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 幕間 近衛衛士Aの苦悩と近衛衛士Cの微笑み

 近衛衛士たちも好きなんですよねえ。

 執務室の扉が開いた。

 中から一人出てくる。小柄だがすっと背筋の通った美しい背。黄金の滝のような髪は未婚の証である垂らし髪。王女だった。


 慌ただしく扉を開けさせ飛び込んでいった王女の筆頭文官ではないことに、扉の左右に控えていた二人の衛士は内心首を傾げた。

 勿論この扉は部屋の主である国王も、招かれた関係者も入退室される扉だ。王女が出てきても何も不思議なことはない。

 だが、今日この日に衛士として立つ二人にはこの時間に王女が退室されることは伝達されていなかった。変更があれば、室内にいる自分たちの上司である近衛衛士隊隊長から予め伝えられるはずだった。


 と言って、王女を止めることなど出来るはずも無く、歩いているのに飛ぶように去ってゆく後姿を直立不動で見送るしかなかった。


「あ、やべ。敬礼するの忘れた」

 同僚の呟きにはっとするほどに呆けていたらしい。

「エイブル~、やっぱまずかった?」

 緊張感の無い同僚の問いかけに、若干イラッとしたが、前を睨み据えたまま応じる。


「シーバス。気が抜けるからやめろ。まあ、今更だし王女殿下だって後ろには目が無いんだから見逃してくれるだろう」

 心底そうであってほしいと思いながら返したのだが、色々侮れない男はやっぱりとんでもないことを言いだした。


「でもさあ、この間殿下の宮に俺とディランがお使いに行った時あっただろ?」

 いい加減私語は拙いと思うのに、シーバスはだんだん乗ってきたようで、やや前のめりになっている。

「用事を済ませて帰ろうとしたディランに殿下が

『この間修練所で手首を痛めていたみたいですが、もう大丈夫なのですか?』って訊いたんだ」

 この間というのは3日前の事だろうか?確かに非番の者で修練所を使用していたが、あの時王女の姿など見なかった。それより、

「ディラン怪我してたのか?」

 

 無口なディランは元より、些細なことでも首を突っ込むブラスからもそんなことは聞いていなかった。


「ディランもびっくりしてたけど『もう大丈夫です。ありがとうございます』って返事してた。ディランが単語以外喋ってるの初めて聞いたよ」

 それには自分もびっくりだが、もう少しやんごとない方々への対応の仕方を勉強させるべきだと隊長に進言するか?ディランもシーバスもエリートの中エリートしかなれない近衛衛士の筈なんだが。


「そんで、王女殿下はどこから見てたんだろうって話になるでしょ?ディランも黙って考え込んじゃったんだけど、殿下が、

『修練所を囲む回廊を歩いていたら彼方が手首を何度も触っていたのを見たものですから』って。あそこからどんだけ距離があると思ってるのかなあ。やっぱり『鷹の目』の血筋だねえ」

 のほほんと続きそうな口調で爆弾を落としやがった。エイブルが思わずぱっかりと口を開けた。


「おま、おま…え、どこからそんな情報を」

 直立したまま脱力するエイブルを、愉快そうな目で見るシーバス。

 エイブルが驚愕するのも無理は無い。

 大陸にある十数か国中、特殊能力を有することをを公言する王族はいない。

 勿論、我が国の国王を始めとする王族も外見的な情報しか認知されていないだろう。内面的なモノの所謂『噂話』は数多あるが、王女が『鷹の目』の持ち主であることはトップシークレットである筈だ。


「な・い・しょ」

 気持ち悪いポージングでシーバスが黙秘権を主張するので、更に鏡のように磨きこまれた光石の床に懐きたくなったが、グッと堪えた。

 もう今日はこいつとは喋らん!と唇を噛み締めエイブルは前を睨む。


 前方の長い廊下を歩いていたはずの王女の姿は最早見えず、幻を見たのだろうかとエイブルは思った。

 そんなエイブルを不思議な微笑みで見ていたシーバスは、それ以上は何も言わず、王女が消えた廊下を見ていた。

 くっと一瞬唇が歪んだが、隣のエイブルは見ていなかった。


 騒動が起こる半刻ほど前のお話。

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