第五話 びっくりするほどユートピア
どうも、こんにちは。
徐々に春の兆しが見え始めた今日この頃、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
私は今日も今日とてあのファーストフード店にいます。すっかり窓際が指定席。店員さんのまなざしがなにやらなま暖かいのは気のせいか。
赤坂君のにんじん事件から早数週間。私は再び呼び出しという名の強制イベントを受けてここにおります。
はい、お気づきでしょうか。かなり投げやりになっているヒロイン()です。
だってもう私、ただの恋愛地蔵じゃん。参拝したら強制イベント発生する的なやつじゃん。
むしろあれかな。某有名ギャルゲーの伝説の木的なやつかな。
これまでのことをプレイバックしてみよう。
そうこのヒロイン()。特になにもしてない。
すがすがしいほどなにもしておりません。
がんばってるのはフラグパイセンです。
これのどこが祝福なんだ神様よ。
いや呪いじゃねーか。
暇を持て余した神々の災いだよ。
伝説の木や恋愛地蔵目線で見たら次々にカップルが寄ってくるわけじゃん。呼ばなくても向こうから来るわけじゃん。お願いです静かにして。私、ひっそりと暮らしたい。
「…しかし、鳴瀬君からの呼び出しなあ…」
私はフライドポテトをつまみながらスマートフォンの画面を眺める。
鳴瀬君はもう稲代センパイとうまくいったわけだし、今更なんの用事だ?
とか考えていたら入店音が響いて鳴瀬君がやってき──。
「お待たせしたっス先輩!」
「お待たせ~」
キラキラっとした効果音で手を振った金髪の後輩の背後に、ぬぼっと立つ紺色の髪の巨人。
な ん か い る
「鳴瀬君!鳴瀬君!
後ろ!後ろになにかいる!」
「はい!乙葉召還っス!」
「しちゃダメじゃん!
なんでいんのきみ東北住みだろ!?
東北の妖精だろ!?」
「家族の都合でちょっとこっち来たから相談に~?」
思わず背後霊みたいな扱いをしてしまったが巨人──もとい、乙葉君は気にした様子なくのんびりと答えてくれた。
いやなんとなく予期していたさ。もうここまで来たら残りのエスパダも来るだろう、と。
でも東北住みのやつがそんなホイホイ来れるとか思ってなかったっていうかさあ。
つかトレイに載ってるのほぼアップルパイじゃねーか。アップルパイばっかそんな大量に食う気かね。ほんと甘いもの好きだな。
まあ、うん、鳴瀬君は普通のハンバーガーセットだ。
向かいの席に座った二人を見上げ、私はつい胡乱な目になりつつ、
「で、好きなひとの相談かね?
氷上君かな?」
と速攻切り出した。
「すっごい!
なんでわかるんだし!」
わ か ら い で か
ここまで来たらもうわかるわ!恋愛相談以外にないだろ!きみの相棒なんて氷上君しかおらんやろ!
「だから言ったでしょ乙葉!
先輩はすごいんすよ!
恋愛マスターなんす!先輩に相談したらきっとうまく行くっすよ!
むしろ恋愛地蔵っす!」
「おいやめろエスパダ公認恋愛地蔵とかいう称号いらんわ」
なんだこれ。逆ハー夢見て転生したら立ち位置恋愛地蔵とか意味わかんねーよ。
もうこれやっぱり神様に呪われてんだな(遠い目)。
「じゃあ氷上先輩とうまく行きますように!」
「拝まれたー」
とうとう面と向かって合掌して拝まれました恋愛地蔵です(白目)。
つい棒読みで死んだ目でつぶやいたら鳴瀬君が吹いた。黙れきみが連れてきたんだろ。
とはいえここまで来たらもう逃げられないのはよくわかっているのでひとまず話を聞くことにした。
「で、氷上さんに告白したいの?」
「したいんだけど~、…………難易度高すぎなんだし」
なんか乙葉君のテンションが一気に下がった。ジェットコースター並に下がった。
「まあ、そりゃあ同性への告白はハードル高いだろうけど…」
「そうじゃないんだし」
「うん?」
「びっくりするほどユートピアなんだし」
ほわっつ?
