目を覚ませ ~ あまあまドラゴン侯爵に拾われる ~
読んでいただきありがとうございます。
あー。
あんなにクレアが、眼が曇ってる!死んでる!って忠告してくれていたじゃない…………。
「ハア ハア…………。」
「公爵令嬢のくせに、何て足の速さだ…………。ハア ハア…………。だが、もう行き止まりだな!お嬢さん」
「あら、私はどこの誰だか知りませんけど、あなたは私を知っているのね」
「あぁ。かわいそうにこれから盗賊に襲われて、命を落とすお嬢さんに、特別に教えてやるよ、これはウインザー伯爵令息とサリバン伯爵令嬢からの依頼だ、ふたりのサイン入りの依頼書もここにある」
盗賊は、自慢げに契約魔法のかかった羊紙皮を、ひらひらと私に見せる。
私は、婚約者であるウインザー伯爵令息、リロイ様とのピクニックデートの後、帰りの馬車が黒ずくめの集団に襲われ、何とか馬車を抜け出して、森に逃げ込んだ私は、数人の男たちに、崖っぷちに追い込まれている。
大体、今日のデートだって急に郊外に行きたいと言い出し、我が公爵家の馬車に乗り込み、出かけたはいいが、途中で急用ができたと伯爵家の馬車が呼びに来て、私を置いてリロイ様は、さっさと帰って行った!
「あーー。私のバカバカバカ!眼が曇りすぎ!腐りすぎ!閉じすぎ!」
はぁ~。
リロイ様の見目が良く!惚れ込んだ私が愚かだった!
プティ公爵家、五番目のおてんば末娘とはいえ、私が嫁ぐことでウインザー伯爵家が得られる利益を、リロイ様が、理解できないほどのアホだと思わなかった!
そりゃあ公爵家の力をもってすれば、リロイ様がサリバン伯爵令嬢の、ロージー様とイチャコラしてることくらい、直ぐに分かりましたし、お父様にも止められましたけど!
妻になるのは私、妻になれば遊び相手のロージー様など、どうとでもできると思っていました!
「もっと早く、眼を覚ますべきだったーーーーー!」
「おい、お嬢さん!なんだいさっきから大声出して、こんな森の奥じゃ、誰も助けに来ないぞ、馬車の護衛騎士も従者も、今頃仲間たちが全滅させているさ」
「ついに追い詰められて、頭がおかしくなったか?」
「ははは!世間知らずのご令嬢だからな~」
「親方しかし、顔はかなりかわいらしいですぜ」
口々にしゃべりながら、私との間合いを詰める男たちに押され、数歩下がると崖の石が少し崩れた。
眼下には、数メートルの岩肌…………。
下には、大きな川が流れている。
深そうな川ね…………上手に飛び込めば…………。
「やーお嬢さん、観念したかい。俺達の言うことを聞くならば、命だけは助けてやってもいいが」
「まあ。本当ですか?」
私は、キラキラした目で、強盗の一番偉そうなおじさまを見つめる。
「にっこりすれば、かわいい顔じゃねえか」
高笑いする強盗の隙をついて、私は強盗が手に持つ羊紙皮を奪い取る。
「おい!」
掴みかかろうとする、強盗の手を払う。
リロイ様に一目ぼれするまでは、私は女騎士になろうと、訓練していたんだからね!
「おじさまたち!それではごきげんよう」
私は、おじさまたちに笑みを向け、奪った羊紙皮をポケットに詰め込む。
そして!崖に向けて大ジャンプ!
「自分の道は、自分で決めます……ギャーーーー。」
やっぱり高すぎた!
綺麗に飛び込むなんて、無理かも!
そして死ぬかも!
あーもう一度、クレアが作るアップルパイ、食べたかったわ!
お父様、お母様、いうこと聞かなくてごめんなさい!
今度はいい子に産まれます!
そうだ、今度産まれる時は、もっとかわいらしい子に産まれたい!
そして屑に騙されない子!
落ちた瞬間は、痛いかしら………あぁ遠くにお花畑…………。
そして私の意識は途切れた。
✿ ✿ ✿
サディアス・ハーワード侯爵令息 視点
「おい、コアあそこを見ろ」
日課である王都周辺の見回りに、相棒のコアと出かけた俺は、郊外の道で襲われる馬車を発見した。
直ぐに、コアと馬車の側に降り立つ、ドラゴンを見た強盗達は、一目散に逃げていく。
馬車の周りには、数名の騎士と従者。
大怪我を追っている者もいるが、みんな無事のようだ。
「大丈夫か!」
膝を付いて、剣で体を支える騎士に声をかける。
「こ これはサディアス様…………どうかお嬢様を…………。」
「令嬢が、馬車にいるのか?」
立ち上がり馬車を覗くが、誰もいない。
「森の中に…………。」
騎士は、少し離れた林を指さす。
「追われているのか」
「クワ-」
コアが大きな声で鳴き、翼で俺の背を叩く。
俺がコアに飛び乗ると、今までに無いスピードで、コアは飛び出した。
「おい!森じゃないのか!」
コアは森を避け、川の方へ向かう。
直ぐに川に着くと、開けた視界に落下する物体!
コアが、さらに加速する。
令嬢だ!
