Episode.06「不完全体同士」
主な登場人物
・セザール....本作の主人公の1人。“解放者”
・クリストフ....ベルナールの上官であり親友。
・セルジオ....チーム“シュトルム”の総責任者。
特殊戦術チーム第7チーム“ズィープトシュトルム”
・ベルナール....本作の主人公の1人で男性兵士。援護班所属。“破壊者”
・エレクトラ....女性兵士。中核班所属。隊長
・ネージュ....女性兵士。中核班所属。副隊長
・ラウラ...女性兵士。中核班所属。新兵
・ヴィント....男性兵士。中核班所属。ベルナールの先輩
・ユージン....男性兵士。防衛班班長
・ハンス....男性兵士。防衛班所属
・エマニュエル....女性兵士。防衛班所属
・ティリス....女性兵士。援護班所属
・ハインリヒ....男性兵士。独立班所属
・シュテファン....男性兵士。独立班所属
1
ネイビーブルーの皮膚は冷えて固まった溶岩を彷彿させ、人間の血管が通ってるであろう箇所にはネイビーカラーの暗い光が通り、胸元には細長くて小さいコアの様なモノが発光して居た。
「あれが、破壊者....」
「教官....」
「中々、かっこいいじゃないか。皮膚のデコボコ感がまた良い」
「腕に生えてるの、あれはブレイドか?」
「ああ。何でも斬れるらしい」
「変身....特殊アイテムとかを使うって感じじゃないんですね」
ベルナールが変身した姿を見て隊員達が様々な事を言う中、白衣の男は怒りを露わにしながら手を振り翳し、
「不完全な出来損ないだぁ!殺れ!」
白衣の男の号令を前に何十体もの人工感染者が破壊者に襲い掛かった。
破壊者は飛び上がると同時に3メートル級の顔面を蹴り飛ばした。そして着地すると同時に2メートル級の顔面を頭蓋骨ごと握り潰すと別の3メートル級の首を左腕のブレイドで斬り飛ばした。獣の様な鋭い目を向けた先に居た3メートル級の顔面を捥ぎ取り、右手に握り締めた頭部を2メートル級に投げ付け、顔面を粉砕させる飛び上がると同時に2体の3メートル級の顔面を爪で深く斬り裂いた。
「容赦ないな」
「頭に2発喰らっても生きてる様な怪物共を、意図も容易く殺してる」
「あれが、“間違いを破壊する力”。噂に聞く以上に凄いわね」
「ベルナールは、あの力のせいで人工感染者に1番対抗出来る存在になってしまったんだ」
「だからベルナールの居る部隊の出撃頻度が増えてたのか?」
「ベルナールが厄介者って呼ばれてるのは、力の事だけではなく、それによって巻き添えを喰らうからって事だったのね」
不完全体でありながらも“破壊者”と言う名に恥じぬ戦いを見せ付ける破壊者。ベルナールの格闘術と合間って、その効力は絶大だった。
だが、
「前回のデータよりも、明らかに強い!。ええい!、容赦するな!お前らも行けぇ!」
天井裏やスポットライトの側に隠れて居たガスマスクを付けた男達も同じ様に人工感染者に変身すると破壊者に襲い掛かった。
「!」
「まだだ」
「ヴィントさん⁉︎しかし!」
「今援護したら逆に不味い。援護しようと言う気持ちは大切だ。だが、今ではない」
ヴィントの静止を受けたラウラはライフルを下げると静かに破壊者を見守った。
「前とは違うな。・・・ベルナール、君が、周りを変えたのかもしれないな」
ヴィントは静かにそう呟くと今までよりも躊躇いなく、鋭く動く破壊者を見つめた。
空間のあっちこちに人工感染者の死骸や身体の一部が転がる中、顔面に回し蹴りを喰らわせて頭蓋骨を叩き割ったり、腕のブレイドで首を斬り裂いたり、横転させて喉を潰したり、首の骨を折ったり、様々な方法で破壊者は人工感染者を殺した。
だが、
「フンッ。そろそろかな」
そう言ったのち3メートル級の人工感染者を4名、自分の側に呼んだ白衣の男は今までの表情や行動がまるで演技だったかの様に態度を一変させると余裕の笑みを浮かべた。
「?」
「何か企んでるな。・・・!」
ヴィントは目を見開きながら破壊者の方を向いた。
