第45話 飛鳥関白 その2
飛鳥関白は自分の趣味に妥協をしない男であった。
自分が欲しいと感じた品は、犯罪行為に手を染めない手段で手に入るなら、必ず収集してきた男だ。
倉庫に眠る数千の宝物。
動物の剥製、世に出回っている人形、モンスターの剥製、ダンジョンでのみ入手可能な人形。
人形といっても、アニメや漫画のフィギュアには一切興味がない。
造形にリアリティがないからだ。
飛鳥関白は妥協しない。
常に情報に目を光らせ、手に入れる。
「これは……」
昼休み、関白は職員室で自身で用意したお弁当を食べながら、スマホをいじっていた。
そこに表示されている内容に、思わず唸る。
『鎌瀬太郎のカマタロチャンネル 【黒猫黒子と呪われた人形探しッッ!!】』
先日投稿された動画で、現在爆発的にバズっているようだ。
黒猫黒子曰く、深谷市にある城型ダンジョンに、隠しアイテムとして人形があるらしい。
動画の結末としては、鎌瀬太郎が怖がって中断。なんだかんだ発見できなかったが、可能性を感じさせる結末になっていた。
「黒猫黒子が掴んだ情報か……」
関白も黒子に関しては一目置いている。
自分と同じ、Sランク超えの冒険者。
一度、彼女からアイテムを購入したとき会っているが、ダンジョンへの知識も経験も豊富で、頼りになる存在であったと記憶している。
なら、あながち嘘ではないのかもしれない。
そもそも、先日まで執念深く集めていた『ダンジョン7つ人形』も、彼女に教えてもらったものである。
「しかし……」
配信者の娘を殺し、その件で世間が少し騒ついている。
日輪ゲッコウが自首をして、ダンジョン内犯罪への目が厳しい現在、あまり入りたくはない。
「……」
いや、問題ない。
やるのはただのアイテム探し。
怪しい点などどこにもない。
それに、急がないと先を越される可能性もある。
数時間後、日が沈んで職務を終えた関白は、適当なダンジョンへ入った。
ワープサファイアを用いれば、どこからでも目当てのダンジョンへ飛べるのだ。
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黒子の情報によれば、最上階へ登る階段の踊り場に、隠し扉があるらしい。
真っ暗な廃城の中、暗視ゴーグルを使って仕掛けを探す。
この城はライトで照らすと、外に出されてしまう構造になっているのだ。
「ふむ……。ここまで来るためにはライトは消して、暗視ゴーグルを使うことが必要だった。ならば」
あえてこのタイミングでライトを使う。
「ほらあった、光を反射する魔力が埋め込まれている」
力を込めて押してみると、壁が動き出し隠し部屋への道が生まれた。
「ふ、容易いな」
臆せず先に進む。
やがて開けた、何もない空間へと出た。
瞬間、正面から眩い光が差し込む。
ドローンが光を放っているようだ。
それに、誰かいる。
3人、いや4人か。
段々と目が慣れてくると、4人の顔がハッキリと見えるようになっていった。
あれは、黒猫黒子。
それに日輪ヨルヨ。
知らない男。たしか、人形の動画を出していた、鎌瀬太郎だったか。
あとは、
「え、飛鳥先生……」
「松平駿河さん」
瞬時に関白は判断する。
図られた。
しかし、なぜ。
どうやって。
苦々しそうに、黒子が喋る。
「お久しぶりですね、飛鳥関白さん。あなたなら、ここまで来れると思っていました」
「……わざわざこんな真似をして、私に何の用かな?」
「ほんの小さな、疑いだったんです」
「は?」
配信者の少女が最後にいた場所。
解体されたオークがいたあのダンジョン。
黒子の調査で、ダンジョン7つ人形の1つが隠されていたことがわかった。
ふと、黒子が予想する。
ダンジョンデリバリーの最初のお客さん。
人形集めが趣味だった。
それと同じく、剥製作りも好きだった。
首だけがないヨルヨの母の死体。
