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 目が覚めると、俺は布団の中で眠っていた。左右を見渡すとどうやらどこかの家で助けられたらしい。だって病院みたいな白い壁やベットがあるのではなくて、高そうな掛け軸やら、床の間やら、布団やらと純和風な部屋だからそう考えるしか無い。

 さっきの少女の家なのだろうか。だったら素直に病院に運んで欲しいのだけど……

 ふすまがガラッと音を立てて開く。


「良かった。目が覚めたんだね」


 俺に近づくと、少女は右手をとり嬉しそうにしている。

 少女の顔を見て俺は先程までバケモノに襲われていた事を思い出した。喉元過ぎればなんとやら、あれは夢に違いないと思えてくる。現実感が全く無い。


 俺は自分の右腕を再確認する。肉片だった右腕は元の形を取り戻している。

 しかし、その夢に出てきた少女が目の前にいる以上、現実、なんだよな。

 でも髪型が幻想的に青く燃える黒髪ロングから、ボブカットに変わっているから夢?

 いやいや、そんな訳あるか、記憶が錯綜しているだけだろ?


「どこか痛いところある?」

「いや大丈夫だよ。俺のことを助けてくれたんだよね」

「私と正樹くんだもん。当然だよ」


 少女はにへらと笑う。バケモノと対峙していた時とは別人のような顔だ。

 さっきのことは現実なんだろう。しかしそれはそれとして気になることができた。


「本当に悪いけど、俺は君の事を知らないんだ」


 こんなに可愛い子にあっていたら忘れるはずが無い。学校内でもすれ違っていれば、おもいっきり凝視してしまいそうだし、そうでなくても俺の友人の一人ぐらいはすげー美人が学校にいるぞ! って張り切って教えてくれるはずだ。


 でも、そのどっちも無いとなると、他の人と勘違いしているとしか思えないし、同じ学校の人間とも思えない。


「え~幼なじみに向かって酷いよ~ 私だよ! 閏幸うるう ゆきだよ? つまらない冗談なんて聞きたくないよ」


 少女はむすーっと不機嫌そうになる。


「おやおやさっそく痴話喧嘩かい」 


 俺と少女は声のするふすまの方へ向く。

 そこには着物を着た女性がこちらに向かってきていた。

 妖艶な雰囲気のある女性で、少女とは方向性の違う美人だった。昼と夜みたいなそういった対照的な雰囲気がある。


「幸、彼を責めるのはやめなさい。記憶が無くなるのはよくあることだと前に教えただろ?」

「そっか、それで私の事を覚えてないんだ」


 幸は頷くと、俺の手を離した。


「ようこそ、死後の世界へ榎本正樹えのもとまさきくん。ここはトコヨと呼ばれる場所で、今いる部屋は私が管理している破魔神社の一室だ。私のスリーサイズと年齢は秘密。おおよそこれであんた様の今知りたいことは言ったつもりだ。他にあるか?」

「はい? いや、だって、バケモノから助かっただろ? 死んだ? 今目の前で生きているじゃないか。ピンピンだぜ? 死んでたらどうやってお前と話しているんだ?」

「ボケにはきちんとツッコメ恥ずかしいだろ。あと、私の事をお前と呼ぶな。これでもこの地域を管理しているカミだ。畏敬と親しみを込めてカミちゃんと呼べ」


 オーバーに肩をすくめた後、ため息をカミちゃんは吐いた。

 ……絡みづらい人だな。


「あの名前は?」

「カミちゃんって言っておるだろ」 

「……で、カミちゃんが言うには俺は死んでるんだな?」

「あんた様がバケモノに襲われている時点ですでに死んでいる。あんた様は魂だ」

「そんな非現実的なこと信じられるか」


 まず会話をしているし、幸が触れた時にぬくもりを感じたし、これが生きていると言わなくてどうやって生きていることを証明できる?


「少し前まで見たことも無いバケモノに襲われていたのは誰だっけ?」


 間違いなく俺だった。

 そう言われると、俺が死んでいるというのも納得できるような気もしない訳ではない。

 バケモノがいるのだったら、魂になって動いていてもおかしくないと。

「まぁ俺が魂であると仮定しよう。あくまで仮定。百歩どころか一万歩ぐらいは譲りに譲るよ。そうしたら何で俺が死んでいるんだよ」

「結構頑固だなあんた様。そんなに死んでいることを確認したいなら」


 カミちゃんの手に薙刀がいつの間にか握られていた。目の前で合成写真を作られたような感じだ。

「教えてやろう、その体に」


 俺は這いつくばって部屋を出ようとするが、カミちゃんは一瞬の動作も見せずに、俺の右肩を薙刀で貫いた。焼けるような痛みで声が声にならない。


「痛いだろうが我慢しろ。傷口を見ろ」


 俺は言われた通りに右肩を見てみる。右肩からは煙が立ち込めている。痛みが徐々に引いてくる。


「もう完治している。動かしてみろ」


 右肩は何事も無かったかのように動く。


「どんなトリックだよ……」


「魂が物理的な衝撃で死ぬわけなかろう。と言っても今私が使ったのは魂も切れるやつだから、ダメージそのものは蓄積されているけどな」

「カミちゃんそれはどういうことなのかな?」


 幸がいつの間にか青い炎に包まれた薙刀をカミちゃんの喉元に突きつけている。

 よく見れば幸の薙刀とカミちゃんの薙刀はほぼ同一のデザインだ。


「いやいや幸もよく知っているだろ?」

「初めて聞いたよ。ううん、薙刀の事はどうでもいいの。それより私の正樹くんになんて事してくれたの?」


 カミちゃんはかなりうろたえていた。俺のことを庇ってくれるのは嬉しいけど、『私の正樹くん』なんて聴き逃してはいけない単語が出てきている。

 薙刀をつきつけられていない俺まで怖いよ。


「いやいやいや、これは正樹に現実を教えようとだな」

「関係ない」

「あんた様も私の擁護してくれ」


 ……ごめん。と心のなかだけでつぶやく。だって幸の顔、凄い怖い。


「ちょっとカミちゃんとお話してくるから待っててね」


 そうして、何もわからない俺を放置して二人は去っていった。


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