すると全体の9割を殺した破壊者の動きは鈍くなり始めて居た。力を得て9年経ったとは言え未だ不完全体。ベルナールの体力は、限界に近付きつつあった。
「・・・?」
セザールは上着の裏ポケットから装置を取り出した。装置は心臓の鼓動の様な音を出しながら光を発して居た。
「一体、」
セザールが首を傾げながら左手で装置を握りしめる中、破壊者は遂に白衣の男の周りに居るモノ以外の人工感染者を全て殺した。
すると白衣の男は不気味な笑い声を挙げながら注射器を取り出した。
※
2
「狂信集団とならず者集団が銃撃戦を起こしてくれたお陰で、楽に突破出来たな」
独立班のハインリヒとシュテファンは援護ポイントに到着すると煙草を吸いながら部隊本隊の脱出路を見張った。
「土砂降りだな」
「この戦闘服とワクチンのお陰で、俺達は大丈夫だが、」
「セザールが、な」
シュテファンはそう言ったのち再び煙草を咥えた。ハインリヒは口から煙を吐くと双眼鏡を除き込み、脱出路にレンズを向けた。
「・・・妙だな。全く居ない」
「確かに、静か過ぎるな」
そう言いながら再び双眼鏡を覗き込んだシュテファンは表情を鋭くすると双眼鏡を下ろし、ハインリヒの方を向くと、
「休憩は終わりだ」
そう言いながら殆ど吸い終わって居た煙草を指で弾く様に外へ捨てた。ハインリヒも足元に投げ捨てると靴の裏で揉み消したのち拾い上げ、吸い殻入れに入れた。
「ポイ捨ては辞めろ」
「吸い殻入れを忘れた」
ハインリヒは呆れた表情で苦笑いを浮かべるとスナイパーライフルを構え、シュテファンの読み上げたデータにそって狙いを定めると引き金を引いた。
「クリーンショット」
「労災保険は、降りたかな?」
「早期退職だ。無理だろ」
互いにジョークを言いながら、2人は感染者の頭部に風穴を開けた。だが、
「チッ、頭1発で死なねぇ」
「人工感染者か!」
※
3
白衣の男から薬物を注射された4人の感染者のうち、2人は5メートル級となり残りの2人は6メートル級となった。
「・・・」
体力の消耗を隠しきれない破壊者を前に白衣の男は大声で笑った。
「どうだ?。これが私の力だ。・・・セザール君、考えは変わったかね?」
「!、・・・」
セザールは俯きながら発光を続ける装置に目を下ろした。すると白衣の男が更に話そうした瞬間、それを遮る様に破壊者が地面を殴った。
「ほう?。君はまだやる気か?。・・・良いだろう」
白衣の男が腕を振り翳した瞬間、4体の大型人工感染者が破壊者に襲い掛かった。
破壊者は姿勢を低くした体当たりで5メートル級の動きを止めたのちサマーソルトキックで顎を蹴り上げたのち再び飛び上がると6メートル級の顔面を殴った。だが別の6メートル級に脇腹を蹴られ、その勢いで壁に叩き付けられた。2つのダメージをほぼ同時に喰らった破壊者は上手く立ち上がる事が出来なくなって居た。
「疲弊した死に損ない。だが、楽には殺さん」
体力を激しく消耗した状態でのクリティカルヒット。だが破壊者はこのままやられる訳にはいかない。
すぐさま立ち上がるとブレイドの刃先を向け、右腕を横に振るが6メートル級に軽々蹴り飛ばされてしまい、ブレイドの刃が壁に刺さり抜けなくなってしまった。それに追い討ちを掛けるように6メートル級は破壊者の右腕に蹴りを入れた。それによって腕にダメージを受けるだけでなく、ブレイドが腕ごと壁にめり込んで更に抜け辛くなってしまった。
「マズいな」
ヴィントはこの後どうなるかを知っていた。
そしてヴィントの予想通り、6メートル級はしゃがみ込んでから左手で破壊者の顔面を鷲掴みにしてから壁に叩きつけると右手を破壊者の胸元にあるコアに押し当てたのちコアからエネルギーを吸い取った。
声を出せないながらも苦しんでる事は誰が見てもわかる事だった。
「!」
コアから奪われた朱色の光が6メートル級の中に消えていく中、破壊者は左手を強く握り締めた。その瞬間、6メートル級の左眼に1発の銃弾が直撃した。
「・・・」
銃弾を放ったのはティリスだった。
