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第七話 私は神に呪われている!

 春も間近のある日のこと、私は毎度おなじみファーストフード店の窓際の席にいた。

 恒例の呼び出しである。ちなみに相手はエスパダの主将・藍川(あいかわ)君だ。

 べつに驚きはない。もうここまで来たらエスパダコンプリートするだろうと思ったし。

 そもそも新垣君の相談受けた時点から強制イベント発生してたんじゃなかろうかな。

 エスパダ全員告らせるまで帰れません的な。いや逆に告られたやついたけど。

 ちなみにもう関西住みの藍川君が東京にいるのに驚いたりはしないぞ。奴ならそれくらいの財力あるしな。行動力もな。

 私はずぞぞ、と音を立ててバニラシェイクをすすりながら、向かいの席に座った藍川君の顔を見た。

 います。もう既にいます。さっきから思い悩んだ顔で黙ってらっしゃるだけで。

 でもなんか顔が赤い。もじもじしてる。

 その時点でもう察しつくわ。そもそもほかのやつらから聞いてきたなら恋愛相談だろうしもう恋愛フラグパイセンのお導きだろうしさあ。

 それで藍川君と来たら相手なんてすぐわかるじゃん?

 ほらなんかいるだろ見た目だけは薄倖そうな我の強いパイセンがよぉ。

「あの、実は、好きなひとがいまして…」

井原(いはら)さん?」

「わかるんですか!?」

 ほらな。

 もう私はこのくらいじゃ驚き桃の木山椒の木ませんのことよザマァ神様なにがだ

「わからいでか。

 で、告白すべきか悩んでるの?」

 はいはいもう慣れた展開なのでちゃっちゃと行きましょうね~。

 断じて投げやりになってるわけじゃありません。嘘だ超投げやりです☆

「…それもあります、が」

「インターハイのこと気にしてるの?」

 井原さんは三年だから、その試合で負けたことを気にしているのかね、と思ったのだが。

「…それはなくはないんですが、その、井原さんは、それをひっくるめて『ありがとう』と言ってくれましたし」

 はいあったね。そんなのあったね。ぽ、と頬を赤らめてもじもじする藍川君は可愛いが私はもう死んだ目になっている。井原さん並にハイライト失せてる。

 だってぶっちゃけめんどい。

 おまえ最初の頼れるお姉さんキャラどこにおいてきた?って言われそうだけど恋愛地蔵扱いされていい加減にならずにいられるか。もういいわ私は自由に生きるぞヒャッハー(自棄)。

「ただ、『オレには関わらずそっとしといてくれ』と言われてしまった手前、どうしようかと」

「あー…」

「やはり、卒業式のあとに伝説の木的な場所で告白すべきでしょうか」

「おい誰だ藍川様に伝説の木とかインストールしたのそうか井原さんか」

 思わずツッコんでしまったがよく考えなくても愚問だった。一人しかいねえよそれ。

 井原さんオタクだもんな!この純粋培養名家の御曹司、気品あふれるイケメン藍川君にオタクの知識インストールした張本人だもんな!

「それにやはりせっかく、同じ学校内にいられる残りわずかな時間を無駄にしたくないですし、…オレは井原さんには『女なら理想のヒロインなのにやり直し!』って言われてますから、やはり男だと厳しいでしょうか…」

「うーん…」

 なんと答えるべきかなあ、と悩んだ。

 つったって私、出来ることなくね?

 だって相手は関西におわすわけで、ていうか私に相談した時点で恋愛フラグパイセンがアップ始めてるはずだからもう私はミッションコンプリートじゃね?

