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Episode.01「九年後」

主な登場人物(プロローグから9年経っている為、プロローグで登場した時とは色々変わってます)


・セザール....本作の主人公の1人。“解放者”

・ベルナール....本作の主人公の1人。特殊戦術チーム所属の“破壊者”

・クリストフ....ベルナールの上官。複数の特殊戦術チームを纏めている。

・セルジオ....特殊戦術チーム“シュトルム”の総責任者。

・ヴィント....ベルナールの先輩でチームメイト。

・ラウラ....訓練課程を卒業したばかりの女性新兵。

・ジュルバーツ....訓練生の教官の1人。“真の鬼教官”の異名を持つ元海兵隊員。

・ウッズ....訓練生の教官の1人。“冷たい鬼教官”の異名を持つ元陸軍特殊部隊員。

1


「・・・」


“寒い”・“寂しい”・“悲しい”

それしか今の僕には感じれなかった。

僕は、一体誰なんだ?

僕は何故、此処に居るんだ?

僕は何の為に、生きてるんだ?

僕は、僕って、何だ?


「キオクを失っタか」


誰?、記憶?

僕には分からなかった。


「“解放者”トしてノ使命モ、忘れたカ?」


使命?、解放?

一体、誰が、何を僕に言ってるんだろう?

そう思いながら僕はゆっくりと瞼を開いた。

すると目の前には、僕よりも身長の高い“何か”が居た。

それは、何処か見覚えがある様な“暗い色をした人の形をした化け物”だった。


「僕を、知ってるの?」

「ジキに分かル。自分ノ使命ヤ、役割を」

「答えになってないよ!」

「君ノ名ハ、“セザール”」

「セザール?、それが、僕の名前」


化け物は頷くと僕の前から消えた。

セザール?、それが、僕の....

・・・誰か、誰か居ないの?

・・・寂しいよ。・・・寒くて、・・・怖いよ







2


九年後....


地下に広がる巨大な“国際居住地”。そのすぐ隣に国際軍事基地“マドロック”はあった。

世界が“間違った終わり”を迎えたあの日からの九年間で世界はガラッと変わった。

そう、この男達もまた、“少し”は変わった。




「失礼します」


26歳にして2つの特殊戦術チーム“シュトルム”の指揮権を持つ事となったクリストフはシュトルムの司令官であるセルジオの部屋を訪れて居た。


「おう来たか。例の新チームについてか?」

「はい。こちらを」


灰皿で煙草を揉み消したセルジオは机を挟んで自分の前に立つクリストフが持つデータパットから送信されたデータを机のホログラムに表示させた。

そのホログラムには【チーム7 “ズィープト”シュトルム】と表示された文字の下に11名分の戦術チーム隊員のデータが表示された。

無表情ながらも何処か笑みが混ざった様な顔をしたセルジオを見下ろしながらクリストフはセルジオからの返答を待った。


「“第七の嵐”か。幾つか聞きたい」

「?」

「何故チーム4に居るベルナールとヴィントを引き抜いた?」

「ベルナールの“力”について、詳細を知ってる人間が必要だと思ったからです。個人的には、相性等を考えてもヴィントが一番妥当かと」

「ふむ。確かコイツらに任す初任務は【このパンデミックを終わらす鍵を持つとされる“解放者”の救出】だったな?」

「はい。その為に特別編成されたチームです。人員が整い次第、実行します」

「人員?。・・・そうか、ラウラはまだ訓練課程を卒業して居なかったな」

「ラウラをベルナールが所属するチームに入れるのは、ラウラ本人の希望でもあります」


セルジオは頷きながらホログラムのデータを保存してから電源を切ると椅子の背もたれに寄り掛かった。


「まぁ、やりたい様にやってみろ。シュトルムの事は各指揮官に任せてある。お前らがどう動くかまでは制限はしねぇ。相談には載るし各方面との連携は取ってやる。ただ指示は出さねぇしあれこれ余計な事も言わねぇ。分かってるな?」

