第52話 菊姫ちゃんが来た!!
「はぁ……」
デスクトップの前で、黒子はため息をついていた。
眺めているのは自分のホームページ。
関白との戦いから、黒子はアイテムデリバリーの件数を減らしていた。
駿河には責任を感じるなと言われたのだが、それでも少し、躊躇ってしまうのだ。
今後の配達の仕方を変えたほうがいいのか。
もっと数を減らすべきか。
「うーん」
ヨルヨが自室から出てくる。
「黒子、行ってくるね。くふふ」
「う、うん。気をつけて」
心配しながらヨルヨを見送る。
現在、彼女は『修行』をしているのだ。
よりスキルのレベルを上げるため。
1人でダンジョンに行って、もし関白に襲われたらどうするのか。
不安はあれど、ほぼ確実に関白がいないダンジョンを選べば、問題はない。
いくらダンジョンの危険性が周知されたとはいえ、人気のダンジョンはまだまだ人が集まる。
攻略しやすかったり、美しい景色が見れたり、そのようなダンジョンは序盤から終盤まで冒険者がチラホラいるので、関白は出てこられないだろう。
「とはいえ、みんな呑気だな〜」
そんなものである。
身近に恐怖が迫っていても、自分なら大丈夫と楽観的になる人間は少なくない。
ふと、スマホに通知が入った。
デリバリーの依頼であった。
依頼人は……。
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「おおおおお待たせしましたーーーーっ!!」
指定されたのは『タネ』と呼ばれる地下迷宮ダンジョン。
いくつもの地底湖が存在し、様々な植物が茂る自然豊かなダンジョンだ。
コロナホタルと呼ばれる、臀部から紫外線と熱、そして光を放つ昆虫モンスターが各フロアを飛んでおり、ダンジョン内の動植物に恩恵を与えている。
その地下4階、かなり広いフロアに、依頼人はいた。
かつてこのダンジョンで冒険者デビューをした、駿河の後輩。
「お久しぶりですね、菊姫さん」
上杉菊姫だ。
駿河に劣らぬ美貌を持ちながらも、かなり内気な女の子である。
「ど、どうも」
菊姫は長草に隠れるように屈んでいた。
寝不足なのだろうか、目の下には大きな隈ができている。
ドローンを飛ばしているので、配信中のようだ。
・黒子きた!!
・殺人鬼倒した?
・黒子だ!!
・黒子
黒子の登場にコメント欄が沸き立つ。
名前を連投されて、黒子は居心地が悪そうに視線を落とした。
あんまり注目されるのは好きではない。
「そ、それより菊姫さん。ご注文の不眠ドリンクと、ステルスマントです」
「ありがとう、ございます」
菊姫はドリンクをぐいっと一気飲みしたあと、黒いマントで体を隠した。
ステルスマント。
これで覆えば、使用者の姿や匂いが消える。
ただし『音』は消せないため、注意が必要である。
「こんなものを飲んでまで、なにをやっているんですか? それに、最近のダンジョンは危ないんですよ?」
「危ない?」
「あの、飛鳥関白って殺人鬼が……」
菊姫はポカンと首を傾げた。
まさか知らないのだろうか。
「飛鳥関白って……私と駿河先輩の学校の、先生ですけど……」
「えーっと、ですから、んー、なんと説明したものか」
「ご、ごめんなさい。私、今回の企画に集中してて、まったくニュース見てないんです」
「は、はぁ。……ま、まあいいです。それで、企画って?」
「あ、ちょっと隠れてください」
「?」
一緒に長草のなかに入り、ステルスマントで隠れてみる。
このフロアになにかあるのだろうか。
地底湖がある広いフロア。
だいたい100㎠はあるだろうか。
たくさんの木々が生え、壁には小動物たちよって開けられた巣穴がある。
「そろそろ来ます」
「なにが……」
フロアへ繋がるいくつかの通路。
その一本から、赤いイノシシが走ってきた。
何かに追われて必死に逃げている。
追っているのは、人間の子供ほどの大きさの、銀狼であった。
「あ、あれって!!」
「キングウルフの子供です」
菊姫が冒険者デビューをした日、黒子たちは大人のキングウルフを利用して悪い冒険者を撃退した。
そのときのウルフの子供であった。
イノシシが大きな木に向かって走る。
すると、木の枝葉に隠れていたもう1匹のキングウルフが飛び出し、見事イノシシの首筋に食らいついたのである。
「兄弟!?」
「はい。こうやって2匹で協力して、狩りをしているんです」
兄弟ウルフたちがイノシシを食していく。
その光景に、コメントが沸く。
・おおおお
・賢い
・ナイスコンビネーション
・さすがキングや
そう、これこそが菊姫の企画。
子供のキングウルフの生態観察であるッッ!!
相変わらず、誰もやらない企画をしているようだ。
「あの子たちの親はどうしたんですか? 私たちと一緒に戦った……」
「実は……ポイズンスライムから子供たちを守ろうとして……」
「え……」
「もう、いないんです」
一瞬、黒子の息が詰まった。
モンスターとはいえ、知っている存在の訃報は、中々精神的に来るものがある。
あのときのキングウルフはとうに絶命してしまった。
だから子どもたちは、2匹で狩りをしているのである。
本来であれば、まだ親離れするには早い時期。
人間で例えれば、彼らは小学生なのだ。
それでも、親がいなくなってしまったのだから、もう誰かを頼ることはできない。
「か、彼らが一人前になる過程を見守って、みなさんに生態を学んでもらう。それが私の企画なんです」
そのために、ほぼ不眠不休でキングウルフたちを観察していたのだった。
「き、菊姫さん……」
いつの間にか配信ジャンキーになっていて驚いたが、友達として、ここは応援したい。
ならば、
「今日だけ、私もご一緒してもいいですか?」
「へ?」
「菊姫さん寝不足ですから、もしものとき力を発揮できないかもしれないじゃないですか」
こうして、黒子と菊姫のモンスター観察が始まったのだった。
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※あとがき
やろうと思えば、すぐに関白編を終わらせることもできるんですけど、なんだかもったいないので、いろんなネタをやっていこうと思います。
一風変わった依頼や戦いの話が続きます。
どうぞ応援よろしくおねがいしますっ!!




