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第21話 無意識の境地

お久しぶりです。待っていたかそうで無いかはともかく、21話です


どうぞ

前回までのあらすじ……


 ヤマメ、キスメ、パルスィの三人に案内され、俺は地霊殿に到着する。

 見るからに人外の住処である洋風の館内に入り、奥へ進むと、さとりと遭遇……戦闘に入った。


 戦闘は依然龍が圧倒的優勢であったが、さとりも負けじと奮闘。彼女は驚く事に、幽々子さんと勇儀さんの技を再現してみせた。だが一度体験した技なだけあって龍には意味を為さず、あっさり対処をされてしまい、接近を許すのだが……

 さとりに肉薄した時、俺は精神を滅茶苦茶にされかけた。彼女の周囲の景色が歪む程の制空圏に入ったが為に、俺はさとりの読心能力の最も作用の強い範囲にも入った事になり、それで能力の悪影響を諸に受けた。


 龍はともかく、俺が絶体絶命の最中、さとりは遂に禁忌……龍の技の再現に至った。今までの技ですら必要条件が在るモノだらけなのに、龍の技はその比ではなく、再現を開始した瞬間から彼女は破滅していた。

 無論、再現をしたところで龍の体に触れた瞬間から触れた部位が自壊、結果はさとりの自滅となった。


 それから紆余曲折あり、やっとこさ地底を出られる……そんな話になっていたんだが────








 地底から地上に戻るという事で、俺の見送りをしに地底の住人(僅かな鬼と地底に遊びに来た観光客の妖怪)が何十人も集まってきた。いや、そこまで尊大な事じゃ無いから恥ずかしいんだけどちょっと……


「さて、漸く帰れる────と言えるワケじゃないだろうなぁ。お前、さとりの妹だろ? 気配で判る」


 龍の言葉で周囲が何? と驚愕した直後、薄く透けたシルエットのような人の形だけが龍の背後に出て来た。その人の形は次第に剥がれ落ち、帽子を被った緑髪の一人の少女が現れた。


 見るに少女は雰囲気や衣服の類似性はともかく、同じように左胸に浮かぶ眼がその関連を示す。どうやら龍の言う通り、さとりの姉妹と見て間違いないだろう。

 しかし何だ? この子の眼は、目蓋が閉じられている。しかもずっとだ。さとりの眼を見ていたが、瞬きしている様子は一切無かったから、そう言う事では無いな。


 しかもあの眼は彼女の、いや彼女達の能力そのもの。なら、開閉が示す意味ってのがある筈だ。とするとあの透明な状態もそれ、特有の能力か何かなのか?


「凄い! 私を一瞬で見つけるなんて。龍神様、いつから気付いてたの?」


「最初からだ。此処に落ちた当初からお前の存在には気付いていた。堂々とジロジロ見てくるから無視してみたら、あからさまなお前の姿に全員気付きもしなければ見向きもしねぇ。どう見たっておかしいだろ?」


 え、じゃあ龍には最初からこの女の子が見えていたって事? そう言うの最初に言おうよ……

 龍の言葉に驚いたのは俺だけでは無く、周りの人達、目の前の少女すらも口元に手を当て、目を開いて驚いていた。


 その直後に訪れる3秒程の沈黙から、緑髪の少女は瞬きをパチクリと何度か繰り返してふと我を取り戻した。


「────あ、ごめんなさい。凄過ぎて言葉が出なくなっちゃった。じゃあ私の能力もわかったりする?」


「愚問だ。判断材料はさとりとの相違から見出した。さとりとお前は姉妹、同じ眼を持つ辺り能力も同じと見て良いだろう。しかし元々のお前の能力はその眼の目蓋を閉じた事で変化し、別の能力となった。さとりが"心を読む"心の能力なら、お前はその同質別位相の"意識を操る"意識の能力に変わった。で、お前が透明でも無ければ別人になってるワケでも無いのに誰にも見えてなかった……それはつまり、お前が『意識の外』に立っていたからだ。そしてそれは自己や他の『意識』や『認識』を操作する事で実現する。そうしてそこに存在するお前自身をあたかも最初からそこには『何も無いし何も居ない』と自覚し自覚させる事で意識の外に立ち、誰にも知覚されない幻想となった。


