第18話 目醒める"黄金龍"
久しぶりの投稿です……
大変長らくお待たせしました、東方龍神録、復活版ーー第18話 目醒める"黄金龍"です、どうぞ
前回までのあらすじ…
一晩旧都の一軒に泊まり、翌日にキスメ達と共に、さとり様とか言う人に会いに行く事にした。さとり様の事を聞く最中、さとり様の"ペット"の空と燐の事を聞いた。
暫らく歩いた後に、話に聞いた燐こと、"火焔猫 燐"に出会った。それから続けて空こと"霊烏路 空"にも出会い、何とか状況が纏まりつつあったのだが……。
空の右手あたりの筒状の物体が何なのか訊いた時、また嫌な予感を目の当たりにし、俺は再び危機に瀕し、同時に龍が俺と入れ替わった。そしてまた、龍は闘いを始めるのだった……
「さぁ、いつでも良いぞ。掛かって来い!」
「じゃあ遠慮無く! 爆符『メガフレア』!」
空は全身に力を込めて、胸の中心にある縦長楕円の"赤い眼"のような球体から燃え盛る巨大火球を龍に飛ばす。龍はこれを真っ向から突進して突き抜け、何のダメージも無い様子で空の目の前まで一瞬で近づいた。
なぁ龍、お前熱く無いの……?
熱くねぇよ。あんな火力じゃ俺に火傷を負わすどころか、薄皮一枚すら永遠に焦がせねぇよ。
中で見てる俺にはサッパリ理解出来ない龍の思考……。如何にも熱くて火傷をするどころじゃ済まないさっきの巨大火球にしたって、平気でぶつかって行って薄皮一枚焦げないんだとさ……
でもまぁ、龍の体が焦げ目すら付着しない理由はわからないワケでも無い。"龍の鱗"って言ったら大体はわかるだろう、龍の全身を覆う鱗は、鋼を断つ剣でも、鉄を貫く弾丸でも、灼熱の炎でも、零度の氷を持ってしても傷付かない無敵の鎧。
いや、でも龍って逞しい筋肉をした人間の体だから、正直鱗なんて全く関係無いみたいだな……。それにわかり切ってる事じゃ無いか、龍が何よりも強いって事は。
「さぁ、どうした! 掛かって来い、もっと撃ってこい! Hurry! hurry!! hurry!!!」
「なら好きなだけ喰らわすからねッ!!!」
龍は空の目の前に立ち、堂々と挑発をして攻撃を誘う。龍の挑発に大いに応えるように空は右腕に填めた筒状の六角棒を龍に向けて構え、橙色のレーザーを棒の先端から射出する。
更に空は六角棒を真下の地面に向けてレーザーを撃ち込み、地面ごと焼き尽くす爆発が起こり、地面に立つ龍を襲う。続けて指から密度の高い熱光球を一発飛ばし、それから光球を複数展開、光球から大レーザーが龍に放たれた。
龍に飛ばされたレーザー、レーザー爆発、光球、大レーザーは悉く、龍の体に全て直撃した。しかし龍は全く気にする事無く飛び出し、空の顔面に右拳を繰り出す。
ところが、龍の右拳は少し左に逸れ、空はそれを利用して顔を拳の反対方向に逸らして龍の右拳を躱した。だが、空の右頬は龍の拳圧によって表面の大部分が持っていかれ、空の頬の肌は一瞬で真っ赤な血に染まった。
でも龍の右拳は擦りさえしなかった、それに龍は右拳をワザと左にズラした。俺にはわかる、あいつが拳の攻撃を外す事なんて無い、もし仮にも外すとしたら、その先に"脅威"が秘められている。
すると龍は口元を釣り上げるようにして小さく笑い、前に出し切った右拳を押し戻すようにして空の右頬目掛けて顔面に肘の一撃を叩き込んだ。肘の一撃は空の右頬と言うより顔面に直撃し、空は鼻から血を飛ばし、口からは歯を飛ばし、更に眼の焦点が大きく揺れていた。
これに止まらず、右肘を当てたまま龍は右脚を振り上げ、右膝を空の脇腹に打ち込んで右膝の攻撃の逃げ場を右肘の押さえで無くし、空の脇腹の骨を完全に砕いた。空はこの瞬間、眼が白目寸前だった。
「んぐッ! グヴゥッ!! ガァッ……!」
龍が右肘と右膝を離した直後、空は跪いて地面に向かって血反吐を吐いた。続けて打たれた左脇腹を抱えるかの如く押さえ、苦しそうに呼吸をするが、息が上手く吸えなかったり吐けなかったりで更に悶絶した。
「悪りぃな、一応手加減したんだがな。どうもお前等の力量に合わせるのは難しい、何でだろうな? まぁ所詮は妖怪、傷の治りは早いから、心配は要らないだろう」
龍は空の姿を鼻で笑い、空に背中を向けた。この状態を見ると、まるで龍が悪人にみたいだ、これ以上のキツい態度は何かしらに響く気がするので、俺からはそろそろ自重して欲しい。
そんな矢先で、既に龍の悪評は何となく広まっている気がする。だって、もう空の後ろに立っている燐が顔が引き攣ってただ棒立ちで動かず、更に龍の後ろで戦いの模様を見ている三人も顔面蒼白だった。
龍、ちょっと酷過ぎじゃないか……?