コアが、令嬢のドレスに噛みつき何とか受け止めた。
ビリ ビリビリ。
ドレスが破れだす。
コアは振り向きざまに、俺に令嬢を投げつける。
「グア!おい、コア!危ないだろ」
受け止めた令嬢を見下ろすと、眼を閉じたまま、ピクリとも動かない。
まさか死んでいるのか!
首の、太い血管に触れてみる。
「はあ~。脈はある」
息があることに安心していると、俺のごつごつした手に、令嬢がスリスリと頬を寄せる。
「ウグッ…………かわいい」
俺は頬ずりを惜しみながら、片手でコアの手綱を握り、もう片方の手で、令嬢を落とさなに様に、しっかりと抱きかかえる。
体の動きで、横に流した俺の長い三つ編みが、令嬢の胸元にある手に落ちる。
令嬢は、その髪をぎゅっと握った。
ぐーなんだ、この小さくてかわいい手。
思わず顔が熱くなり、目線をそらすと、敗れたドレスの隙間から、令嬢のおへそが見える…………さらに両足も、派手に破られたドレスからごろりと出ている。
慌てて手綱を持つ手で、マントを外し令嬢に掛けた。
……………………。
や 心臓が爆発して、死ぬかと思った。
俺は大きく息を吸い、コアに指示を出す。
「ひとまず、侯爵家に戻ろう」
「クワ-」と大きく鳴いたコアは、方向を変え侯爵家に向かう。
侯爵家の庭先に降り立つと、家令のジェームスが駆けてくる。
「サディアス坊ちゃん、お早いお戻りで、どうされました?」
いつもより早く帰還し、獣舎ではなく、庭先に降りて来た俺に、驚いたようだ。
令嬢を抱え、コアから降りると、ジャームスはさらに目を丸くする。
「おやおや、どちらのお嬢さんで」
「強盗に襲われてるところを助けた、さらに離れた場所で、プティ公爵家の家紋のついた馬車が襲われていて、負傷者がいる。直ぐにそちらに助けを」
「はい、畏まりました、それではこちらの令嬢は、プティ公爵家のご令嬢で?」
「その様だ、強盗から逃げ、崖に追い詰められていた所を助けた、少々……コアのせいでド ドレスが破れてしまい。とにかくマーサを呼んでくれ!」
真っ赤になって怒る俺を、クスクスとジャームスが笑う。
「ジャームス!」
「はいはい只今」
俺は、令嬢を抱えたまま邸の中を進み、獣舎に一番近い部屋に彼女を寝かせた。
俺は屈んだ体制のまま、ベッドですやすやと眠る、令嬢の顔を覗き込む。
何度見ても可愛い。
いくつくらいだろう…………俺よりはだいぶ下だな、学院でも見たことが無い。
プティ公爵家には確か、令息が二人の…………令嬢は3人だったか、一番上のリーサは俺と同じ年で…………下の妹は二つ下、弟が4つ下だったか、そしたら俺と5~7歳も違うのか!
令嬢の顔を見つめたまま、いろいろ考えてると、後ろからガシリと肩を掴まれた。
「坊ちゃん!令嬢を連れ帰り、部屋に連れ込み何をしているのですか!」
「マーサ!」
驚いて立ち上がろうとすると、グンと頭が引っ張られて、体制を崩す。
「いたたた…………。」
よく見ると、令嬢は俺の三つ編みをガッシリ握ったまま離さない。
「あらあら、まあまあ。怖い思いをしたのですものね、坊ちゃんの三つ編みにもすがりたいわけです」
マーサが、俺の三つ編みを握る令嬢の手を、解こうとして頑張るが…………どんどん握る力が強くなり、まったく離さない。
俺はマーサの手を止めた。
この銀色の髪に、縋ってくれるのか…………。
俺の住む、このシスロ王国には、獣騎士団が二つ。
国に二家しかない侯爵家が、獣騎士団を指揮している。
グリフィンを統率する、西のランチェスター侯爵家と、ドラゴンを統率する、我がハーワード侯爵家だ。
俺は、ハーワード侯爵家の嫡男として生を受けたが………代々ハーワード侯爵家の男子は、赤髪で生まれることが多い。
父上も、おじい様も赤髪だ、数代前に、俺と同じジルバーの髪の当主がいた様だが、赤髪で生まれてくると、思い込んでいた両親は、俺を見て肩を落とし、母は疑われた。
魔道具による親子鑑定で、俺が父上の息子であることは、直ぐに証明されたが、その溝が埋められなかった両親は離縁し、俺が5歳の時、母は実家の伯爵家に戻って行った。
母上の姿は、社交の場で時々見かけるが、眼が合うこともない…………。
母に忌み嫌われた、この髪を…………。
俺は、マーサの手を彼女の手から外して、自分の手を重ねる。
「坊ちゃん!眠る令嬢に、無断で触れてはいけません」
「マーサ!俺をなんだと思っている、自分の髪を切るだけだ」
俺は短剣を取り出し、彼女が握る三つ編みを、少し上でサクっと切り落とした。
「マーサ、彼女を助ける際に、コアがドレスを、そのかなり破損した。支度を頼む」
「はい。坊ちゃんは、後始末に向かわれるのですか?」
「ああ。直ぐに戻る」
マーサに彼女を頼み、俺はコアの元に向かった。
✿ ✿ ✿
パメラ 視点
「まあまあ、本当にかわいらしいお嬢さんね」
ん?
知らないご婦人の声がする………もしや天国?