「はっ!」




クリストフの退室を見送ったセルジオは咥えた煙草に火を付けると背もたれに寄り掛かったまま天井を見上げるとゆっくりと煙を吐いた。


「(百年近く前にコールドスリープさせられた“解放者”と言う異名を持つ青年、か)」


ゆっくりと天井に登る煙を見ながらセルジオは目付きを鋭くしたのち煙草を指で摘んで口から離したのち再び煙を吐いた。


「“破壊者”と“解放者”。どんな風に世界を転ばすかな?」







3


【2047年 7月2日 14時


任務から帰還中のヘリの中。

今思えば二年間の訓練課程卒業して入隊してからの七年間含め、色々あったなぁ。

“例の雲がこの星全体を覆ったせいで気温が下がり、全ての海が凍り付いたり”、“ウイルスがセメントやコンクリートに弱いと分かったり”、“ウイルス用のワクチンが完成したり”。

時間が止まる事なく当たり前の様に流れてくせいか、色々あった筈なのに上手く思い出せない。

そういえば、九年前のあの日以来、陽の光を浴びてないな。

この“当たり前”の消滅には、いまだに慣れないな】



【同日 15時


武器庫に銃器類等の装備品を返却。

チームメイト兼先輩のヴィントと話しながら温かい珈琲欲しさに食堂に向かうと兵食班の連中が任務から帰還した兵士達を対象に“三時のオヤツ”とやらで“シルコ”と言うものを配って居た。“シラタマ入りコシアンシルコ”と言うらしい。

美味い。シルコが任務で冷えた身体を内側から温めてくれた。しかもこのシラタマとやらが程良い食感で堪らん。

お替わり二杯、有り難く頂く】



【同日 17時


汁粉を食べたのち自室に戻って身体を休めようとも思ったが俺は何故か“特殊訓練施設”に向かって居た。

訓練課程を一年と四ヶ月終わらせたのち特殊戦術チーム向けの訓練を八ヶ月もの間行うこの施設は、いつ近付いても男性教官の怒鳴り声が響いている。

俺が何度か“一日教官”と言う立場で面倒を見た連中が明日卒業を迎える。

ガラス越しに連中を見ている“ラウラ”と言う女性兵士に声を掛けられた。

『明日の卒業式が終わり次第、配属先が決まるのですが、ベルナール教官と同じ隊に配属して欲しいと希望しました』

変わった女だ。俺と共に戦う事を希望するとは】



【同日 23時


自室に戻ってる最中にスクランブルが掛かる至急装備を整え、出撃。

難民輸送中の車両部隊が感染者の大軍と狂信集団のに襲われた。

“その程度で何故俺らのチームが?”と思う中、車両部隊の救出及び撤退支援を開始。

車両部隊を撤退させたあと、俺の疑問に対する答えが分かった。

“あの力”を使い脅威を無力化。今のチームで使うのは8回目だ。

周りからの冷たい目線を無視しながら帰還すると兵食班の連中が夜食として“モチ入りツブアン汁粉”と言う物を振る舞ってくれた。

モチは美味いが力を使ったせいかそれともツブアンが好きになれないのか、多分両方だろ。

お替わりせずに自室へ戻った。】



【同日 23時40分


シャワーを浴び終わり、ベッドに座り込んだが書き記しておきたい事があり再びペンを取った。

“破壊者としての力”。人前で初めて使った時から、それを見た者達からは冷たい目で見られ、厄介者扱いされ、化け物扱いされ、終いには人間として扱われない事もあった。

望んで得た力ではない。それのせいでここまで頭を悩ますとはな....

皮肉な事に、俺みたいな“死を望む人間”は中々死なない。“死にたくない”・“死ぬべきではない”、そんな連中が次々と死んでいく。本当、皮肉だ。

望んで得たものでは無い、半ば強引に与えられた力に首を絞め続けられるのが、俺の兵士人生なのだろうか?。

“シュリュクシオン”。コイツがなぜ、俺に力を与えたのか、九年経った今でも分からない。

自殺をしようとした奴の、死を望む奴の首を絞めて、一体何をしようとしている?。

・・・ただ、いつからだろうか?。

ヴィント先輩やクリストフ、ロック含めた僅かな人間からは上記とは違う“何か”を俺に向ける様になったのは?。

何故、違う何かを感じるんだ?。何故違う何かで俺を見るんだ?。

・・・よく分からん。今日はこの辺にしておこう】







4


次の日....


