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第61話 ルルナ、孤独の戦い

 蔵前ルルナは諦めない。

 この前はついうっかり癇癪を起こして、黒猫デリバリーのブラックリストに入ってしまったが、黒子への気持ちは一切冷めてはいない。


 毎日どこかのダンジョンへ赴けば、そのうち会えると信じているのだ。


 そのうち。


 そのうち……。


「はは。わかってるよ。どうせ私は、黒猫ちゃんには会えない……」


 そのうちなんて来ない。

 でも1%の可能性があるから、今日もダンジョンに来てしまう。


「あ〜あ、人生つらすぎ」


 なんて不貞腐れながらトンネル型のダンジョンを歩いていると、


「くっそー、どこにいるのよ黒猫黒子」


 黒子を捜す、キャバ嬢みたいな女が前から歩いてきた。

 キラキラのドレス、明るい髪色、ゴリゴリの化粧やネイル。


 ザ・夜の街の住人といった出立ちだった。


「あの」


 ルルナが話しかける。


「黒猫ちゃんに用事ですか?」


 黒子に関するあらゆる事情を知っておきたいから、話しかけたのだ。

 怖いね。


「あん? 誰よあんた」


「私ですか? 私は……ふふ、黒猫ちゃんの運命の相手です」


 断じて違う。


「運命の相手? まさか、黒猫黒子にとって大切な人物?」


「はい!!」


 はいじゃないが。

 会ったこともないくせによく言う。


「ふーん」


 キャバ嬢がニヤリと笑った。


「本人じゃなくても、大切な人物なら良いって言っていたわね」


「はい?」


「あんたを、とある男の元に連れて行くわ。人質としてね」


「とある男?」


「依頼をこなせば、大量の宝石をくれるって約束なのよ。まあ、そいつはかなりヤバイやつだけど、私には関係ないわ」


「え!?」


「本当は適当な連中使って連行するつもりだったけど、どうやら失敗したみたいだから、私が直々に動いているのよ」


 そう、新生ドットマジェスティに指示を出したのはこいつである。

 どこでいつ関白から依頼されたのかは、定かではない。


「お、男……」


 ルルナの血が熱く沸騰する。

 男、黒子を狙う男。

 それが誰であろうと、黒猫ちゃんが客以外の男と接触するなど断じて許されないッッ!!


「人質になんて、ならないわ!!」


「いいえ、なるのよ。ここであなたを倒してね」


 倒す。つまり戦闘がはじまる。

 ルルナのスキルは探索スキル。戦闘には向いていない。


 ここは、逃げるしかない。

 そう決断したとき、キャバ嬢が、両手の拳を前に出した。


 親指を上にして、特殊な拳法の構えだろうか。


「戦闘の方法はこれよ」


「これ? ……まさか!!」


「そう、指スマよおおおお!!!!」


 指スマ。

 地方によっては「ちっち」や「いっせーの」とも呼ばれているゲームである。


 ルールは簡単。

 まず、親側が0から4までの数字を口にする

 このとき、同時に2人とも親指を上げるか上げないかする。


 そして、口にされた数字と、2人が上げた親指の本数が同じなら、親側は片方の拳を下ろせるのだ。


 親は数字が合っているか否かに問わず、1回ずつ交代する。


 そして、先に2つの拳を下げることができた方の勝ちである。


「私のスキルはギャンブルスキル。ゲーム対決に勝てば相手の意のままに操れるのよ」


「ぎゃ、逆に私が勝てば……」


「そのときは、あんたの命令を一つ聞いてあげる」


 おそろしいルールである。

 しかし、殴り合いの戦いではない。

 ルルナでも勝てるかもしれない。


 黒猫黒子の平和を脅かす敵。

 見逃すわけにはいかない。

 退くわけにはいかない。


 だって自分は、黒猫の騎士ルルナだから!!


