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part21

2 一応の後日談


カチカチというプラスチック同士が擦れ合う音に手を伸ばす際に生じる衣擦れの音、辺りを刺す緊迫した空気。そんなことを気にもしないへったくそな鼻歌。

苛立たしそうに人差し指で台を叩く真昼。彼女には珍しく表情から苛立ちがにじみ出ている。

しかし、中央にある山から手に取ったそれは彼女にとって当たりだったろだろう。幾分か表情はマイルドになった。それを自らのところへ納め、代わりに自陣のものを場へと捨てる。

「や、当たった。混一、対々和、抜きドラ2 六翻。跳ねましたね」

真昼から一万二千点貰う。

「ふざけてるわ」

真昼が珍しく声を荒げた。怖いなあ。

私、目が合っただけで反射的にすいませんとか言っちゃうタイプだからさあ、優しくしてよね。

「たかだかゲームにそんな本気にならなくても……、お金だってかけているわけではないですし。それに私たちはただの練習相手ですよ」

玖音に真昼に葵は三人で麻雀を行っていた。さんまと呼ばれるものだ。

真昼は今度は麻雀に興味を示したらしく、不当な権力を乱用し、ゲーム同好会でもないのにミステリ研の部室に麻雀台をおいたのだ。玖音と葵はそれに大した興味を持ち合わせていなかったのだが、真昼が言うのなら仕方があるまい。練習相手に興じていた。まったく、涙目になっているゲーム同好会の面々とすればいいというのに。

「確かにあなたたちを練習相手にしているのは私だけれど、チーミングは反則でしょう。今のだって私、葵が捨てた牌を見て捨てたのだけど」

「まだ聴牌していなかったですし、そういうこともあるでしょう?」

「嘘つけ、自摸切りしてたの見ていたわ」

「見間違いじゃあないですかあ~~?」

真昼の言う通り、玖音は葵が捨てた牌で上がることは出来た。けれどあえてそれをせず、真昼の番で上がったのだ。

「欲しい牌が良く流れてくるものだから、勘づいはいたけれどね。よく、僕の欲しい牌がピンポイントでわかるよね。一人だけ違うゲームしてない?」

「たまたまですよ」

「とりあえず、不利点での自摸上がり禁止ね」

「ぶ~~」

私は口を尖らせて不満垂れるが、実はそこまで問題ない。

どうやら、いかさまの方はばれていないらしい。このまま、少し勝たせてあげて、賭け麻雀に移行させていくらか巻き上げてやろう。金持ち相手に金を巻き上げても心が痛まないのがグッド。

「もうチーミングはしないようにしますが、やめたところで勝てないと思いますけどね」

「言うね。そこまで言うならお金をかけようか? 勿論、私のレートは多めにいじってもらって構わないわよ」

「お、やりますか。前にチェスで大金巻き上げたことを忘れたんですか?」

玖音と真昼、両者の間に火花が散る。

次のゲームへと移行されようというときに不意に玖音の携帯が鳴りだす。

画面に表示された人名は案の定兄の名だった。悲しいことに玖音の携帯には目の前の彼ら以外に友達と言えるような人物は誰一人登録されていない。彼らが目の前にいる以上相手は兄くらいしかいないものだった。

「すいません。ここで出てもいいですか?」

出てあげなさいといった感じで軽く手を振る真昼。

「もし、どうしましたか?」

「先日の事件がどう収着したのか教えておく必要があるかなと」

先日の事件というと毒殺の件のことだろう。あの日からまだ三日と立っていないのに市仕事が早いものだと玖音は感心する。

「毎度、律儀なことですね。そうあけすけに事件の情報を開示するのはあまり褒められたことではないのでは?」

いつものことながら事後報告を怠らない清。

玖音としては無責任に自身の見解を述べただけなのでそう気を使われる必要はないと思っていた。もちろん、気にならないと言えば嘘になってしまうが。

「これが俺が解決した事件ならばもちろん報告の必要なんてないが、一から十まで全部が全部お前が解決した事件だからな。俺個人としては報告の必要があると判断している。情けないことだが、これからもお前を頼る必要があるだろう。そんな相手に無条件に事件を解決させるだけさせて放っておくような真似は出来るだけしたくはない」

