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見習いノアとクローム・水と風のラプソディート


 第一章 面倒嫌いな少女。


ただっ広い大海原を抜け、港町を出てから歩くこと早三日。

景色は海沿いから山中に変わっていくものの全く次の街に辿り着く事が出来ず。

この場に明らかに似つかわしくない小柄な少女はまた野宿になるであろう見飽きた山道を見てため息を付き、手頃な岩に腰を下ろして少し遅い昼食を取る事にした。

これで幾度目かになる食事は昨日と全く同じ乾パンに干し肉、そして少量の水だけであったが少女は周りの景色に目もくれず食べられるだけでもマシといった感じで黙々と味気のない食事を行い、西に傾いていく太陽を眺めて一言。

「………退屈」と不満げに毒気な言葉を吐いた。

しかしこの少女がそう思うのもある意味仕方が無い事なのである。

まず一日目。その日は真新しい大陸という事で胸躍らせ歩き続ける事が出来た。

二日目はこの地の魔獣が群れを率いて現われ少女に襲いかかってきたのでこれを撃退。だが三日目となる今日だけは何も起こらず、その為に退屈せざるを得なかったのだ。

とは言えそんな事を考える事すらかったるいのか、少女は殆ど食事を取らず残りをバックにしまい込み、醒めるような長い蒼髪を束ねたバンダナを直し、赤紫のトレンチコートをマント代わりに肩にかけ袖を胸元で縛り直してから立ち上がると。

「ん、それにしても本当に変な大陸。こんなにも『水気が無い』なんて……」

そんな独り事を呟きながら王都へと続く荒れ果てた山道を再び歩き出していった。




だんだんと夕暮れが近づき、自身の影が次第に濃くなるのを見て少女は少しだけ早歩きをしていく。すると目の前には異常に萎れて枯れ果てた森が姿を現した。

横を見ればまだまだ緑一つ無い赤茶けた台地が続く道なりがあったが、少女は心底見飽きた景色よりはマシと考えてそのまま森の中を迷わず直進する事にした。

葉の枯れた枝を払い、季節には早い落ち葉を踏み分け奥に進むごとに視界が少しずつ見づらくなっていき、何処からともなくうめき声にも似た動物の声がこだましてくる。

だが少女は特に気にする事もなく表情一つ変えずに森の奥地に足を進めていった。

すると目が森の薄暗さに慣れ、今まで空を覆うように絡まっていた不気味なツルが極端に減ってきたのもあり、少しずつ視界に明るさが戻ってきた。

そしてそれに合わせて周りの木々も少しずつ青々と生い茂りだし、葉の隙間から降り注ぐように微かにひだまりの道を記し始め。

幻想的な光景に導かれるように進んでいくと、徐々に空間が広がりを見せ、目の前にはしんと静まり返った美しくも悲しげな泉が姿を現した。

「綺麗……。ここだけ木々が枯れてないのは、もしかしてこの泉のせい?」

少女は呟くと静かに泉に近づき水をすくい上げ喉を潤す事にした。

泉の水は埃を少し被った少女の体の汚れを落とし水浴びが出来そうなくらいに透き通っており、その泉の中心には古い祠が小さく安置されているのが見て取れた。

そしてその周りの淵には渡り鳥と思われる群れや小動物の群れが体と羽を癒すかのように安らぎ、みな思い思いにその疲れた体を休めている。

「ふぅ、冷たくて美味しい……。そう、ここは彼らの聖域ってとこなのね」

長居は出来ないな。と少女は考えつつ周りを見渡した。

すると微かに人が通ったと思われる獣道を見つけたのですぐにこの場を去る事にした。しかしそう心に決めてみたものの、見上げた空の黒ずんだ色を見る限りあと少しで日が沈むのは確実だった。

「さてと、これで近くに村か町が無ければ野宿確定かな……でも、それもいっか」

少女は少しだけ自虐的な笑みを浮かべ、半ば諦めたようにその場から歩き出した。

だが去り際に見知らぬ視線を感じ、呼ばれたような気がした少女は何気なく振り返り気配の漂う泉を見渡した後、誰かに語りかけるようにこう呟く。

「……安心してよ。私はあなたの領分を侵そうとはしないから、それじゃ」

すると少女の言葉に呼応したのか微かに寂しく水面が揺れ動き、少女も微妙な表情を浮かべた後、森の出口を目指して獣道を歩み出していった。

 それからしばらくして森を抜け、遠くに見える明かりを頼りに林道を歩く事十数分。

小さな村を見つける事が出来た少女はようやく休めるといった安堵を浮かべた。

「ふう、やっと村があった……でも、ここににあの馬鹿、居るのかな?」

しかしそれはほんの一瞬であり、すぐに未だ姿はおろか足取りすら見つけられない一人の少年の事を思い出し、表情を歪めて少女は滲み出る負の怨念を背中から噴出させそう名前も知らない村の入り口に向かって走り出していく。

なにせ今の少女の過酷な現状を作り出したのはその少年に他ならず。

少女は考えるのも嫌であったが遠くに見える暖かな村の灯りを見るとのんびりと時を過ごしていた学園生活の日々がどうしても脳裏をよぎってしまい、全ての原因となる忌まわしき始まりの出来事を無意識に思い返してしまうのであった。

「とりあえず、アイツがいたら一発なぐってやるんだから」

……そう、事の発端はこれより数日前。

この見知らぬ土地。水の大陸ウェルクルトから、遠く離れた大地の大陸サウスビィルの外れの地まで時間を遡る事となる。

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