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しょうがないので俺はカミちゃんについていく。破魔神社はカミちゃんの性格からは考えられないほど整っている。神社というよりは広大な武家屋敷の方がイメージに近い。いくつもの美しい庭園を横目にしながら廊下を歩いて行く。
「あれなんだ?」
俺は巨大な岩を指す。岩を中心にして建物が作られているように感じる。
「ご神体の精神石じゃよ。超すげえ魔法用途のコンピューターと言ったらあんた様にも解るかの?
うちの神社はあれを祀っている。あのサイズのはかなりレアだからな」
「カミちゃんは神じゃないのか?」
「ぶっちゃけ、こっちの世界にいるのは全員神だからの、言ってしまえばあんた様も神様じゃよ。」
「………仏様じゃないのか?」
「普通の人間は死んだら魂が大気中に溶け込んでしまう。
その後、他の魂と混ざり合って新しい魂として肉体を宿すんだがの。
そうならないのはよほど強い記憶によって魂が強固に形成されているか、強い魔力を持っている魂のどちらかだ。あんた様はどう見ても後者。そんな魂の持ち主を仏ごときの扱いはバチがあたるだろ?
だから神を名乗っても良い」
強い魔力を持っていると言っても全く自覚が無い。
霊感とか、そういったものも一切ないし
「それで、カミちゃんの本名は?」
「黙れ」」
「カが名前で苗字がミなのか? どこの国の人間だ?」
「あんた様も中々に突っかかってくるんだな」
「カミが名前でチャンが苗字か?」
「謎は女を魅力的に引き立てる。だから教える気など無い」
カミちゃんが足を止める。大本の破魔神社と比較すれば小さいが、それでもちょっとしたお寺ぐらいのサイズはある建築物だ。作りも丁寧で、長い年月を感じさせる。
「んじゃこの離れの中に入れ」
俺は離れの扉を開ける。離れの畳には魔法陣が直接描かれている。魔法陣には見たことのない文字が描かれており、複雑な形をしている。
「どうだ? 破魔神社特性の魔法陣。門外不出で見れただけでもありがたいのに、使えるんだぞ超大喜びしろ!」
凄いのだろうけど、何がどう凄いのか全然わからない。やはり凄みを知るにはそれ相応の知識が必要なんだろう。
……幸も別に驚いている表情していないから、カミちゃんが誇張しているだけかもしれない。
「破魔神社お手製と言うのは本当だよ?」
俺の気持ちを読み取ったのか幸が少し困った顔で補足する。
「その魔法陣の真ん中にたて」
今更嫌ということもできない。幸も特に反対している様子が無いので大丈夫だろう
言われた通り真ん中に立つ。
カミちゃんは先ほど冷蔵庫から取り出したとっくりを俺に投げ渡す。
「とりあえずそれを飲め」
「はい?」
「ウツシヨに行きたいんだろ? 未成年だから無理って言うなよ。死んでて成人も未成年も無い」
いや、いきたいけど、これ飲んだら…
「間接キスぐらい気にするな。男だろ?」
「乙女でしょ? 気にしてください」
コップでもあればいいのだけれど見当たらない。
「じゃあこれ使ってください」
幸からコップとハンカチを渡される。どっちも青い炎に包まれているが、別に熱かったりはしない。
「イノセントブルーの能力で複製してると青く燃えているみたいになっちゃうから我慢して」
「ありがとう」
とっくりの飲み口の部分を拭いてコップに酒を注ぐ。
キツく感じるが、甘くてけっこう美味しい。
「おかしいな。私とあんた様の相性が悪いのかうまくいかないみたいだ」
「もっと飲めばいいのか?」
「私の酒だぞ! それ以上飲むな! しかしこうなってしまうと粘膜接触で直接触れたほうが速いな」
カミちゃんは人差し指で自分の唇に触れる。言ってしまえばキスしろと強迫してるようなものだ。
「カミちゃん」
「冗談だよ。私じゃなくて幸がやってくれ、精神石に補助をさせればできるだろ」
「はぁ~い」
幸が魔法陣の中に入り、俺の手を取る。
言葉を詠唱しているみたいだが、驚くことに同時に幾つもの言葉を同時にしゃべっている。
頭がぶん殴られたような頭痛がする。
その場に倒れこむ。目の前に真っ白な影が見える。影は笑っているように見える。
「影になんでも言いから名前をつけて」
幸の叫び声が遠くに聞こえる。
名前? そう言われても急には出てこない。
「なんでも言いから早く!」
影はニヤつきながら俺の頭をつかむ。影の手が俺の頭の中に、めり込んでいく。不思議と痛みは無い。
「シャウト!!」
とっさに思いついた名前を叫ぶ。
影と頭痛が共に消えていく。何もなかったかのように部屋は静まり返る。
「名前を横文字にする感性は好かん。これだから最近の若い奴は……」
カミちゃんはブツブツと何かを言っている。聞きたくない。
でも、こんな名前でいいのだろうか?
