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第42話 飛鳥関白

 それはある日のできごと。

 いつも通り黒子と千彩都が家でダラダラしていると、


「黒子が最初に荷物を届けたのって、どんな人?」


 おもむろに、千彩都が訪ねてきた。


「最初のお客さん? んー、顔はぼんやりしてるけど、覚えてるよ。知的な感じのおじさんだった」


「なに届けたの?」


「ワープサファイア」


「なにそれ?」


「各ダンジョンにある、ドロップ率がすごく低いアイテムを全部融合したら手に入るアイテムでね、ダンジョンからダンジョンへワープできるの」


「え!? めっちゃ便利じゃん!! それ黒子も持ってるの?」


 黒子が苦笑した。

 もう、ワープサファイアはない。

 あれば日常的に使用している。


 わざわざ次の依頼者に会うために、ダンジョンから出る必要がなくなるから。


「え〜、もったいない!!」


「いま考えるとね〜。でもはじめてのお客さんで舞い上がっちゃって、つい売っちゃった」


「もー、商売下手」


「うぅ」


 まだ黒子の冒険者ランクがSになりたてで、スキルレベルもただのAだった頃の話である。


「で、そんなん欲しがるなんて、どんなやつ?」


「んー、確か凄腕の冒険者だった気がする。人形とか剥製集めが趣味でね、ダンジョン7つ人形を集めてたっけ」


「なにそれ」


「そういうアイテムがあるんだよ。まあ、特別な力とかはないんだけど、綺麗というか、芸術価値があるというか、とにかく凄い人形なの」


「ふーん。世の中には変わったやつもいるもんだ」


「趣味は人それぞれだよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同時刻。

 とあるダンジョンの最深部に、彼はいた。

 

 白髪混じりの頭。

 疲労を感じさせる顔面。

 少しふっくらとした体型。


 どこにでもいるような中年の男。

 名は、飛鳥関白(あすかかんぱく)