破壊者はティリスが作った隙を突く様に最後の力を振り絞り、6メートル級の股関節を蹴り上げると同時に左腕を振り上げた。そして右手がコアから離れた瞬間、左腕のブレイドで6メートル級の左手首を切断した。そして6メートル級を蹴り飛ばすと右腕を壁から引き抜こうとした。
幸運、と言うべきか別の6メートル級が破壊者の左肩に蹴りを入れた事によって破壊者の右腕は壁から抜けて自由となった。自分に蹴りを入れた6メートル級の腹に蹴りを入れると先程腕を切断した6メートル級に飛び付いたのち喉元を斬り裂き、殺した。
「良い援護だ」
「頑張れ、教官!」
「・・・」
セザールはずっと激しく点滅し、鼓動する装置を強く握りながら首を傾げた。
そんな中、破壊者は5メートル級に体当たりを喰らわせたのちそのまま腕を両手で掴み一本背負いで地面に叩き付けると右から来る別の5メートル級を蹴り飛ばしたのち地面に叩き付けた方の5メートル級の右腕を右のブレイドで切断すると両手で首を殴り、喉を潰して殺した。
「ッ!、来たか!」
「人工感染者⁉︎まだ居たの⁉︎」
すぐさまハンスとラウラはライフルを構えると人工感染者の頭に銃弾を撃ち込んだ。
「チッ、1発じゃくたばらないか」
ラウラは素早くトリガーを2回引き頭に2発撃ち込み1人仕留めた。が、2人目は2発でも倒れなかった。
「2メートルが2発、3メートルが3発ってところか」
「バトルライフルの銃弾2発を頭に喰らって平気な感染者....厄介だな」
人工感染者はラウラ達に構う事なく破壊者に群がった。最後の5メートル級を仕留め、6メートル級との一騎打ち、と思って居た破壊者にとっては想定外の自体だった。
群がる人工感染者を前に疲弊し切った破壊者は思い通りに動けずだった。
「総員!ベルナールを援護!。2メートル級と3メートル級の数を、少しでも減らして!」
ティリスはサプレッサー内蔵式PDWを構えるとハンスと共に走り始めた。
「頭に数発撃ち込むなら、」
「PDWのショートバーストが1番だ!」
そう言いながら2人は3メートル級の後頭部に4発ずつ撃ち込んだ。破壊者は敢えて6メートル級を無視すると射線的に仕留め難い人工感染者から順に殺していった。だが6メートル級はそんな破壊者の顎を蹴り飛ばして宙を舞わせると腹を強打して地面に叩き付けた。
「!。不味い!」
すぐさまヴィントは6メートル級の顔面にライフル弾を撃ち込んだ。だがそんな攻撃を気にする事なく6メートル級は爪先を立てると足の親指で破壊者のコアを強打した。コアを強打するたびにコアから漏れる破壊者のエネルギーを他の人工感染者は貪る様に体内に取り込んだ。
さっきよりも生々しく苦しむ破壊者。すると破壊者のエネルギーをある程度略奪した6体の人工感染者が6メートル級へと進化した。
そんな中、セザールはさっきよりも激しく点滅発光する装置を見て覚悟を決めた様な表情を浮かべた。
※
4
セザールは雄叫びを挙げながら装置を引き抜こうとした。その瞬間、ほんの僅かに装置がケースから抜けると中から白を中心に7色の閃光が放出された。
その瞬間、破壊者は青白い光に包まれた。それに驚いた様に感染者達は破壊者から距離を取った。すると破壊者の胸元にあるコアが赤い光を放つと2メートル級、3メートル級の人工感染者を赤い光に包み込み消滅させた。
「あれって....」
「セザールさん、一体何を?」
セザールはネージュの方を向くと首を横に振り、
「わからない。ただ、“開けろ”って、誰かに」
そう言ったのちセザールは光を失った装置を上着の裏ポケットにしまうと声にならない声を出しながら意識を手放し、その場に倒れた。
「セザールさん?、セザールさん⁉︎。セザールさん!」
ネージュの声に応答しないセザールにヴィントは静かに素早く近付くと、
「・・・息も脈もある。気を失っただけだ」
そう言ったのちヴィントはゆっくりと立ち上がった破壊者の方を向いた。
破壊者は身体を包んでいた青白い光をコアに吸収すると7体の6メートル級を見上げた。
「な、何をしている!。とっとと潰せぇ!」