 長く喋っちまったが、こう言うところだ。結果言い当てるなら、お前の能力は"無意識を操る程度の能力。だが自分でも加減が出来ない部分があるようだな」


 何かよくわからないが、多分全部が全部ドンピシャだろう。目前の少女が固まったまま動かないのが良い証拠だ。して、周囲と少女が騒めきから静まり返り数えて5秒、また瞬きを繰り返して少女は小さく笑った。


「ふふふ、本当凄い。的を射ているとはこの事ね。そう、私はお姉ちゃんと同じ能力を持っていた。この第三の眼が開いてる時までは……ねぇ龍神様、少し聴いてくれる? 私のお話」


 少女は自らの閉じられた"眼"を見つめて龍に問い掛ける。如何やらこの少女は過去に抱え込んだ事を龍に話そうとしてくれてるようだ。だが龍が大人しく話に付き合うなんて俺は思っちゃいない。

 徐に両手に拳を作り、龍は人差し指を立てて指招きをした。


「ならかかって来い。こっちの方が手っ取り早い」


「やっぱりそうなるよね。よし! 遠慮はしないからね!」


 腕組みをしてやれやれと言いたげに少女は首を振ると、腕組みを解いて鶴の構えで龍と正面から向かい合う。確かに鶴の構えは立派な武術の型だが、彼女曰く無意識なので、俺には如何にも異様な動作に見えて仕方が無い。


「当然だ、手を抜いたらタダじゃおかねぇからな?」


 対して龍は何の構えも無く、指招きを終えると堂々と仁王立ちをして少女と対峙する。一見すると大人が子供を一方的に痛め付ける構図が浮かぶのかもしれないが、相手は妖怪、子供と言えど人間外だ。


 しかし、それを含めたとてこちらは龍神────あれ、やっぱりこれ大人が子供を一方的に痛め付ける構図が浮かぶだけだな……


「私の名前は古明地 こいし! いざ尋常に勝負ぅ!」


「その意気や良し! 我が名は龍神! 全ての龍を統べる頂点なり! 行くぞォッ!!!」


 互いの名前を叫んでは、龍は地面を踏み砕き、少女ことこいしは背後に六芒星の魔法陣を出現させ、戦闘態勢を整えた。また闘いか……見慣れる事は、余り良い事では無いのにな。身体が、俺の意思に反して力を漲らせる。


 何でだ? 俺は、俺の体は、一体どうなっているんだ?



「先行! 先陣! 先手必勝!」


 こいしの周囲から緑色の光弾が展開され、それが小刻みに、右に半回転をして展開を繰り返す。因みに回転が進む毎に光弾の展開位置がこいしから離れ、俺達に近づく。小刻みに光弾が展開してばら撒かれ、続いて水色の光弾が左に半回転に小刻みに展開、緑色の光弾と同じような軌跡で放たれ、一瞬で今居る場所が窮屈に思える状態が出来上がった。

 だがこの弾幕、正直に言うとさとりの殺戮的弾幕よりは迚も緩い。


「ふんっ、そんなものか。手を抜いたらタダじゃおかないと言ったばかりだぞ!」


 言わずもがな龍はこいしの放つ弾幕を最小の動作で躱す。規則性のある弾の撃ち出しであり、龍のような避ける技術だけでなく、スピード、柔軟性、そして視る力を備えた者を相手に並大抵は通用しない。恐らくこいしもスペルカードを使う攻撃以外はお遊びにもならないと理解(わか)った筈だ。


 なら、次に来る攻撃はスペルカード一択────次も、その次も……



「うん、よぉくわかってる! だから、表象『夢枕にご先祖総立ち』!」


 こいしが両腕を振り上げる動作をしたと思うと、次の瞬間に先の尖った彗星のような青く巨大な光線、仮に彗星光線と名付けて、それが地面からを無数に飛び出し、龍の動きを妨げるように中心を避けて降り注ぐ。

 動かなければ当たらないのだろうが、次の赤い光弾を全体に波紋状に撃ち、同時に放たれる赤い大光弾が続々と追尾する。直後に最初と同じ彗星光線が飛び出し、中心を避けて降り注いで来る。これは恐らく、忙しなく動かして中心に戻らせない為の弾幕だ。


