Episode.04「散らばったピース」
主な登場人物
・セザール....本作の主人公の1人。“解放者”
特殊戦術チーム第7チーム“ズィープトシュトルム”
・ベルナール....本作の主人公の1人で男性兵士。援護班所属。“破壊者”
・エレクトラ....女性兵士。中核班所属。隊長
・ネージュ....女性兵士。中核班所属。副隊長
・ラウラ...女性兵士。中核班所属。新兵
・ヴィント....男性兵士。中核班所属。ベルナールの先輩
・ユージン....男性兵士。防衛班班長
・ハンス....男性兵士。防衛班所属
・エマニュエル....女性兵士。防衛班所属
・ティリス....女性兵士。援護班所属
・ハインリヒ....男性兵士。独立班所属
・シュテファン....男性兵士。独立班所属
1
「分からない?」
ラウラの問い掛けにセザールは頷いて返した。
するとユージンは“やっぱりか”と言う表情を浮かべたのち太い溜息を吐いた。
「どう言う、事ですか?」
「分からない....何も、思い出せない」
「・・・それって、」
エマニュエルはコンパクトアサルトライフルの持ち手部分を強く握ると険しく心配そうな表情を浮かべた。
「思い、出せないんだ。・・・これの事も、何も。セザールって言うのが、本当に、僕の、・・・僕の名なのかも、」
表情から微笑みを消し去り、目を見開いたエレクトラは身体から力を抜かれたかの様にライフルから手を離した。
「“記憶障害”、か」
壁に寄り掛かって居たユージンはそう言い放つとシールドの持ち手を持ち直したのち自分が閉めて居たドアの前に立った。
「コールドスリープの副作用の1つだな。ごく稀って言う程度の可能性だが、・・・コイツは思った以上に悪く、最悪よりはマシだな」
ヴィントはそう言うとセザールにしゃがんだまま背を向けた。
「話は基地に帰ってからだ。エレクトラ隊長が回収したデータを解析すれば、何か分かるかもしれない」
「そ、そうね」
微笑みを取り戻しながらライフルを構え直すエレクトラは進行方向を向くと隊に移動再開を指示した。
セザールは右手で頭を抑えながら左手に握った装置のグリップを強く握ると先端を胸元に押し当てた。
「大丈夫ですよ」
「?」
「今は、此処を抜ける事だけ考えましょう」
「・・・」
「ネージュの言う通りだ。ほら、早く」
セザールは装置を上着の裏ポケットにしまうとネージュとラウラに支えられながらヴィントの背中に乗っかた。ヴィントはゆっくりと立ち上がるとエレクトラとラウラの後を追う様に移動した。
「セザール。君は、“解放者”と呼ばれる青年だ」
「?」
「約1年と3ヶ月前に、こんなデータ文が見つかったんだ。【世界が間違った終わりを迎えた時、“破壊者”が目を覚まし、破壊者の力と正しい終わりを迎えた世界を再生する力を“解放する者”が現れる】とな」
「解放、者、」
「その後のデータ収集で、我々はその解放者を“パンデミックを終わらせられる存在”と仮定した。そして、君を探し続けた。“破壊者”の存在が確かである以上、今の現状でそれを疑う理由はなかった」
「・・・」
「詳しい話は基地に戻ってからにしよう。その方が、散らばったピースも組み合わせ易い」
「・・・ッ!」
頭の中を鋭い何かが貫くかの様な感覚に襲われたセザールは表情を険しくした。そんな事にも気が付かないかの様に、ヴィントは話を続けた。
「だがこれだけは言っておく。いきなり何を言ってるんだって気もするだろうが、“解放者”、それが君の正体なんだ」
「・・・あの巨人も、言っていた」
「巨人?」
「“記憶を失い、力をも失ったか”って」
ヴィントは険しく鋭い表情を浮かべながら前を向くと「まさか」と呟いた。
※
特に接敵する事もないヴィントが見つけ出した地上への出口まで辿り着いた一行。
だが、現実はそんなに甘くはなかった。
「!。来るぞ」
ヴィントの言葉に反応する様に全員が銃を構えた。
ほぼ全方位から聞こえる呻き声。声からして、感染者は大軍だった。すると目を見開いたラウラは真上にある通気口に向けてライフルを乱射した。
「・・・」
コンパクトアサルトライフルの銃口から白煙が出る中、通気口に出来た穴から緑色の体液が垂れた。
「!、退がれ!」
エマニュエルを突き飛ばしたユージンは自分の真上に拳銃を4発撃ち込んだのち後ろに下がった。すると破損した通気口のプロペラと一緒に感染者の死体が落下した。それに続く様に無傷の感染者が次々と通路に落下して来た。
「進め!進め進め進め!」