「いいわ、やりましょう!!」


「そうこなくっちゃ」


 ルルナも両手の拳を出す。

 先行はキャバ嬢。


「いくわよ。いっせーの、4」


 ルルナが上げた親指は1本。

 キャバ嬢は2本で合計3本。


 セーフである。


「やるじゃない」


 この指スマというゲーム。

 運ゲーと思われがちだが実は意外と心理戦。


 相手の心の内を読み、探り合うゲーム。

 例えばこのとき、キャバ嬢は予想していた。


 このルルナとかいう頭の悪そうな女、勢いで生きているタイプ。

 そういうやつは、初手2本を上げがちだと。


 けれどそこはルルナ、己を理解し、自制する。

 冷やす。興奮。昂りを。

 なんせこの勝負に敗北すれば、黒子がピンチになるからだ。


「じゃあ、次は私、いっせーの……」


「……」


「0!!」


「ふふ」


 上げている。

 キャバ嬢は1本。


 合計数は1。

 0ではない。


「いるのよねえ。慎重になっている空気感で、相手があえて指をどちらも上げないと予想して、0を宣言するやつが」


「くっ!!」


 読まれた。今度は確実に。

 さすがに手強い。気を抜けば狩られる。油断しているヘビを、上空から奇襲するタカのように。


「次は私よ。……くくく、ずばりあなた、指を上げないわね」


「なっ!? やめてよそういう動揺を誘うハッタリは」


「あら、ごめんなさあい」


 偶然が必然か。

 キャバ嬢の発言は当たっていた。

 ルルナは上げないつもりだったのだ。


 故にまた悩む。巡る、ルルナの思考。

 予想を外すように指を上げるか、あえて上げないか。


 ならば、いやしかし、だが……。

 結論に到達しては新たな疑念が浮かび、また新たな結論に至る、終わらぬ堂々巡り。

 さながら思考のいたちごっこ。


「いっせーの」


 もう考えている時間はない。


「2」


「!?」


 ルルナは上げていない。

 上げていないのだ。


 だが、キャバ嬢は上げている。

 己の親指、2本。


 0と2、合計は2。


 2!!


 2!!!!


 2ッッ!!!!


「うぐっ……」


「ははは、素直ねえ。いいや、素直な捻くれ者かしら、あなた」


 ハメられた!!

 誘導された!!


 ルルナの性格を見抜いての発言、見事炸裂!!



「まずは一勝。後がないわね」


 立たれてしまう。

 精神的地の利。

 心理戦において、余裕は冷静さと視野の広さを与える。


 逆に追い詰められたものは、熱くなり、視野が狭まる。


 劣勢。

 圧倒的劣勢。

 崖っぷちッッ!!


「ほら、あなたの番よ。ここで勝たないとね。ははは」


 その通りである。

 なんとしても掴みたい勝利。

 並ばなくてはならない。


 それがルルナを焦らせる。

 煽る。本能で勝負しろと。

 さながら、心理戦においてがむしゃらに戦うのは、目隠しで綱渡りをするようなもの。


 まず絡め取られ、落ちる。

 地の底へ。


「黒猫ちゃん……助けて……」


「ははは!! 無駄無駄ァ!! 私の読みでは、あんたは無様に敗北するのよ。この低知能バカ。ポンコツ。クズ」


「うぅ……」


 なにか、なにか手はないか。

 探索スキルは役に立たない。

 あと残っているのは……黒猫黒子スレ?


