002 願いの空・中編
空が――鳴った。
灰色の雲の中を、光の矢が貫く。
同時に、しぶきをまとった黒の槍が、鋭く軌道を描く。
空の一角で交差する二つの閃光。
一陣の風が吹き抜け、白と黒の衣がはためく。
「悪いな、今日は譲れないんだ!」
ソウマが手を掲げると、雲を割って太陽が顔を出した。
その光を背に受け、彼の全身が淡く輝く。
「僕だって同じさ。誰かの痛みを、少しでも和らげたいだけなんだよ」
リクが足元を滑らせるように舞うと、無数の雨粒が生まれ、空を濡らしていく。
水の刃が、光の壁を削り取る。
* * *
ナオトは部屋のカーテンを少しだけ開けて、夜の空を見上げた。
街灯に照らされた雲は、ぼんやりとした輪郭のまま、どこか落ち着きなく流れている。
スマホには、サキからのメッセージ。
>「おやすみ!明日、晴れるといいね☀️」
ナオトは画面を見つめながら、空に向かって小さく呟いた。
(晴れてほしいな。せめて明日くらい……)
* * *
ユイは痛む足首を見つめながら、机に置かれたエントリー表をそっと閉じた。
明日の試合に出るかどうか――まだ、誰にも言っていない。
出たくないわけじゃない。
ただ、今のままじゃ走れない。……悔しいだけだった。
外は静かだった。
窓ガラスに、小さな水滴が一つだけ、張り付いている。
(どうか……少しだけ、時間をもらえますように)
しばらくして、ぽつり、ともう一滴。
まだ降ってはいない。でも、空気は湿っていた。
* * *
「決めにいく!」
ソウマが一気に加速する。
白い光が尾を引き、空を斜めに駆け抜ける。
その手には、晴天を象徴する円環――“陽環の剣”。
「僕も、負けられないよ!」
リクの周囲に霧が広がり、雨粒が渦を巻く。
黒く細身の傘が一瞬で姿を変え、“水鎌”となってリクの手に現れる。
光と影の激突。
晴れと雨、ふたつの力が交錯し、空を染めていく。
下界では、月明かりが隠れたり現れたり、気まぐれな空模様に誰もが気づかずにいた。
けれど、たったふたりだけが知っている。
空は今、戦場だ。
そして――
その戦いの果てに、誰かの願いが報われる。
* * *
一瞬の静寂。
そして、響くような閃光。
ソウマが押される。光が、わずかに揺らいだ。
「……っ!」
リクの目が鋭く光る。
「ごめんね、ソウマ。……でも、僕も願われたんだ。君と同じように」
* * *
夜の空。
街の片隅で、ポツリと雨が落ちた。
小さな、水音。
物語はまだ終わらない。
――続く。