清は警官になるだけあって自らの中にしっかりとした道義や理念を抱いている。

妹相手でも変わらない姿勢を貫いているのは、玖音を対等な立場だと認識しての行動であると玖音は推測していた。

「それで、玖音の推理はあっていたのかしら?」

机に乗り出し玖音が机に置いた携帯に向かって発言する真昼。

先までの不機嫌は何処へやら。すっかり今の話題へと釘付けになった。

「いつものごとく、妹の言う通りだったよ。凶器も押収したし、言質も取れた。事件解決と言っても差し支えない」

清がそう言うことにはおそらく動機までもが玖音の予想通りのそれであったであろうことが窺える。

後者の方は愛憎乱れての犯行であり、前者の方は詳しくは知りえないが結局はお金にまつわる何かであったのだろう。

「差し支えないとは随分と言葉を濁すんですね。もしかしなくとも、今回の事件の後始末において何か気になることが出来たんですか?」

「そうなんだよ。ちょっと気になることがあってね。早く妹からの見解を聞きたかったんだよ」

葵が清の心情は押して計れるといった風に清に確認を取ると、少し嬉しそうにしながら、その悶々とする気持ちを共有したいといった感じである清。

「前者、つまり毒殺を行った人物であるところの斎藤優香についてなんだけれど、どうも供述が支離滅裂で要領を掴めないんだ」

相当に難航しているのだろうはあというため息が清から漏れる。

「警察に逮捕されていますからね。少々精神が残念なことになってしまうのは致し方がないというものです。事件は既に解決されているのですから、そう急いで追い詰めない方が吉でしょう」

既に身柄を確保できており、証拠も十全、裁判にかければ十中八九有罪にできるはずだ。であれば、そう根気を詰めて問い詰める必要はない。全く別の事件に労力を割いた方がよいであろう。

「彼女が言うには騙されたのはむしろ自分の方であるとか、そうと知っていれば結婚なんてしなかったとか言い出す始末なのさ」

加えて、結婚詐欺の疑惑もちらほらと出ているらしい。それらでは人が死んだりなどはしていないようだから少し安心ではあるが。

「ふむふむ、これは少し興味深くありますね。狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なりと責任能力の有無で戦おうというのなら理解も出来る言動ではありますけれどね」

何にせよ事件は完全なる終焉を迎えているのだから、必ずしも解明する必要のあるものとは思えない。

「このことについて他はどう言っているのですか?」

「それが誰も真面に取り合おうとしないの。捨て鉢になって謂れのない責任転嫁をしているだけだって。そんなこと気にしているのならパトロールにでも出た方がずっと生産的だとさ」

なるほどとまさしくその通り。

玖音がその立場であったとしても清に同じことを言うだろう。

犯人がきちんと逮捕されている以上、どんでん返しで実は真犯人がいたなんてことも起こりえないはずである。パトロールでもして市民の平穏を守る方がよっぽど良い。

玖音には清が自身の正義を持て余しているように思える。必ずしも隅々まで捜査することが良いことであるとは限らないのである。人材も時間も有限であるがゆえに。

「それで兄さんはどうしたいので?」

「事件が収着している以上、これからは蛇足でしかないことは俺にも痛く理解できる。彼女が絶対的に法を犯していることは明白だ。だからこれ以上の捜査は労力に見合った成果は確実に得ることが出来ない。だからこそ、一応お前に聞くだけ聞いて通常業務に戻ろうと思うよ」

中途半端だとかを嫌う性質なのも、身に余す正義も、その情けなさも何から何まで玖音の良く知る清と変わることをしない。

警察官となって玖音と疎遠となってかなり立つ清であるのに全く玖音の思うその像と変わりはしない。

尊敬はしているんだけどな……、

「兄さんはいかんせん刑事としての能力が低いですよね」

「なんで今なじられなきゃいけなかったの!?」

心外だと言わんばかりに声を荒げる清にスマホ越しに耳が痛くなる玖音。

眼前の彼らにも聞こえるようにと携帯を耳に当てていなかったのが、幸いであった。

「例えば被害者が亡くなったときの資産の分配先だとかにも目を通したのですよね?」

両耳を軽く押さえながら清に確認する玖音。

「もちろん、真っ先に確認した。きちんと彼女にそのほとんどが行き渡るようにされていたよ。ちょっと目が飛び出るくらいの金額だったもんで俺にはどうもお金に不満を持たせるようには見えなんだ」