酷過ぎ? お前話聞いてたか? 俺はあくまで手加減した、それでも相手が弱かった、たったそれだけの事だ、あいつが丈夫じゃないのが悪い。
どうしてお前の論理はそう纏まるんだ……。
ま、ハナからこいつ等の力量じゃ俺には勝てない事なんざ分かり切っていた事だ。"愉しむ"には丁度良い。
最後の部分のセリフ、よくラスボスとかが言いそうなヤツだからマジでやめろ、やめてくれ。
さて、そんな会話から離れて振り向き、再び空を見たところ、さっきまで膝を付いていた場所から消え、気配は斜め上空へ、更に殺気に近いものへと変わっていた。そして空の全身を黄色いエネルギーが包み出す。
「鴉符『八咫烏ダイブ』!!」
エネルギーを纏った状態のまま空は急下降を始め、龍に自身の身体ごとぶつけようと飛来する。しかし、龍はそんな空の決死の一撃さえも片手の人差し指で空の額を押して止めてしまう。
「やめろ、お前の今の体じゃ捨て身は危険だぞ」
「そんな事を気にして、地獄鴉が務まるか! 私は一時地上を支配しようとした事がある、そんな自分勝手な私を許してくれたさとり様や、みんなの為にも、私はこの全身を砕く覚悟だッ!!!」
空の熱い思いが込もった言葉をしっかりと聞いた龍は微笑った。すると龍は指で空の身体を押し返し、空を先ほどの技を発動する直前まで居た位置に、自身を空が技を発動する直前まで居た同じ高度まで飛んだ。
「良い覚悟だ。なら、お前の持つ最大の一撃をこの俺に撃ってみろ! 手加減無用だ、来いッ!!!」
それはまさかの言葉、龍は空のあの燃え盛るエネルギーの最大を何もせずただ受け止めるだけらしい。例え、いくら龍が丈夫だとしても、こればかりはちょっとマズい気がする。
おい! いきなり何のつもりだよ龍! お前、いくら自分が大丈夫だからって、そんな奢りは身を滅ぼすぞ!!!
まぁ見てろ、これは俺なりの決着の合図だ。これで決めてやるんだよ。
お、おい、それは一体どうゆう……
そんな事を話している間に空は六角棒を前に突き出し、片方の腕で六角棒が着いた右腕を押さえる。そして六角棒の先端に橙色のエネルギーが集中し始め、次第にエネルギーは形となり、空を軽く呑み込める球体となった。
お、ありゃかなり密度が高い。エネルギー量もあいつの体に合わないデカさだ、さては暴走、右手の六角棒は差し詰め"制御棒"と言ったところか。
暴走? 制御棒?? 何を言ってるか俺にはさっぱりなんですがね、龍さん……
あいつは一人でこの幻想郷を破壊出来る力を持っている。それは核融合の成せる力だ。だが、核ってのはお前も知っての通り、圧倒的火力とエネルギーの不安定さで有名だ。
原子力だな。でも、そいつがどうかしたのか?
お前の知っている原子力ってのは二種類存在する。一つは核分裂、もう一つは核融合。発電所が使ってるエネルギーが前者の核分裂だ。
核分裂はまぁわかるとして、核融合? 初耳なんすけど……
核分裂は個体の原子を科学反応によって分裂させる事で起こる核エネルギーだ。エネルギー発生量としては微々たる、しかしそれを量で補う。だが、実にエネルギーとしては不安定で、危険だ。次に核融合、これは分裂とは違い原子同士を科学反応で融合させる事で起こる核エネルギー。こいつはエネルギー発生量がとにかく膨大で、不安定でも無く、危険でも無い。
核融合は凄い──じゃあ発電所は何故核融合を使わないんだ? 安定してるんだろ?