起き上がり、眼を開けようとするが、まったく体が動かせない。
どうした私………やっぱり死んでるから、動けないのかしら。
「さあさあ、お着替えしましょうね~。それにしても派手に破れたわね」
んんん?
なんだか私、ゴロゴロされて、体を、拭き拭きされてる?
「坊ちゃんの髪、気に入ってくれたのかしら、本当に離さないわね」
ご婦人が、私の右手から、何かを外そうとするが、私の手は開かない。
「ふふ。これがご縁で、もしかしたら坊ちゃんに春が来るかしらね~」
鼻歌を歌いながら、ご婦人は私の髪をとかす。
「さあできた。ひどく恐ろしい思いをしたのね……。」
ご婦人が私の髪を撫でる。
「こんなにしても、眼を覚まさないなんてね…………。」
ご婦人はベッドサイドに座り、しばらく私の手を握っていたが、一度私の手をギュッと握って立ち上がる。
「さあさあ、坊ちゃんが戻る前に、ボロボロのドエスを片付けますかね」
何かを、バサバサと払うような音がした後、ご婦人が息をのむ声が聞こえた。
「これは…………。」
コンコン。
ドアがノックされて、知らない男性の声がする。
「マーサ、入ってもいいか?」
「はい!坊ちゃん!今これを見つけました」
夫人が走る音がして、ドアが開く。
!!
もしかして、あの洋紙皮見つけてくれたのかしら?
「調査で薄々わかってきていたが、これは決定的な証拠だ!」
男性の声が、怒りに震えている。
「お嬢様はやはり、プティ公爵家のご令嬢で?」
「ああ、末娘のパメラ嬢だ、今日は婚約者のウインザー伯爵令息に誘われて、郊外に足を延ばしたらしい」
「まあ…………婚約者がいたのですか、残念です」
「マーサ。その婚約者が、パメラを殺そうとしたんだ」
「まあ」
マーサさんが、言葉に詰まる。
んーー。
眼を開け、起きろ私。
はー。なんで私、動けないの?
「マーサ、俺はこの証拠を持って、もう一度プティ公爵家に行ってくる、公爵に相談して、直ぐにもこいつらを!」
ガン!と何かを叩く様な大きな音。
「マーサ、まだパメラが狙われる可能性がある、当然護衛騎士はつけるが、この部屋には入れないでくれ…………コアに頼んで、ナルを窓の外に付けよう」
「はあ、それなら安心ですね」
「クワ-」
わあ!なんだかすごく大きな鳴き声!
たぶんマーサさんが走る音の後、ガタガタと窓を開ける音がする。
大きなテラスでもあるのかな?
ズシ ズシ ズシ ズシ
ん!んん!
重い足音?なに?
重い足音の後、ズシリとベッドの足元に何かが乗った感じ…………足先と体の右側に、つやつやした感じとふさふさした感じ…………?
「おい!ナル!お前が乗ったら、ベッドが壊れるだろ」
ナル?なに大きいけど女性?
「まあまあ、坊ちゃん。これだけ近くにナルがいてくれるなら、護衛騎士を部屋に入れなくても安心です、私もお嬢様のお世話をするのに心強いですから」
「クワ-」
今度は、小さくかわいい声がした。
クワ-と鳴く…………大きな生物…………もしかしてドラゴン?
キャー。
触りたい、触りたい。
このツルツルは鱗かしら、フサフサはどこ?
動け、動け。
わーん。なでなでしたい~。
心意気的には、全力でじたばたしているはずなのに、まったく体が動かない。
「はあ。仕方ないな、ナル。パメラを頼んだぞ」
「クワ-」
またかわいい声。
すると、大きくて少し硬い手が私の頬に触れる。
はあ~。なんだか暖かい。
あれ。暖かな手が離れた。
今度は、私が何か握ったままの手に、大きな手が重なる。
「パメラ行ってくるよ」
一度、強く手を握り、暖かな手が去っていく。
…………寂しい。
そう思ったら、「クワ-」とかわいい声がして、私の手にふわふわが触れる。
わー。もしかして、スリスリしてくれてるの~。
嬉しい、見たいみたい。
その後…………全力で頑張ってみたが、私の体はピクリとも動かない。
ぐぬぬぬ。
カタカタカタカタ。
ん?今度はワゴンかな?
はぁ~。いい匂い。
「さあさあパメラ様、少しでもお口に入るといいのですけど、スープをお持ちしましたよ」
わーい。お腹すきました。
「さあ。ナルも少し、果物でも食べる?」
わあ。ドラゴンは果物食べるの?お肉とかもりもり食べるんだと思ってた。
「クワ-」
可愛い声と共に、私の横からナルちゃんが離れる。
うー。寂しい。
少しするとモシャモシャと咀嚼の音がする。
わー。美味しい?なるちゃん♪何食べてるの?
「さあさあ、パメラ様も食べれるかしらね~。少し冷ましますからね」
「クワ-」
「そうね~ナル。早くパメラ様が、目を覚ますと良いわね~。あの様子だと、坊ちゃんはかなり、パメラ様にご執心よ」
「クワ-」
「そうね~。パメラ様が坊ちゃんを、気に入ってくれるといいわね~」
んんんんんんん。
マーサさん。ドラゴンとおしゃべりできるの?
坊ちゃん?
ご執心?