そう叫びながらユージンはコンパクトアサルトライフルを構えると次々と感染者の頭を撃ち抜いた。が、通路に落下した感染者の後ろには通路を埋め尽くすかの様な大軍がいた。
「援護する」
ハンスはバトルライフルを構えると奥に居る感染者の頭を撃ち抜いた。
だが、脅威は後ろだけでは無かった。
「出口からも入り込んで来てる」
「上からも来ます!」
ユージンとハンスのお陰で出口前の広間まで辿り着いた一行だったが、全方位から迫る無数の感染者を前に防戦一方で前に進めずに居た。
「このままじゃ」
「せめて、出口付近だけでも一掃出来れば....」
「火力を一点に集中してる余裕が無いな」
セザールを背負った状態で拳銃を使って応戦するヴィントがそう言う中、彼らの無線機に聴き慣れた声が届いている事を彼らは知らなかった。
『援護班より本隊、応答を』
「防戦だけじゃ突破出来ない。何とかしないと」
「隊長、どうする?」
『本隊へ、こちらベルナール。至急応答を』
「!。ベルナール教官?」
「?、ベルナール?」
「教官!ラウラです。聞こえます」
『スタングレネードを使う。5秒以内に目と耳を塞げ』
ヴィントとネージュはすぐさまヘッドセットのノイズキャンセルシステムを最大にするとヴィントはセザールの耳を、ネージュはセザールの目を塞いだ。
次の瞬間、爆音と閃光が彼らと感染者を襲った。
エレクトラ達は無事だったがベルナールの忠告を知らない感染者達は目を焼かれ、耳を壊された。
※
2
「まさかあんな備えが役に立つなんて」
「備えあれば憂いなしとは言うが、個人的には備えが役立つのは状況が悪い時だ」
そう言ったのちバトルライフルを構えたベルナールは照準器を覗き込んだ。それに合わせる様にティリスもスナイパーライフルを構え、トリガーガードに指を突っ込んだ。
「距離970。風速、左から1.7メートル。3ノッチ修正。右から来るデカブツ共に、風穴を開けてやれ」
目を細め、息を止めたティリスは正確且つ無駄の無い射撃でベルナールがスポットした3体の大型種を仕留めた。
「お見事。・・・距離965、殺れ」
ティリスは再び息を止めると大型種の頭に風穴を開けた。するとベルナールはトリガーガードに指を突っ込むと長めに息を吐いた。
「距離980。指令型だ、殺れ」
ティリスは首元の発光体に照準を合わせると、息を止め、引き金を引き、発光体を貫いた。
「グッドショット。労災が降りる事を祈ってやろう」
「・・・」
トリガーガードから指を外に出し、チラッとティリスの方を向いたベルナールは「調子狂うな」とボソッと呟いたのち再び照準器を覗き込んだ。
「左から来る小物は任せろ。右から来る大型種を殺れ」
返事を返さぬままただただ無言で大型種を仕留めるティリス。ベルナールも負けじと次々と感染者の頭部に風穴を開けた。
「!」
目を見開いたベルナールはバトルライフルに安全装置を掛けると左へローリングしたのち素早く立ち上がり、コンパクトアサルトライフルを構えると屋上の扉を破って来た感染者に向けて発砲した。
「・・・流石だな」
怯む事なくスナイパーライフルで感染者を仕留めるティリスをチラッと観たベルナールは“心配して損した”と言う気持ちを抱えながらそう呟くと全ての感染者に風穴を開けた。
扉から中に入り、階段を見下ろしたベルナールはグレネードをポーチから引き抜くと安全ピンを伸ばして抜き、レバーを外すと下に落とした。
階段に当たり、バウンドしながら下へ落下したところを丁度タイミング良く、感染者の指令型が“何だこれ?”と言う表情を浮かべてキャッチした瞬間、グレネードが起爆、首の発光体ごと頭部を吹き飛ばし、建物に侵入した感染者を無力した。
「風速誤差修正、左斜め前から1.4メートル」
すぐさまバトルライフルの側に伏せ、双眼鏡を覗き込んだベルナールはすぐに修正を伝えたのちバトルライフルに持ち替えた。
※
3
『そちらから観て左側が空いてる。地上に出たら左に逃げろ』
「了解。引き続き援護を」
『了解した』
援護班の奇襲と援護射撃により活路を見出したエレクトラ達は防衛班の援護のもと、進行ルートに火力を集中させると地上に向かって駆け上がった。
「セザールさん。あと少しですからね」
サプレッサー内蔵式PDWで感染者の脚を撃ち抜き、行動不能にさせながらネージュはそう言った。
ネージュの放つ銃弾は相手を殺せる箇所ではなく行動不能になる箇所に入り込んだ。これはネージュが“感染者と言えど命までは奪いたく無い”と言う、いわば“不殺し”の考えから来るものだった。