清の見解としては彼女は十分なお金を得られるにあたっており、不満を持つところはないはず。となると、個人的な私怨であると見ていそうなものだが……。

「やっぱり、彼女には個人的な恨みがあったと思うんだよ。被害者、敵を作りやすい人物だったみたいだし、そうでもなければ説明が付かないと思わないか?」

やはり、私怨の方向で捜査を進めているみたいだ。

玖音が彼の立場であったとしてもその線を濃厚とみて事件解決を図ろうとするだろう。

しかし、玖音にはまた別の可能性が心に浮かんでいた。

「時に、結婚詐欺といえば何を思い浮かべますか?」

彼女は結婚詐欺師であったみたいである。

すると、そこから紐解いていけばなかなか核心に迫れるのではないだろうか。

「は~い」

元気よく手を上げるのは傍に侍っている葵。

相も変わらずといった具合である。

「結婚詐欺といえばおそらく彼女がやっていたようにお金をぶんどることだよね。例えば親が重篤でとか、後は借金の連帯保証人になってしまったとかでまとまったお金が必要なんだとかで配偶者となるべき人物にお金をせがみ、そしてそのお金をせしめ取った後ずらかることだよ」

「ええ、概ね葵の言う通りでしょう。今回の犯人である彼女が得意とするのはこういう類のものでしょう。しかし、結婚詐欺と言えるのは何も須らくがこれに収まるわけではないでしょう」

葵の言う結婚詐欺とはただ一つの例に過ぎず、例えばお金を目的としない結婚詐欺もあるのではなかろうか。

「あ~~、なるほどね。話の全容は理解できたわ。これに限って言えば私の頭の回転が速いのではなくて私の周りの環境に関係のあった話だからそう得意げには出来ないのだけれど」

真昼にはこれの真相が分かったようである。そこまで難しい結論には至らないため、考え付くことはそう難しいことではないはずだが、この短期間で分かったのだから頭の回転は十分に速いように見受けられる。

「どういうことなんだろう?」

「本当にね」

分からないと首を傾げる葵に追随する清。

清に至っては考える気があるのだろうか。

「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだとはニーチェの言葉でしたよね。カモだと思っていた相手が実は狩猟者であり、むしろこちらを巣くう存在であったというのは往々にして良くある話でしょう」

「はあ……」

葵と清が同時に気の抜けた息をつく。

少々恰好をつけたというよりも、煙に巻きすぎてしまっただろうか。あんまりに彼らの時間を奪っても酷い。そろそろ話を収着へを持ち込ませよう。

「つまりは、結婚詐欺師が結婚詐欺師を相手にしていたという単純で陳腐なオチですよ。落語にでもすれば少しは浮かばれますかね」

「あ~~? うん? なるほど? いやそういうことか。分かった! 分かったよ! 玖音」

首を傾け、ほとんど水平になろうかというほどまでにそうした彼はどうやら事件の真相を暴くことに成功したようで今にもジャンプをしそうなほどである。

相変わらず、清は最後の最後まで取り残されてしまったらしい。本当に血がつながっているのだろうかと訝る玖音であった。

「結婚詐欺と言われて真っ先に思い浮かぶのはさっき葵の言ったそれですね。犯人である女性のほうが現金を目当てに彼にすり寄った。しかしながら、彼の方もまた結婚詐欺師であったのです」

被害者である男性の方は十分すぎるほどの金を持っていた。故に金銭目的ではなかった

はずだ、となればどういった理由で彼女を騙すことになるだろうか。

 「どうして彼は彼女を騙す必要があったのでしょうか?」

 玖音が改めてそう問題提起すると傍らにいる葵が加えて、補足した。

 「もっというのなら、どうして今回の件に限って彼女は本当に結婚したんだろうね。普通に籍なんて入れないでいつものようにすればいいのに、今回に限ってそうはしなかった。僕の推理が正しければこのあたりも関係してくるはずなんだけれども」