 と思いたいが最近、恋愛フラグパイセンがサボってるからなあ、と天井を仰いで考えた私だったが。




 その翌日、私は秋葉原にいた。

 日曜日で学校はお休み。部活も休み。

 買い物ではない。人との待ち合わせだ。

 ネットの交流サイトで仲良くなったフォロワーさんと会う約束をしていたのだ。

 しかし待ち合わせ場所に佇んでいらっしゃった人物を見て私は死んだ目になった。

 今にも消え入りそうなほど幸薄そうな銀髪の長身の美青年。


 そう来たか。


 まあ奇妙な既視感というか、予感は感じていたのだ。

 相手のHNが「まゆゆ」だからだ。

 井原さんの名前は「眉」だから二次創作でも「まゆゆ」と呼ばれていたのは知ってるし、昨日の今日だ。強制イベント発生する予感はしていた。

 しかしおまえか。やはりおまえか。相手が人間の形保ってるとかどうとかの話じゃねえ。人間の形保っててもフップリキャラはもうおなかいっぱいなんだおかわりいらない。

 とか現実逃避してたら井原さんがこっちに気づいて目を見開いた。

 そりゃそうだろう。私は旭丘マネージャー。大会で顔は合わせている。

 井原さんは「まさか」という目で私を見た。私はこくり、と頷く。

 残念だがそういうことだ。

「…おまえだったのか」

「私だ」

「信じていたのに」

「ちょっと待ってくれ。

 誤解だ」

「よくも騙したな!」

「それはこっちの台詞だ!

 まんまと私を騙しやがって!」

「暇をもてあました」

「神々の」

「「遊び」」

 示し合わせてもいないのにコントのような応酬を繰り広げたところでお互い一息。

 そして、

「なんでおまえがいるんだよ!」

 文句言われた。

「それはこっちの台詞だわ!

 まゆゆとか名乗ってて自販機サイズの男子が来ると普通思うか!

 みんなの視線をいただきまゆゆじゃなくみんなの視線をいただけない井原だろうが!」

「バカにするな!

 インターハイ決勝戦ののときは視聴率100%だったわ!

 まさにみんなの視線をいただきまくり井原だったわ!」

「井原さん、それ黒歴史じゃね?

 ミスって視聴率100%になったんだろ?自虐して楽しいかね?」

「うぐぅ」

 痛いところ突いたらめっちゃ渋い顔された。悪かったよ。

 普通に気安い言葉遣いになってしまったのは驚いたせいもあるが、私の中身がアラサーだからなせいもある。

 今は井原さんのほうが年上なんだがな。

「つ、つかおまえだってHN、ラブ☆ブッダってなんだよ!」

「恋愛地蔵の英訳(超意訳)だよ!」

「地蔵は地蔵であって仏像じゃねーしそもそもブッダは仏像の名前じゃねーしそもそも英語ですらない」

「うぐぅ」

 なんか逆に痛いところ突かれた。

 確かにそうだけどもう自棄だったんだもん!

「つかなんで恋愛地蔵なんだよ」

「いや、最近めっちゃ恋愛相談されるっていうか私に相談するとフラグが建つ的なアレで恋愛地蔵な」

「いっそそれならラブ☆ゴッドにすりゃいいのに」

「その手があったか」

「素直かよ」

 思わずぽん、と手を打ったら真顔でツッコまれた。いいじゃん。

 ひとまず混み合う道でいつまでも雑談してんのもアレなので喫茶店に移動することにした。




「しっかしこのタイミングで井原さんかー」

 アイスコーヒーを一口飲んでから「ふう」と息を吐いてつぶやいた私に井原さんが「タイミング?」と首をかしげた。

 私は据わった目で井原さんを見つめ、

「実は私は、今流行の転生ヒロイン()ってやつなんだ」

「な、ナンダッテー!?」

「白々しいリアクションやめよう。

 なにこいつ藍川様と一緒で痛いとか思っただろ」

「テヘペロ☆

 って言えばいいの?

 まあ藍川様みたいなの来たと思ったけど」

「信じるか信じないかはあなた次第です」

「ホラードラマみたいな台詞言うなよ」

「まあひとまず転生ヒロインだと思ってたのね?

 そしたらポジションがエスパダの恋愛地蔵だったときの私の気持ちを答えよ」

「こんなの絶対おかしいよ?」

「代弁ありがとう疑問符はいらない」

 井原さんはまだ半信半疑というか「こいつマジかよ」とまるで厨二病最盛期の藍川君を見るかのようなまなざしを向けている。ちょっと傷つく。

「まあアレだよね。

 物欲センサー的な」

「物欲センサー」

「逆ハーを所望したらBL展開がやってきます」

「なるほど物欲センサー」

「ひとは所詮、運命に抗えないしもべなのだ」

「物欲センサーを無駄にかっこいい言い方するのやめよう」

「まあともかく、厨二病最盛期の藍川君を間近で見た井原さんならばある程度受け入れられるかなって」

「否定はしない」

 井原さんはアイスティーを飲んでから「まあ藍川様のほうが痛い」と肯定した。

 そこは否定してやろうや先輩。まあ否定出来ないくらい藍川君アレだったけどさあ。

「ていうか一個いいかね?」

「なんだねワトソン君」

「ラブ☆ゴッドでお願いする。

 ともかくきみ、ネットで私に恋愛相談してたじゃん?