「はい。パメラ様、飲めるでしょうか」
マーサさんが、スプーンで少しだけすくったスープを、私の口に当てる。
暖かくて美味しいスープが口の中に広がる。
ん?これ……私、飲み込めるのかしら。
ゆっくりと、喉の奥に流れてきたスープを飲み込む。
「わあ飲めましたよ!」わあ飲めた。
マーサさんと、私の心の声が重なる。
うー。どうして飲めるのに、眼が開かない!体が動かない!
マーサさんは喜んで、何度も私の口にスープを運ぶ。
「もう少しお口が開いたら、果物も入るのにね」
「クワ-」
「そうねそうね、ジュースにしてあげましょうね」
「パメラ様。少し待っていてくださいね」
マーサさんが、食器を片付けて去っていく音が聞こえる。
すると私の隣には、ナルちゃんの気配。
うー。やっぱり、なでなでしたい。
少しすると、大股な足音とがして、また大きくて暖かな手が私の頬を覆う。
「パメラ。苦しくないかい?痛いところは無いかい?」
はい。大丈夫です。
返事はしたいが…………。
「もう少ししたら、プティ公爵が来るからね」
お父様♪
「それにパメラを傷つけた奴らは、俺が必ず成敗する」
ズシリとベッドが軋み、男性が横に腰を下ろしたのがわかる。
「まー。坊ちゃん!どうしてパメラ様のベッドに座っているのです!」
マーサさんが戻ってくるなり、坊ちゃんを叱る。
同時に私の横で寝ていた、ナルちゃんが起きる気配がして、男性がドシンとベッドの下に落ちた。
「痛いぞナル!」
ベッドの周りが賑やかになると、コンコンとドアをノックする音が響く。
「サディアス様、プティ公爵様がお見えです」
穏やかな男性の声が響く。
「入ってもらってくれ」
坊ちゃんが返事をすると、沢山の足音が私に迫る。
「もー。パメラ!あなたって子は!」
お母様?
うわ!重たいですお母様。
大きくて優しい手が私の頭を撫でる。
「パメラ、無事でよかった」
お父様…………。
「もう、パメラ起きなさいよ」
「そうだ目を覚ませ、そうしないと、クレア様が持ってきてくれたアップルパイは、全部僕が食べるぞ」
お兄様、お姉様…………揺すらないでください。
「サディアス殿、パメラを助けてくれてありがとう」
お父様が、頭を下げているのがわかる。
「頭をお上げください、プティ公爵様」
「このお礼は、事態が落ち着いたのちに改めて、本日はこのまま、パメラを連れて帰らせてもらいたい」
「そうねこれ以上、ハーワード侯爵家に、ご迷惑をお掛けすることはできないわね」
お父様、お母様、助言をちゃんと受け入れなかったばかりに、迷惑をかけてごめんなさい。
「クワ-」
少し大きめの声で、ナルちゃんが鳴いて、私の右側にぺたりと体をつける。
「プティ公爵様、事件が解決するまで、パメラ嬢は当家でお預かりする方が、安全かと思います。未だすべての盗賊の確保も終わっておりませんし、当家であれば、どの貴族の家より守りが強固です。さらにドラゴンのルナが24時間、パメラ嬢をお守りできますので」
「ふふ。サディアス…………お父様、ここは頂いたご縁を大切に、ハーワード侯爵家のお言葉に甘えましょう」
リーサお姉さま?
「そうか、これまでの働きを見て、サディアス殿は信頼のおける方だと、私も感じた。リーサの言う通り、パメラはお願いしよう」
お父様?
「サディアス殿、パメラをどうかお願いします」
…………うーお父様、迷惑かけてごめんなさい…………。
心はぼろぼろ涙を流すのに、私の瞼はピクリとも動かない。
お父様達は、もう一度私を撫でたり、揺すったり、話しかけたりしてから帰って行った。
部屋が静かになり少しすると、サディアス様の足音が近づいて来る。
椅子を引きずるような音がして、サディアス様は私の隣に座る。
「パメラ…………。」
バシバシ!
「もー。坊ちゃんがそんなしけた顔していたら、パメラ嬢も眼を覚ましませんよ」
「マーサ………痛いよ」
あー。マーサさんに、背中でも叩かれたのかしら?
そう言えば、ハーワード侯爵家のサディアス様は、リーサ姉さまと同級生で………一度……家にも来たことがるような…………。
リーサお姉さまが、学生の頃なんだから、私は………11歳くらい。
そうだ、あのクマさんみたいに大きな人。
お顔は……うーん。遠くから見ただけだし、昔の記憶過ぎて思い出せない。
「そう言えば、先ほどはプティ公爵様達の来訪でお話ししそびれましたが、皆さんの来る前に、パメラ様はスープを少しお召し上がりになりましたよ」
「マーサ、一時的にでもパメラは、眼を開けたのか?」
「いいえ、眼は閉じたままですし、サディアス様の髪も握ったままです」
サディアス様が、大きなため息をつく。
「もー坊ちゃん!けが人や病人の世話は、周りがしっかり元気でないとだめですよ」
「お口があまり開きませんので、スープも少しづつですが、しっかりと飲み込んでいらっしゃいました、果物もジュースにしてお持ちしたのですが………少し時間が経ちましたから、新しいものをお持ちしましょうね」
マーサさんが、部屋を出て行く足音。
「パメラ…………。」
サディアス様が、私の手を握る。
やっぱり、サディアス様の手は大きくて暖かい、お父様とはまた違うけど、なんだか安心する。
!!