おい待て今なんつった。ナチュラルに「ファッ!?」とか言いそうになったじゃねーか。
そして事情を知ってるらしい黄色い駄犬は吹いてないで説明しろや。
「………………び、びっくりするほどユートピアが、なに?」
声が震えました。そこはかとなくどころではなく嫌な予感マックス。
なぜそこで除霊のための謎儀式が出て来たか?
「氷上先輩に告白するためにはびっくりするほどユートピアしなきゃいけないんだし」
「意味がわからないよ!」
私は思わず叫んだ。鳴瀬君と店員さんが吹いた。ほんと奇っ怪な客で申し訳ない。
「え?なに?
君の高校では告白の際にそんな奇っ怪な儀式をしなきゃいけない伝統でもあるの!?
旭丘みたいに屋上から全裸で告白みたいな伝統があんの!?」
「ないけど~」
「ないんか!」
「でもしなきゃいけないんだし」
「ちょーっとお姉さん意味わかんないから最初から説明しよう頼むぞ」
思わず据わった目になりながら凄むと、乙葉君は悩みながら、
「氷上先輩、すごいモテるんだし」
と話し出した。
「女子にもモテるけど男子にもモテるんだよね~。
そんで転校してきたばっかのころに無理強いしようとしたバカ男がいて~」
「うわあ最低だなその男」
「まあそいつは氷上先輩が股間蹴って撃退したけど~」
「さすが氷上さん容赦ない」
「それまでにも何度も男に言い寄られていてうんざりした氷上先輩が『オレと付き合いたかったらびっくりするほどユートピアをやりながら告白しろ!』とおっしゃったんだし」
「なるほど把握!」
私は逆ギレ気味に頷いた。
そういう理由な!まあそれはそう言いたくもなるな!襲われかかってんじゃな!貞操かかってるもんな!
だがひとつ言わせてくれ。
「なんで帰国子女の氷上さんがびっくりするほどユートピア知ってたの!
教えたの誰!」
「部の先輩」
「デスヨネ!!!!!!!」
バカ!私のバカ!完全な愚問じゃねーか!
誰が教えたかなんて聞かずともわかるわ!部の先輩しかいねーよそんなの!
デスヨネ!あの部愉快な先輩多いから言いそうだよね!
「…ま、まあ、それじゃあ、告白しにくいよね…」
私は顔を引きつらせながら言ったが「しにくい」どころの話ではない。
難易度ナイトメアじゃねーか。無理ゲーですよおい。
「しかもそれを人前でやらないといけないんだし」
「はい終了!」
私は投げやりに叫んだ。なんだ鬼畜か。屋上で全裸で告白以上の鬼畜や。
いやいやどうにか、ならんな!びっくりするほどユートピアはならんな!
いやどうにもならんだろびっくりするほどユートピアは!
びっくりするほどユートピアはあかんだろ!
全裸で屋上で告白よりあかんわやばいわ。
どうした恋愛フラグパイセンよ。
今こそ出番じゃないのか。
カモン恋愛フラグパイセン!
………………………………………………。
あれっ、なんも起こらない!
恋愛フラグパイセンや、最近ちょっと雑すぎとか思ってたがまさかサボってね?
「しかも」
「えっ、うそまだなにかあんの!?
あの難易度ナイトメアにまだなにか足すの!?カオス足すの!?」
「ガチでびっくりするほどユートピアを実行しようとしたバカがいたから条件増えたんだし」
「バカなのかその男は!」
全力で叫びました。鳴瀬君がまた吹いた。
店員さんから見れば迷惑極まりない客だろうが店員さんは爆笑しているのでモーマンタイです。ほかにお客さんいないし。神の思し召しだ。
「手段を選べよ!そこは選ばないとあかんだろ!
おまえバカなのかこのSNS全盛期にそんなことやったら一生残るぞアホか!」
「まあ実行寸前で先生に連行されたから条件クリアはしてないし、氷上先輩もそいつと付き合わずに済んだんだけど~。
そんでびっくりするほどユートピアに亀甲縛りもプラスされたんだし」
「ガチの変態じゃねーか!」
乙葉君は死にそうな顔で言っているが鳴瀬君は呼吸困難に陥るほど爆笑している。
仮にもきみが連れてきたんじゃないのか。他人事だなこのイケメン。
しかしやべえ。やばいどころじゃない。
難易度ナイトメアが難易度ルナティックに爆上げしましたよ。
まず全裸になって自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむいて「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」とハイトーンで連呼しなきゃいけない上に亀甲縛りしないと攻略不可能。
うん、ルナティックだな!むしろ攻略不可能だな!
