part1
新タイトルの佐原玖音シリーズです。
異世界も異能力もない純粋なミステリ。
1 自重る
その夜、望月真昼は何かが盛大に叩き割れる甲高い金属音によってたたき起こされた。瞬間、彼女は何か緊急事態が起こったであろうことを正しく認識した。
部屋に明かりはともっていない。当然、就寝中だったためだ。まずは部屋の明かりをつけ、自身に何か起こっていないのかを確認する。
どうやら自身に対して、悪戯はされていないようだ。
ほっと息をつく。一応、持ち物についても確認しておく。
もし、何か取られたとしても困るものは持ってきていない。数千万というお金を使うことのできるブラックカードや、数百万する時計やネックレス、たかたがそんなものしか持ってきていない。
きちんと周辺準備ができたところで、野太い悲鳴が聞こえる。先客が到着したように見える。これはいよいよ人死にでも起こったと見た方が良さそうだ。
最初の金属音や次の悲鳴からおおよその位置は把握した。
真昼は扉を開け、現場であろうエントランスへと足を向けた。
真昼がエントランスへとつくとある程度予想がついた光景が広がっていた。
人が一人死んでいた。
つい数時間前まで真昼と喋っていたはずの彼女が見るも無残な姿へと変貌していた。
体中にガラスの破片が突き刺さっている。おそらくと、死体の頭上を見上げてみると本来あったはずのシャンデリアが無くなっていた。十中八九、それが落ちてきたのだろう。
胸や頭などもそうなっていることからまず間違いなく彼女は死んでいる。
死体の周囲には真昼を含めて五人。真昼を除く全員がまるでプレデターのように顔を真っ青にしていた。とりわけ一名今にも死にそうな顔をしていたが無理はないだろう。
一番近くにいた大柄な男性が死体へと恐る恐る触れようと試みる。
「待ちなさい」
真昼はそれに対し待ったをかけた。
するとその男はその体格に見合わずびくっと体を震わせ、死体から距離を取る。
その女は確実に死んでいる、であれば現場保全が最優先。冷静さを失っているであろう彼に任せるのは心配である。
「皆さん距離を取って」
真昼の言葉に歯向かうものはなく、各々がそれから距離を取る。逆に真昼はずかずかとそれへと近づいていく。
真昼も確実に無駄だろうと思いながらもそれの脈をとる。
当然、それには血が通っておらず、死んでいた。
「脈が通っていません。確実に彼女は死んでいます。しかし、まだほんのりと温かい。やはり亡くなったのはついさっきのようです」
真昼の言葉に一同驚愕を浮かべる。
分かっていたことだろうに。
「なぜ君はそこまで冷静でいられるんだ」
さきの男性が大声をあげ怒鳴る。
真昼とて動揺をしなかったわけではない。
しかし、なぜといわれれば、それは彼女が常日頃から気丈に、高貴にふるまおうと心掛けていることもあるだろうが、もともとの心づもりや、これが全くの初めてではないことが最たる理由だろう。
「どうされましたか」
階段から聞こえてきたその声に真昼含め五人全員が振り返る。
そこには死神を傍らに携えた名探偵が地に降り立っていた。




