思。何を『守れるか』じゃない。何を『守りたいか?』そうじゃないのかノルン?」

「………そ、それは」

「これは俺にこの剣を教えてくれたお師匠さんからの受け売りだけどな『善悪は関係ない。本当の答えは自分の内にある』って言葉があるんだ。どんなに迷っても苦しんでも構わない。だけど、自分の本当の気持ちを握り潰して生きていく価値のある事なんて絶対に無いんだ! だから――」

クロームはそう言うと半歩下がり身に着けていた腕輪に手を伸ばし、森で言っていた言葉を再び唱え、溢れんばかりの光ともにノルンの前に剣を表し突きつけた。

「言えよノルン。お前の本当の気持ちをよ! 俺はどんな答えでも手伝ってやる。それが俺の内にある『本当の答え』だッ! お前は、その内に何を秘めてやがるッ!」

叫ぶように言い放つクロームの瞳に迷いは無かった。

ノルンはそんなクロームを見て、目を瞑り静かに自らの内にある答えを模索する。

街を救いたいのは本当だった。だれも傷つけたくないし、ましてや傷ついて欲しいなどとノルンは思ったことが無い。それにもし戦うことになれば記憶の中に残るあの少女とも敵対することになるのかもしれない。

ノルンにとってそれは幼い頃の記憶を捨てることと同意義であり、何よりも望みたくない結末だった。そして、そう気付いた時にようやくノルンは一つの答えを悟る。

「――僕は、誰も失いたくない」と。

「そうか……それがノルンの『本当の答え』なんだな」

ノルンはクロームの言葉に少し戸惑いながらも強く頷いた。そして顔を上げたその瞳には先ほどにはない強い意思が宿っているのを見てクロームは子供のように、にかっと笑った後一瞬にして手に持っていた剣を空間に消し去り言葉を続ける。

「よし、そんならその為にも行動をしなくちゃな。確かに今の状況は最悪といっても良いかもしれない。だけど結果はまだ決まってないだろ。もしかしたらあの村人達とよく話せば分かってもらえるかも知れないし、何よりいいアイディアが出るかもしれない。え~とこう言う時なんって言うんだろうな。たしか『三人集まれば喧しい』だっけ?」

「ふ、それを言うなら東方の諺で『三人集まれば文殊の知恵』だろ? 全くこんな学も無い奴に心を揺さぶられ諭されたかと思うと少し悲しくなるな」

呆れた表情で返されるノルンの言葉を聴き、嬉しそうに笑みを浮かべるクローム。

そして鼻の下を指でかきながら嬉しそうにこう言った。

「へへっ。小さい事はこの際気にすんなって。それよりも話し合いをするなら俺達がそのリング・エルドって村に向かった方が早いよな?」

「確かに、この手紙によれば夕刻までにこちらに向かってくると書かれていた。ならばそれまでに僕達が人知れずその村にたどり着き、村人を説得が出来れば……」

「ひとまず全面戦争は回避できる!」

「よし、そんじゃあ善は急げだ。早速準備して向かう事にしようぜ」

二人は力強く頷くと急いで身支度を整え始めた。一刻も早くこの街から旅立ちリング・エルドに向かう為だ。その為に誰にも行き先を告げず、ひと目に触れぬように街を抜け、意気揚々とした表情で二人は山道を歩き出していく。

 その思いは一つ。誰もが争わず幸せになれる方法を見つける為であった。


――だがそんな二人を見届けるように屋敷の中から見ていた黒いフードを着た男は手の平に乗せた『映承石』で二人の街を出る姿を写し、食事を続ける男に向きかえった。

「……これで計画通り、といった所だな」

「はっ、準備はすでに済んでおります。後は奴らが村に辿り着きさえすれば……」

「全ては思うがままか。ふっ、全く奴の子は良い手駒に育ってくれたわい。ふはっはは」

男は何が嬉しいのか反する行動を起した自分の息子を見て笑みを浮かべていた。

その表情は実に不気味でありこの世とは思えぬような笑みを浮かべ、テーブルにあったトカゲの姿焼きをナイフで串刺しにして笑っていた。

「そして彼らが手紙の違いに気が付いた時には手遅れ。仮に気付たとしても更なる憎悪と悪意が蓋を押し開ける希望を貪る事となるでしょう。しかしながらこの行動になんの意味があるのでしょうか。これではむしろ奴らを急き立てるだけでは?」

「ふっ、イオニスよ。お前は知らずとも良い。当初の計画通りに事を進めればそれで良いのだ。元よりそのように最初から契約されていた筈だが、何か……不満でもあるか?」

「………いえっ、過ぎた言葉、申し訳ありません」

「そう全ては予定通り。もう少し、もう少しで積千幾億の苦労が報われるのだよ。くくく、はっははははははははは!!」

(一体……この男は何を考えているんだ? これで本当に王都に水の供給が行えると言うのか。否、私は考える思考など必要はない。ただ全てを見届ける。それが私の与えられた責務だ。例えどのような犠牲を払おうとそれは変わる事はない。だが……)

イオニスは男の恍惚とした異様な様子を見ている事しか出来ず、感情を押し殺しただその不気味な意思と欲望に傅くだけであった。

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