6メートル級の人工感染者は何かに恐怖を抱くかの様に動かなかった。破壊者は目玉に赤い光を宿らせたのち顔面の外側に光を放出させると勢いよく飛び上がり、1体の6メートル級を瞬殺した。
その動きはさっきよりも鋭く素早く、そして凶暴的だった。
「なんだ....何が起こった」
「セザールさんが、破壊者の力を解放した?」
「“解放者”って、そんな事も出来るのか?」
ユージンは信じられないものを見た様な表情を浮かべながら破壊者の方を向くと既に2体の6メートル級を惨殺させ、そこらじゅうを血の海にした。
「なに、あれ?。まるで力を制御しきれてない様な」
「流石の教官でも、難しいのか....」
「2年ぶりぐらいか。あんなベルナールを見るのは」
そう言ってる間に5体目を惨殺し、残り2体に目を向けた破壊者。だが、
「待ちなさい!」
エレクトラの声に反応する様に、破壊者の動きが止まった。それを見た他の隊員は、
「教官!。教官なら、制御出来ます!。飲み込まれないでください!」
「初めて見た時はかっこいいと思ったが、今は恐ろしいぞ。かっこいいお前を見せてくれ!」
「力に飲み込まれたら死ぬぞ!。俺はもう、誰にも死んで欲しくないんだ!」
「ベルナール先輩!。先輩なら、きっとやれます!」
「ベルナール!。私が、私達が付いてる!」
「ベルナール。君なら、今の君なら、やれる。君は、君の周りは、今までとは違う。やれるな?」
破壊者は数歩下がって力強く立つと、目から赤いオーラを消し去り、アクアブルー色の長髪を棚引かせた。
長髪が揺れる中、破壊者は1体の6メートル級に体当たりするとジャンピングアッパーで顎を強打したのちモンゴリアンチョップで喉を潰し、そのまま一本背負いで地面に叩き付け、絶命させた。
すると残りの1体は破壊者から逃げる様にエレクトラ達に襲い掛かった。すると破壊者は自分の髪の先端を掴むと6メートル級の背中に飛び付いたのち自分の髪で首を締め上げた。
上を向きながら首元を掻きむしる6メートル級。すると破壊者は自分の頭と左手で髪を引っ張りながら右手で6メートル級の後頭部を押すと6メートル級に下を向かせた。
「!」
「まさか」
破壊者はエレクトラ達の方を向くと頷いて返した。
するとラウラ、ティリス、エレクトラの順にライフルを構えると残ったメンバーも一斉に銃を構えた。
そしてエレクトラの号令に合わせて全員が引き金を引いた。
放たれた銃弾の全てが6メートル級の右眼に命中。
左眼を抑えながら暴れる6メートル級。
すると破壊者は自分が身体が壁に激突する寸前に髪を解き、6メートル級の左手側に回り込むと左腕のブレイドで左眼ごと顳顬を斬り裂いた。
壁に凭れ掛かりながらズルズルと姿勢を崩し、俯いた状態で顔面左側から血を噴き出しながら、最後の6メートル級は力尽きた。
「ば、馬鹿な。・・・き、貴様らァァァ!」
大声を出しながら白衣の男はショルダーホルスターからリボルバーを引き抜き発砲した。が、闇雲に撃ちまくっただけで弾は明後日の方へと飛んでいき誰かに当たると言う事は無かった。
“ファ”から始まる汚い言葉を連発しながら弾切れのリボルバーを投げ捨てる男。破壊者はゆっくりとエレクトラの方を向いた。エレクトラが頷いて返した瞬間、破壊者は素早く動き、白衣の男の身体から頭部を捥ぎ取ると頭蓋骨ごと握り潰した。
「殺させる必要あったか?」
「私、不潔な人は嫌いなの」
ヴィントは頷いて返すとゆっくりと歩きながら自分らのもとに戻る破壊者と目を合わせた。
※
5
濃紺色の炎に包まれたのちもとの姿に戻ったベルナールは力のない表情を浮かべながら前のめりになり、
「教官!」
「ベルナール!」
ラウラとティリスが倒れそうになったベルナールを支えた。
ベルナールは2人に支えられながら姿勢を正すと、
「ありがとう。大丈夫だ」
そう言ったのち自分の力でもう一度姿勢を正すと礼を言ったのち頭を下げた。
「⁉︎」
「教官、頭を挙げてください」
渋々とゆっくり頭を挙げたベルナールは、鋭い表情と目付きの裏側に疲労を隠した。
