第54話 百合回かも? 石田成子 その1
黒子にとって駿河は親友以上の何かである。
その何かに相応しい単語が、黒子にはわからなかった。
ただ、誰よりも駿河と仲がいいことを自覚するたびに、自然と頬が緩んでしまうのは理解していた。
「駿河さん、今日も配信してる」
関白との戦いを経ても、駿河はアポカリプスの魔女としての活動を続けていた。
配信どころではない状況に思えるが、それでも続ける理由は2つ。
関白捜索の調査を世界と共有すること。
関白事件を風化させないこと。
なので現在、駿河はただの攻略配信はしておらず、もっぱら痕跡調査配信ばかりしていた。
どうやって調査しているのかと問われれば、
「駿河さんが私のアイテムを使うの、はじめてかな」
以前、黒子がママゴブリンと会話する際に用いた『なんでも翻訳機』で、ダンジョン内のモンスターに聞き取りしているのだ。
もちろん、襲いかかるモンスターもいるので戦闘は避けられない。
そんなことをして、関白が真っ先に殺しに来そうだと不安になるが、それでも駿河は止まらない。
命に変えても関白を倒す。
その覚悟が、彼女を突き動かしていた。
「ん?」
黒子のスマホにメッセージが届く。
デリバリーの依頼だ。
しかも、指定されているのは現在駿河が配信しているダンジョン。
もしかしたら会えるかもしれない。
気分上場に、黒子は家を出た。
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「おおおおおおお待たせしましたーーっ!!」
さっそくダンジョンに到着。
依頼したのは女子高生配信者であった。
駿河と同じ学校の制服を着ている。
リボンの色まで駿河と同じ赤色なので、同級生だろう。
「来ましたわね」
「えーっと、石田成子さんですね」
「そうですわ。アレ、もってきてくださいまして?」
「あ、はい」
リュックから依頼品を取り出す。
様々な魔力石を素材に生産された、最強のダンジョンアイテム。
そう、
「デストーム・クリーナーです」
先日関白に分離されたが、修復したものだ。
まさかこんなものが依頼されるとは、黒子も予想外であった。
強力故に危険でもあるため、レンタル料は1時間1000万円と破格の設定だが、ポンと払えてしまうあたり、さすがお嬢様学校の生徒である。
よほど高レベルのモンスターと戦いたいのだろう。
「サイン、お願いします」
「えぇ。……何に使うんだろうって顔してますわね」
「え!? ま、まあ」
「倒すのですわ。世間を賑わすヤツを」
「ま、まさか飛鳥関白!? 危ないですよ!!」
「はぁ? そんなわけありませんわ。さすがに怖いですわよ」
「じゃあ、誰を?」
「アポカリプスの魔女ですわ」
「……へ?」
サインを書き終え、成子は再度、口にした。
「アポカリプスの魔女。私のライバル松平駿河ですわ!!」
黒子の背筋を悪寒が走る。
まさか関白のように、アイテムを利用して人を殺そうとしているのではないか。
もしや関白に命令されて駿河を倒そうとしているのではないか!!
「な、なぜ……」
「ムカつくんですわ!!」
「ム、ムカ?」
「ワタクシの家の総資産の方が上ですのに、ワタクシの方が先にダンジョン配信を始めましたのに、なんで駿河さんの方が人気なんですのよ!!」
「……」
「何故ですの!?」
「な、何故でしょう……」
どうやら、成子は駿河をライバル視している同級生らしい。
「学校でのスマした態度、いつもクールで、人気者、許せませんわ。許せませんわああああ!!!!」
「は、はぁ」
「だから、決闘するんですわ!!」
「な、なるほろ……」
どうやら関白の仲間ではないらしい。
とはいえ、誰かを傷つけるためにデリバリーをするわけにはいかない。
ここは返金をして、早々に立ち去るべきだろう。
と思った矢先、
「黒子?」
通路の奥から、駿河がやってきたのだ。
「駿河さん!!」
「帰ろうと思ったら偶然ね。それに……えっと……」
あ、駿河のやつ、石田成子の名前を忘れているらしい。
「ワタクシを忘れたとは言わせませんわ!!」
「吉田さん」
「石田ですわ!! とことん失礼な人ですこと!!」
「どうして2人がここに?」
成子がビシッと指をさした。
「あなたと決闘するためですわ!!」
「……なんで?」
「あなたがワタクシより人気だからですわ。ワタクシの方が美しく、勉強も、運動も、総資産も上なのに、いつもいつもみんなからチヤホヤされて……ムキーッッ!!」
「それであなたと決闘をする理由がわからないのだけど」
ごもっともである。
駿河は未だ配信中だったせいか、コメント欄も沸いている。
・どういう展開?
・決闘?
・うおおおおお
・キャットファイトやんけ
・仲良くちて
「ふっふっふ、ワタクシにはこの、デストーム・クリーナーがありましてよ」
「それって……」
駿河が黒子を一瞥する。
まずい、変な誤解をされる。と黒子は首を横に振った。
駿河にだけは嫌われたくないのだ。
「こうなるなんて、これっぽっちも……」
「ふーん。なるほどね。いいわよ」
「え!? でも駿河さん」
「ずっと知りたかったのよ。黒子の最強アイテムを、私は突破できるのかってね。それに、ここで負けたら関白にだって勝てっこないわ」
駿河か2本の刀を抜いた。
意地っ張りなやつである。
こうして、擬似的な駿河と黒子の戦いがはじまったのであった。