「さすがは姉妹だな、さとりも似て非なる弾幕を展開していた。故に読み易くもあるのが難点か」


 そう、どことなくやり口がさとりの想起『恐怖催眠術』に似ているのは中で見ていた俺も感じた事だ。今回のこいしの弾幕はさとりの弾幕のおさらいプラス応用と言ったところだろうか。

 当然龍は中心を維持したまま先ほどより大きいものの然れども最小の動作で回避し、最後には必ず中心を維持して彗星光線をやり過ごす。これの回避はこれで決まりだ。


「凄い……でも、まだまだこれから! 次は、表象『弾幕パラノイア』!」


 二つ目。

 やや大きめか中くらい程度の青い光弾を放射状に緩やかに放っているだけかと思いきや、何といつの間にか周囲を刃のような光弾が渦巻いて龍を囲う。

 パラノイア(・・・・・)……あぁ、何となく思い出した、聞いた事がある。どう言うのかは詳しく憶えてないが、所謂"誇大妄想や被害妄想"の事だ。つまり、この弾幕は周囲を囲う光弾が視界を遮り、ゆっくりと迫る青い光弾でプレッシャーを掛ける事で思考も遮る。これに依り弾幕の表面的な難易度を上げ、強烈な焦りでミスを誘う仕様だ。


 解るとどうと言う事は無い。なら、やる事はただ一つ。


「所詮はイメージを利用した技か。ミスディレクションの種明かしに近いものがある。だからこそ言おう、ヌルいッ!!!」


 腕組みをしながらじっくりと横に移動する龍に合わせて刃のような光弾も追従して軸をズラしていく。なるほど、更に避け易い仕様だ。

これに痺れを切らした龍が怒声を放ってこいしの弾幕を強制的に消し飛ばした。声だけで光弾を消すって、一体何?


「私の弾幕が、声一つで……」


 おっとこいしも同じ驚きを抱いていたようだ。


「もっと出せよ、本気を! それとも全力でやってそのザマだったか? だったらすまない事を言ったな、謝ろう」


 今までに無いくらいの龍の挑発……それはちと言葉のトゲが過ぎる。さすがの温厚な人でもちょっとムカっとするヤツだぞそれ。

 龍の言葉を耳に入れた直後、ショックと怒りを交えた複雑な表情をするこいし。そこから頬を膨らましながら両腕を広げて叫ぶ。


「本能『イドの解放』ぉ! 抑制『スーパーエゴ』ッ!!」


 こいしからハートの形をしたピンク色の光弾が全体に撃ち出され、それが左右から軌道を捻ってこちらに向けてくる。そしてピンクのハート光弾は自然消滅し、その場から即座に青色のハート光弾が今度はこいしに向かってカーブして飛ぶ。まさかの技二つ同時とは、ここもさとりと同じやり口か。


 まぁそれはそれで良い、仕方がないと諦めるが、技名……パッと聞いた感じ本能の解放と理性での抑制って感じだが、矛盾だな。発露したい本能と束縛する理性、結局は人を形作るモノは"矛盾"だけなんだな。


 と、よくわからない理論を巡らせる俺を余所に、龍はタップダンスじみた動きでハート光弾を悉く躱し尽くす。その余裕しか無い動きは一体何なんだ? おかしいだろ?


「二つ出しでマシな程度か。出し惜しむな! テメェの全力を出しやがれ!! それともなんだ、俺が全力を出さなきゃ本気を出せないってか? だったらお望み通り本気を出してやる」


 焦ったくなった龍は一旦立ち止まり、瞬間に全身を黄金に染めて、その変化の際の衝撃波だけでこいしのハート光弾を全て掻き消した。龍には何もかも通用しない、もう全力をぶつけたところで敵う筈は無いのだが、それでもやらないよりは良い。やる事に意味がある。

 自身の悉くが通用しないこいしは泣きそうになりながらも遂に覚悟を決め、表情を引き締めた直後に彼女の背後で魔法陣サイズの赤と青の入り混じった色の薔薇が咲いた────そう、俺には見えた。






これはもしかして、こいしの全力であり、最後の技か?



そうだ、段々お前にも視えてきた(・・・・・)ようだな。あれは全身全霊の証、あいつの全てをぶつける覚悟の象徴だ。

 なら、それに応えてやるのが正しさってもんだ



くれぐれも慎重に頼むぞ……?



