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 幸は今まで見たことも無いほどの冷たい表情を見せた後、屋上から飛び降りていく。

 略奪者を殺すために、

 俺の体を破壊するために。

 ここに居ても始まらない。とにかく俺もグラウンドに行って……


「ねぇ」


 寂しそうな璃々の声が背後から聞こえてくる。

 そうだった。俺は璃々を助けに来たんだ。自分の体を取り戻すためでも、略奪者を殺すためでも無い。

 だったら喜ばないと、たくさんの人が死んでしまったけれど、璃々は守れたんだと。


「ねぇ、体が必要なの?」

「自分がずっと死んでいると思っていたからね。蘇ることができるのなら俺は蘇りたい」

「私の体じゃ、だめ?」

「………うん?」


 いやいや、確かに一回体をお借りしたけど、その時とお話がぜんぜん違う。


「素人にしては中々良い着眼点をもってるみたいだな」


 正義がポーカーフェイスを杖代わりにしてこちらへ歩いてきた。


「魂が肉体の中に入っていたら、魂の肉体との同化願望はある程度抑えられる」

「お前大丈夫なのかよ!?」


 どう見ても動けるような状態では無い。ゾンビたちみたいに緑色のコケに汚染されているわけではないが、体中に傷を負っている。


「戦うのはさすがに無理だ。

 俺としたことが派手にミスしてしまってな。あれだけの人と物資を上からもらったらいけると思ったが、相手がバケモノなら人間などいくらいても意味が無い。

 間違いだったとしてもあんたには詫びないがな。幽霊など絶対悪だ」


 ……そこは普通謝るところじゃないのか?  


「一流の霊媒師である俺が幽霊に頼ると言うのはひどく不愉快だがしょうがない」


 正義は俺にポーカーフェイスを差し出した。


「これを使え、魂の管理は俺がしておいてやるからお前は命令するだけで良い。大体何ができるかは把握してるだろ?」


 俺はポーカーフェイスを受け取らない。

 受け取ると言うことは、


「俺にあいつを殺せと言うのか?」


 自分で自分の生命にとどめを刺すと言うことだ。


「ふざけるな! 俺は生きていたい!」

「いいか、生きるってのは希望に向かって突き進むってことだ。何も無いのに時間だけを浪費しているのならば、それは死んでいないだけだ。生きているとはいえない。

 言ってみろ、お前は本当に生きているのか?」


「……………………俺は」


 グラウンドから黒い雲が生まれる。雲には血管が張り巡らされており、人間を解体しているようにも思えた。それが風船みたいに膨張していく。


「怨霊か、あれでは助けようも無い。いや、最終段階でなくとも俺には無理だ。元からかなり強い霊媒師の魂だな」


 正義からポーカーフェイスを、璃々から体を借りて、グラウンドに飛び降りる。

 怨霊の巨体をポーカーフェイスで切り刻みながら落下していくが、切れていくそばからすぐに再生していってしまう。


「私の邪魔をするな」


 女の子が近寄って俺をぶん殴る。シャウトで拳を受け止め、殴り返そうとするが、女の子はすでにいない。

 俺はとりあえず前に跳ぶ。

 後ろにテレポートされていたら、回避できない為の苦肉の策だ。

 少女が居たのは俺から見て右方向で十メートルほどの距離だ。本来その場所にあった瓦礫の山が崩れ落ちた。


「どうしてだよ! あんたは俺達の味方じゃ無いのかよ!」

「私は最初からこの件に関わるなと言っていたわよ!」

「それでも、怨霊を放置するわけにはいかないだろ」


 膨れ上がる怨霊の質量が学校にぶち当たる。それだけで校舎は発泡スチロールみたいにもろく崩れていく。


「幸がどうなっても良いの?」

「怨霊と幸がどう関係しているって言うんだよ!」

「とにかく私のいうことを聞きな―――」


 女の子は最初からそこに何もなかったかのように消え去る。

 女の子のいた場所に幸が薙刀を振り下ろす。


「大丈夫!?」


 俺はこくこくと頷く。幸は俺の返答に満足して、略奪者のいる体育館廃墟の前までゾンビどもをなぎ倒しながら走っていく。


「幸とは話にならない。しかし貴方なら幸を止められるはず。あの子を止めて」


 女の子は俺の横から叫ぶ。


「あの怨霊をどうにかしないと危ないだろ」


 怨霊は校舎を壊しながら街中へ突き進もうとしていく。結界によって人が来ないようにしているとしても、結界から出てしまえばそんな物関係ない。

 この悪夢のような光景が全てに広がってしまう。


「なら、そこで黙っていなさい!」


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