 同じ学校で好きな子がいると」

「あっ」

 井原さんは今更にそのことを思い出したのか「しまった」みたいな顔をした。

 そう、実は恋愛相談されてたのだ。そのときは相手がまさか井原さんだと思っていなかったから普通に聞いていたのだが。

「相手は藍川君ですよね?」

「なぜバレたし?」

「なぜバレないと思ったし?

 ラノベヒロインみたいなって条件の時点で丸わかりだろうJK」

「しくじった!」

 井原さんは死にまくった表情筋に最大限の驚愕(でもやっぱ死んでる)を浮かべて言うが、私の目もきっと死んでいた。

 両思いじゃないですかやだー。

「言いたかないんですがね、私に相談したらもうアウトだから」

「え?

 縁切り神かなんかなの?」

「むしろ逆だよラブ☆ゴッドだもん。

 恋愛地蔵だもん。

 だから言ったじゃん物欲センサーなんだって。

 私は自分の恋愛フラグを建てたいんであってヤロウどもの恋愛フラグ建設したいわけじゃない!」

「切実な叫び」

「どっきりどっきりドンドンなことが起こったらいいなと思う。

 私の恋愛的な意味で」

「不思議な力が湧いたらどーする?」

「不思議な力はもう湧いてるし要らない」

 確かに不思議な力は湧いてるがその力は要らない。どーするじゃねーよどーにかしろよ。

「そして覚悟しよう。

 私に出会ってしまったからにはもう恋愛フラグパイセンがアップを始めた。

 近いうち強制イベント発生するよ!

 トゥルーエンドまで一直線強制だよやったねたえちゃん!」

「わぁいなんだって?(白目)」

「誰も逃れられない」

「ホラーかよ」

 ホラーです。誰も逃げられないし逃がさない。覚悟しろ。

「あ、でも最近フラグパイセンちょっと仕事が雑になってるからわかんないかも」

「なにそれ」

「サボってるんだよねなんか。

 手を抜いてるみたいな、むしろソシャゲの片手間にやってるみたいな」

「ソシャゲ」

「ソシャゲの片手間。

 じゃなきゃストーカーとかにんじんとかびっくりするほどユートピアと亀甲マンとかおかしいじゃん?」

「なんの説明もないし意味わかんないけどテラシュールでカオスな事態があったのは把握した」

 さすが井原さん理解が早い。さすがラノオタ。あの厨二の帝王藍川君の相棒だ。

 まあ話半分に聞いてる部分もあるだろうが。

「まあ井原さんは相手があの帝王様だから、相当アレな強制イベントが起こるかもしれんが」

「やめてとてもありそうで怖くて夜しか眠れない」

「寝てんじゃん」

「ぶっちゃけ藍川様に怯えてたらうちの学校で生活出来ない。

 あいつ普段から絶賛強制イベント発令中だから」

「マジか恋愛フラグパイセンの仕事ないじゃん。

 やったね恋愛フラグパイセン!今回は堂々とサボれるよ!

 なんなら昼寝ついでに二度寝しても良くってよ!」

「こやつ、煽りよる」

 とかとんちんかんな会話しながら食事するじゃん?終わって会計して店を出るじゃん?

「おいおまえら一緒に来い!」

「こいつらの命が惜しかったらおとなしくしろ!」

 いきなり走ってきた男たちに羽交い締めにされる私と井原さん。

 近場の銀行から出て来たいかにもな強盗犯の人質にされました(死んだ目)。




 そして現在、男たちの車に乗せられ道を逃走中です。

 びっくりです。まさかの強盗。こんなことがあっていいのか。

 と思ったがまさかこれ、強制イベントじゃなかろうな?

 藍川様強制イベントじゃね?