そう言えば、今。サディアス様の握る私の手には、サディアス様の髪の毛?
どうして、サディアス様の髪の毛を…………私は握っているんだっけ?
もしかして私………助けてもらった時、無意識にむしった?
そうだ、どうやって助けられたんだっけ?
「さあさあ、パメラ様、桃の実をジュースにしましたよ」
わー。桃!大好き♪
マーサさんが、スープと同じように桃のジュースを、少しづつ口に入れてくれる。
甘くておいしい~。
コクリと飲み込む。
「マーサ飲んだぞ!美味しいかな?もっと食べるかパメラ」
サディアス様は、私の手を握ったまま大喜び。
ふふ。リーサお姉さまと同じ年とは思えないわ♪ 少年みたい。
「マーサ!今、パメラ笑わなかったか?」
あら?もしかして表情が動いた?
「坊ちゃん落ち着いて、マーサには表情の変化は分かりませんでしたよ」
「いやきっと、桃のジュースが好きなんだ!早く次を入れてやれ」
「はいはい。子供みたいですよ、坊ちゃん」
タイミングを見ながら、マーサさんが、桃ジュースを私の口に運ぶ。
「まあ、全部飲んでくれましたよ、坊ちゃん」
「ああ。良かった」
私の手を握る、サディアス様の手に力が入る。
「坊ちゃん。マーサは器を片付けてきますからね、時間も遅いですし、坊ちゃんも休んだ方がいいですよ」
「ああ、わかった」
マーサさんが出て行くと、サディアス様は私の髪を撫でる。
「パメラ。少しでも食べてくれて嬉しい」
暖かな手が頬に触れる。
「はあ。なんてかわいい唇なんだ…………。」
!!!
今、私の唇に触れました?
そうだ私、ずっと眼を閉じたまま!いろんな人に、寝顔を見せているのですわ!
急に恥ずかしくなったが、どうにも私の体は動かない。
ドサリ!
ナルが動く気配がして………多分サディアス様が、ナルに椅子から落とされた。
「まー大変。パメラ様のお顔が赤くなってる!熱でもあるのかしら」
戻ってきた、マーサさんの柔らかな手が私の額に触れる。
少しひんやりしていて気持ちいい。
「あらお熱は無いようですね、ところで坊ちゃんは、どうして床に転がっているんです?」
「ああ………ちょっとな。パメラの熱がないのならよかった。無理に食べさせてしまったのかと心配した」
「クワ-」
ナルが、さらに私に身を寄せた。
ふふ。ナルありがとう。私が困ったのが伝わったのかしら?
「さあさあ、坊ちゃんも床で寝ては、風邪をひきますよ、パメラ様は私がお守りしますので、ちゃんとこのように、簡易ベッドも持ってきましたから、さあさあお部屋にお戻りください」
「や。ちょっと待ってくれ、パメラにお休みの挨拶をだな…………。」
「はいはい、どうぞこのままお帰り下さい、夜分遅くに寝ている淑女に、触るのは禁止です」
「あー。パメラ早く目が覚めると………いや今日はゆっくり休んでくれ」
大股な足音と、ドアが閉まる音。
「さあさあ。マーサがそばに居ますからね」
マーサさんは、ガタガタと何かをひろげ、たぶん明かりを消した。
はあ~なんだか大変な一日だった…………。
✿ ✿ ✿
朝早く、大股な足音が近づいて来る。
コンコン。
「パメラ?起きているかい?」
「どうぞお入りくださいな、坊ちゃん」
慌てた様に、ドアが開く。
ズカズカと大きな足音がして、私の手が握られる。
はぁ~。今日も暖かくて大きな手。
ぐーー。
思いきり、瞼を押し上げようと頑張るが、今日も一向に私の体は動かない。
「パメラ。今日は必ず事件を解決してくるからな、いい報告を待っていてくれ」
はい。サディアス様。
「……………………。」
「坊ちゃん。行かないのですか?」
「……………………ああ。行ってくる」
サディアス様が握っていた、私の手が持ち上がり!!!
今、手にキスしました?
「クワ-」
ナルが、大きな声で鳴く。
「なんだよナル!手にキスくらい挨拶だ!」
「はいは。名残惜しいのは分かりますが、そろそろお出かけしないと、皆さんをお待たせしてしまいますよ」
「では…………パメラ。行ってくる」
!!また手にキスしました?