 あんな肥溜めみたいな場所が何の力になる。


 あそこで自分は、黒猫の騎士を名乗っていた。

 しかし実際、守るどころかマトモに戦うことすらできていない。


 思い込んでいただけ。

 滑稽。

 哀れ。

 無様。


 最初から逃げていればよかったのに、黒猫黒子の騎士として役に立ちたいと奮起してしまったから。


 惨め。

 どうしようもなく惨め。


「ほら、さっさとしなさいよ」


「うぅ……いっせーの…………3」


「なにっ!?」


「え……」


 キャバ嬢が指を上げていた。

 ルルナも、弱々しいながら指を2本上げている。


 つまり、ルルナが口にした数字が的中。

 偶然。幸運。ラッキー。


 たまたま、キャバ嬢の裏をかけたのだ。


「あれ……」


「ちっ、ここに来て私の読みが外れるなんて……」


「これで、1対1」


 まさかまさかの展開。

 なにはともあれ、これで並んだ。

 対等になれたのだ。


 先ほどまで震えていたルルナもこれには安堵。

 ほっと一息。


 見えてきた。

 希望が見えてきた。

 だが油断はできない。

 残る親指は、互いに1本ずつ。


 適用される数字は0から2。

 確率は3分の1、かなりの高確率。


「私の番よ。これでトドメを刺してやるわ」


「……それは、どうだろう」


「はあ?」


 研ぎ澄まされる、勝利への方程式。

 あの偶然の勝ちがもたらした、気づき、閃き!!


「お姉さん、次の読みも外れるよ」


「な、なにをこのクソガキが!!!!」


「ちなみに私は、指を上げる」


「こいつッッ!! この私に精神的動揺を与えようっての!? 十年早いんじゃ!! 舐めんなじゃねえッッ!!」


 心理戦において重要なのは、相手をよく理解すること。

 分析すること。

 把握すること。


 さすれば自ずと答えはでてくる。


 キャバ嬢は自分の読みに絶対的な自信を持っている。

 いや、持ちすぎているのだ。


「潰す、クソガキがッッ!!!! うおおおおおおおお!!!! いっせえええええのおおおおおおおおおお!!!!!」


「…………」


「いちいいいいいいいいいいッッッッ!!!!」


「……ふふ」


「ぬわっ!?」


 どちらも指を、上げていない。


「ば、ばかな……」


「お姉さん、私を素直な捻くれ者だと思ってるよね。だから、私が、あえて宣言通り指を上げると思った。自分ならそうするから」


「はぁ……はぁ……」


「1対1になって、お姉さんは勝手に自分を追い込んでいるんだよ。自分の読みが間違えるはずがない、必ず勝ってやるってね」


 その気負いが、視野を狭めた。

 興奮してしまった。

 差し詰め、強固な盾を持ちながら全速前進しかしない雑兵。


 己が把握できる範囲しかカバーできない。


 彼女の高すぎるプライドが、仇となっているのだ。


「いまの私は、お姉さんの一歩先を行く。思い込みは、ときに自分自身を暴走させるんだよ、お姉さん!!」


 こいつが言うと説得力がある!!


「だからなんだってのよ、あんたの番よ、さっさとしなさい!!」


「言われなくても」


「くくく、私は、指を上げないわよ」


「私も、上げない」


 そうなれば、0か1。

 実はこのとき、ルルナは無策。

 ぶっちゃけ運否天賦!!


 しかし、勝つ。

 勝ってみせるのだ!!


「いきます」


「来い!! クソガキィ!! 貴様を人質にして、飛鳥関白から大量の宝石を貰うのよおおおおおお!!!!!!!」


「いっ、せええええのおおおおおおお!!!!」


「うおおおおおおおおッッッッ!!!!」


「ゼロだあああああああああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」


 ルルナは宣言通り上げていない。

 対象に、キャバ嬢は、


「うぐわあああああああ!!!!」


 上げていなかった!!

 つまり合計0本!!


 決着ッッ!!


 勝利ッッ!!


 ルルナの大勝利であるッッッッ!!


「か、かった……勝った……」


 アドレナリンが全身を駆け巡る。

 ドーパミンが雄叫びとなって放たれる。


「勝ったああああああああ!!!!!!!!」


 湯水の如く溢れ出す。

 興奮。脳内麻薬、エンドルフィン!!


「これが、黒猫ちゃんの騎士ルルナの力だ!!!!」


 指スマ終了ッッ!!

 ルルナは勝利の約束として、命令を下す。


「金輪際、黒猫黒子に危害を加える真似は、一切しないで!!」


 飛鳥関白の居場所を聞けよという感じだが、ルルナにとっては黒子の安全こそ第一なのだ。


 蔵前ルルナ、気持ち悪い女だが、黒子への愛は、本物であった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき


懐かしいですよね、指スマ。


皆さまの応援お待ちしております!!

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