006 揺れる足音・中編
霧が空を静かに包み込む。
ナギは空中でムチを構え笑った。
「ふふん、隠れてばっかじゃ意味ないよ。風は、ね。いつかどこかに届いちゃうんだってば!」
風の刃が空を裂くように放たれる。
一撃、また一撃。連なる斬撃が螺旋を描いて霧へと突き進む。
だが──霧は何も反応を返さない。ただ、そこにあった。
(……やっかい)
ナギは眉をひそめた。
風が通った痕跡すら数秒で白に塗り替えられる。
この霧は風を拒まない。ただ受け入れて飲み込むだけだ。
跳躍と同時にムチを振りぬく。
しなる風の線が空を裂くように、霧へと叩きつけられた瞬間──
「ふふ……ナギちゃんってば、今日も元気ねぇ……
がんばって進むのも……素敵だけど……
休みたいときには止まっても……いいのよ……?」
その声に、風が一瞬だけ揺れた。
「……出たね、カスミ」
ナギは声のする方へ風を集中させる。
霧の海を断ち切るようにムチを振り抜いた。
風が、爆ぜた。
──が、その衝撃がすべて届く前に霧が“ほどけた”。
刃が空を切る感触。
霧はそこにいたはずなのにナギの風をすり抜けて、また満ちていく。
「っ……! ずるいな、そういうの……!」
風のムチを乱れ打つ。
だが、どれほど重ねても結果は同じだった。
霧はナギの全力の風を受け流すのではない。
“包んで消す”のだ。
次の瞬間、霧の向こうにふわりと何かが現れた。
──カスミ。
白い羽衣をまとい微笑みを浮かべながら、
ただ、そこに立っていた。
「ナギちゃんの風……きれい。でもね、届かない場所も、あるのよぉ」
ナギの手が止まる。
(霧に守られてでも、ここにいるって決めたんだ。
……その覚悟、強いな)
ナギは肩の力を抜いた。