「クワ-」
「あらあらまあまあ。坊ちゃん、英気を養えたことですから、頑張って良い結果をお持ちくださいな」
サディアス様は、渋々リロイ様の退治に向かった。
「さあさあ、漸く坊ちゃんが出発されましたから、お支度を変えましょうね~、パメラ様」
はい。
マーサさんは、丁寧に私を暖かなタオルで拭いて、着替えさせてくれた。
ナルは、片時も私の側を離れない。
獣騎士団を持つ両侯爵家は、怖いところだと社交界では有名だけれど、ハーワード侯爵の皆さんは、ドラゴンも人も、みんな暖かだわ。
「パメラ様。今日は、はちみつ入りの紅茶なんてどうでしょう、あとはブドウを、取り寄せてみました」
ブドウも好きです♪
それに、紅茶のいい香り。
「あんなに、体格のいい坊ちゃんですけどね、実は甘いものが好きで、紅茶はいつも、はちみつ入りなんですよ」
ふふ。昔、クマさんみたいと思った私も、あながち間違いじゃないわね。
「パメラ様も、好きだといいのですが」
マーサさんは、私と話しているように、返事がなくともずっと話しながら、いろいろと世話をしてくれる。
はー。はちみつ入り紅茶、美味しいです。
「ブドウもいかがですか?桃と違って少しだけ粒粒がありますが」
ブドウも、ジューシーで美味しいです。
「坊ちゃんは、あんな感じなのに、女性をずっと受け付けなかったんですよ~。ですからマーサは、パメラ様が来てくれて本当に嬉しいです」
マーサさんは、私の口に、紅茶とブドウを運びながら、話し続ける。
「まあ。ご両親のことが、あってのことでしょうが…………。」
マーサさんの声が突然に湿る。
「あんなにいい男なのに、もったいないと思っておりました」
そう言えは、ハーワード侯爵様は、離縁されているのよね。
「マーサにとって坊ちゃんは、息子の様なものですから、むちゃくちゃかわいい、良い奥さんを見つけて差し上げたいと、常々思っておりましたが………自分で連れてきましたね」
マーサさんが、私の髪を撫でる。
「早く、眼を開けてくださいな」
マーサさんは、サディアス様の乳母なのかしら?
そして……サディアス様、婚約者がいらっしゃるのかしら?
そしたらそしたら、私がこのような状態で、ハーワード侯爵家にお世話になるのは、ご迷惑ではないかしら?
「そして坊ちゃんはですね、とても優しいです、マーサが重い荷物を持っていると、ひょいと助けてくれますし、そしてですね」
食べ終わると、マーサさんは、私の手足をマッサージしたり、髪を結いなおしたりずっと私を世話している間中、サディアス様を褒め続けた。
きっとかわいい、大好きな息子なのね。
ほんわかとした時間を、女子三人で過ごしていると、ノックもなしに、ドアが勢いよく開く音がする。
「パメラ!解決したぞ」
「まあ。坊ちゃんレディーの部屋に、ノックもなしになんですか!」
「クワ-」
「すまない、直ぐに伝えたくて」
「パメラ」
大きくて暖かなサディアス様の手が、私の手を包む。
「ウインザー伯爵令息とサリバン伯爵令嬢は、パメラが持っていた洋紙皮が決定的な証拠となり、王宮騎士団に捕縛された、雇われた強盗達も同様だ」
自業自得ですわ!
「そして、あの時襲われた、プティ公爵家の騎士や従者たちだが、怪我もさほど酷くなかった様で、みんなもとの仕事に復帰した」
良かった!みんな無事なのね。
サディアス様の手が、私の頬を包む。
「さあ、パメラ…………あとは君が、目を覚ますだけだ」
頬ずりしたくなる、この大きな手。
私も眼を開けたい、動きたい。
「こんなに眼が開かないのは、よほど怖い思いをしたのだな…………。」
いやいやいや………私どちらかと言うと、体も心も丈夫な方なんです。
それはまあ、あの高さをジャンプしてみて、少し肝が冷えましたが…………。
どうして私の眼は、開かないのですかね…………。
「まあまあ、無事に容疑者たちは掴まったのですから、まずは腹ごしらえしますかね、坊ちゃんもこちらで、パメラ様と一緒にいかがですか?」
「ああ。マーサありがとう」
「パメラ様には、お野菜もお肉も細かくして、トロトロになるまでに込んだ、シチューを準備しておりますから、坊ちゃんにはそれにパンとステーキでも追加しましょうかね、野菜ももちろん付けますよ」
「ああ、マーサもナルも一緒に食べよう。なあ、パメラ」
う~。こんな動けない、ヘッポコの私のために、皆さん優しい。
もーもーもー。この根性なし!動け動け!
私が一人でもがいているうちに、どんどんと食事の準備は進み、マーサさんが、口に運んでくれるシチューを、美味しく頂いた。
「さあ。坊ちゃん私は、食器を片付けてきますからね、ナルと一緒に、パメラ様をよろしくお願いしますよ」
「ああ。ゆっくりでいいぞ」
「クワ-」
返事を聞いて、マーサさんの足音が遠ざかる。
「パメラ、シチューは美味しかったか?」
はい。濃厚なお味で、惜しかったです。
「本当はもっと、いろいろなものを食べさせてやりたいし、そうだコアやナルにも乗せてやりたい」
わー。是非是非ドラゴンちゃん達に、モフモフ、ナデナデして、乗せてもらいたいです~。
「ナルもこんあに、パメラになついているし、この先その……パメラが、ナルの相棒になってくれたらいいな」
「クワ-」
「そうか、ナルもそう思うか」
やー。マーサさんもそうだけど、ハーワード侯爵家の皆さんは、ドラゴンとお話が出来るのかしら?
羨ましい。
私も是非、おしゃべりしてみたい!
