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 教室はいつもどおりだ。特に変わった様子は無いし、俺の机の上に花は置かれていない。

 まだ死体が見つかっていなくて、失踪扱いなのか、それともかなりの時間が経過していてそんなことをする必要がなくなったのか。

 とりあえず自分の席へ座る。

 ……死んでも学校に行きたくないと思ったことがあったけど、死んでからも学校に来るとは思わなねぇよ。


「正樹くんどうしたの変顔してるよ?」


 幸は俺の隣の空席に座る。


「いや、何でもない」


 特に変わった様子も無いまま担任が来る。伝達事項も特に無く、出席の確認に入る。いつもの癖で俺も自分の名前が呼ばれた時に返事をする。

 反応が無い。

 さらに大声で返事をする。


「そういえば、榎本は今日風邪で休みだったな」

 どうやら親父は失踪したことを学校には連絡していないらしい。そして担任には俺のことが見えていない。 


「ね、本物の幽霊でしょ?」

「まぁそうだな……」

 疑っていたわけではないけど、ちょっとショックあるなぁ。


 一時間目は担任が受け持つ国語の授業なので、そのまま授業に……


「先生すみませんトイレ行ってきます」


 寒川璃々(さむかわ りり)が突然そう言って椅子から立ち上がる。その姿に俺だけでなく、教室の全員が注目する。

 璃々が喋るのなんてめったにないからだ。それだけなら目立たない地味な人間なのだろうが、彼女は例外。

 容姿が凄い整っていて、アイドル顔負けだからだ。

 大きな瞳で、年齢よりも小柄な体をしている。髪型はふわって巻いてるセミロング。

 そんなわけで、喋らないのはむしろミステリアスな雰囲気を醸しだし、美しさをより引き立てている。

 トイレに行くといいながらも教室を少し遠回りしている。不思議に思いながらそれを見つめていたが、彼女は俺の手を掴んだ。


「ちょっと何するんだよ?」


 璃々は何も答えない。俺の手を引きずるように教室から出て行こうとする。


「幸どうにかしてくれ」

「いいじゃん付いて行こうよ」


 俺の後ろを幸が期待に満ちた顔をしながらついてくる。

 誰もいない廊下を通り、トイレすらも通りすぎて、上へ上へと向かっていく。

 屋上手前まで来ると、璃々は息を吸って呼吸を整えた。


「なんであんた幽霊になってまで学校来てるの?」

「と言われましても……」

「それに女まで連れてさぁ。なに、リア充自慢? 死ねよ! ってすでに死んでるのか!」


 今までまともに話したことなど無かったけれど、あんまりにもイメージとかけ離れている。

 深窓の令嬢とまでは言わないけど、もっと大人しい人だとばかり。


「璃々さんって幽霊見える人だったんですね」

「えぇ、そうよ。それで私は今まで大迷惑だったんだからわかる?

 幽霊とかバケモノとか神とかって、自分のことが見える人間を見かけたらすぐに近寄ってきてちょっかいかけるのよ。

 時も場所も選ばないものだから私すっごい変な人扱い。

 もうさいっってい!

 今日だっていきなりクラスメイトが幽霊になって平然と出席確認してるんだからポーカーフェイス超大変だったんだよ!

 大体幽霊になってまで学校に来るとかどんだけ学校好きなのよ? これだから現実充実なヤツって大っ嫌いよ」


 璃々は爆発する勢いみたいに早口でまくし立てる。それに身振り手振りも加わってているのでとにかく感情的だ。

 しかしどんなに感情的になられても、


「……ごめん」

 ぐらいしか俺には言えない。


「それで現在進行形で授業もサボってるしあーあ、今日は厄日だわ。とにかく私の前に現れないで、あと、ちょっかい出さないでよね」


 それだけ言い終わると、我慢していたのをやめるようにすっきりした顔になり、階段を降りて……


「それで、どうしてあんた幽霊になってんのよ? 恨みでもあんの? クラスメイトのよしみで話ぐらいなら聞いてやるわよ」


 璃々は階段の踊り場で、くるっと回る。スカートが少しひるがえる。




 今までのことを全部璃々に話したが、璃々は興味なさそうに聞いているだけだった。

 気まずい沈黙。


「そ、れ、で、記憶を取り戻しに学校へ来たってことね」


 その沈黙を破ったのは璃々だった。しょうがないと言う代わりに可愛らしくため息を吐いた。


「要約するとそうなる」

「怨霊なら駆除しちゃえば良いのに。その怨霊の記憶無いんでしょ?」

「でも元は人間で、もしかしたら俺が何かしてしまったのかもしれない。無視はできないよ」

「お人好しねぇ。そんな性格じゃいつか詐欺に合うから気をつけないさいよ」

「それで何か俺のことについて覚えていないか?」

「別に、昨日はあんたも出席してたし、特に変わったことも無かったわよ。いつもどおりなジミーよジミー」

「となると正樹くんの記憶が無いのは昨日だけと?」

「普通に考えればそうなるでしょうね。」

「なるほどぉ、イノセントブルー、私の記憶を写真に作り変えて」


 幸の手から青い炎が灯る。その中には一枚の写真が入っている。


「この人間に心覚えは?」


 写真に写っているのは俺を襲ったバケモノの姿だ。命がけの状態では気づかなかったが、かなり人間の風貌を留めている。バケモノの生前の姿を知っているなら誰かわかるかもしれない。

 璃々の不満気だった表情が、臨戦態勢のような緊張感のある顔つきに変わる。


「……知ってる」

「ねぇ、この人はどこの誰なの?」

木村翔きむらしょう。昨日惨殺された人よ」


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