朝一の通信で訓練生の卒業式出席を命じられたベルナールは“何故俺が?”と言う気持ちを抱えたまま制服を身に纏い、会場へ向かった。


「特別講師として面倒見てた連中の卒業式だ。教官は全員出席なんだから貴様が来るのは当たり前だろ!」


“真の鬼教官”の異名を持つジュルバーツにそう言われたベルナールは表情と気持ちを一新すると会場に入り、卒業生の入場を待った。


「今回上級訓練を卒業した連中の六割は女性だ。俺が現役だった頃には到底考えられなかった現象だよ」


元陸軍特殊部隊員で“冷たい鬼教官”の異名持つウッズの口から飛んで来た発言を前に返す言葉に迷ったベルナールは自分の隣に座ったクリストフに目を向けた。


「俺もベルナールも、昔の事は分かりません。ただ、男性の多くが死ぬか感染者になった今、前線にそう言った変化があるのは当然の様にも思えます」

「施設科含めた後方支援科や普通科にそう言う変化が来るのは当たり前だと思っていたが、シュトルム自体もその変化に飲み込まれるはちょっと想定外だな」


クリストフが放った自己分析にそう答えたベルナールは姿勢を直すとジュルバーツ・ウッズ・クリストフの三名と同時に立ち上がり、同時に敬礼をした。

その先に居たのはマドロック基地の総責任者のサイクロンとシュトルム総責任者のセルジオが居た。

二人は四名に敬礼を返したのち解かせてるとジュルバーツの隣に座った。


「セルジオ上官の制服姿、スゲ〜久々に見たな」


僅かに緩い表情を浮かべ、前を向いたままは頷いて返したベルナールはスッと表情を鋭くしたのち卒業生の入場を待った。


数分後....


各クラスの代表者を先頭に普通科訓練課程の卒業生と特殊訓練課程の卒業生が薄暗い地下施設内に大きく造られたホール内に入場して来た。


教官らが言っていた通り、卒業生の半数以上が女性だった。が、ベルナールとクリストフが個人的に驚いたのはクラスの代表と普通科訓練課程と特殊訓練課程、両者の成績上位者六名を全員女性だった事だ。


“前線が大きく変わる”


クリストフはそう悟った。







5


卒業式を終え、教官らに挨拶をしたのち会場を出たベルナールは1人の女性兵士に声を掛けられた。


「ベルナール教官」


表情をハテナを混ぜながら自分に声を掛けたラウラの方を向くとベルナールは自分のもとに歩み寄るラウラと目を合わせるや否や難しげな表情を浮かべた。


「分からんな」

「何がです?」

「俺と同じ隊に所属したいって考えがだよ」

「ベルナール教官の側に居るのが、一番自分を高められると思ったからです」

「そうか。その向上心は褒めるが、“学ぶ”と言う意味なら、俺より適した人間は幾らでも居ると思うが?」

「私の目にはそう映ったんです」


ベルナールは頷いて返すとラウラの配置先を聞いた。


「はい。“ズィープトシュトルム”って言う昨日新設されたばかりの特殊戦術チームです。そこの“中核班”です」

「中核班、部隊本隊部。別名“特殊戦術の指令塔”。君の実力なら、充分やっていける場所だな」

「はい。ありがとうございます」

「頑張れ」

「はい。では、午後から任務が入ってますので、失礼します」


ベルナールに敬礼したのちその場を去ったラウラの背中を見送ったベルナールは「卒業したその日にいきなり初陣って、どんなブラック部隊だよ」と呟いたのち通信端末を再起動した。