「パメラ、好きな食べ物や好きなことは何だろう、俺はこう見て…………恥ずかしいのだが、甘いものが好きでな、カフェや美味しい菓子店に、行ってみたいのだが」
ふふ。カフェに行ってみたいのですね。クマさん一人では難しいですね。
「パメラが目覚めて…………一緒に行ってくれると嬉しいな、少し郊外に落ち着いた感じの素敵なカフェがあるんだ」
なあ、それは知りませんでした、是非行きたいです。
でもでも、婚約者の方に申し訳ない。
私も、リロイ様とロージー様で、嫌な思いをしましたから。
そうだ、眼が覚めたら、クレアにアップルパイの作り方を伝授してもらい、お作りしますわ!
それなら、ご迷惑にはならないですよね。
もう。どうして動かないの~。
その後もサディアス様は、自分の昔話や、好きな食べ物や本の話などなど、いろいろな話をしてくれた。
ん?
サディアス様、しゃべらなくなった。
少しすると、マーサさんの足音。
「まあまあ。坊ちゃん、こんなところで寝てしまって…………。」
あぁ寝てしまわれたのか、どうりでナルとは反対側の、腰のあたりが暖かい。
「パメラ様が来られてから、事件を解決するために、いろいろな所に出向き、寝る時間を削って頑張っておいででしたからね」
同級生の妹でしかない私のために、サディアス様はそんなに頑張って下さったのか…………。
はぁちゃんと、お顔を見てお礼を言いたい。
「まあ、今夜だけは、マーサもナルも一緒にいますから、大目に見ますかね」
マーサさんは、自分も眠る支度を整えて、明かりを消した様だ。
どうすれば瞼が開くのか…………。
✿ ✿ ✿
朝の支度が終わったころ、ノックの音が響く。
「マーサ、こちらにサディアスは居るか?」
低音の心地よい声が響く。
「まあ、旦那様、坊ちゃんならこちらにおりますよ」
「サディアス」
コツコツと、しっかりした足音が、私の元に近づく。
「こんにちは、パメラ嬢」
もしや、ハーワード侯爵様ですか?
「…………。」
「さて、もう一度問う。サディアス、本当にプティ公爵家に釣書を送っていいのだな?」
「はい父上。私はたとえパメラが目を覚まさなくても、共にある道を選びます」
「そうか、覚悟があるならそのようにしよう、どの道、彼女以外を選ぶ気など無いのだろう?」
「はい、彼女以外であれば…………もともと、生涯独り身でいようと思っておりましたから」
「そうか、それでは早々に釣書を出そう、ジェームス手配を頼む」
「はい、旦那様」
!!!
もしかして…………私に釣書を?
婚約者に殺されかけた、愚か者なのに。
「マーサ、パメラ嬢が眼を開ける気配はないのか?」
「はい。旦那様、ペースト状のものを、口にお入れすれば、飲み込んでくれますが、眼を開ける気配はありません」
「飲み込むのか…………。」
ハーワード侯爵様が、何か考え込んでいる。
それにしてもサディアス様、こんな私でいいのですか?
もしやびっくりするくらい不細工で、婚約者がいないのですか?
「サディアス、もしかすると、パメラ嬢が眼を開けないのは、コアが原因かもしれんぞ」
「お父様、それはどのような理由で」
「いや、確かなことは分からないが、パメラ嬢を助けたのは、彼女が既に崖から地面に向けて、落下していた時だと言ったな」
「はい。その通りです、コアが加速し、彼女のドレスを咥えて助けました」
「私も確信は無いが、代々の侯爵が書き記した記述の中に、ドラゴンが強い思いを発した時、物の動きを止めたり、時間を戻したりすることが出来るとあった」
「コアが…………。」
「危機的状況のパメラ嬢を救うため、止まれと願ったのではないか?」
「クワー」
ナルが大きな声で鳴き、私の側から離れる。
ガジャーン!!
何かが割れる、大きな音。
「父上、もしコアの強い思いだとして、どうすればその術は溶けるのです」
「記述には、だだ、ドラゴンの強い思いとしか…………。」
なにあがどなったの?
何か壊れたの?
壊れたのに、ハーワード侯爵様とサディアス様は、気にせず話しているの?
ナルは…………。
大股な足音が近づく。
大きな暖かな手が、強く私の手を握る。
「俺にだって、パメラへの強い想いならあるのに!」
「パメラ、眼を開けてくれ、パメラ!」
サディアス様の手に、さらに力が入る。
私だって、サディアス様に心惹かれています。
こんな私を、受け入れてくれるなら!
サディアス様がどんなに!
「クワ―――――」
「不細工でもそばに居たいですー」
ガン!!
「いたーー。」
何かに、おでこが激突した!
「パメラ!」
私は、勢いよく誰かにぎゅうぎゅうに抱きしめられている。
あれ…………見える。
お部屋が見える。
体が離れると、目の前にはがっしりとした体格の、超絶美丈夫の笑顔。
「パメラ、良かった眼が覚めた」
超絶美丈夫に大きな手で、私の両頬が包まれる。
「はあ。サディアス様?」
「ああ、初めましてパメラ、俺はハーワード侯爵家のサディアス。プティ公爵家のリーサと同級生だ、そして先ほど、パメラに釣書を送った」
「はあ、綺麗な銀色の髪…………。」
私がポロリとつぶやくと、サディアス様は、またぎゅうぎゅうに私を抱きしめる。
「これ坊ちゃん、婚約するとはいえ、目覚めたばかりの淑女に抱きついてはいけません」
「クワ-」
サディアス様に抱きしめられたまま、後ろから何かに押される。
何とか振り返ると、赤いボディーに、緑のクリクリしたかわいい瞳と眼があった。
!!