瞳が特徴的な、配信者の少女。
まさか、まさか。
そんな小さな疑念。
それでも確かめるしかなかった。
「先生……」
「駿河さん、こんな時間にダンジョンとは、感心しませんね」
駿河の中で点と点が繋がった。
飛鳥関白は、姉の小牧が所属していた美術部の顧問。
小牧と、仲が良いなら、どんなスキルを所持していて、どこのダンジョンへ向かうのかも、知り得ることができる。
「で、私に何の用なんですか? 私はただ、呪いの人形を探しにきただけですよ」
ヨルヨが叫ぶ。
「こいつよ!! こいつがお兄様を殺した!!」
実はホラである。
あのとき、ヨルヨは犯人の顔を見ていない。
関白の反応を確かめるブラフである。
そしてその効果は、あった。
関白が舌打ちをする。
やはりあのとき、兄と一緒に殺しておくべきだった。
自分を追うゴミカスの片割れ。
だが、シンヤ殺害が想像以上に手間取ってしまい、放置するしかなかった。
あの洞窟ダンジョンの奥から、別の足音がしたから。
その足音が、助けを求めに外に出ようとした鎌瀬太郎であることなど、関白は知らない。
こうなっては、言い逃れはできないか。
「ふふ、ならば、キサマらを殺すだけ」
黒子たちが構える。
「ほ、本当にあなただったんですか!!」
「だったら何だというのだ?」
「こ、ここで捕まえます!!」
「うむ、さすがに1人では厳しいか。仲間を増やそう。……サリー」
関白の影から、サリーが召喚された。
あの、水色の瞳をした配信者の少女のスキルである。
モンスターを影にしまっておける他に、自分自身も他人の影に潜んでおけるのだ。
彼女の瞳はいま、サリーに埋め込まれている。
その生気を感じさせない顔面と、美しい桃色の髪が、ヨルヨを震えさせた。
「お、お母様?」
「あぁそうさ、君のお母さんの顔をいただいた。とても美しかったからね」
「いただいた?」
突発的に駿河が吠える。
「私の姉さんはどうしたの!?」
「ふふ、ふふふ」
「答えて!! いま飛ばしているドローン、配信しているわ。あなたの……」
「無駄だよ。よく確認するといい」
「え?」
コメントが映されるバーチャルディスプレイを一瞥する。
コメントがない。
違う、配信が中断されている!!
関白が腕を見せた。
白い数珠のアクセサリー。あの数珠は、すべてディディクリスタル!!
次元に干渉する魔力石だ。
「これがある限り、私の周囲は常に電波が乱れる。まあ、動画として保存はされてしまうが……君らを殺したあと破壊すれば、済む話」
「くっ」
話を逸らされたヨルヨが、懇願するように叫んだ。
「教えなさいよ!! いただいたってどういう意味よ!!」
「慌てるなよ。どうせ殺すんだ。教えてやろう、君のお母さんの秘密。そして、駿河さん、君の姉さんの居場所も」
サリーのロングコートを脱がせる。
そのツギハギだらけの肉体を、晒す。
「サリーを生かし続ける動力として、ここにいる。ヨルヨのお母さんは、サリーを動かすための脳さ」
顕になった乳房に触れる。
それだけで察する。
駿河も黒子もヨルヨも、太郎も。
あの胴体が、松平小牧。
そしてその頭部に、ヨルヨの母の首が繋がれている。
想像もしていなかった仕打ちに、ヨルヨは吐いた。
「ちゃんと手足や脳に血を循環させてくれているよ。といっても、細胞は別人なせいか、脳の機能は半端だがね」
「そんな……姉さん……」
「私は驚嘆したよ。美人だったのは知っていたが、まさか胴がこれほど私の理想通りだったとはね。見るが良いこの腰のライン。胸の適度な膨らみ、乳頭の形と色。背中も凄いんだ」
興奮気味にサリーの胴体を擦る。
まさに人形を愛でるように、撫で回す。
「毎晩抱きながら眠っているよ。ふふははははは!!!!」
駿河の相好が歪んだ。
「飛鳥関白うううう!!!!」
双剣を抜き、駿河が切り掛かる。