亀甲マンにならないと氷上ルート開示されないとかおにちく。
そうか今こそ恋愛フラグパイセンの出番だな!さあ待ってましたよ恋愛フラグパイセン!どうぞそのお力を示したまえ!
って内心拝んだけどなにも起きないんですが。起きないんですが(白目)。
おかしいな今までの流れなら問答無用で強制イベント発生したのにな!?
あれ、まさか恋愛フラグパイセン寝てる!?
「そんな亀甲マンでびっくりするほどユートピアとかおにちくじゃん!
どうしろと!」
「そんなどっかの醤油みたいな言い方するのやめてください!」
うるさいきみはだまらっしゃい金髪イケメン。腹抱えながらツッコむな。
「オレは、オレは本気で氷上先輩が好きなの…!
綺麗なとこも男前なとこも努力家なとこもどっかずれたとこも本気で愛してるんだし!
でも、でも…っ」
乙葉君はばん、とテーブルを叩いて瞳を潤ませた。
「さすがにオレにはそれは無理なんだし…!
オレの、オレの愛が足りないから!」
「いやいやいや落ち着こう乙葉君!
きみの愛が劣ってるわけじゃない!きみの愛が足りないわけじゃない!
それはまともな常人には不可能なんだよ!
難易度ルナティックどころの話じゃないんだよ!
まあきみらエスパダも常人には理解しがたい変人ではあるけど!」
「先輩なんでいっかいわざわざトドメ刺したんすか?」
「ともかくそれは変人でも実行不可能です!」
「今はっきり変人って言ったっすよ!?」
黙れ金髪ゴールデンレトリバー。おまえも変人のカテゴリーだ。残念だったな。
まあいくらエスパダが奇人変人の集まりだろうと亀甲マンとびっくりするほどユートピアは無理だ。変人にもなくしちゃいけないものがある。
私はひとまず落ち着こうと椅子に座り直し、アイスコーヒーを一口飲む。
「…あのさ、身内割りとか効かないかな?
友達割みたいな」
「そんな携帯の割引プランじゃないんすから」
「いやだって公衆の面前でそれやったら社会的に死ぬじゃん!?
ならせめて身内割りで二人きりの密室でとかならまだどうにか可能かもじゃん!?」
「まあ確かにそうっすけど」
「乙葉君は氷上君にとって相棒のようなかわいい後輩。
ならば身内割りは効くはず。
あとは亀甲縛り出来るひと探さなきゃだけど、出来るひと知り合いにいないかね?」
「先輩。
なんか投げやりになってないっすか?
そんな『着物の着付け出来るひといる?』みたいな言い方しなくても」
「これで投げやりにならずにいられるか。
びっくりするほどユートピアに亀甲マンやぞ」
「確かにわかるけどオレも投げやりになったけど!」
なにをおっしゃる鳴瀬君よ。正気を保ったまま出来るわけがなかろう。まず正気を失うところから始めます。
「…藍川君ならそういう伝手あんじゃね?」
「先輩は藍川っちをなんだと」
「猫型ロボット的なポジションかな」
「雑っ」
黙ってください雑なのは恋愛フラグパイセンです。
ガチで今回寝てやがる。私に投げっぱなしてサボって寝てやがる。肝心なときに仕事しやがらねえ。
というわけでひとまず藍川君に相談しような話になったはずだったんだが。
後日、
「ごめん~。
なんか普通に氷上先輩から告白されたんだし~。
オレ以外と付き合いたくないから無理難題突きつけてたんだって~。
えへへ~」
という電話でもわかるデレデレな声で交際報告されました。
私はいろいろ言いたい気持ちをぐっと堪え、
「で?
氷上さんはびっくりするほどユートピアで亀甲マンだったの?」
と聞きました。普通の格好だったそうです。だよね。
びっくりするほどユートピアと亀甲マンのくだり必要ねえじゃん最後に起きて適当な仕事したな恋愛フラグパイセン!最初から起きてろや!と夕陽に向かって叫びたいヒロイン()でした。