「ナル?」
「クワ-」
ナルが、グイグイと私に頭をする付ける。
ナルの後ろには、壁に空いた大きな穴と、なるより一回り大きい、黒いボディーに金色の瞳のドラゴン。
「わあ、あなたがコア?」
二頭に手を伸ばそうとするが、サディアス様に抱きしめられていて、手が伸ばせない。
「おい、サディアス!とにかく一度離れろ」
サディアス様は、ハーワード侯爵様に引きはがされた。
解放された私は、ナルに手を伸ばそうとして、自分の右手が何かを握っていることに気がつく。
私の手には…………三つ編みにされた10㎝ほどの、銀色の髪。
「わー。もしかして私、サディアス様の髪をむしりました?」
「ふふふ。」
「ははははは」
私の叫びに、みんながお腹を抱えて笑う。
うぅ~。なになに!
✿ ✿ ✿
その後、男性の皆様は、マーサさんに追い出され。
私はマーサさんに、お支度してもらいながら…………。
ナルがコアを呼びに行くために、テラスに出るための窓と共に壁をぶち破ったこと。
ナルとコアは番なこと。
私が握って離さない、サディアス様の髪を、ご自身が切ったこと。
プティ公爵家の家族が代わる代わる、私の顔を覗きに来ていたことなどなど。
私が、眼を閉じてる間の出来事を、沢山教えてくれた。
「それにしても派手な目覚めでしたね。もう、おでこは痛みませんか?ふふ」
私は目覚めるとともに、勢いよく起き上がり、私を覗きこむようにしていた、サディアス様と、見事にごっつんこした。
マーサさんが私のおでこに、薬を塗りながら笑う。
「不細工でもそばに居たいですー。ふふふふふ。坊ちゃんは、身内の欲目を覗いても、男前だと思いますがね。ふふふ」
3日間も動けないでいた私は、過保護な、サディアス様とマーサに甘やかされて、侯爵家の庭に出るまでに7日を要した。
更に10日間、庭での訓練期間を経て、今日!
ついにサディアス様と一緒に、コアの背中に乗せてもらう。
「わー。コア、ナル♪今日はよろしくね」
「「クワ-」」
二頭をなでなでしていると、サディが渋い顔をしてやってきた。
「パメラ。今日、ウインザー伯爵令息とサリバン伯爵令嬢の処分が確定し、北部の収容所で生涯を過ごすことが決まった、少し前に馬車で出発したそうだ」
「そう…………。」
「何か言いたいことがあるなら、馬車を停めるが」
サディの真剣な眼差し。
「特に話したいことはありませんが、できるなら私と同じ様に、高いところから落ちてみたらいいわ!とは思います」
私がにっこり微笑むと、サディもにっこり。
「よし、同じ思いを味合わせてやろう」
「「クワ-」」
ナルとコアも、声をそろえて鳴く。
「よし、行くぞ」
サディが、コアにまたがり私に手を伸ばす。
私は、サディの大きな手に自分の手を重ねた。
「さあ行くぞ」
「「クワ-」」
声と共に、コアが空に舞い上がる。
「わー。凄い~」
下に見える屋敷が、どんどん小さくなる。
「パメラ、怖くないか?」
「はい。気持ちいいし、楽しいです」
「ははは、さすが、あの崖から大ジャンプするだけのことはある」
私の体は、サディにしっかり包まれているから、全然怖くない。
「じゃあ、早速お返しに行くか」
みんなで、北に向かう街道を目指す。
「あれだな」
サディが指さす先に、小さな馬車が見えた。
近づいて、サディが騎士と従者に話しかける。
「急ぎのところ悪いが、少しばかりこの馬車の二人に、仮を返したいのだが、一度降りてもらえないだろうか」
「これはサディアス様、畏まりました」
サディと、騎士様は知り合いなのね。
騎士と従者が、馬車を下りる。
「よし、コア!行くぞ」
「クワ-」
コアが大きな声で鳴いて、馬車をガシリと両足で掴む。
コアは馬車をガサガサと揺らしながら、空に飛びあがる。
「わーなんだ」
「きゃー馬車が浮いてる」
馬車の中には、後ろ手に縛られたままの、リロイ様とロージー様。
「よし、そろそろいいかな」
サディの合図とともに、コアは馬車を離す。
「「ぎゃあああああああ」」
断末魔の様な叫び声と共に、馬車が落ちていく。
地上すれすれで、ナルが馬車を受け止めた。
ナルはゆっくりと馬車を地面に降ろしたが………それだけでは気に入らなかったのか、ナルは少しだけ馬車を持ち上げて、ガサガサと揺する。
「痛い!やめてくれ」
「キャー」
ふたりが馬車の中で、ゴロゴロと転がり、ぶつかり合うのが見える。
「ふふ。ナル、もう充分よ」
私の声に、ナルは漸く馬車を地面に降ろした。
「やあ、待たせてすまなかった、後は頼んだ」
騎士様に馬車を任せ、私達はまた空に飛び出した。
「パメラ。すっきりしたか?」
私のお腹に回した、サディの腕に力が入る。
「うーん。すっきりはしましたが、一番の仕返しは、私が幸せになることかな」
そう言って私は、サディの頬にキスをした。
~ 終わり ~
(*''ω''*)