核融合はエネルギー発生量が膨大なだけじゃない、融合時の熱が約2億度になる。今の科学じゃ2億度なんて熱に耐え切る物質は存在しない。
じゃあ、発電所はわかった。何で空の力は暴走してるんだ?
奴自身が未熟な所為だ、安定した核融合の力を制御しきれないでいる。まぁ、暴走した方が本来以上の力を出してるみたいだし、俺は一向に構わん。
「爆符『ギガフレア』!!!」
空の制御棒から放出されたそれは、太陽そのものとも言えるスケールの超巨大な炎の球体が龍達の目の前に在った。高速で移動しているのだろうが、大きさ故にどうしても遅く感じてしまう。
「ほぉ、なかなかでけぇじゃねぇか。実際の太陽ほどじゃ無いがな」
龍はただ両腕を広げて火球を待つが、俺はもういろいろ恐いので目を瞑って火球が早く消えてくれるのを待った。直後、龍に超巨大火球が直撃したのがわかると同時に、目を瞑っているにも関わらず、とても眩しかった。
目を開けてみると、絶大な爆発と音と共に火球のエネルギーが龍の体に吸い込まれていく。俺は驚いた、超巨大火球をその身に受けて傷一つや焦げ目どころか、火球自体のエネルギーをその身に吸収しているなんて。
気が付けば超巨大火球は姿を完全に消し去り、同時に龍の全身が黄金色に光り輝き出した。龍のこの神々しさを感じる姿に俺自身にも力が漲り、止めどなく力が溢れ続けた。
龍、これは一体……?
さぁな? 予想外の結果と言えば予想外だ。しかし、ここに来て新たな力が覚醒するとはな。なかなかおもしれぇもンだな
龍、お前がこれ以上強くなってどうするんだよ、とツッコミたくなるくらいの出来事、まさかの龍の覚醒だ。姿はそのまま黄金龍、名前もそのまま"黄金龍"、何の変哲も無いけれど、力は変哲もクソもあったもんじゃない。
「さて、今度はこちらの番だ……霊烏路 空ッ!!!」
龍は"時をも超える"速さで動き、一瞬で空の眼前まで迫った。その速さで動いた故か、空気が時間差で気流を起こし、ソニックブームと空間が歪む程の風圧が数秒遅れで吹き荒ぶ。
その風圧に空は流されまいと空中制御を行うが、風圧が強過ぎて制御が無意味となり、簡単に飛ばされてしまった。一瞬で数百m飛ばされた空は風の影響が弱まったところで静止し、体勢を立て直そうとするが、龍は既に、だ……。
「よくここまで頑張ったと褒めてやる。お前は強い、だが──」
空の後ろに既に立っていた龍は、驚愕してこちらを振り向いた空に言葉の途中で龍は拳を一瞬突き出し、空の眼前で寸止め、それから龍の肩辺りから数秒遅れで気流が回転する。その気流は龍の肩を這い、拳の捻りに合わせるように超高速で回転しながら空の顔面に向かって飛ぶ。
「────終わりだ」
その瞬間、気流が空の顔面にぶつかり、爆発的な空気の流れが空の全身をも押し出す。超音速を超える風が空を地面に叩きつけ、同時に風が地面にぶつかる事で巨大な竜巻と化して暫らく後に消えた。
龍の拳の起こした超音速を超える風が竜巻と化し、消えた後には地面を深く抉り取った跡が残った。その跡の中心にはボロボロになった空が仰向けで倒れていた。
「空!」
ずっと闘いを見ていた燐が倒れている空に駆け寄り、抱き上げて身を案じた。そこへキスメ、ヤマメ、パルスィが空に駆け寄り、更に龍が空の目の前に降り立った。
「心配するな、風で飛ばしただけだ。それに直ぐ治せる」
龍は空気中の水分を集束させて全身が水で出来た"水龍"を創り出し、空の上空に水龍が飛び、全身から雨を降らせた。水龍の全身から降り注ぐ雨はその場に居た全員にも雨が触れて、気が付けば空は目を開けていた。
「さて、次は"さとり"か……」
続く
次回、東方龍神録、復活版ーー第19話 心眼のさとり です、お楽しみに
ここからが、龍神録復活版の真骨頂です