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第63話 逆叉千彩都 その2

「んじゃ、お母さん行ってくるねー」


「あんまり無茶しちゃダメよ」


「へーきへーき」


 翌日の土曜日、千彩都は深谷市に降り立ち、そのまま廃城ダンジョンへ向かった。

 ダンジョン配信ブームのおかげか、駅から直通のバスが運行している。


「やべ、暗視ゴーグル買うの忘れた……。まあいいや、雰囲気味わって帰るだけだし」


 受付でカードを見せて、ワープゲートをくぐる。

 このゲートは、ダンジョンと共に出現したもので、こうやって入るダンジョンはいくつか存在する。


「おお」


 一階のエントランスにワープすると、異質な光景に思わず声を漏らした。

 古臭いロウソクのシャンデリア、知らない偉人の絵画、真っ赤な絨毯。

 なのに薄暗くて、身が凍るほどに不気味。


「これがダンジョンかあ」


 瞬間、千彩都の脳を知らない記憶が駆け巡る。

 いや、記憶ではない。空想か、錯覚か、とにかくハッキリとしたイメージが浮かんでくるのだ。


 自分が、スキルを発動しているイメージが。

 どのようなスキルなのかまで、具体的に描かれている。


「これが……私のスキルってことなのかな」


 とりあえず懐中電灯で前方を照らし、エントランスをウロウロしてみる。

 左側にあった扉を開けると、


「あ」


 黄色いジャケットを着た男性3名が、廊下の中央に立っていた。

 ダンジョンで何かあった場合に駆けつける、救助隊である。

 全員暗視ゴーグルを付けていて、廊下の左右の壁に並んだ扉を、ひとつひとつ確認しているようだ。


「えっと……何かあったんですか?」


「飛鳥関白を捜索中です」


「あ、はい」


 なんだ、やっぱりこのダンジョンでも捜索しているんだ。

 若干落胆しながら、踵を返す。


 エントランス右側の扉にも行ってみよう。2階へ登るのはそのあとだ。

 ドアノブを捻ると、先程救助隊がいたような、長い廊下に出た。


 レンガ調の壁には他の部屋につながる扉はなく、先も真っ暗で見えない。


「えー、こわ」


 実は、この廊下はハズレルートであった。

 進み続けると、外に出てしまう構造である。

 暗視ゴーグルを着用せず、ライトで照らしていると、この廊下に繋がる扉が現れる仕掛けなのだった。


「モンスターとか出るのかな」


 1階には出現しない。だがそんなこと、千彩都の知る由もない。

 恐怖で心臓がバクバク鼓動する。

 幽霊やモンスターが飛び出してきたらどうしよう。

 そもそも、暗いというだけで怖い。


「やっば〜、なまじモンスターとかいるぶん、お化け屋敷なんかより圧倒的に怖い」


 ビクビクしながら、ゆっくり進んでいると、


「んー?」


 壁のレンガにひとつ、色が黒いものを発見した。

 他は赤茶色なのに、明らかに不自然。


 もしスタスタ歩いていたら、まず気づかなかったであろう。

 そのうえ、偶然ライトで照らさなかったら、発見していなかった。


「なんだろ。しみ?」


 不用心に触れてみる。

 すると、


「え?」


 壁の一部がスライドし、隠し部屋への通路が出現した。


「なになに〜、お宝とかある感じ?」


 少しのワクワクを胸に、踏み込んでいく。

 1分ほど歩くと、6畳ほどの部屋へと辿り着いた。

 簡易的なベッドと宝箱があるだけの、殺風景な部屋だった。


 瞬間、千彩都は察した。


 綺麗なベッド。

 埃ひとつない宝箱。


 獣の臭い。


 妙な生温かさ。

 まるで、先ほどまで生き物がいたかのような、湿度。


「やばい」


 脳裏を駆け巡る可能性。

 飛鳥関白がいるかもしれないという、あってはならない可能性。


「よくここがわかったな」


 背後から声がした。


「振り向くな」


 廃城に入ったときとは比べ物にならないほど、千彩都は恐怖によって混乱していた。

 足が震える。

 尿意を感じる。


 首筋がゾクゾクする。


「……あ、あの」


「ダンジョンに慣れているやつに限って、この部屋には辿り着けないのだ。おそらく君は、初心者だろう」


 熟練者なら、暗視ゴーグルを装着する。

 なんせライトだけで進むと、外に出されてしまう城の構造を理解しているから。


「とはいえ、仮に辿り着いても、一目で私を見つけることはできない。現に、こうして背後を取っているだろう?」


「……」


「まあ、君のような者に見られたからといって、困りはしないのだがね。住処はまだある」


 ずっと、後ろから発せられる声を聞きながら、千彩都は精一杯思考を巡らせた。


 まさか本当に遭うとは思わなかった。

 どうにかして逃げられないか。

 黒子を呼べないか。


 さっきの救助隊の人たちに、助けを求められないか。


「別に、君が去るまでずっと隠れていてもよかったのだが……なら、どうして私がわざわざ、君の前に現れたかわかるかな? あぁ、前ではなく後ろか。くくく」


「……」


「聞いているんだ。考えて答えたまえよ。失礼な子供だ」


「わ、わかりません」


「だから、考えて答えてみろと言っているんだよ阿呆がッ!!」


 ヤツの手が千彩都と頭部を鷲掴みにする。


「ひっ!! え、えっと、く、口封じ」


「んー、違うな。……隠れている身としては、常に情報は仕入れておきたい。しかしスマホのバッテリーが無くなりかけていてね。そこで、君のを貰いたいのだ。……アンドロイドかな?」


「は、はい」


「素晴らしい。スマホを出したまえ」


 言われるがまま、ゆっくりとポケットに手を入れる。

 ダメだ。スマホを奪われてしまったら、黒子を呼べなくなる。


「速くしなさい」


 逆に、渡してみるか。

 スマホのバッテリーを交換している間に、何かできるかもしれない。


 何故なら自分には、こいつと同じ、分離のスキルがあるのだから。

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