 「全くその通り。私の言わんとするところが伝わっていていいですね」

 「はあ……?」

 清は相変わらずに致命的なまでに鈍いようで玖音と葵が大きなヒントを与えているにも関わらず気づく素振りも見せない。

 「つまり、年齢を偽っていたのですよ」

 「はあ……?」

玖音が答えを口にしても気の抜けた返事をするだけの清に玖音は頭を抱えそうになった。

「けれども被害者である彼、年相応に老けていたように見えるし、年齢なんて偽れるのか? 偽れたとしても五歳ほどが関の山のはずだ。彼の年齢からすればその程度誤差の範囲だと思うが」

清が百八十度全くの真逆の見当違いなことを言うとついに、葵ですら軽く笑い、真昼はやれやれといった様子で飲みかけの紅茶に手を付け、玖音は空を仰いだ。

「私は年齢を偽ったとは言っても実年齢よりも下に偽ったとは言っていませんよ。話の流れ的に分かりそうなものなんですけどね」

「つまり実年齢よりも上に偽った? ああ、はい、なるほどね。流石に理解しましたとも」

やっと清にも理解が及んだようで一安心の玖音である。

「年齢を実年齢よりも相当に上に偽ったのならあと数年位ならと彼女の方も老人に付き合ってやろうかなとなったのでしょうね。けれどもまだまだ年齢も若く、まだまだ死にそうにもない。私の人生プランが~~となもんでしょう。自分だって結構な人数だましてきたでしょうに随分と自分勝手なことですね」

「そのまま離婚してしまえばよかったものを、彼女損切り出来なかったんだろうね。彼につぎ込んだ時間に、離婚歴までついてしまった。結婚詐欺師としては致命的だ。つぎ込んだ資本を回収しなければならないという具合にね。これも一種のコンコルド効果なのかもしれないね。それを回収する方法が人殺し何て怖い思考回路だ。ぞっとするよ」

彼女の胸中まで推測できたものでは無いが、おそらくは葵の言ったような思考回路だったのだろう。そんなことのために人殺しを決行できるなんて随分な悪人だ。

「そう考えれば一番割を食ったのは目黒さんですね。おそらくは肉体関係までにあっただろう主人とその主人から継ぐはずだった資産丸ごとぽっと出の若いだけの女に根こそぎ奪われればね。殺意も沸くでしょう。実際に未遂? とはいえ殺そうとしたのだから全く擁護は出来ませんけどね」

これが果たして事件の全容なのかは分からない。そのあたりの裏取りは引き続き清の役割だ。これは一般人の身勝手な推理に他ならないのだからこれが唯一の正解だとされても困るものだ。

「はあ~~、いや、スッキリしたよ。胸のつっかえが取れた。これで心置きなく通常業務に戻れる」

清は人から教えてもらった答えでスッキリできる性質らしいので羨ましい。この性質は葵も似たようなものを持っている。根が素直なものの特徴なのかもしれない。玖音や真昼では人から教えてもらった答えでは悔しさが先行してしまい、どうにもスッキリできない。

「一応、言っておきますがこれが絶対に正しいとは思わないでくださいね。しっかり裏取りはするように」

「もちろん分かっている」

清はそう言うと通話を切った。

答えを知ればすぐに電話を切るところ実に現金なものである。最初のしおらしさが嘘のようである。

「これで一件落着かしら?」

「おそらくは」

真昼が玖音にそう聞き、玖音は肯定の意を返す。

「ちょうど良いタイミングだし、麻雀でもしながら私の話を聞いててょうだいな」

真昼は含んだ笑みを浮かべながら牌を手に取る。

玖音は猛烈に嫌な予感がした。これはまた事件が立て込むのではないのかと。

葵も玖音と同じことを思ったのか、目を輝かせながら真昼の次の言葉を待つ。

玖音とでは感性が違うらしい。玖音としてはもうお腹いっぱいというところだ。

「少し前の話なんだけれど、この学校から少し先にA学校があるでしょう……」

やっぱりかと葵は興味深く耳を立て、玖音はため息を吐いた。

これからも佐原玖音は愉快な仲間とともに事件に見舞われそうであった。



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