第50話 ルルナ、一線を越えようとする
この日、蔵前ルルナは覚悟していた。
愛する黒猫ちゃんと、共に戦う覚悟を。
例の凶悪犯、飛鳥関白。
現在どこかのダンジョンに身を潜めているらしい。
だが、自分なら力になれる。
何故なら持っているから。協力な探索スキルを持っているから!!
ルルナのスキルレベルはSS。ダンジョン中を索敵できるのだ。
これさえあれば、楽に関白を見つけることができる。
「黒猫ちゃんのためなら、私は……死ねる」
まずはそれを伝えなくてはならない。
適当なダンジョンに入り、商品を注文する。
見事、注文は受理された。
やはり、従業員が増えて当選確率もアップしている。
が、おそらく来るのはあの小さな女の子、ヨルヨ。
さすがにもうわかるのだ。黒猫にはそう易々と会えないことくらい。
「いいの、それでも。黒猫ちゃんの力になることが一番なんだから」
ヨルヨが来たら、自分のスキルを説明する。
きっと協力を求めてくるに違いない。
そしていよいよ黒猫黒子に会って……会って……。
「ふひ、ふひひひ、ついに黒猫ちゃんに会える」
この女、かっこいいこと抜かしておきながら本音はコレである。
電動キックボードのモーター音が聞こえてきた。
「来た」
そして、ルルナがいるエリアに、
「お待たせっすー」
知らない男が来たのだった。
「…………は?」
「黒猫黒子のデリバリーサービスっす〜。ご注文のポーション、届に来たっす〜」
「え、違うじゃん」
「なにがっすか?」
「黒猫ちゃんじゃないじゃん。ヨルヨちゃんですらない」
「あぁ。実はついに、俺もデリバリー業の手伝いを認められたっす!! といっても、ダンジョン序盤での注文だけっすけど」
どどんと誇らしげに太郎が語る。
しかし、その一言一句として、ルルナの耳には入ってなかった。
目の前にいる存在について把握するのに、脳みそをフル回転しているからだ。
「えっと、あなた女の子だよね?」
「どうみても男じゃないっすか」
「おとこ……?」
おとこって、あの……男?
Man。
女じゃない方。
オス。
男が黒猫ちゃんの代わり?
黒猫ちゃんの知り合い?
男なのに?
え? なんで?
こいつ嘘ついてる?
「わかった!! あなた黒猫ちゃんのお兄さんなのね!! それなら納得!!」
「違うっす。弟子っすよ」
「でし……」
「血縁関係なんかないっす。でも弟子なんで、家事とか手伝ってるっす。ご飯作ったり、服を洗濯して干したり」
ルルナの眉がどんどんと寄っていく。
こいつ、何語で喋ってるんだ?
まったく理解できない。
黒猫ちゃんが家族でもない男を家に入れるわけがないだろう。
男が作った料理なんて食わないし、男に洗濯もさせない。
そもそも男を弟子になどしないッッ!!
「ていうか、俺を知らないって結構ショックっす。この前、師匠と動画撮ったのに」
関白を騙すために撮った動画である。
隠し撮りした動画にも、太郎は映っていた。
「いたっけ、あなた」
「いたっすよ!!」
「……いたっけ?」
説明しよう!!
蔵前ルルナは気持ち悪いので、動画を視聴しながら脳内で無意識に編集し、太郎の存在を完全に消し去っていたのだ!!
何故なら黒子が依頼人以外の男と関わるのを断じて許さないから。
黒子は男をダンゴムシ程度の存在としか思っておらず、女の子が恋愛対象(ルルナみたいな女性が好み)でなければ許さないからッッ!!
なんという自分勝手なサイコパス。
関白もドン引きである!!
「信じてくださいっすよ〜。俺は師匠の弟子なんす」
瞬間、ルルナのなかで疑念が確信に変わる。
こいつは嘘をついている!!
黒猫ちゃんが男を弟子にするわけがない。
こんな最低な嘘をつくやつ、きっと犯罪者に違いない。
そうか!!
「そういうことか」
「はい?」
「あ、あなたが飛鳥関白なのね!!」
「えっ!?」
「ま、まさかこんなところで会うなんて……。こ、こうなったら殺るしかない、怖いけど、黒猫ちゃんのため、ダンジョンの平和のため、黒猫ちゃんに感謝されるため、黒猫ちゃんに褒められるため、私があなたを殺ちゅ!!」
「ちょちょ!!」
「うおおおおお!!!!」
ルルナが懐からメリケンサックを取り出した。
トゲがついている、確実に人を殺すタイプのメリケンサックである。
「キエエエエエエエエエイ!!!!」
「ひゃああああああッッ!!!!」
その後、太郎はギリギリのところで救助隊に助けられた。
今回の騒動の末、ルルナは二度と依頼できないよう、アカウントがブラックリスト入りになってしまったのだった。
ちなみに、ルルナはあまりのショックで記憶障害が発生し、太郎の存在がまた脳内から消えている。
めでたしめでたし。




