12
風呂あがり後、カミちゃんの酒盛りに延々と付き合わされていた。何を話していたのか全然覚えていない。覚えていなくて正解なのだろうと言う確信だけはなぜかあった。
イノセントブルーの結果が解ったのはそれから十二時時間ぐらい後のことだ。
少なくとも俺が理解したのはそれぐらいの時間だ。
正確な時間は解らない。
起きた時にまず見えたのは青い炎の群れだった。
イノセントブルーが報告に来たのだろうと言うのは察するけれど、なぜここに? と言う疑問は残る。俺は目をこす………手が重い。
どうして右手が重いのか? 目で見て確認しようと顔を少しそらしたら一発で判明。
なぜか幸が俺の手に抱きついている。
条件反射的に顔をそむけようとしたが柔らかい物にあたる。
「なんだい? あんた様は私に甘えたいのかえ?」
にたにた笑いのカミちゃんが居た。しかも調度良く胸の辺りに顔があたった。
俺は急いで顔を最初の位置に戻す。立ち上がりたくとも、幸の体邪魔して立ち上がれない。
「昨夜はお楽しみだったのぉ」
カミちゃんの衣服が少しはだけている。色っぽい息遣いが聞こえる。
「いやいやいやいやいやいやいいややいやいいやいや……」
「あんた様もなかなか立派だったぞ。初めてとは思えん」
カミちゃんはうっとりとした少し赤い顔で俺を見る。
「ちょっと待てよ! 記憶ないよ! 俺の脱童貞記念日!」
俺としてはどこぞの指輪と同じレベルで捨てに行きたいものではある。あるけど、それと同じぐらいのレベルでロマンチックなシチュエーションを、そりゃもう文章にしたら黒歴史になり、読んだらエロゲが割腹自殺をしそうな物を想定している。
それなのに、酒によってしてしまいましたなんて、
ファミコンのセーブデータと同じぐらいに記憶が残っていない
「おやおや、何の話をしてるんだい? 私は昨日の酒の飲みっぷりについて話しておるんだがのぉ」
カミちゃんはチェシャ猫のような笑顔を俺に見せつける。
………
「あれ? おはよーございます」
声が大きすぎたのか幸が目を覚ました。思わず振り向いてしまう。
幸は寝ぼけながら目をこすり、俺と視線があってしまう。自分が何を掴んでいるのか把握したらしい。一瞬驚いた表情をしたもののまた先ほどと同じようなのんびりとした表情に変わる。
「昔はよく一緒に寝てたよね」
……だから幼なじみの時の記憶なんてないのだけど…
「そうなのか?」
「そうだよ。カミちゃんも居たの? あれ? イノセントブルー帰ってきてる」
特にこの状況を意識している様子が無い。
「結界が張ってあって警察署に入れないみたい。カミちゃんはどうすればいいかわかる? イノセントブルー調査結果をレポートの形式にしてカミちゃんへ」
イノセントブルーはいくつかの紙の形に変わり、カミちゃんの手元に落ちる。
カミちゃんはごろ寝から正座に姿勢を変え神妙な面持ちで紙を眺める。いつもこれぐらいの表情をしていてくれるのならば、本当に神だと思えるのに。
「お前らには無理だな諦めろ。幽霊に対しての結界としては完璧だ」
「そんなー」
俺も声には出さなかったけれど同じ思いだ。
これでは全く進展が無い。
「幽霊に対しては完璧と言う意味だ。結界としてだけ見るのなら穴はいくらでもある。
例えば人間に関しては全く制限がかかっていない。警察署が人間のための施設ということを考えれば当然と言えば当然だがな」
「いや、それじゃ結局入れないってことでは?」
「あんた様は幽霊だろ? 人間にとりつけば良い。それで入ってからイノセントブルーで調べてくればいいだろ」
ボールに打つかったり、謎の魔法を使ったりしていると、自分が幽霊であると言う根本的な事実を忘れてしまう。
「いやいや、ボールに打つかるような幽霊が人間の体内になんて入れるのか?」
「そうじゃな。よほど魂が弱っている人間に潜り込むかイタコに霊媒して入れてもらうか。どっちか」
「いや、どっちも道端に転がっているようなものでもないし、それに勝手に体を借りては迷惑だ」
他人に迷惑をかけてまで探したいとは思わない。そんなことをするぐらいなら、正義と直接戦い合ってでももぎ取る方を俺は選びたい。
「他人のことなんて気にしてる状態か? 怨霊があんた様以外を襲う可能性だって十二分にある。そのことを考えれば、人間の一人や二人、安いだろ」
「なら食われるほうがマシだ」
「本末転倒だな」
「あ、あのふたりともいいかな?」
幸はひっそちりと手を挙げながら俺とカミちゃんに割り込んでくる。
「私ちょうど良い人間知ってる」