第57話 雀鬼ヨルヨ その1
とある迷宮ダンジョンの終盤。
Sランクモンスターの巨大リザードマンが宙に浮く。
リザードマンが自ら飛翔しているのではない。浮かされているのだ。
ヨルヨのスキルによって。
「押し潰れちゃえ!!」
強烈な勢いで地面に叩きつけられる。
それを何度も繰り返し、リザードマンは気を失った。
「はぁ……はぁ……」
関白を倒すため、ヨルヨは修行をしていた。
もちろん、スパチャ目的で配信もしている。
無料で黒子の家に住まわせてもらうわけにはいかないからだ。
幸運にも、関白の件でヨルヨも有名人になったし、可愛いのでロリコンから毎回毎回高額スパチャが送られてくる。
・やったね
・つよい
・えらい
・おじさんのアソコも潰してほしいな
Sランクモンスターを倒したというのに、ヨルヨはどこか不満気だった。
修行を初めて数日。いまいち、強くなった気がしないのだ。
そりゃあ、強敵を相手に上手く立ち回り、何度もスキルを連発するのは難しく、倒す度に達成感は味わえるのだが……。
「こんな程度じゃ、あいつには勝てない」
器用に戦えるようになるだけではダメだ。
もっと、もっと根本的なパワーアップがしたい。
そう、とどのつまりは、スキルのレベルアップ。
「黒子や駿河より、強くならないと」
・ヨルヨちゃんは強いよ
・関白退治は他に任せてもいいんじゃない?
・焦らないで
・おじさんが鍛えてあげるよ
気持ち悪いコメントにうんざりしながら、配信を切る。
視聴者を女性限定にできないだろうか。なんて考えながら、ダンジョンの出入り口へと戻っていく。
その道中。
「あ、ヨルヨさんじゃないっすか」
チャラそうな3人の男たちと遭遇した。
「んあ? あんた達……」
見覚えがある。
そうだ、かつてヨルヨの兄、日輪シンヤが結成した対飛鳥関白チーム『ドットマジェスティ』のメンバーだ。
逮捕されずに残ったザコ共。
手下の手下。最下層のメンバーだ。
「ボスのことは残念でしたねえ」
「……」
無視して通り過ぎていく。
いまさら同情されたくはない。
あの男たちにしたって、もはや何の関係もない他人だ。
「そういえばですねえ、俺たち結成したんですよ」
「?」
「新生ドットマジェスティを」
「……は!?」
否が応でも立ち止まらざる負えない。
とっくに滅んだはずの組織を、再建しようというのか。
下っ端の連中が。
「はん。あんたらが? 勝手にすれば」
「いいや、そういうわけにはいかねえんだな」
「私は入らないわよ」
「構わねえですよ。ただ、俺たちについてきてもらう」
「はあ?」
男たちがクスクス笑う。
「約束してくれたんですよ。とある男が。黒子、駿河、ヨルヨの誰かを連れてくれば、報酬としてワープサファイアをくれるって。それさえあれば、俺らも好き勝手し放題だ」
「……」
ヨルヨに脳裏を電流が走る。
ワープサファイアを持っていて、ヨルヨたちを狙う人物。
そんなもの、一人しかいない。
「まさかあんたら、飛鳥関白と会ったの!?」
「おおっと、力づくで居場所を聞き出そうとしても無駄ですよ。俺たちは口を割らない。ただ、ゲームで勝てば、教えてあげますよ」
「ゲーム?」
「そりゃそうだ。真っ向から戦ったら俺たちは絶対に勝てない。だから、策を練って戦うしかないわけですわ」
「それが、ゲーム」
「するんですかあ? しないんですかあ?」
ゲームなどとまどろっこしい手段を用いる必要があるのか。
脅して苦しめて吐かせればいいのではないのか。
男たちのリーダー、坂崎がドローンを飛ばす。
配信を開始する。
変態どもが集う闇の配信サイト、アンダーブでの配信であった。
「もし、攻撃してくれば、この動画を拡散しますよお? 『いきなり暴力で脅してきた』ってね」
「ちっ。で、ゲームってなにをするのよ」
「やるんですね?」
「えぇ、やってやるわよ」
「その言葉を待っていました。……スキル同時発動!!」
3人が一斉にスキルを発動する。
眩い光がフロアに満ちる。
やがて光が収まっていくと、
「こ、これは」
麻雀卓が設置されていたのだ。
「できますよね? かつてのボス、日輪シンヤが語ってましたよ。麻雀が趣味で、たまに妹とも打ってるって」
「できる、けど……」
返事をしつつも、ヨルヨは若干拍子抜けをしていた。
てっきり残忍なゲームでも始まるのかと思ったのに、まさかの麻雀。
ふざけているのか、こいつらは。
「俺たち3人のスキルはそれぞれ、物質の召喚、結界。誰もここから出られないし、入れない」
「あと一つは?」
「ヨルヨさんの『同意』を経て発動した俺のスキル、『契約のスキル』。これで、あんたが最下位で終了したとき、魂が抜かれて、俺たちと共に飛鳥関白のもとへ連行される」
「魂を!? しかも麻雀で、3対1で戦えっての?」
麻雀は4人で点数を競い合うゲームである。
個人戦である前提を覆し、チームを組まれた場合、残りの1人は不利になる。
「だからヨルヨさんが勝った場合、俺たちは人数分。つまり3回、命令に従いますよ。契約スキルで結んだ契約は絶対。誰にも、一生覆せない」
彼らのスキルはこれで明らかになった。
麻雀中に使われることはない。
いや、もし駿河のように2つスキルがあるのなら……。
ありえない。
2つ持ちなら、兄シンヤのお気に入りとして昇格している。
たとえクズみたいなスキルでも、1人の人間が2つのスキルを持っていることは、単純に2人分の働きが可能だからだ。
しかし、シンヤはこいつらを箸にもかけなかった。
ならば、スキルは1つだけ。
対して、ヨルヨには重力操作のスキルがある。
なにかしら、麻雀の最中に使えるかもしれない。
「もちろん、プレイヤーへの直接攻撃はルール違反。即敗北ですよ」
「でしょうね」
「忠告しときますけど、俺たちはガチですよ」
「……」
「麻雀を使い、本気で、あんたをぶっ倒します」
「いいわ。受けて立つわよ!!」




