第二話 DANDAN地蔵スタンバイ
「あの、実は相談があるんすけど!」
新垣君と赤神君が交際開始してから一週間後。
私は再びファーストフード店にて、今度は顔を真っ赤にしたエスパダの一人、こと鳴瀬君にそう言われていた。
はいこの展開デジャブ!一週間くらい前に見た光景だね!
またもや運良く(?)ファーストフード店にはほかに客がおらず、店内には鳴瀬君と私のみ。
なんだこのお膳立て状態。いやべつの意味でのお膳立てだろうけど。
「あの、オレ、新垣に聞いたんすよ。
先輩のおかげで赤神と付き合えたって」
いや、私はなんにもしてないがな?主にやらかしてくれたのあの女子でな?
ていうか天の流れに任せたらああなっただけで、ぶっちゃけあの二人、私がなにもしなくてもくっついたぞ?
二人がくっついてから気づいたけど、確かに赤神君わかりやすかったわ。
新垣君といつも一緒だし、新垣君がいないと探しに行くし、たまにわんこみたいに後を追っかけてるの見るし、口を開けば「新垣が~」「この前新垣とさ~」「そういえば新垣のよ~」と新垣君絡みの話ばっかだし、新垣君とほかの子が親しげに話してるとなんか不満げだし。
改めて二人にお礼を言われ、交際開始の報告を受けたときは私は内心死んだ。
がんばってマヤって「おめでとう!ぜったいうまくいくって思ってたわ!お幸せに!」って笑顔で祝福したけどな!
だからって追い打ちかけるなよ。やめろよ。これぜったい恋愛相談じゃねーか。
とかいう内心は顔には出さず、再びマヤモードで笑顔になる私。
そうがんばれ私。私は紅天女。
「相談ってなに?
私で良ければなんでも言って」
「あ、あの、実はオレ、好きなひとがいて」
うん、察してた。
「同じ部の先輩で、その、…ど、同性なんす」
おまえもかブルータス(死んだ目)。
なんだなんだ揃いも揃って!またか!おまえもか!
いやいやいや、まだあきらめるのは早いわ私!
新垣君たちのパターンはレアケース!
普通、なかなか同性に告白されて実はオレも、なんてひといない。
たぶん!…たぶん。
なら、親身になって支えてあげてフラれたあと傷心の鳴瀬君にアタックするのは王道展開じゃないか!?
よし、となればここは親身になって聞いてあげるしかない。
いやそもそも聞かないって選択肢が最初から出てない気がするけどね!?
とか長考してたら鳴瀬君は不安になったらしく、
「…や、やっぱり、気持ち悪いっすかね…」
と落ち込んだわんこのようなまなざしで見てきた。
おいやめろその捨て犬みたいな顔。アラサー女(中見)の母性を的確に刺激してくんな。「そんなわけないじゃない。
人間同士、愛し合うことになんの不自然があるのかしら。
同性とか関係ないほど素敵なひとなのね」
私はがんばってマヤになった。慈母のごとき笑顔でやさしく告げると鳴瀬君の顔がぱあっと輝く。
犬か。犬かきみは。ゴールデンレトリバーか。
垂れた耳と尻尾がぴんって立ったのが見えるようです。はい。
「は、はい!
そりゃもう素敵なひとなんすよ!
男前で格好良くてリーダーシップがあってでもかわいいとこもあって、ていうかオレよりちっさいし上目遣いとかかわいいんスけど!
あ、女子苦手なとこもかわいくって!」
オーケー。はい特定した。特定余裕ですた。
そもそも鳴瀬君って時点で好きになる男って限定される。
元東京国際中出身者か現在通っている樋ノ上高校スタメンの誰かになる。
それでその特徴って言ったら一人しかおらんがな。
稲代センパイじゃないですかやだー!
まあ原作からして懐いてたもんな。鳴瀬君(遠い目)。
「あっ、す、すんません。
ついテンション上がっちゃって」
「いいのよ。
なかなかこういった話はひとには言えないものね。
まして鳴瀬君はモテるし」
「…はい。
樋ノ上の先輩たちには言いにくいっていうか、あ、あの、先輩たちが誰かに吹聴するとか疑ってるわけじゃなくって、その」
「お互い知ってる相手だから言いにくいんでしょ?
というか、もしかして言ったら『稲代に手を出すな』とかって牽制されるんじゃ、って心配してるとか?