当然だ。その為に黄金龍になって本気に見せてる。今からやるのは、全力と見せかけた最大最高の手加減だ。恰好だけでも本気にしなきゃ失礼だからな






「『嫌われ者のフィロソフィ』……『サブタレイニアンローズ』……!!!」


 俺がこいしの背後に巨大な薔薇を見た瞬間、彼女は姿を消し、彼女の居た場所から光弾を全体に等間隔且つ規則的に放たれ、赤と青の薔薇を光弾から一定数咲かせる。同時、周囲から回避を阻害する為の光弾の柵や網が迫り、その光弾からも赤と青の薔薇が一定数咲き、咲いた範囲内を埋め尽くす。







 最後は……なるほど。自身ごと弾幕にしてぶつけに来たか。なら、その「恋心(こころ)」に応えてやんなきゃな、龍!



ふん、当然だ。






 龍は微笑みながらいつも通りに光弾と薔薇を躱していく。そうだ、『弾幕ごっこ』ってのは考えてみれば"遊び"だ。なら、楽しむのが普通じゃないか。そうだよ、この殺戮的な光弾の群れだって、見方に依ってはとても綺麗で見応えがあるじゃないか!

 俺は今、漸く知ったよ龍。これが、弾幕ごっこなんだな!


 お前が軽快に躱していく理由が解ったよ。お前はずっと、この景色を観ていたんだな────



 俺は龍を通して見る景色に見惚れ、暫し時間の流れを忘れた。気が付いた頃には、龍は力無くへたり込むこいしの目の前に立っていた。


 戦いが、終局したのだ。



「お前の負けだ、古明地 こいし」

「はぁ……はぁ……参り、ました……」


 全力を出し切ったのだろう、こいしは肩で息をしてはゆっくりと龍を見上げ、自らの敗北を口にした。その言葉を聞いた龍は突然しゃがみ込み、こいしと視線を合わせた。


「俺に全力で応えてくれたお前に最大の返礼だ、受け取れ」


 言葉の瞬間、俺の視界は白く染まり、さとりの時と同じく視界が晴れた頃にはこいしの体力が全快し、いつの間にか姿も俺に戻っていて、キスメが上まで送ってくれる算段がついていた。


 何だ? さっきから変だ、今まで当たり前に見えていた景色が突然真っ白に染まって、何もかも遮られて、目も耳も……まるで、何かをひた隠しているような────


 俺の違和感なぞお構い無しに、地底のみんなは徐々に上昇する俺に手を振って見送ってくれた。俺も手を振り返すが、その表情がとても今の状況に相応しくないのを、鏡を見なくてもわかるくらいだった。


 地上に出るまで、暫くキスメとの談笑で時間を潰す。その話は全て俺が地底に来てからの事ばかりで、時事ネタと言うか、世間話のようなモノは無く、何と言うか、嫌いでは無いがキスメから妙なモノを感じた。


「……ねぇ、龍神」

「ん?」

「地底にはまた、来て……くれる?」

「ぁ、あぁ……勿論。みんな良い人ばっかりだし、さすがにいきなり戦いを挑まれるのは嫌だけど、それを抜きにすればまた来たいよ」

「本当? あはっ、嬉しい……!」


 ん? キスメの表情が何か可愛い。む、早苗さんの感覚を思い出した。もしや……いや、やめとこう。考えるのをやめよう、俺。


 そうこうしてる内に地上に出た俺は、キスメに送迎の感謝を告げ、キスメは地底の穴に満面の笑みで帰って行った。

 さて、何か凄く長い時間を過ごしていた感じだ。これからどうしよう?






行き先に困ってるんなら、人間の里にでも行くか。あそこにならお前の求める安寧があるかもな?



何で疑問形なんだ……まぁ、人の居る里なら良いか。暫くは安心出来そうだ。






 そうして俺は龍の案内で人間の里とやらに行く事にした。何故人間の里の場所を知っていたかは不問として、やはり拭えないあの違和感(・・・・・)────一体、何が起こってるんだ、俺の周りで……





















「こいし、わかってるわよね……?」


「うん、わかってる。私達が、とっても大事な事に、選ばれたって事……」


「えぇ────今夜、始めるわよ」


「大移動、だね? わかったよ」







続く

最後の時まで、あと僅か。



次回、東方龍神録、復活版──第22話 新たな来訪者 です。お楽しみに

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