 だって人質にされる寸前、井原さんに藍川君から電話かかってきてたのよ。

 井原さん、電話に出てたのよ。つまり藍川君は井原さんが人質になったこと知ってる。スマートフォンがあればGPS追跡は可能です。そして藍川君は昨日の今日なのでたぶんまだ東京にいる。

 やばい完全に藍川様強制イベントだ!

 まさかこのタイミングで恋愛フラグパイセンが仕事してきた!?今までのエスパダたちとは段違いの力の入りようじゃねーか!どうした恋愛フラグパイセン!私が煽ったからか!?

「やべーどうしようこれ」

「たぶんこれ藍川様強制イベントだから命は保証される」

 後部座席に並んで座ったまま井原さんがぼそっとつぶやいたので私も小声で返した。

 腕だけ縛られてるけどそれ以外は自由です。だってけっこう速度出てるし。

「それ以外は保証されないって副音声が聞こえた」

「うん、それ以外はたぶん保証されない」

「ダメじゃん」

「ごめんなさい井原先輩」

「え、なんか嫌な予感」

「懺悔します。

 私がさっき二度寝していいとか煽っちゃったからさー。


 恋愛フラグパイセン、本気出しちゃったっぽい☆」


「なにしてくれちゃってんの。

 なにしてくれちゃってんのマジで」

「たぶん私にバカにされたと思った恋愛フラグパイセン激おこ☆」

「ほんとなにしてくれちゃってんの。

 オレ気配殺すのくせだから普段ならスルーされるはずなのに!」

「だから言っただろ私と話した時点で強制イベント発生だって残念だったなあ!

 強制イベントの前では井原さんのスキルなど無意味!」

「ちくしょう!」

「おまえら静かにしろ!

 立場わかってんのか!」

「アッ、ハイ」

「ハイ」

 しまった先生みたいなテンションで強盗に怒られた。つい返事が生徒みたいなノリになりましたハイ。そういやまだ人質だったね私ら。

 あんまり危機感がないのは藍川様強制イベントだろうと思ってるからなのか現実逃避なのか。

 とか考えてたらふと、車の後方になにかいるのに気づいた。

 車の通りの少ない山道を走っているんだが、なんか後ろからマウンテンバイクが接近して来てる。

 しかもクソ速い。髪が赤い。そしてなぜか顔にガスマスク。


 な ん か い る !


「井原さんなんかいる!後ろなにかいる!」

「うぎゃあなんかやばいのいる!」

 思わず叫んだよね。井原さんも気づいて悲鳴上げたよね。

「ああああああああれなに!?

 なんでガスマスク!?」

「知らん!

 あ、今日の藍川様のラッキーアイテムがガスマスク!

 たぶん赤坂に渡された!」

「なにしてくれとんじゃあのにんじん!

 てゆーかあれガチで藍川君か!?赤いのは赤神君もいるが!?」

「赤いから藍川様たぶん!」

「判定ざっくり!」

「赤くてちっさいから藍川様です!」

「おまえ死ぬぞ?」

 思わず真顔になってマジレスしちゃったけどまあ井原さんも混乱の極みだったんだろう。

 そりゃ強盗の人質になったあげくガスマスクした後輩(それも好きなひと)がマウンテンバイクで追ってきたらパニクるだろう。意味わかんねーよどこのどっきりびっくりとんでもゲームの世界だ。超次元テニヌの世界か。アレならありそうだぞ。

「おいなんだあれおまえらの知り合いか!?」

「まったく縁もゆかりもない他人です」

「ぼく無関係です」

「嘘吐けえええええ!」

 なんか強盗さんに聞かれたから本気で答えたら嘘つき呼ばわりされた大人って汚い。

 いや私も中見はアラサーだけどさ!

「まあ嘘つき呼ばわりしたくもなるだろうがアレ知り合いって言いたくなる!?

 ガスマスクで追跡してくるやつ知り合いだと認めたいかああん!?」

「わ、悪い」

「おまえなに強盗謝らせてんだ」

「ごめんつい」

 しまったついチンピラみたいに凄んじゃった。でも律儀に謝るなよ強盗さんも。

 井原さんに真顔でツッコまれたわ。

「え、ちょっと待って速度いくつ!?

 いくつ出てる!?」

「えっ、あ、70キロ!」

「バカなに律儀に答えてんだ!」

「だって自転車で追いかけてくるおかしなやつがいるんだぜ!?