その考えと戦闘スタイルのせいか、周りから散々なレッテルを貼られてるが、ネージュは特に気にはしなかった。
寧ろその考えと戦闘スタイルは、エレクトラの行動理念に近いものがあった。
「ラウラさん!」
「了解!」
エレクトラが自分を呼んだ理由を瞬時に理解したラウラは地上に出ると周囲の感染者を掃討した。
「クリア」
「ムーブ!」
エレクトラの号令で坂を駆け上がり、地上に出る一行。すぐさま左側に移動すると通りを移動した。
「追ってくるか!」
『ユージン班長。スモークグレネードを使います。行ってください』
「わかった」
最後尾に居たユージンが隊に向けて走り出した瞬間、ベルナールは無線端末を操作してスモークグレネードを遠隔で起爆させた。
「これで、時間は稼げるだろ」
息を吐きながらスナイパーライフルに安全装置を掛けるティリスの横でそう呟いたベルナールはスナイパーノートをタクティカルベスト右脇のポーチにしまうと無線端末をタクティカルベスト左脇の専用ポーチに押し込むとバックパックを背負い、ヘッドセットを整え直した。
「移動するぞ」
「わかりました。ポイントBですか?」
ベルナールと同じ様に移動準備を進めるティリスの問いに答えたのは無線機の向こう側の人間だった。
『合流地点に向かって。そこで落ち合いましょう』
「援護班了解。合流地点に向かいます」
エレクトラにそう答えたベルナールは予め用意しておいたラペリング用のザイルの点検を済ませるとティリスの移動準備が整うのを待ったのちハーネスのカラビナでザイルを繋いだ。
「下で会おうぜ」
「脚滑らさないで下さいよ」
「わかってる」
ティリスよりも先に降下を開始したベルナール。慣れた手際に一瞬見惚れたティリスもベルナールと一定の距離を離しながら下へ降下した。
「ヘリボーンより気持ちが楽だな」
そう呟くと同時に地面に着地したベルナールは無線端末を利用してザイルのロックを遠隔解除したのちザイルを引っ張って落下させると慣れた手つきで回収し、バックパックに引っ掛けた器具に収納すると再びバックパックに引っ掛けた。
「ザイルの回収も、楽になったなぁ〜」
そう呟きながら器具をバックパックに引っ掛けたティリスは路地の角から通りを警戒するベルナールの肩を軽く叩いた。
しゃがみ姿勢を解き、歩道を走り出すベルナールをティリスはPDWを両手に持ちながら追った。
「先を急ごう。可能なら先に到着して、周囲を警戒しておきたい」
※
4
雑居ビルの5階にある一室で、机の上にバイポットを展開したサプレッサー付きスナイパーライフル(長射程仕様)を構える独立班所属の男性スナイパーであるハインリヒは息を吐きながらチークパックから頬を外すとスナイパーライフルに安全装置を掛けたのちレンズカバーの蓋を閉め、バイポットを畳んだ。
「ベルナールのお陰で、俺たちは出番無しだな。にしても、“解放者”が記憶喪失とは、とんだ救出任務だな」
ハインリヒの隣で双眼鏡を締まったのちサプレッサー内蔵式PDWを構えたシュテファンはそう言うと軽く溜息を吐いた。
「そう上手くは行かないさ。解放者助けたから全てが終わる、なんてな」
冷たく静かにそう答えたハインリヒはバックパックを背負い、スナイパーライフルをスリングで肩掛けしたのちバックパックのカラビナで止めるとシュテファンと同じ様にサプレッサー内蔵式PDWを構えた。
「そもそも、破壊者って誰だ?、って話だ」
「ベルナールか?。彼奴、噂だと化け物に変身するって話だぞ」
「仮にベルナールが“破壊者”、救出したセザールって男が本当に“解放者”だとするなら、“散らばったパズルのピースは揃った”に過ぎない」
「だな」
「神話染みた話に縋らなければならない程、今の人類が終わってるとはな」
自分の中に秘めた本音を冷たく言い放ったハインリヒはシュテファンの後を追う様に部屋を出た。
「上層部は余程の確信があるんだろうよ。あとは、エレクトラ隊長が入手した情報次第でもある」
階段を駆け降りながらそう言ったシュテファンは冷たさと呆れが混ざった表情を浮かべた。そんな背中を追いかけながらハインリヒも、心の何処かで呆れていた。
「御伽話だな。本当、」
「パンデミックを終わらせ、あのうざったい雲を消滅させる力を秘める青年。・・・御伽話の方がまだマシだ」
ハインリヒの言葉に賛同する様に頷いたシュテファンはドアを蹴り破り、外に出た。
「援護班が本隊と合流するなら、ポイントデルタを目指そう」
「チャーリーじゃないのか?」
