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 走る。行き先未定。距離不明。あるのは生存本能のみ。

 俺は後ろを振り返ってしまう。


 人の姿をしたバケモノが四つん這いで駆けてくる。四肢を地面にたたきつけその反動で前に進んでいる。表情も無く、人間性を一切感じ取ることができない。


 俺は十字路を左に曲がる。

 見知らぬ場所の知らない道であるのに、こっちに行くしか無いと言う確信がある。


 どうして誰も助けてくれないのだろう?


 日はまだ高く、住宅街であっても人っ子一人いないなんて考えられない。


 バケモノが吠える。

 人の声に聞こえる気もするが、そこから意味を読み取れない。

 咆哮が徐々に近づいてくる。

 距離を縮められている。

 疲れは感じないが、これ以上の速度を出せない。


 俺が何をしたっていうんだ?

 何があったっていうんだ?

 俺は頭のなかを引っ掻き回して考える。

 学校が終わって、買ってた漫画の新刊が発売される日だから書店によって……

 そしてここにいる?

 いや、そんなワケがない。まるで時間が吹っ飛んでるみたいじゃないか。

 俺が気づいた時にはすでに襲われていて逃げている状態だったんだぞ?

 バケモノに襲われる瞬間が存在しないなんてありえないだろ。 

 それにバケモノがどうして襲うんだよ? ってかあのバケモノは何者だよ。


 恐怖が心臓を締め付ける。

 バケモノの吐息が聞こえる。

 呼吸の一つ一つが地響きのように響く。

 時間が徐々にゆっくりしてくる。頭の中で日常の些細な事が思い浮かぶ。

 と言っても、大した事は思い浮かばない。どこにでもいる学生の思い出なんて、どこにでもある思い出でしか無い。

 悔いはある。しかしどうしようも無い。

 きっとこれが走馬灯なんだろうな。

 絶望的な状況は混乱しきっていた頭を落ち着かせていく。


 体が宙を舞う。一瞬だけ燃え上がる錯覚。


 世界が減速していく。


 そういえば、死ぬほどの傷を負うと痛みを感じなくなると聞いたことがあるな。

 首がありえない方向に曲がる。バケモノが腕を振り下ろし俺をぶっ飛ばしたのを他人ごとのように認識する。


 もうダメなのか。


 さっきよりも多くの事を俺は思い出している。

 辛いことも楽しいことも、今から順序良く時系列順に思い出していく。

 六歳のある頃まで記憶が進むと今現在に引き戻された。


 地面にたたきつけられる。


 バケモノの左腕が俺の体を押さえつけ、右腕が俺の肩に振り下ろされる。

 右腕がぐちゃぐちゃになる。 痛みは感じない。


 意識が遠のいていく。


 バケモノが俺を貪る音が聞こえなくなっていく。


 暗がりに落ちていく感覚。



「どいて!」



 凛とする声が俺の意識を貫く。

 少女がバケモノに向かって青い炎をまとった薙刀を突き刺そうとする。バケモノは瞬間的に後ろに飛び跳ね、その攻撃をかわす。


 バケモノは何かをしゃべる。はっきりとしない轟々とした声は俺には聞き取れなかった。

 しかしバケモノは満足したのかその場を立ち去っていった。

 少女はバケモノを追わずに俺を見る。

 さきほどの殺気立っている表情は消え去り、どこにでもいる可愛らしい少女の顔に変わる。

 俺に顔を思いっきり近づけてくる。


 まず印象的なのは腰まで届く黒いロングヘアーだろう。毛先の部分だけが青く燃え上がるように煌めいている。

 長い睫毛と、温和そうな瞳をしていて美しさと可愛らしさを併せ持っている。俺の学校の制服と同じブレザーを来ている。

 そしてどこか懐かしい。でもどうしてだかは解らない。


「会いたかったよ。正樹くん。十年ぶり」


 どうして俺の名前を知っている?

 思い浮かんだ疑問を口に出来ない。 

 助かったと言う安堵感が、体に絶望的なまでの疲れを引き連れてくる。

 少女が俺を抱きかかえる。俺は少女の腕の中、重たい睡魔に引きずられていく。

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