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「カミちゃんの名前? 知ってるけど、教えると怒られそうだなぁ」


 幸は手を顎に当てながら、少し首をかしげた。


「そこをなんとか、ね!」

「カミちゃんって本当は付喪神なんだ。だから名前もなになにの付喪神って名前なんだけど、どうも付喪神であることがイヤみたい」

「付喪神だからって別に神だし変わらな―――」


 俺は勢い良く引きずられていく、

 誰に? 

 霊感があって、イタコの才能がある(かもしれない)少女、寒川璃々だ。

 そりゃもう来るなって言ったのに平然と教室に来て、リア充トークをやっていたとしたら俺だって引きずりかねない。

 今回は校舎裏に引きずられてしまった。放課後であることを考えると、見つからない場所としては妥当なところだ。


「なんであんたらまた学校に来てるのよ! くんなって言ったでしょ!」

「これには深い理由があって」

「にしては思慮の浅い行動よね。何も学校じゃなくてもいいでしょ」

「……幽霊らしく枕元にたっておけばよかったか?」

「なによ! 変態!」

「もう、ふたりとも落ち着いて」

「あんたもこいつを止めなさいよ!」


 吠えかかってくる犬みたいに璃々の気性は荒い。


「ね、璃々さん落ち着いてよ…そうだ。璃々さん知ってる?」


 幸と璃々の乙女トーク(?)が繰り広げられること数分間。


「で、私に何の用事よ」


 璃々は懐柔されました。ちょっと楽しそうな顔をしている。どんな会話をしたのかは考えないようにしよう。


「……お前の体が欲しい」

「いやよ! なによ! 変態! 猥褻物! ふぇえええ? ふぇえええ!!!」


 形容しがたい邪神でも見た時のようなうろたえぶりだ。さすがに傷つく。でもちょっと楽しい。どうしよう?


「お前の体が無いと俺達は警察署の中に入れないんだ」

「その思想だけで刑務所の中には入れるわよ! って? 警察署? おまわりさんのお世話になりたいとかじゃなくて?」


 璃々はここで俺の発言がどうやら少々おかしいことに気づいたらしい。

 正直璃々の反応は見ていて楽しい。幽霊とか見ていたとしても、こんなに楽しいキャラならみんなキャラ付ってことで納得するような……

 俺は具体的にどうして体が必要なのかを懇切丁寧に説明した。


「いやよ! もっっと恥ずかしいじゃない! だって、体を勝手に操作するんでしょ。私の体を使って全裸で町内一周したり、クラスメイトたちにパンツを見せたり、そんなことできちゃうじゃない!」

「でも、もう頼れる相手なんてお前しかいないんだよ!」


 璃々の手を掴んで、瞳を見つめる。璃々の手は冷たく強ばっていた。

 璃々は視線をそむける。


「頼む。お前だけなんだ!」

「………わかったわよ。いっかい、いっかいだけなんだから」


 耳を澄まさなければ聴き逃してしまうような小さな声で、璃々はつぶやいた。


「ありがとう璃々さん」


 幸が璃々を抱きしめる。


「あんた達につきまとわれるのがうんざりなだけよ! 仲が良くなったなんて思わないでよ!」

 しかしながら表情は素直だ。微笑。それが答えだ。




「他人の魂を入れるのって気持ち悪い、貞操が汚されたきぶん」

「正樹くん変なところ触らないで!」


 変なところも何も自分が液体になったような感覚で触れている感覚すら無い。個人差なのだろうか?


「いや、触るつもりはないんだ。正直自分の体がどうなっているのか解らない」


 カミちゃんによる事前説明だと、自分の体で無いので動かすのには慣れが必要であり、取り憑いた時の動きというのは熟練の霊能者ならばすぐに見抜く物らしい。

 ならば、本人に動かしてもらおう。

 と思ったのはいいのだが…


「とりあえず歩くわよ」


 一歩一歩璃々は着実に歩く……つもりだったのだろう。実際は泥酔した時のような千鳥足でまともに歩けてはいない。

 ……霊媒師じゃなくてもおかしいことぐらい気づくだろ


「やはり魂3つ分は入れすぎたんだろうか……」

「本来なら体から魂を剥がしたり、強制的に弱めて眠らせてやることだよ。それを起きている状態で魂を3つも入れるなんて、スーパーの詰め放題で袋を持参するレベルの暴挙だよ」

「私を舐めないでよ! こんぐらいちょっっと練習すればすぐに出来るんだから!」


 その言葉は本物だった。

 練習もかねて学校から警察署まで魂を入れた状態で行くことにしたが、学校の門から出る頃には普通の人間と変わらない程度に歩けていた。


 そういうわけで、最大の難関だった結界はいとも簡単に通り抜けることができた。

 人間が入れない警察署など何の役にも立たない、何より霊能者が警察署を襲うような事態を想定する理由が無いのだろう。

 そうなってしまえば後はたやすい、イノセントブルーが警察署を調べあげるだけで捜査資料を丸々コピーできてしまう。

 璃々は生活安全課の窓口近くのベンチに座る。


「で、私はここで待機していればいいんでしょ?」

「うん。たぶん俺たちは自力じゃここから出ることもできないから」

「はいはい。じゃあ私はここで本でも読んでるわよ」


 璃々はバックから小説を取り出す。一瞬見えた挿絵には何もコメントしないでおこう。

 俺達は璃々の体から抜け出す。四肢の感覚が戻ってくる。

 それと同時に第六眼球が違和感を教えてくれる。


「結界が二重になってる。これはカミちゃんも使ってるやつで、部外者が侵入したら術者に教える結界だよ」


 幸は恐る恐る喋る。まるで、教師に怒られている生徒みたいに。

 正義はよほど慎重な性格をしているらしい。いや、よっぽど重要な物がこの警察署の中にでもあるのか。

 それとも、俺達の行動を完全に読んでいたのか。

 どちらにせよバレたからにはバレた時のパターンで対処させてもらう。

 前回とは違う。


 こちらにだって用意はできている。


 幸は飛び上がり、天井を突き抜けて逃げる。俺よりも幽霊の期間が長い幸ならば簡単にこなせる。

 木村が殺されたのは俺の問題だが、調べることに関してはイノセントブルーに勝てる要素がない。


 そんな自分がすべきことは一つ。

 正義と戦って時間をかせぐことだ。


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