「ふぅ、ようやく見つけたぞ」


 隠し部屋に設置された祠に、小さな西洋風の人形が置かれていた。

 かなり精巧で、暗がりなら人間と見間違うほどのリアリティがあった。


 ダンジョン7つ人形のひとつである。

 先ほど黒子が説明した通り、特別な力などない。

 ただのコレクションアイテムだ。


 売ればそれなりの額にはなるだろうが。


「美しい。愛らしい。麗しい!! なんたる造形。まさに神がかり」


 スカートをめくって、足を咥える。

 舌で転がして、しゃぶりつくす。

 うっとりと味わって、唾を飲み込む。


「美味だ……。とにかく、これでコンプリート。最後にエメラルウルフの子供でも探しに行こうか。剥製にしたい」


 と、後ろにいた女性に告げた。

 直立不動のまま、微動だにしない女。

 ロングコートに身を包み、顔に力はなく、瞳は、どこを見ているのかも定かではない。


 しかし、その顔つきと、長い桃色の髪の美しさと言ったらーー。


「ん?」


 来た道を戻っていると、少女の声が聞こえてきた。

 配信をしているらしい。


 関白は呆れた様子でマスクをし、顔を隠した。

 どいつもこいつも配信配信。うるさくって敵わない。


 浅ましい。


 ダンジョンとはもっと神聖な場所であるべきなのだ。


「ボスも倒したことだし、今日の配信は終わりにしま〜す!! みんな、応援ありがとうーーっ!! まったね〜」


 ちょうど終わったようだ。

 関白が通り過ぎていく。

 一瞬、少女と目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。


「おや? きみ」


「え、なんですか」


「良い目をしているね」


「目? あぁ」


 少女は紛れもない日本人であるが、瞳は青空のように美しい水色であった。

 彼女自身もアイデンティティに感じているのだろう、嬉しそうに頬を緩ませる。


「でしょ? 色素が薄いらしいんだけど、みんな綺麗って言ってくれるの!!」


「なるほど、それだけ美しければ、おそらく配信も好調なのだろう」


「そう!! よかったらオジサンもチャンネル登録してよ。教えるから」


「いや、いい。もう君は配信ができなくなる」


「へ?」


「その目、くれないか?」


 少女の表情が一気に冷めた。

 こいつ、変人だ。


 危機察知能力がフルに活動し、彼女に逃げろと警告する。


 本能のまますぐに走り出したが、


「いたっ!!」


 見えない壁に激突してしまう。


「すまないね。もう逃げられないよ」


「こ、こないで」


「行くさ。なにも恐れることはない、君は私の最高傑作の一部になるのだ」


 途端、関白が仲間のロングコートを脱がした。

 真っ裸が晒されても、女性は眉一つ動かさない。


 それよりも、驚くべきはその肉体。

 美しい。

 適度な胸の膨らみ。

 腰や臀部のライン。

 手足の細さ、長さ。


 まさにヴィーナス。


「私の最高傑作、サリーだ」


「な、なにこいつ……」


 しかし、サリーにはおかしな点があった。

 全身に縫い目が走っている。

 肩、腕、足、胸、体のあらゆる部分に。

 それに、奇妙なのは色合い。


 パーツがそれぞれ、微妙に違う色をしている。

 肌の白さにズレがあるのだ。


 まるで、ツギハギの人形。


「だが、どうにも目がイマイチでね。悩んでいたんだが……ふふ、今日はとことんツイているな、こんな素晴らしいパーツが手に入るなんて」


「ふ、ふざけんな!!」


「さあ、君の目をもらうよ」


「くっ!! 召喚スキル!! オーク!!」


 少女の影から、棍棒を手にしたオークが召喚された。

 召喚スキル。捕まえたモンスターを使役するレアスキルだ。


「やっちゃえ!!」


 オークが関白に襲いかかる。

 だが、関白の表情に恐怖の色はない。

 恐れさせるのは、自分だからだ。


「ふん」


 棍棒をかわし、オークに触れる。

 すると、関白の手が光だし、


「邪魔だ」


 オークの体が、皮と、骨と、肉に別れたのだ。

 まるで、解剖したかのよう。


「え……」


「説明してやろう。私のスキルは分解と分裂。あらゆるものを別けることができる」


「わ、わけ?」


「もっと細かく別けることもできるが、まあもう動かんしな」


 一歩一歩、少女に近づく。


「さっきの結界は、サリーのスキルだ。彼女は特殊でね、多くのスキルを保有している。君のスキルも、目と共に彼女の一部となるんだよ」


「や、こ、こないで……」


 足がすくんで動けない。

 腕をブンブン振るしかできない。


「それと、私のスキルはこんな使い方もできる」


 関白が少女の手を掴むと、腕がポロリと取れた。


「いやああああ!!!!」


 そして、頭を触り、


「少し黙りたまえ」


 頭部が胴体から切り離された。

 いや、正確には『別れた』のだ。

 この時点で、すでに少女は絶命している。


「さて」


 水色の瞳に触れて、取り出す。


「ふふふ、サリー。これで君はもっと美しくなる」


 そうやって、サリーを作り上げてきた。

 本来であれば、死体を繋ぎ合わせただけの人形。

 しかしサリーは生きている。


 何故ならサリーには、『不死のスキル』があるから。


 基礎となるサリーの胴体は、駿河の姉、松平小牧のものなのだ。


「サリー、やれ」


 サリーが少女に近寄ると、地面が、沼のようにドロドロになりはじめた。

 少女の肉体が沈み、完全に見えなくなると、元の土へと戻ってしまう。


 サリーの頭部、ヨルヨの母の顔に宿るスキルの力だ。


 あとは、地中にひそむモンスターが、衣服を含めて全部食べてしまうだろう。


「予想外の収穫を得たし、もう帰ろうか、サリー」


 ポケットからワープサファイアを取り出す。

 出入り口と、犯行現場のダンジョンを変えることで、追跡を困難にしているのだ。


 飛鳥関白が闇へと消える。


 誰も、彼を捕まえられない。

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