「一雨きそうだ」
空模様を伺いながらそう答えたシュテファンは隊とは独立して動く自分らがどう行動すべきかを考えることに頭をシフトした。無論、ハインリヒも同じだ。
※
5
感染者の追撃を振り切り、合流ポイントまであと少し、と言うところまで移動したエレクトラ達。
息を切らす事なくセザールを運ぶヴィントは頬を撫でた風に反応する様に空を見上げた。
「一雨来るな」
「この状態で雨の中を移動するのは危険ね。ルートを地下道に変えましょう」
「また地下か」
嫌そうな声で反応したハンスは最後尾を移動するユージンの方を向いた。
「班長?」
「・・・」
ライフルを両手に持ちながら無言で走るユージンの心境を察したハンスは敢えて聞き返す事なく前を向いた。
「ユージン班長、大丈夫でしょうか?」
「周囲の警戒に、“無駄”に力が入ってるんだろ」
エマニュエルの問い掛けにそう答えたハンスはエマニュエルと目を合わせた。
「“部下殺し”。そんなレッテルを貼られてる人だ。部下を、仲間を死なせまいと気を張り詰め過ぎてるのさ」
「部下殺し、そんな風には見えませんが....」
「なら尚の事、1人の班長として、見るべきだな」
「そう、・・・ですね」
エマニュエルは後ろに居るユージンの方を向いた。
それに反応する様に目を見開いたユージンは素早くシールドを構えると全速力で前に出たのちヴィントの隣にしゃがみ込むと構えたシールドで放たれた銃弾を受け止めた。
「!」
すぐさまネージュも折り畳み式防弾盾を構えるとセザールの護りに入った。
「敵襲か!」
「正確だな。人間か!」
そう言いながらヴィントはホルスターから拳銃を抜くと安全装置を外して構えた。
「馬鹿野郎。女は撃つな!」
「女は捕えろ。男は殺せ!」
「ッ、ならず者のクズどもが」
ユージンはホルスターから拳銃を抜くと素早く立ち上がり、ならず者集団と距離を詰めながら発砲した。
相手は人間。だがユージンは躊躇う事なく射殺した。
「班長!」
「合流地点はすぐそこだ!走れ!」
「あのバカ班長が!」
ハンスはすぐさまバトルライフルを構えるとユージンを援護する様にならず者の頭を撃ち抜いた。
エマニュエルはシールドを構えながらヴィントの右隣に付くとヴィントの動きに合わせて移動した。
「!、狙撃手が居る!」
ネージュは反射的に折り畳み式シールドをセザールの頭部を護るように覆った。放たれた銃弾を受け止め、セザールを護ったがシールドが受け止めたのは狙撃に使われる弾。凄まじい衝撃がネージュの手や手首を襲った。
「ゥッ!」
「新しい獲物が来たぜぇ!」
「・・・感染者の方がまだマシね」
エレクトラの発言にラウラは頷いて反応すると別方向から来るならず者に向けて発砲した。
その瞬間、セザールを狙った狙撃手が頭から血を流しながら地面に落下した。
「カウンタースナイプ⁉︎」
エレクトラがそう言った瞬間、自分らの真後ろにあるビルの4階から1人の男性兵士が飛び降りた。
兵士は受け身を取りながらコンパクトアサルトライフルを構えるとならず者集団の別働隊を瞬く間に制圧した。
「・・・」
「ベルナール教官!」
「4階から飛び降りるなんて....」
しゃがみ状態でコンパクトアサルトライフルを構えるベルナールは射線上にならず者集団が居ない事を確認すると人差し指をトリガーガードの外に出したのち立ち上がると隊に向かって走った。
「!。隊長!前だ!」
「!」
先に反応したのはベルナールだった。
待ち伏せて居たならず者達がエレクトラに銃口を向けた瞬間、ベルナールは放たれた銃弾とエレクトラの前に割って入るとならず者が放った銃弾3発を喰らった。
「馬鹿!女は生け取りだろ!」
「女の後ろに居るやつを狙ったんだよ!」
「俺はけん制だ。当てる気はない!」
ならず者達が口喧嘩をする中、ベルナールは咳き込みながらライフルを構えた。が、待ち伏せて居た4名のならず者の頭に風穴を開けたベルナールではなくティリスだった。PDWを構えながら隊に合流したティリスはすぐさまベルナールのそばにしゃがんだ。
「ベルナール!」
「プレートで止まってます。問題はない」
咳き込みながら立ち上がるベルナールを観てエレクトラは呆れた表情を浮かべた。
「4階から飛び降りたり、身を挺して盾になったり....」
「ベルナールが“癖が強く扱い難い”って言われてる理由が分かっただろ?」
ヴィントの言葉に溜息で反応したエレクトラはユージンとハンスが合流したのを確認すると移動再開を指示した。




