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 真っ暗ではあるが、自分の体を見ることはできた。実在空間と言うよりは夢や意識の中に近い空間なんだろう。

 ここはご神体の中だと直感的に理解できた。

 略奪者は歩いてくる。


「世界の終わりを見ることができるなんてお前は運が良い。それまでの十分間たっぷり楽しもうじゃないか」

「終わらせて何がしたい」

「何がしたい? 笑わせてくれるなよ。こんなに楽しいのに、それ以上の理由がどこに必要なんだ?」


 確かにそうだ。理由なんて今更関係ない。

 世界を滅ぼさないと何かが救えないなんて事情があったとしても、

 俺だってこいつを倒さない限り、幸を助けることはできない。

 交渉なんて段階はすでに終わっている。


「まぁ今更そんなこと関係ないか。どうせお前は俺には対処できない。肉体の依存は理性でどうにかできるものじゃ―――」


 シャウトが略奪者をぶん殴る。

 突然の一撃に略奪者はよろめくが次の一撃を剣でうまくかわす。

 口を拭い血が出ているのを退屈そうに略奪者は眺める。


「俺の魂ならな」 


 今の俺は肉体があった頃の俺とは別人のような状態だ。記憶も、知識も、知性も、人格も、何もかも違う。

 必然的に肉体への依存度も減っている。


「どうやらお前を呼んだ時の魂は肉体なんて要らないらしいな」

「それなら、それで良い最後に一つ遊んでやるよ」


 略奪者は俺に刀を向ける。

 俺はシャウトを出す。

 腕だけではない。完全な体を持ったシャウトを。

 略奪者の剣技をシャウトで一つ一つさばいていく。

 その何処かで見たことのあるような剣の動きでは俺に傷一つつけることなどできるわけが無い。

 逆に俺は略奪者の隙をついて何度か攻勢に打って出る。当たりはするが、略奪者の反応も早く致命打には至らない。


 略奪者の表情が変わるのは早かった。

 他者が傍観しているならば、略奪者が苦悶の表情をするのか理解できないはずだ。略奪者は未だ攻勢を緩めず、連続で

 俺が肉体の依存をなくしたのと、肉体そのものを要らないと判断したのまでは、予想内だったのだろう。

 しかしここまで圧倒的に俺が追い詰めるのまでは予想できるはずがない。

 俺のパンチが略奪者の顎に入る。

 顎を揺らしテコの原理で頭を大きく揺らす。

 肉体に入っているために、肉体の影響を魂まで受けてしまう。軽い脳震盪が略奪者の意識を一瞬飛ばす。


 その合間にも俺は殴り続ける。

 略奪者は刀を遠くに投げる。俺はシャウトに刀を拾いに行くように命令する。

 カミちゃんを見捨てるなんて俺にはできない。

 略奪者は息を荒げる。体はボロボロに朽ちている。


「まだわからないのか。お前はもう負けてるんだよ。その肉体が原因でな」


 俺はハッキリと宣言する。

 俺の魂が肉体に依存しているように、俺の肉体も魂に依存している。

 それがこの状況を作った要因だ。


 肉体に影響された魂は魂が動かしていた通りの動き方をする癖がついている。その癖のおかげで憑依しても違和感が出てしまう原因になっている。

 俺はあいつの動きを理解できている。

 つまり、計算できると言うことだ。

 そしてこのご神体の中は大して広くなくて、体育館程度の大きさしか存在していない。 この程度の大きさなら相手の動きを完全に計算することができる。

 その結果は計算なんて呼べるものではない。


 完全なる行動の予知だ。


 母が相手の時は相手の動きや思考まで計算にいれられなかったが、今回に限って言えば、自分の肉体の癖を計算式にそのまま入れてしまえば良い。


 任意で動ける部分で幾つもの分岐が生まれるが、その分岐を含めても、一分間までは完全な予知ができる。


「お前、自分の体に何をした」

「何もしてないさ」


 略奪者はコケを発する。

 コケの生成パターンも俺がシャウトを使う時と同じようにいくつかのパターンになっている。


 そのパターンは俺がやってきたゲームの敵キャラとほぼ同一だ。

 俺の肉体がゲームで似たような攻撃を見てそれを反映させているからだろう。

 俺はコケを少しだけ動いて避けながら、もう一度シャウトの腕を飛ばして殴る。


「きさまぁ!!!!!!!!!」


 略奪者はいきなり倒れる。倒れた肉体から魂が浮き出てくる。

 魂は人の形をしているが作りかけの人形みたいに顔が存在しない。

 ここまでは演算結果通りだ。

 しかしここから先はわからない。

 略奪者は今までとは比べ物にならない速度で突進してくる。確かに速いが軌道は単純で、シャウトの反射速度の前では簡単に避けることができる。

 避けた直後全く別の場所から痛みが広がる。

 笑い声が聞こえる。略奪者が二人いる。

 魂を分散しそれぞれをきちんとコントロールしているのか。


「終わりか?」


 全く別の場所からも略奪者の声が聞こえる。どうやら三人以上いるらしい。


「お前こそソレで終わりか」


 俺は笑い返す。


「魂の分散がお前だけの力だと思うな!」


 俺はシャウトを分割する。その操作を俺の中にある融和しきれていない別の霊にまかせる。

 いくつもの魂が存在する俺だけの戦略だ。


「これから起こるのは戦いじゃないし、戦争なんてものでもない。

 虐殺だよ。

 お前が楽しんで色々なものを嬲ってきたように、

 俺も喜んでお前をいたぶってやるよ!

 知れ! 痛みを!」

  

 シャウトを同時に複数展開する。俺は何体展開したのか理解できていない。ざっと見たところ二十から三十はいるだろう。

 それだけあれば十分だ。

 略奪者も魂を出来る限り分割しようとしたが、十を少し超えた所で分割できなくなっていく。

 そうなれば後は数の暴力だ。

 抵抗すらさせず、シャウト達は略奪者を一人一人、消していく。


「だからどうした」


 最後に残った略奪者の首がは叫ぶ。


「俺を消したところ、世界の終焉までは止まらない。それを見られないのは残念だが、十二分だ」

「止めてみせるさ」


 シャウトが刀を握り、略奪者の頭に差し込むと宙に消え去っていった。



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