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「大丈夫だよ私がいるって」
幸はそう言いながら藤崎自然公園の中に足を踏み入れる。
イノセントブルーが入れなかったのは自然公園全体であり、そこだけはどうなっているかわからないらしい。
「ほら、結界じゃ無いよ入れたもん」
幸はしたり顔で語る。
それはそれでなぜさっきは入れなかったのかが気になる。
「人間の殺人事件なのに幽霊を入れなくする意味ってあるの?」
幸のとなりには警察官が立っており、人を入れないように見張っている。
もちろん幽霊である俺達には関係ないし、警察官だって幽霊を入れないようには言われていないはずだ。
「ほら、いこっ」
幸は俺の手を引っ張る。
ここで立ち往生していても何も進展しない。俺は幸に手を取られながら藤崎自然公園の中に入っていく。
藤崎自然公園には子供の頃によく来ていた。目に映る光景も子供の頃に見た光景と変わらず、草が生い茂り、池には野鳥が群れをなしている。
あえて違いがあるとすれば、それは青い小さな火の玉が俺たちの周りに集まってきていることだろう。
「自然公園周辺に飛ばしたイノセントブルーが帰ってきた」
「なぜいまさら帰ってくるんだ?」
「う~ん…私がこの辺を意識していたからより重点的にやっていたのかも、でも特に変わった様子は無いみたい」
俺も首をかしげるが、かしげたところその疑問の答えが見つかるわけではなかった。
殺害現場は自然公園の奥にある森林地帯だ。
久々に来ると迷うかと思ったが、警察関係者達が集まっている場所に行くだけでよかった。
警察官の群れを避け、ブルーシートで囲われた殺害現場に立ち入る。
「ひどい」
俺は思わずつぶやいた。幸は口を抑え絶句している。
死体には首がなく、胴体が横たわっている。四肢ももぎ取られており、人間の体をなしていない。
首は胴体の上に置かれ、死の瞬間を今でも映し出している。
死体を囲むように何かが描かれている。
いや、何かってものではない。俺はこれをしっている。
破魔神社お手製の魔法陣。
それが木村翔を囲っている。
「幸、大丈夫か?」
俺は幸に死体を見せないように介抱する。
女の子にこんなショッキングな物を見せるべきでは無かった。なんでこれぐらいのことが解らなかったのか、自分の頭の回転の鈍さに嫌気がする。
「うん。大丈夫。自分が来ようって言ったんだもん」
幸は俺の手を振り払い、死体をじっくりと眺める。
幸がさっそく死体を調べる横でまず俺は祈ることにした。
安らかな眠りが訪れますようにと。
そうして目をもう一度開く。死体だけでなくその周辺も確認する。
「なぁ、どういうことなんだ? あの魔法陣って破魔神社のだろ?」
「私にもわからないよ」
「破魔神社の関係者がやったのか?」
「そんなことないよ。悪い神様なんていないもん」
現実問題として、ここに破魔神社の魔法陣が描かれている。無関係であるとは思えない。
「でも、少しほっとした。木村翔を殺したのは俺じゃない」
思わず本音が出てしまう。
俺がこの魔方陣を知ったのは死後であり、生前ではない。だから俺が木村翔を殺した可能性は消えた。
「だから調べてよかったでしょ」
「でも誰が殺したんだ? こんな残酷な方法で殺されたのに、その犯人よりも俺のことを恨むなんて、俺は一体何をしたんだ?」
「そっくりさんで間違えたとか?」
「俺には双子の弟も兄もいない。イノセントブルーで死体を調べられないのか?」
「一応調べてみるけど、たぶん警察が調べたほうが精密だと思うよ。状態が分かってもその状態から何が解るかって考察の部分が私には出来ないから。こんな時こそさっき言ってた計算能力の出番じゃないの?」
「調べるのと計算は違うだろ」
……しょうがないので使えそうな能力を調べてみる。
殴る。蹴る。筋力の強化。暴力的なものばかりだ。
シャウトが腕の形をした化神なので、腕を飛ばして遠距離から肉弾攻撃できたりするのは便利ではあるんだけど、それでもイノセントブルーや、先ほどの女の子みたいに消えたりする能力と比較すれば一段劣る。
その中で捜査に使えそうなものを見つけた。
「視力の強化」
世界全体がゆっくりと動き始める。それで自分が超高速で動けるのなら最高だけど、あくまで視力の強化、動体視力を強化したということなのだろう。
……視力がよくなって警察ですら見逃すような小さな証拠を見つけようとしたのだが、これで見つけられるようなものなんて……
第六眼球がレム睡眠の時のようにビクビクと震える。
悪寒が走る。
「危ない!」
俺は幸を押し倒す。