稲代さんには過保護そうだものね。主将だし」
「…あ、もう、バレちゃってます?」
「さっきの特徴でバレないと思ったか?」
「…あ、はい。すんません」
思わず素の口調が出た。
おまえさっきのでわからないと思ったか。フップリファンを舐めんなよ。
私は取り繕うように咳払いすると、
「ともかく、私は応援するわ。
出来る限り力になるから、安心して」
「あ、ありがとうございます!」
と先輩らしく微笑んでみせ、鳴瀬君がほっと安堵の息を吐く。
「しかし、稲代さんかー…。
鳴瀬君を可愛がってるのは当確だろうけど、他校生の私には詳しい状況がわからないわね…」
「あ、はい…。
後輩として可愛がられてはいるだろうなってのは、オレにも…。
でも、センパイ、女子が苦手だからって男が好きってことでもないだろうし…」
「そこなのよねー…」
私も鳴瀬君も腕を組んで悩んだ。
確かに稲代さんは女子が苦手だ。いやあれもう恐怖症レベルだろ!?ってくらいに苦手だ。
だからって男が好きかっていうとそうでもないだろうしなあ。
うーん、こればっかりは他校生の私には厳しいぞ。情報が少なすぎる。
ひとまず鳴瀬君に出来る限り情報を集めてもらおう、とその日は解散になった。
そしてそれからも部活のない日の放課後や週末にファーストフード店やカラオケボックスで鳴瀬君と会って情報交換して相談に乗ったものの、やはりいまいち進展が見られない。
だって鳴瀬君ってば、稲代さん好きすぎていまいち客観的な情報が得られないんだもの。
「このときの稲代センパイが可愛かった!」とか「稲代センパイほんと男前で!」とかそれはおまえの感想だろ。情報を寄越せって言ってんだよ。
そんなことを内心思いながらその日もやはり収穫はなく、カラオケボックス前で鳴瀬君と別れて帰路についた矢先だった。
「ちょっとあんた、いい?」
見知らぬ女子数人にいきなり囲まれた。しかもちょうど人気のない夜道で。
え?なにこの修羅場?
「あんたさ、最近鳴瀬君とよく会ってるみたいだけどどういうつもり?」
「そうよ。
鳴瀬君に馴れ馴れしいのよ」
「あんた、鳴瀬君のなんなの?
邪魔なんだけど」
あっ、これなんか勘違いされてるやつだ!私がなんか鳴瀬君と親しくしてると思われてるやつだ!
いやでもこういう修羅場展開は乙女ゲームでは王道じゃないか!?
ピンチに陥るヒロイン!そこに颯爽と現れるヒーロー!
そうか。ここで鳴瀬君が助けに来てくれて「実は相談なんて口実でオレはあんたが!」とかいう展開に!
「おまえらなにやってんだ!」
ほら!王道展開キター!
…ってちょっと待った。今の、明らかに鳴瀬君ボイスじゃなかったぞ?
ぎぎっと顔をブリキのように動かした私は駆け寄ってきた黒髪のイケメン男子が庇うように私の前に立ったのを見て茫然とした。
「こいつに話があるなら、お、オレを通してからにしろ!」
稲代センパイかよ!!!!!!!!
なんで鳴瀬君じゃないんだ!ていうかなぜあなたがここにいる!
しかも女子苦手だから盛大にどもってらっしゃる。センパイがんばって!
「だ、だってその女が鳴瀬君に…!」
「そんなの他人がいちいち割って入ることじゃねえ!
そんなことして鳴瀬が喜ぶと思ってんのか!」
「そ、それは、その…」
おお、さすがに稲代センパイ相手だと弱腰になるのね女子たちも。
まあ稲代センパイもイケメン男子だし、鳴瀬君の先輩だし、稲代センパイに手出しして鳴瀬君に伝わったらやばいもんね。
とか考えてたら女子たちはひとまずあきらめたのか去って行った。
ああ、やれやれ助かった。びっくりした。しかし、てっきり王道展開かと思っていたのになんだよ。
「だ、だいじょうぶか?」
「あ、はい。
というか、なぜあなたがここに…?」
「あ、いや、オレは、その」
「もしかして、あなたも鳴瀬君を心配して?」
「あっ」
もしかして頻繁に東京に行く後輩を心配して探しに来たのかな、という無難な予想だったのだが、ぶわりと真っ赤になった稲代センパイの顔を見て私の目は死んだ。
あれ、これアレや。前にも見たやつや。
盛大な既視感っていうかフラグが迫って来やがるぞがががががが。
「い、いや、その、あ、あいつになにかあるんじゃないかって思ったっていうか、その、あのだな…!」
「ただの後輩相手にそこまでしますかね?」
「あっ、あの、その」
「ただの後輩とかエースとかじゃなく、あなた自身が鳴瀬君のことを気になっていてもたってもいられなくなったからでは?」
「…っ」
うわあ、これは当確ですわ(投げやり)。
泣きそうなくらい真っ赤な顔で息呑まれたわ。
YOU告っちゃえYO!って言いたい。めっちゃ言いたい。
「ずばり、稲代センパイ!
あなたは鳴瀬君が好きなんですね!」
言った。言っちゃった。
名探偵ばりに言っちゃった。ちなみに私はコ○ン派です。
稲代センパイがますます真っ赤になって「あ、う、」とかしどろもどろになる。めっちゃ泣きそう。
そしてどさっと鞄が落ちるような音が背後で!振り返るとそこには予想通り鳴瀬君の姿!
はい王道展開キター!
スタンバイしてたのはこっちのフラグでしたよありがとうございません!
おまえはなんであと五分早く来ないんだ!ああそうだよなおまえとフラグ建ってんの稲代センパイだもんな!(自棄)
「い、稲代センパイ、あ、あの、今の…」
真っ赤になってうろたえる鳴瀬君を前に、私のすることはたったひとつだ。
ていうか最初から選択肢ねえだろ!?これ強制ルートだよな!?
すっと鳴瀬君に近寄り、私は微笑むとその背をそっと押した。
「そういうことだから、がんばってね。
鳴瀬君!」
健気な笑み(当社比)を浮かべると私は駆け出した。
さらば鳴瀬ルートと稲代ルート!
夜道を駆けるキューピッドの私にはホワイトホール!白い明日が待っている、はず!