「ベルナール」

「?。あっ、ヴィント先輩」

「そうか、式典中だったから端末切ってたのか。俺とベルナールに、転属命令だ」


目を見開いたベルナールは再起動を終えた端末を操作するとメールをチェックした。

そこには確かに“転属指令”が届いていた。


「特殊戦術チームの“ズィープトシュトルム”の援護班?」

「ベルナールは援護班なのか?。俺は中核班だ」

「・・・あれっ?。て、事は午後出撃ですか?」

「ああ。午後一でブリーフィング開始だ」

「装備、整えておきます」

「それが良い。午後一となると時間がある様で無いからな」


ベルナールはヴィントに一礼すると足早くその場を後にした。


「俺とベルナールに昨日設立されたばかりの新チームに転属命令。これは、もしかしたらただの新チームではないかもな」


自分の前髪を揺らした空調風に語り掛ける様にそう呟いたヴィントは自分が進むべき方向に向けて脚を進めた。







6


ベルナールは制服を脱ぎ、外征任務用の戦闘服一式に着替えると護身用途で支給されたリボルバーをホルスターに納めたのち“オイルライター”・“フラッシュライト”・“筆記具付き多用途ボード”をそのぞれのポーチに納め、ライフルをスリングで背負うと部屋の明かりを消し、自室を出た。


「・・・」


空調や換気が効いてるとはいえ、寮の廊下を充満する煙草や酒の匂いに溜息を吐いたベルナールは寮を抜けようと足早く歩いたが遼の中に設けられた談話室の前でピタッと脚を止めた。


「ありゃ、バスケの中継か?」


ビールや炭酸飲料片手に大型テレビの前に集う非番の兵士達が観ていたのはバスケットボールの試合の生中継だった。

外がどんなになろうと、地下施設内で出来るスポーツは今だに健在。スポーツ観戦大好きな兵士達にとって、これ程の癒しは無いだろう。


「おう、ベルナールじゃねぇか」


テレビから目線を逸らし、声のする方を向いたベルナールは自分に声を掛けた先輩兵士と目を合わせた。


「休日だってのに、任務か?」

「特殊戦術チームに、“明確な”休日はありませんよ」


皮肉混じりの口調でそう答えたベルナール。

すると先輩兵士は後ろポケットから煙草を取り出すとベルナールの前で自分の分を咥えたのち煙草を差し出した。


「一本どうだ?」

「遠慮しておきます。狙撃の妨げになるので、」

「硬いねぇ〜。特殊戦術チームのスナイパーだって、吸ってる奴は吸ってるだろ」

「俺は俺です」

「そうか。まっ、無理に薦める気はねぇよ。ただ、健康の事を考えるのはマヌケだ」

「へ?」

「副流煙で肺は毒されてる筈だ。それと、煙草のせいで死ぬより“奴ら”のせいで死ぬ確率の方が、個人的には高いと思ってる」

「それ、百年近く昔の考えでは?」

「“対人”って意味ではな。“奴ら”を相手にするのとは色々違う。まぁ、対人を知らないお前には判らんかもしれんがな」

「そう、ですね。すみません、出過ぎた発言を」

「いや気にするな」

「ただ、そうは言われても煙草は臭いが好きになれない」


そう言うとベルナールは謝罪の意を込めて先輩兵士の咥えた煙草に火を付けた。


「ありがとな」

「いえ、ではこれで」


一礼をしたのちベルナールは遼の出入口のゲートから通路に出た。のち毎日の様に口の中に広がる苦い何か唾液と一緒に喉に落とした。


「お疲れ」

「お疲れ様です」


「御苦労さん。休日だってのに任務だってぇ?。まぁっ、頑張れよ」

「ありがとうございます。俺の分まで休日楽しで下さい」


「お疲れさん、お前さんも一本どうだ?」

「遠慮しておきます」


行き交う非番の兵士に挨拶を返しながら廊下を進むベルナールは一部の兵士から向けられる冷たい目付きを向けられながらもそれを無視して進んだ。


「なぁ、また彼奴転属だってよ」

「あんな化け物と組む連中が可哀想だな」

「と言うか彼奴の能力のせいで、彼奴が所属する部隊の出撃頻度が増えてるんじゃないのか?」

「本当、可哀想だな」


「・・・」

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