シャウト。この名前って俺がネトゲで使ってるキャラネームなんだけど……
キラキラ、か? いやいや、漆黒の、とか二つ名ついてないから普通だよね。
「それで次はどうすれば良いんだ?」
「私の事をぶん殴る想像をしろ。陵辱するようなのでもいいぞ」
「いや、そう言われましても」
「陵辱するようなのでもいいぞ」
「殴る想像にさせて頂きます」
俺はネトゲのキャラを現実の世界の情景と重ね合わせるように想像する。そうした後に、そのキャラがカミちゃんを殴る姿を想像をする。
キャラが拳を振り上げる。その拳が徐々に黒く変色していく。変色していった部分は甲殻類のような形に変わっていき、その現象は右肩まで続いていく。
動きはとまらずに、黒色になった腕はカミちゃんをぶん殴ろうとする。
カミちゃんは払うように手を動かす。投げ捨てたカードに拳が当たる。カードは発光しながら床に落ちていく。
「うむ。うまくいっているみたいだな」
「想像しただけなのに、と言うか想像した物が途中で別の物に変わったんだけど…」
「さっきの酒は剥離酒と言ってだな。魂を分割するときに使う酒だ。
お前の分裂した魂を魔法専門に幸が作り替えた。お前が魂に念じれば、魂が必要な魔法を勝手に行使してくれる。
化神って言うんだが、便利だろ? どうした? 凄すぎて言葉も出ないか? でも褒めろ」
カミちゃんは腕を組みしたり顔をしている。
自分でも魔法が使えるのは確かに凄い。
「質問だけど、魂って分割していいようなものなのか?」
「もちろんダメにきまってる」
いい笑顔だった。
「なんで分割したの……」
「普通の魂なら分割しようとする前にまず雲散する。 ところがお前は怨霊でも無いのに魂が生前の姿に保っているし、意識もハッキリしているし、記憶も大部分保持している。喜べ、これは才能だぞ。これだけで大半の神よりも強い」
「そうなのか? それを言ったら幸だって魂だけなんだろ?」
「私の場合は陰陽師の血筋なの。でも正樹くんってそういうのあるの?」
「いや、無いと思う」
「まぁどうしてあんた様の魂が強いのかって部分はこのさいどうでもいい。重要なのはこれであんた様も魔法を使えるようになったということだ。これでさきほどのバケモノがまた襲ってきても対抗できるし、ウツシヨでも活動出来る」
カミちゃんは先程のカードを差し出すので受け取る。
手に持ったはずなのに、そのまま手にめり込んでいく。
俺はそれを強引に引き剥がそうとしたが、引き剥がそうとして掴んだらそのまま指にまでめり込んでいく。カミちゃんに文句を言おうとしたが、そんな事をする必要が消えた。
頭の中が寝起きの直後のように澄み渡っていく。
周りの物質が自分の体の一部のように知覚できるようになる。
脳内でツリー表のような物を感じることが出来る。見ているというよりは今見た夢をもう一度脳内で見せられているような不思議な感覚だ。
手の甲が熱を帯びる。見ると、手の甲に眼球が生えていた。ブラックオパールのような複雑で美しい輝きをしている。
「第六眼球も出てきたみたいだし、これで完璧だな」
「だいろくがんきゅう?」
「あんた様はこれから第六感をきちんと認識する。その眼球はその第六感を象徴するようなもんだと思えばよい。眼球は視覚として認識出来るだけであって、体から生えたわけではないからな。シャウトの情報は見えているか?」
「ツリー表みたいなのだろ? 見えてる」
「それを見ているのが第六眼球だ。本来の眼球と第六眼球で知覚したのを混ぜあわせて見ている。情報にはきちんと目をとおしておけ。
あとは幸にでも聞いておけ。私はこの破魔神社からは出られない。これ以上お前に助力できん」
「ありがとう」
「ふんっ地域を守る神として当然のことよ」
「の割りにはほめられるといつも照れてますよね」
カミちゃんはそっぽを向いた。




