第64話 逆叉千彩都 その3
千彩都には関白と同じ分離のスキルがある。
問題は、どうやって発動するかだ。
スマホを手に持ちながら、震えた声で懇願する。
「ふ、振り返ってもいいですか」
「私を見てどうする」
「どうせ、スマホを奪ったら殺すんでしょ? なら、後ろからいきなりは……いやだ」
「殺すつもりなら最初から殺している。素直にスマホを渡してくれたなら、逃がしてやろうと、寛大な心で考えていたのだが」
「え、そうなの?」
「だが気が変わった。お前、何か企んでいるだろう? これでも教師でね、お前のような小娘の相手を散々してきたから、わかるのだ」
まずい。
まずいまずいまずい。
「殺す」
どうせ殺されるのなら、やるしかない。
殺られる前に、殺るしかないのだ。
「くっ!!」
チサトが咄嗟に振り返る。
眼前に映るのは、悍ましきモンスター。
ゴブリンらしく緑色に変色した肌。
禿げた頭皮。
だが、その目だけは、赤く染まった目だけは、冷酷な人間らしい底の見えない闇が感じ取れた。
ゴブリンでも人間でもない、魔物。
飛鳥関白。
それでも臆せず、チサトは関白の腕を掴んだ。
「スキル、発動!!」
黒子が言っていた。
太郎が隠し撮りした動画にも映っていた。
分離スキルは、触れてさえいれば生物にでも効果が適用される。
己と同じスキルで、関白は死ぬのだ。
「……え?」
なにも、起きない。
「どうした?」
「な、なんで……」
確かに、分離スキルなら人を瞬殺できる。
しかし、チサトは知らないのだ。
生物に効果を発動できるのは、スキルレベルSSになってからだということを。
「なにもしないなら、今度は私の番だな」
「い、いや……」
「もう遅い」
「いやあああああああ!!!!」
死ぬ。
そう察した、そのとき。
「千彩都!!」
部屋へと繋がる通路から、声がした。
幻聴かと勘繰ってしまうほどの奇跡。
関白すら、まさかと咄嗟に振り返る。
幻聴などではない。
実は、千彩都の母が連絡していたのである。
千彩都が深谷のダンジョンに行くことは、母親にしか告げていない。
その母親が、心配性な母親が、こっそり伝えていたのである。
ダンジョンに詳しい、千彩都の幼馴染に。
そして、来た。
彼女もまた、親友が心配だから。
エントランス付近にいた救助隊に話を聞き、千彩都は暗視ゴーグルを持ってきていないことを知った。
ならたぶん、この道を通ったかもしれない。
そうやって、ハズレルートを進んでいると、発見した。
開いている隠し扉を。
黒子ですら知らなかった隠しルート。
そして聞こえてきた。
親友の絶叫が!!
電動キックボードに乗ったまま、関白へ突っ込んでいく。
「え!!」
「くっ!!」
一瞬、両者の視線が重なった。
予想外の遭遇。
因果の集結。
「ちっ」
関白が、千彩都から離れキックボードを回避すると、
「お待たせ!!」
そう、黒子は笑った。
「黒子……」
「話はあとで聞くよ。それより……」
視線が関白へ移る。
「まさか、こんなところで会えるなんて、ビックリです」
「黒猫黒子……」
冷や汗が関白の頬を伝う。
関白も予想外であった。あの小娘が、黒子の知り合いであったなど。
「く、くくく。だからどうした? むしろちょうどいい。今度こそキサマを捕らえ、そこの友人を人質に、ゴブリン化解除の薬を生産させる」
「今度こそはこちらのセリフです」
「お前1人でなにができる? お前のスキルでは、私には勝てない」
「だから、力を合わせるんです」
「ま、まさか……」
再度、黒子は千彩都に向けて、微笑んだ。
「水臭いよ千彩都。こんなご時世だから、心配したんだよ。私も、みんなも」
「み、みんな?」
「だって、友達でしょ? 最近、あんまり喋る機会なかったけど、友達だよ。……ですよね? 駿河さん、ヨルヨちゃん」
黒子を追うように、2人も到着した。
ギロリと関白を睨みつけて、放たれる殺意が部屋に充満する。
「飛鳥関白さん、ここで決着をつけます!!」