「疲れ果て、意識が飛びかけた瞬間。・・・身体中に膨大な力が、流れ込んで。仲間が止めてくれなかったら、コントロール出来なかった」
「・・・」
ヴィントは痛む脚を引き摺りながらベルナールの前まで歩くとベルナールの肩に手を添えると涼しげないつもの表情に僅かな笑みを浮かべた。
「やれば出来るんだな。君は」
「ぇ?」
「ベルナール。君は少し丸くなった気がするよ」
「?」
「ひとまず、新手が来る前に移動しよう」
ベルナールは頷いて返すとヴィントと共に隊列に戻った。
「出口はすぐそこ、雨も上がってる筈だ」
「迎えを要請したわ。行きましょう」
「待って下さい。セザールさんが、」
「俺が運ぶ」
ベルナールはそう言うと気絶したセザールを担ごうとした。その瞬間、
「いっ!」
ベルナールの身体を鋭い痛みが貫いた。それと同時に外から見ても分かるぐらい、セザールが持っていた装置が赤く発光した。
「な、何⁉︎」
「ッ!」
ベルナールは脳内に破壊者の声が響いた瞬間、頭を抑えながらその場に跪いた。
「ベルナールさん⁉︎」
「・・・そうかわかった!」
「?」
「あとで詳しく教えろ!」
誰かに伝えるようにそう言ったベルナールは立ち上がるとセザールから距離を取った。
「どうやら、破壊者は解放者に、触れてはならないらしい」
「なら、私が運ぼう」
ベルナールはラウラにセザールを任せると隊列の最後尾に移動したのちユージンと共に隊列の先頭を走るエレクトラを追いかけた。
そんな中、ベルナールが力を様々な事を考えながら走っていると、ユージンに声を掛けられた。
「俺が言えた義理じゃないが、自分が死ぬリスクは避けろよ。自分護れるのは自分だけだ」
「!」
“自分を護れるのは自分だけ”
その言葉を聞いたベルナールの脳内に9年前の記憶が鮮明に蘇った。
だがユージンはそんな事を気にせず話を続けた。
「自己犠牲、強ければ強い程、利点は少なく、仲間への負荷が大きくなるだけだ」
「ユージン班長、」
「俺は、あの2人は勿論、同じ隊のメンバーには誰も死んでほしくない。勿論、お前とて例外ではない。あれだけ膨大な力を使えても、中身は人間だ」
「努力は、します。ただ、」
「いや、今は心掛けだけで充分だ。俺も、人の事は言えんからな」
※
6
「そぅか....まっ、全員無事で何より。それと、解放者が無事且つ本物でよかった。ってところか?」
「まだ帰投中なので、気は抜けませんが」
帰りのヘリから送信された中間報告書を受け取ったクリストフはそれをセルジオに提出した。
セルジオは咥えた煙草に火を付けるとホログラムデータ越しにクリストフと目を合わせた。
「エレクトラ隊長が持ち帰ったデータとこれまでに取集してあるデータ、あとはベルナールからのレポートがあれば、断片的だったものが繋がるかと」
「ベルナールの?」
「彼奴は夢の中で破壊者と対話出来ます。その対話で、何か追加事項が分かるかと」
「成る程な。そうなれば“ズィープトシュトルム”の今後の方針が決まるって訳か」
クリストフは静かにハッキリと頷いて返した。
「だがそう簡単に行くのか?。元々ズィープトシュトルムはセザール救出の為に編成された特別チームだろ?。解放者の現状とベルナールの事を知った今、方針が決まっても従うのか?」
「だからこそ、彼らには考える時間が必要なのです。明日、彼らは休暇にしました。明後日の午後一で召集をかけ、現状を説明したうえで、彼らに決めさせます」
「・・・わかった。そこまで考えてるなら構わん。やりたいようにやれ」
「ハッ!」
「・・・召集場所は此処にしろ。俺も時間を空けておく」
「わかりました」
「行って良い」
「ハッ!。失礼します」
退室するクリストフを見送ったセルジオは背凭れにに寄り掛かりながら椅子を左に向けたのち指で煙草を咥えたのち口から離し、ゆっくりと煙を吐いた。
「・・・未来は、明後日次第、か....思ったより複雑で、見応えがありそうじゃねぇか」
天井に向かって消えゆく煙を眺めながらセルジオは、そう呟いた。