 ガスマスクで!」

「まあそりゃそうだけどさあ!」

 なんか強盗さんたちが喧嘩してる。運転してるほうが私に謝ったほうに文句言ってる。

 いやでもパニクるだろうアレは。

「え!?

 いくらマウンテンバイクとはいえ自転車で70キロ出せる!?」

「アスリートとかなら70キロ以上出せるらしいぞ。

 しかも今、ちょうど下り坂だから余計速度出ると思う。

 徐々に距離が縮まってるってことは時速70キロ以上出てるはずだし」

「ぎゃーサタンと書いて藍川様と読む!!!」

 私の叫びに井原さんが真顔で答えた。一周回って冷静になったのだろうか。それともやはり帝王様の奇行に慣れたスタメンはメンタルがちがうのか。

「逃げて!

 もっとスピード上げて!

 追いつかれる!」

「待ってあれおまえらの仲間じゃねえの!?」

「ガスマスク装備して車を煽る知り合いはいらん!」

「やべえ正論!」

 そして強盗さんなかなかノリが良い。私の懇願に普通に答えてくれてる。

 まあ混乱した結果かもしれんが。

 でも自転車はどんどん迫ってくる。DANDANサタン近くなる。

 ガスマスク男が追いかけてくるとかどこのスリラー映画だ。

 いつからここはスリラー映画の世界になったんだ。

 あれか。

 私が恋愛フラグパイセンという名の神に喧嘩売ったからか。

 すいません調子こいてました許して許せ許してくださいお願いします私はあなた様のしもべ仰せのままにユアハイネス、とか必死で懇願してたら井原さんが隣で「あ」と茫然とした声を漏らした。

「え?」

 私は思わず視線を背後に向け、固まった。

 マウンテンバイクに、誰も乗っていない。あれ、サタンはどこに?と思った矢先に車の天井にずしん、と衝撃が来た。

 思考が停止しました。時間も止まった気がします。

「アアアアアアアアアアイエエエエエエエエエエエエエまさか跳び乗ってきたああああああああ!?」

「藍川様マジ藍川様」

「おまえはハリウッド俳優かああああああああああああああ!」

「そんなおまえにこの魔法の言葉を捧げます。

『藍川様だから』」

「だよな知ってたちくしょう!」

 だよな藍川様だもんな!藍川様ならやるよな!だって藍川様だもんな!

 スリラー映画の主人公ばりに絶叫した私の横で井原さんはもう現実逃避してる。

 私も行きたい夢の世界へ。うふっふ~夢の中へ~(自棄)。

 そしてばん、とフロントガラスに突く手。まるでホラー。ぬっと顔を覗かせたガスマスク男。これがホラーでなくてなんという。ジェイソンか。

 強盗たちも恐怖で固まっていた。

 そのあとのことはお察しください。帝王様と恋愛フラグパイセンを敵に回して勝てると思うなよ。




 どうにか停車したあと、縛られた強盗を余所に藍川様はまるで王子様のような雰囲気で井原さんにやさしく「だいじょうぶか?」と尋ねていらっしゃいます。

 なんて素敵な王子様でしょう。ヒロインのピンチに颯爽と駆けつける王子様とかどこの乙女ゲーム。ただしヒロインは男だし王子様はガスマスクです。もうガスマスク取れよ。

 井原さんのピンチだったからか敬語取れてんな。

 つかあんなハリウッド映画並のことしたあとなのに元気だな。あれ普通に危ないぞ。

 良い子はマネしちゃいけないよ!まず普通マネ出来ないけどな!

「あ、ああ。

 藍川…。

 どうして…」

「そんなの、決まってるじゃないか。

 井原のためならどこへでも来るよ」

「…藍川」

 あ、胸きゅんするんか。出来るんか胸きゅん。相手はガスマスクだぞ。

 井原さん普通にトゥンクしてんな。

「おまえが人質になったと知ったとき、生きた心地がしなかった。

 これからはオレが一生守る。

 付き合ってくれ!」

「…藍川…!」

 あ、ハイ。二人の世界完成です。強盗と私がまだ車にいるの忘れてるな。

 二人のために世界はあるの。あるったらあるの。だから私は放っておけおいてくださいお願いします!

 そう私は五体立地で恋愛フラグパイセンに懇願した。


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